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コラム

グローバル・オペレーションの基本編

第3回『情けは人のためならず?』

グローバル・オペレーションの基本編

よくテレビで間違って理解されがちな言葉として、「情けは人のためならず」を紹介されることがある。イマドキの若者が誤用しているのをテレビで紹介して笑いものにすることに後味の悪さを感じているのは筆者のみではないだろう。誤解されがちな意味は「情けをかけるのは、(人)相手のためにはならない(だから情けをかけないほうがいい)」で、正しい本来の意味は「人に情けをかけるのは、その人のためにだけではなく、いずれは巡り巡って自分に返ってくるものであり、誰にでも親切にしないといけない」である。純粋に相手のためを思って親切にすることが、やがて思いもよらぬところで自分によい形で返ってくるのは美しい姿だろうが、そのような姿は必ずしも各国共通の普遍的なことではないかもしれない。

純粋な損得勘定

写真はタイの街角でのひとコマである。道を歩く黄色の袈裟をきたお坊さんが歩いていると、近所の商店から人が飛び出してきて、うやうやしく挨拶をしたあとお布施をしているという光景だ。タイではお金持ちも一般庶民も、お布施を日常的に行っており、けっして珍しくない普段の姿だ。
仏教国のタイではお坊さんは皆からとても尊敬されている存在なのだが、「タンブン」とよばれるお布施には、お坊さんへの尊敬の念だけではない意味があるようだ。それはこの世で善行を積めば、来世で幸せになれるという思想によるもので、自らの幸せのために、お布施をするというもの。
けっして欲に駆られてしているのではなく、純粋に幸せになりたいという気持ちで行っているもので、とても純粋な形で「情けは人のためならず」の言葉を実践しているように感じる。
情けは人のためならず

見返りを求める文化

海外で仕事をしていると、このタイのお布施のように、人のために何かをする行為の背景に、見返りを求める文化に接する機会が多くある。
露骨に見返りを期待する態度に嫌悪感を感じることもあるが、海外では、自分に直接的であれ間接的であれメリットが無ければ、相手のために何かをするということはない。これは、特段、珍しいことではない。
これはものづくりの現場でも同様で、現場で働いている人たちは、例えばお金だとか待遇、評価や名誉といったメリットを直接的であれ間接的であれ与えてくれる人の言うことに従う。この習慣を認識せずに、コミュニケーション不足でトラブルに陥る例を海外でしばしば見受ける。
よく日本人が在外邦人の技術指導をするに際、"アドバイザ"というようなあいまいなポジションで赴くことがある。しかし、アドバイザでは多くの場合、現場が言うことを聞いてくれない。現地の人にとって、自分のボス(=職制上、明確に自分の上に位置していて、自分の処遇を決める権限のある人)の言うことは、聞く。一方、部付、課付のアドバイザは自分にビタ一文メリットが見えないので言うことを聞かないという訳だ。
かつての日本では、同じ釜の飯を食った仲間に対して「アイツのいうことなら一肌脱ぐか」という粋が普通であった。しかし、人間関係を濃密に構築すれば仲間は言うことを聞いてくれるという日本の粋や人情の文化は、海外から見れば奇妙なものにすぎない。もちろん過去に恩義を受けたことを忘れることなく「あの人のためなら」となることはあるにはあるが、仲良くなっているだけでは「あの人のために一肌脱ぐこと」には、まずならない。逆に、仲がよいからきっと相手もわかってくれると思い込み、結果、相手に裏切られたと感じて憤る人がいる。これは文化の違いをよく理解していないことに起因している。

アメとムチ

日本では問題になるが、海外工場では、悪い事、つまり、ルール違反やミスに対して罰金などのペナルティを科すことがある。しかしこれは、逆に良いこと(成績優秀や目標達成)に対して褒賞などを与えることと対になって運用されることで機能する。
ものづくりの現場で人を動かそうとするとき、特に海外では、その指示・命令に対して、どんなメリットを提示できるかが重要になる。職制による指示は、指示を出す側の人間が自分の評価者であるので、直接的にメリット・デメリットを期待させることができるが、職制外の人間が指示をする場合は、このメリットに留意してマネジメントすべきだ。口頭で褒める(特に人が見ている前で)、行為を称えて掲示をする、直接礼を言う、など金銭的なメリット以外でも、動機付けにつながる。
文化の違いをよく理解して、お互いに気持ちよく仕事ができる環境づくりのためのポイントは、沢山ある。
(工場管理(日刊工業新聞社)2012.11月号Change is チャンス!『改善改革仕掛け人風雲記』 より)

第4回コラム「小改善は企業の底力!1.01365=37.78」に続く

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古谷 賢一 氏
古谷 賢一 氏
ジェムコ日本経営 本部長コンサルタント 大手メーカーで設計開発から製造までの幅広い経験を持つ。品質保証責任者や海外拠点のマネジメント等の要職を歴任後、ジェムコ日本経営に入社。直近では、製造業の海外拠点の改善改革プロジェクトを多数手がけている。現場に密着したきめ細かい実践指導が身上。
株式会社ジェムコ日本経営