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コラム

需要予測編

第5回 『在庫削減に効く「需要予測による在庫管理」』

需要予測編

在庫はなぜ発生するのでしょうか? それは、入庫のタイミングと出庫のタイミングが異なるからです。出庫されるタイミングに合わせて入庫(生産、調達)できれば、在庫は限りなくゼロに近づけることができます。そのためには、いつ、どれくらい出庫(出荷、販売)するのかを予測する必要があります。つまり需要予測となるわけですが、在庫を管理するために需要予測が適切に活用されているでしょうか?

今回は、需要予測を活用した在庫管理についてお話します。

基準在庫による在庫管理

多くの企業で採用されている在庫管理方法が、基準在庫による在庫管理です。月次の定期発注方式であれば「月末在庫が1.5ヶ月分になるように発注する」、発注点方式であれば「在庫が10日分を切ったら発注する」といった方法です。定期発注方式を例にとると、次のような式で発注量を求めることができます。

発注量=平均出荷量×(発注間隔+調達期間)+基準在庫-現在庫
基準在庫=平均出荷量×基準在庫率

製品A、Bの出荷実績

<図1 製品A、Bの出荷実績

図1のような出荷実績を持つ製品AとBを考えて見ましょう。いずれも平均出荷量は100個です。基準在庫率を0.5とすると基準在庫はいずれも100×0.5=50となります。このときの在庫推移は図2のようになり、需要が安定している製品Aは過剰在庫、需要の変動が激しい製品Bは欠品が発生しています。
このように、基準在庫による在庫管理は、適切な基準在庫率を製品毎に個別に設定しなければならないという問題があります。

基準在庫による在庫管理

<図2 基準在庫による在庫管理>

標準偏差による在庫管理

基準在庫による在庫管理の問題点を解消する有効な方法が、標準偏差による在庫管理です。基準在庫(ここでは安全在庫と呼ぶことにします)を、平均の倍数ではなく標準の偏差の倍数で定義します。

発注量=平均出荷量×(発注間隔+調達期間)+安全在庫-現在庫
安全在庫=標準偏差×安全係数×√(発注間隔+調達期間)

注)安全係数は目標とするサービス率によって統計的に決まる係数で、例えば目標サービス率を95%(許容欠品率を5%)とすると安全係数は1.65となります。

より詳しく知りたい方は拙著「在庫管理のための需要予測入門」(東洋経済新報社)をご参照下さい)

標準偏差は需要のばらつきの大きさを表す統計量なので、「ばらつきの大きい製品は安全在庫を多く、ばらつきの小さい製品は安全在庫を少なく持てばよい」ということになります。
先ほどの製品A、Bに標準偏差による在庫管理を適用してみましょう。製品Aの標準偏差を5、製品Bの標準偏差を20、安全係数を2、発注間隔を1ヶ月、調達期間を3ヶ月とすると、

製品Aの安全在庫=5×2×√(3+1)=20
製品Bの安全在庫=20×2×√(3+1)=80

となります。このときの在庫推移は図3のようになり、いずれの製品も同じ基準(安全係数=2)で在庫が適正化されていることがわかります。

標準偏差による在庫管理

<図3 標準偏差による在庫管理>

需要予測による在庫管理

図4のような出荷実績を持つ製品Cに標準偏差による在庫管理を適用してみましょう。

製品Cの出荷実績<図4 製品Cの出荷実績

平均出荷量を100、標準偏差を20、安全係数を2、発注間隔を1ヶ月、調達期間を3ヶ月とすると、製品Cの安全在庫は

安全在庫=20×2×√(3+1)=80

となります。確かに標準偏差(需要のばらつき)は製品Bと同様に大きいのですが、ばらつき方に違いがあることに気付かれた方もおられるのではないでしょうか? 製品Bはランダムに需要が大小していますが、製品Cには大きな需要の波があります。
もしこの波が毎年繰り返される季節変動であったとすれば、ある程度予測することが可能です。図5の赤線のように需要が予測できるとすると、安全在庫は予測と実績の差(予測誤差)のばらつき分だけでよいことになります。

製品Cの出荷実績と需要予測<図5 製品Cの出荷実績と需要予測>

需要予測による在庫管理の発注量は次の式で表すことができます。

発注量=(発注間隔+調達期間)内の需要予測量+安全在庫-現在在庫
安全在庫=予測誤差の標準偏差×安全係数×√(発注間隔+調達期間)

製品Cの予測誤差の標準偏差を5(出荷実績の標準偏差20よりも小さい)とすると安全在庫は、

安全在庫=5×2×√(3+1)=20

となり、標準偏差による在庫管理での安全在庫80よりも小さな値となっています。一般に適切に需要予測を行えば、「予測誤差の標準偏差<出荷実績の標準偏差」となり、需要予測による在庫管理は標準偏差による在庫管理と比較して安全在庫をより小さくすることが可能となります。
また、発注量の式に平均出荷量ではなく需要予測量が使われていることにも注目して下さい。過去の平均出荷量がどうであれ、たくさん売れると予測したときときは多く、売れないと予測したときは少なく発注するということです。

まとめ

需要予測による在庫管理のポイントは次の2点です。

1.需要予測の大小によって発注量を増減させる

2.予測誤差の大小によって発注量(安全在庫)を増減させる

上手に活用すれば需要予測は在庫削減(在庫適正化)に大きく寄与できる可能性を秘めているのです。
次回はいよいよ最終回です。多くの企業で課題となっている新製品の需要予測について取り上げたいと思います。

第6回コラム「新製品需要予測の救世主『予測市場システム』」に続く

世界で戦う準備はあるか
淺田 克暢 氏
淺田 克暢 氏
キヤノンITソリューションズ株式会社 R&D センター 数理技術部 コンサルティングプロフェッショナル 「需要予測による在庫管理」の普及を目指し、需給計画システム導入のコンサルティング業務に従事。 中小企業診断士、流通科学大学非常勤講師(2003~2006年)。 著書に「在庫管理のための需要予測入門」(共著)東洋経済新報社 「なぜあなたの会社はIT で儲からないのか」(共著)同友館。