第4回 『ヘドロ在庫の解決アプローチ ~その2~』
| 2009/09/28 04時00分 | 中平将仁 株式会社アットストリーム ディレクター 杉原健史 株式会社アットストリーム マネジャー |
従来のABC分析では、全品目を需要量によって幾つかの区分(クラス)に分類し、それぞれの区分に適した管理方法を用いることで全体の手間を省くことに主眼がありました。
従来のABC分析手順は、以下の流れで行われます。
- 単価や需要データを基に数値の大きいものから順番に並べる。
- 並べた結果を基にパレート図を作成する。
- 数値の最も大きいものから全体の10%くらいの品目をA区分とし、順次B、C区分に分けていく。
- 各区分に応じて管理方法を決定する。
一般的には、A区分を重点的に管理し、以下の区分については順次管理工数を下げて運営をすることが推奨されています。しかしこのABC分析による生産・在庫管理方法は問題を抱えているのです。それは
余剰膠着品の慢性的な発生・廃却損の発生を抑えることができない、即ちヘドロ発生を止めることができない
という問題です。A区分に目を向け過ぎた結果、特にC区分品目の中で、余剰膠着品・廃却損が多く発生していることがよくあります。過去の少品種大量生産時代であれば、従来のABC分析による在庫管理は非常に有効だったのですが、今日のような多品種少量生産時代では、管理メッシュが粗過ぎるわけです。
- 例えば需要変動が大きい製品の場合
特にC品目の下層製品では需要変動の大きなものが多く、一度余剰膠着品となるとそのまま死蔵化してしまうものが多い現実にお気付きの読者もいらっしゃるのではないでしょうか。その結果として、廃却損の発生を招いてしまうのです。
- 例えば取引先企業が少数の場合
品でありながら取引する会社がごく少数の場合には、大問題が発生し易くなります。
従ってこれらの問題を防止するために、図1に示す通り、新たな視点を追加した分析に基づき、更にきめ細かな在庫管理が必要となってくるのです。

<図1:これからのABC分析>
新ABC分析の手順 ~概要~
改革を進めるためには現状の在庫状況を正しく把握し、ヘドロがどの位堆積しているのか、正確に把握する必要があります。その分析手法である新ABC分析は図2の手順にて行います。従来の分析手法との大きな違いは、
- ABCの3区分に加え、D(ヘドロ)・E(特別管理)区分を新たに設ける。
- 数量中心の分析に加え、需要変動・取引先数の分析を加える。

<図2:新ABC分析手順>
新ABC分析の手順1 ~既存データの抽出~
まず分析を行うために図3に示すような製品別データを抽出します。大体、次のレベル・範囲でデータを揃えて下さい。
- 過去1年の月別販売データ
- 過去3ヶ月の取引先依存率が分かるデータ

<図3:データ抽出>
また、半製品を内外販している場合には、次のデータもあらかじめご準備下さい。
- 過去1年の月別半製品展開販売データ
製品出荷実績に基づいて部品展開されたデータですが、これらのデータが取り出せない場合は、半製品使用実績で代用して下さい。 - 過去3ヶ月の使用製品数
半製品視点で、製品を「顧客」と見なします。例えば半製品αが10製品に使われているなら、顧客数「10」と考えるわけです。他に色々な考え方もありますが、この考えを用いて分析を行えば、これまでのコンサルティング経験上、大きな問題はないと言えます。
新ABC分析の手順2 ~数量評価基準の作成~
数量評価では、従来のABC分析を基本とし、これにD・E区分を付加する作業を行います。以下に評価基準作成の大まかな流れを説明しておきます。
- E区分:特別管理が必要な製品を抽出する。新規立ち上げ製品・打ち切り間近の製品、品質異常が多発しており頻繁に欠品が発生している製品などがこれに該当する。
- A区分:数量に単価を乗じた金額の高いものとか、重要度の高いもの順に並べ全体の製品数の1割前後をA区分とする。
- B区分:A区分の次の2割程度の製品をB区分とする。
- D・C区分:自社製販状況を踏まえ、以下のような視点でD区分を設定する。
・年に0回~2回までの受注製品(殆ど動かない)
・1回生産すれば半年以上在庫が残ってしまう製品
以上の基準をまとめると、図4のようになります。

<図4:数量評価基準例>
尚、半年前に製品が立ち上がり、直近の単月で見るとA区分の製品も当然あるでしょう。このような場合には、当該個別製品の需要予測を慎重に行って、管理区分を決定して下さい。
新ABC分析の手順3 ~需要変動基準の作成~
需要変動評価では、過去の需要データから品目毎に需要の「ばらつき」を求め、そのばらつきの大きさを基に分析していきます。この「ばらつき」が大きければ「需要安定性が低い」、小さければ「需要安定性が高い」と判断します。需要変動基準作成方法は次の通りです。
- 需要実績値から標準偏差を求め、「標準偏差」÷「各品目受注平均」で需要の「ばらつき」を求める。
- 各品目の「ばらつき」値で需要変動を評価し、分類する。

<図5:受注とばらつきの関係>

<図6:需要変動評価例>
新ABC分析の手順4 ~取引依存率評価基準の作成~
過去数ヶ月間の製品別・企業別取引高から、その製品の全取引高に対して占める比率を求め評価します。前回コラムでも述べましたが、取引先が少なければ少ないほど、その取引先の経営状態・商品開発方針などにより需要は大きく振れます。
特に価格が折り合わずに急に失注でもすると、その製品はヘドロ化する可能性が高くなります。また業容を急拡大していた会社が突然売掛金回収不能となり経営危機になる例もあります。顧客が少なければ管理も楽だといった考え方もありますが、あくまで経営状態が優良な顧客との長期契約に基づき納品を続ける場合であり、かつての自動車部品メーカーなど限定的なケースです。
取引依存率評価基準作成の方法は次の通りです。
- 過去の取引データより取引先の数を抽出する。
- 最大取引先の依存率を算出、30%未満であればA区分とする。
- 最大取引先依存率30%以上50%未満の取引先がある場合には、B区分とする
- 取引先数が2社以下の場合にはD区分とする
- それ以外の製品に関しては、C区分とする。

<図7:取引依存率評価例>
新ABC分析の手順5 ~総合評価基準の作成~
個別評価基準が作成されたら、最後に総合評価基準の検討を行います。今まで3つの視点で評価基準を作成してきましたが、自社では何が最も重要な指標なのか、まず検討を行います。
例えば「在庫を最も少なく持つ」という観点で重視すべき評価は「需要変動評価」でしょう。但し生産ロットサイズの制約を考えると一定以下の販売数では在庫はなくなりません。「数量評価」もやはり重要な指標です。
このように自社環境とのバランスを考え、各社最適な評価基準を作成して下さい。図8はある電子部品メーカーの総合評価基準例、図9は同じメーカーで総合評価後の管理区分別特性、をそれぞれ図にしたものです。

<図8:総合評価基準例>

<図9:管理区分別特性>
新ABC分析の手順6 ~総合評価基準に基づく方針策定~
総合評価基準が決定したら、区分別管理方針を検討します。図10は前述の電子部品メーカーにて行った例です。

<図10:新ABC区分別 管理方針例>
また、このメーカーが実施した改革効果も図11に紹介しておきます。

<図11:改革効果予測例>
これが新ABC分析の進め方です。ぜひ読者の皆さんも自社在庫の洗い直しを行い、改革に着手して下さい。
さて、今回のコラムでは、新ABC分析の要所を一気に説明してきました。次回のコラムでは、D区分-つまりヘドロ在庫-を発生させた根本的な要因を可視化し、有効な対策を講じる前提を検討する方法論「問題構造分析」について解説します。

株式会社アットストリーム ディレクター
(株)大和銀行、ローム(株)、アーサーアンダーセンビジネスコンサルティングを経て、2003年にアットストリームコンサルティング(株)[現(株)アットストリーム]入社。
共同経営者として参画。サプライチェーン改革、CRM構想立案、情報システム化構想立案などの各種プロジェクトに従事。主な著書に「ヘドロ在庫をなくせ~部品・素材メーカーのサプライチェーン改革」。

株式会社アットストリーム マネジャー
(株)第一勧業銀行、キーエンス、アーサーアンダーセンビジネスコンサルティング等を経て、現在に至る。
KPIマネジメントによる経営改革の推進、各種SCM改革の企画・立案・実行支援などの各種プロジェクトに従事。
主な著書に『SCP入門』(共著)工業調査会、『e生産革命』(共著)東洋経済新報社。
(※(株)アットストリームの中平氏と杉原氏に、直接メールで連絡を取ることができます。)
http://www.atstream.co.jp/
最もクライアントに信頼されるブティックコンサルティングファームを目指し、2001年に設立。
現在、東京・大阪・名古屋・上海・米国に拠点を置き、グローバル製造業を対象としたサービスを本格展開。
実践力を持つ専門人材(生産系・会計系・ IT系・マーケティング系)が融合してプロジェクトを編成し経営課題の解決を推進する。
特に、数多くの企業で実践、成果を上げている生産分野の業務改革支援は、現場での根気強い取り組みと豊富な実績で定評がある。
株式会社アットストリーム 代表E-mail: (広報:山本)
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