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コラム

原価管理導入編

第10回『原価管理精度の向上』

原価管理導入編

会社全体の管理方法を見直すことも

これまで、原価管理導入に当たっての準備、実際に原価管理を導入するときのポイント、コストダウンの要点、などについてお話してきました。今回は、原価管理導入のまとめとして、管理精度を向上させていくための手がかりについてお話したいと思います。原価管理の精度を向上させるには、費用だけでなく、時には会社全体の管理方法を変えることも必要になります。

原価管理のレベルアップ

原価管理はいくつかのレベルに分けることができます。まず、どの製品・サービスにどれだけコストがかかったのか全くわからないレベル。商的工業簿記といって、決算書の作成だけに原価計算を使っているレベルです。当然、売れ筋・死筋もわからないことになります。

一つレベルが上がると、各製品・サービスごとの原価がわかるようになります。この実際原価計算レベルになると、利益の取れるモノが判別できるようになります。さらにレベルが上がると、各製品・サービスの予算原価に対して、実際の原価を比較できるようになります。この標準原価計算のレベルまで来れば、どこからコストダウンするか、といった効率的な経営ができるわけです。

ここから先は、利益管理や意思決定に原価をつかうレベルです。直接原価計算損益分岐点分析で商品戦略を立案したり、原価企画で新商品のコストを抑え込んだり、といった活用の仕方になっていきます。ちなみに、同じレベルの中でも、管理や記録の仕方で原価管理の精度に差が出ます。たとえば同じ実際原価計算を行っている会社同士でも、巧拙で違いが出るのです。

原価管理導入編

品目コードと棚卸

管理の精度を向上させる時に最初に考えるのが、材料の使用量や作業時間を細かく記録していくことでしょう。実際に、仕損じた材料を原価に上乗せしたり、記録する作業時間を5分刻みから1分刻みに変えたり、といったことをすれば、確かに原価管理の精度は上がっていきます。製造業の場合は、工程別や部門別に管理を分けるという方法もあります。工程や部門で使った費用を丸めて一緒くたに扱うよりは、それぞれの費用の性格を考えて製品・サービスに直接上乗せするなり按分比率を変えるなりすれば、その分精度が上がります。

しかし、これらの策もその基礎になる土台があっての話です。土台の一つは品目コードのです。社内で取りあつかう材料や製品・サービスには、それぞれ区別がつくような名前(コード)をつけておく必要があるのです。でなければ、どの製品・サービスに何を使ったか記録できませんから。仕込みをして寝かしておく中間製品にもすべて名前(コード)をつけなければなりません。月末にはその中間製品の原価を計算して在庫金額を出すためです。キャベツ丸ごとと、葉を一枚ずつ剥いたものと、千切りキャベツは、加工の手間の分だけ原価が違うため、名前(コード)を分ける必要があるのです。

コストダウンの支援をしたある工場では、お客様に売る商品にはオプション部品の違いでバリエーションがあったのですが、すべて同じ品名で販売していました。そこで、オプション部品がついてない中間製品・付けたオプション部品別に違う名前をつけてもらいました。

原価管理導入編

棚卸も土台の一つと言えます。製品・サービスごとの原価を計算しなくても、決算で利益を確定するには、棚卸をして在庫金額を確定しておく必要があるのです。棚卸を行っていないとしたら、決算書の数字もアヤシイところがあるということになります。

しかしながら、材料・製品合わせて1000種以上ある物を、それぞれいくつあるかを数えるのは大変な作業になります。そこで循環棚卸という方法で棚卸のタイミングをずらすことも可能です。たとえば、全ての材料・製品を6つのエリアに分け、毎月1つのエリアの棚卸をローテーションで行えば、都合年2回の棚卸を行ったことになります。毎月の作業は若干増えますが、期末の棚卸の手間を6分の1に減らすことができるのです。

原価管理導入編

活動基準原価計算

金額が小さくて重要性が低かったり、複数の製品・サービスにまたがって紐づけができなかったりする費用は、製造間接費としてまとめてしまい、何らかの比率で各々の製品・サービスに配賦します(第五回を参照してください)。

この配賦比率について、最初は完成数量比とか作業時間比で始めましょうとお話ししました。これから原価管理を始めるのであれば十分なやり方といえます。しかし、昨今の消費者のニーズの多様化による多品種少量生産とは、考え方のズレが大きくなる可能性があります。極端な例ですが、飲食店のオーナーシェフは、厨房に立っている時間のほかに、仕入や仕込みにも時間を割いています。この仕入・仕込みにかかった時間の賃金を「各々の料理を作るのに直接かかった時間比」で各料理に按分してしまうと、仕入が面倒な材料を使う料理や仕込みに時間のかかる料理は原価が安く見えることになります。こうしたズレを解消しようというのが活動基準原価計算です。

先の飲食店を引き合いに出しましょう。FAX購買にかかった費用、直接買い付けにかかった費用をそれぞれ集計します。注文書を作るのにかかった作業時間や買い付けで使った時間も賃金に直して足し込みます。発生した費用を、「購買活動」に按分するのです。それが終わったら、各々のメニューに、それぞれの購買活動をどれだけ使ったかを基準として集まった費用を按分します。

たとえば、各々のメニューで使用している材料に、FAX購買材料と買い付け材料が、それぞれ何点ずつ使われているか、といった比率を使います。これも諸刃の剣。管理をきつくし過ぎると、記録の手間ばかり増えてしまいます。FAX購買、直接買い付けを、さらに専用食材・共通食材で活動を分けることも理論上は可能ですが、改善に結び付かない精度まで上げる必要はありません。活動基準原価計算の考え方は、事務作業にも応用できます。社内で伝票処理を行った回数を記録して一回当たりのコストを計算しておき、得意先への売上に販売費を負担させる比率に使うことで、効率の良い得意先や商品がわかることになります。

原価管理導入編

原価管理導入のさわりについてお話してきた連載コラムもこれでおしまいとなりました。このコラムを読まれた方が、原価に興味を持っていただき、少しでも多くの会社で原価管理を導入されることを願っています。半年間、ご精読ありがとうございました。

原価管理導入編
中畑 慎博 氏
中畑 慎博 氏
原価の道場 代表 1996年 東京工業大学 大学院 中退。中小企業診断士。株式会社マクニカ、加賀ソルネット株式会社、加賀電子株式会社を経て、2015年4月より独立開業。 会社員時代は、グループ会社60社に対する業務改善、情報システムの企画・構築・運用の支援に従事。 独立後は、生産管理・販売管理・原価計算を中心に、業務改善・見える化の支援を行っている。 http://ka-consul.jimdo.com/