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在庫管理編

第6回 『ヘドロ在庫の解決アプローチ ~その4~』

2009/12/07 06時00分
中平将仁 株式会社アットストリーム ディレクター
杉原健史 株式会社アットストリーム マネジャー
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ここまで解説してきた新ABC分析や問題構造分析が、現状把握によるヘドロ在庫削減直結の打ち手を考えることを主眼とした「対症療法」だったのに対し、今回のテーマ「KPIによるスコアカード運用」は、永続的にヘドロ在庫を発生させないマネジメントを体系化していく「原因療法」と言えます。
まずは以下の図1をご覧下さい。

No KPI例 説明 目標
(例)
現状
(例)
1 総在庫在庫日数 会社全体の在庫日数管理を行う 25日 55日
2 総在庫金額 同様に会社全体の在庫金額管理を行う 300億円 650億円
3 A区分在庫日数 A区分の在庫日数
(会社全体・工場別などで管理を行う)
20日 45日
4 A区分在庫金額 A区分の在庫金額 90億円 200億円
5 B区分在庫日数 B区分の在庫日数 25日 53日
6 B区分在庫金額 B区分の在庫金額 70億円 150億円
7 C区分在庫日数 C区分の在庫日数 40日 80日
8 C区分在庫金額 C区分の在庫金額 125億円 250億円
9 D区分在庫金額 D区分に関しては、在庫日数管理できないため、金額で管理 15億円 100億円
10 D区分在庫金額占有率 全体に占めるD区分割合を管理。少ないほど良い 4% 15%
11 D区分製品点数 注意すべき在庫点数。少なければ少ないほど管理が楽になる 70 250
12 廃却損発生金額 年間の発生する廃却損。少ないほど良い。意図的に廃却しなければD区分在庫金額が増加する。 3億円/年 15億円/年

図1:製品在庫管理に関する全社KPI例

ヘドロ在庫を発生させず、全体の在庫削減を行う第一歩は、上記図1にあるような在庫削減に関するKPI(Key Performance Indicator:業績評価指標)を設定し、改善/改革を推進することです。
なお、図1は例であり在庫日数を在庫回転率で管理してもまったく問題はありません。但し、できるなら全社員が最も分かりやすい指標を十分検討し実行することが望ましいでしょう。

KPIに対する目標値の設定

KPIが設定されても目標がなければ意味がありません。ここで言う目標は、「経営計画より展開され作成される目標」あるいは「現場改善の積み上げで作成される目標」による2つのアプローチのどちらかで作成できます。
どちらが良いかは会社によって違いますが、一般的には「経営計画より展開」された目標の方が、設定される数字としては良いと言えます。なぜなら、経営計画自体が競合他社に勝つための施策/目標数値を記述しており、本コラムで想定する在庫削減プロジェクトも当然ながらこの経営計画達成に寄与する使命を帯びているからなのです。但し期中に急激な市場変化が発生し、急遽プロジェクトを立ち上げた場合、経営方針(の変更)が明確でない場合もあります。その場合、競合他社動向を必ず調査し検討材料に入れて下さい。いずれにしても「他社に勝つための目標設定」であることを忘れないようにして下さい。

在庫削減と対立するKPIの設定

在庫削減を実施する際に必ず争点となるのは、「在庫削減を進めると納入率が悪化してしまうのではないか」という議論です。
例えば部品/素材系メーカーであれば、完成品メーカーは大概仕入先評価を行っており、納入率という項目は評価配点が高い傾向がある一方、D区分(=ヘドロ在庫)品に関して納入率を上げることは自社さらには顧客の首を絞めることとなります。D区分品の即納とは在庫を抱えているということであり、在庫はヘドロで満杯になっていることが考えられるからです。これでは納入価格を下げることはできないため、(極論ですが)D区分品は他社に転注してもらったほうが良いことだってあり得るのです。
実際、ある部品メーカーでD区分品の販売を中止し顧客は同様の製品を販売していた他社に発注を切り替えたところ、実は転注先もこの製品はD区分ということで困っていたが転注によってC区分に昇格した、という話もありました。
図2をご覧下さい。前出の図1「在庫削減」と並んで「欠品抑制」も睨んで管理し市場動向に追従できるよう、A~D区分で欠品率を設定し目標を置いています。
最終的にはこのような対立2KPI目標を同時に達成した時、必ず他社に打ち勝つ仕組みが自社の中に備わっているはずです。

No KPI例 説明 目標(例) 現状(例)
12 A区分製品欠品率 A区分品の欠品率。0%を実現することにより顧客満足度向上を図る。 0% 3%
13 B区分製品欠品率 B区分品の欠品率。0%を実現することにより顧客満足度向上を図る。 0% 3%
14 C区分製品欠品率 C区分品の欠品率。現状よりサービス率を上げることにより顧客満足度向上を図る。 2%以下 4%
15 D区分製品欠品率 現状維持目標。生産リードタイム短縮・事前情報入手の徹底などによる対策必要 20%以下 20%

図2:在庫削減と対立するKPIの設定

それでは、どのようにしてこのような対立指標を取り扱いながら管理していけば良いのでしょうか。前出の図1にある「D区分在庫削減」と「廃却損削減」の対立を例として考えてみましょう。
D区分在庫を削減するためには、時に在庫処分を行う必要が出てきますが、これは廃却損の増加につながってしまうため、敢えて対立するKPIを設定することも改革には必要です。概ね次のようなステップで対立解消を目指すこととなります。
まずは、今そこにあるD区分を削減しなければなりません。これには本コラム6-4で述べる「先行指標」を設定して指標の改善を愚直に取り組みます。
一方、発生させる廃却損を事前に算定しておき、その算定範囲を「意思決定済みコスト」として会社全体の合意を形成していく必要があります。対立する指標ですから、同時にしかも停滞なく改善を実現する難易度が高いのは当然です。この例では、(廃却損という)痛みを伴う改革も推進していかなければなりません。そういった意思決定上の合意形成でカギを握るのが、本コラム6-5にあるスコアカード中心のPDCAプロセスに則った会議体です。
詳しくは後述しますが、対立するから「改革は無理である/受け入れられない」のではなく、対立をテコに「自社の体質強化、更にはアドバンテージとしていく」ために全社一丸となって情報共有し施策を議論する場が必要となるのです。

KPI(業績評価指標)をモニタリングする先行指標の検討

設定されたKPI目標を達成するためには、KPIと関連する「先行指標」を抽出する必要があります。先行指標とは業績評価指標と因果関係にある指標のことです。図3では、KPIと先行指標の関係を例示しています。

図3:KPIと先行指標例
<図3:KPIと先行指標例>

この図を見れば、生産リードタイム短縮を行うためには5つの先行指標を改善する必要があることが理解いただけるでしょう。在庫削減に関するKPIの目標を達成するためには、先行指標を設定し、活動を推進しなくてはいけません。
もう一点簡単な例で説明してみましょう。前出の図1にある11項目KPIの「D区分製品点数」について、この目標達成には図4に記載している2つの先行指標を改善させる必要があります。D区分在庫を減らすには、そもそもD区分自体をなくすことが重要、という考えに基づいた先行指標選定結果です。

No KPI例 説明 目標(例) 現状(例)
16 D区分品製品削減数 製品統合・販売中止など、様々な活動結果の末に製品削減できた数。 月10件以上 ほぼ0件
17 D区分品製品増加数 C区分など、他区分よりランクダウンした数。増加させないことが重要。いかにC区分の下位製品に対して事前に対策を打っているかが評価ポイントとなる 月2件以下 平均月4件

図4:D区分在庫削減先行指標例

また、ヘドロではありませんがA区分品も少し考えてみます。A区分品のように流動在庫日数削減で効果を出すためには「生産リードタイムの短縮」が必須であり、その実現に向けた「ボトルネック工程の改善」が最重要課題です。そうすると、図5のような先行指標が抽出されます。

No KPI例 説明 目標(例) 現状(例)
19 X工程生産能力 ボトルネック工程であるX工程の生産可能数量向上を図る 28,000枚/月 24,000枚/月
20 X工程段取替時間 X工程生産能力向上に必須である段取替時間の短縮を管理する 60分/回 95分/回
21 X工程メンテナンス時間 現在週1回、12時間かかっている。時間短縮、もしくはメンテナンス期間を延ばすことにより生産に寄与する時間を増加させる 6時間/週 12時間/週
22 X工程1バッチ処理数量 1バッチあたり処理数量を管理する。 100枚処理を
全体の20%へ
50枚/バッチ

図5:ボトルネック工程改善先行指標

尚、この先行指標は第5回コラムで説明した「問題構造分析」をヒントとして抽出される場合が多々あります。先行指標の抽出に困った際には、「問題構造分析」の結果を再度チェックしてみて下さい。

在庫削減スコアカード

KPI設定後、そのスコアカードを作成し進捗管理を行いますが、「最終目標」の他に「(四半期など)途中目標」も設定し管理します。図6は四半期ごとの目標を設定した在庫削減スコアカードの例です。

第一四半期 ... 第四四半期 達成率
KPI例 最終
目標
現状 4
5
6
目標 1
2
3
目標
総在庫
在庫日数
25日 55日 56 52 49 48 30
総在庫
金額
300億円 650億円 660 610 580 570 350
A区分
在庫日数
20日 45日 45 42 39 35 30
B区分
在庫日数
25日 53日 54 50 45 40 35
C区分
在庫日数
40日 80日 77 72 68 70 50
D区分
在庫金額
15億円 100億円 105 100 70 70 27
D区分在庫
金額占有率
4% 15% 16 16 12 10 8
D区分
製品点数
70 250 245 245 235 220 120
廃却損
発生金額
3億円/年 15億円/年 0 3 0 2       10  

図6:在庫削減スコアカード例

また、このスコアカードの数値を改善するための先行指標に対してもスコアカードを作成し、進捗管理を行っていかなければなりません。この先行指標スコアカードは各工場・組織単位で管理できる場合は「相互比較表」形式にしたいところです。
図7は3工場を並べて比較できるスコアカードの例ですが、やはり単独工場のみを見るよりは、複数の工場を一覧できる形式の方が理想的です。これは工場間で比較することで工場同士の競争意識向上に寄与する上、管理する立場からしても~少々不謹慎な言い方ですが~「楽しい」表になるからです。

KPI例 目標(例) 4月度実績 5月度実績
日本 中国 タイ 日本 中国 タイ
X工程生産能力 6,000枚/台 5000枚 4500枚 4600枚
X工程段取替時間 60分/回 100分 110分 100分
X工程メンテナンス
時間
6時間/週 10時間 8時間 11時間
X工程1バッチ
処理数量
100枚処理を
全体の20%へ
10% 0% 0%
平均生産リードタイム 12日 18日 23日 22日
最長生産時間 16日 30日 100日 52日
工程内最大滞留時間 2日 5日 65日 20日

  最も悪い数値

図7:先行指標スコアカード

更にこの実績を月次などの会議体で、進捗確認ならびに進捗が思わしくない指標についてはリカバリー案を議論する所謂PDCA(Plan - Do - Check - Action)サイクルを確立していきます。
会議体では、必ず経営者クラスや在庫削減責任者の参画によって(四半期など)区切り時点の目標達成度合いを見越し、Action主体の議論することに心掛けて下さい。現状の結果反省会ではなく、現状までの経緯を踏まえた先手管理こそが「未達を結果としない」組織風土を育むのですから。以上が在庫削減KPIと関連スコアカードの構築に関する概要です。

さて、長期間滞留する「ヘドロ在庫」について、その概況や改革手法を計6回にわたり解説してまいりました。
本コラムも今回をもって最終回となりました。ここまでお読みいただきありがとうございます。解説した内容のうち、読者各位の会社もある程度できている分析や仕組などもあろうかと存じます。できていない手法だけを集中的に進めることも可能ですので、ぜひ一度自社なりにアレンジしながらお試し下さい。
また、私共アットストリームは、本コラム執筆内容に限らず、生産、SCM、会計、マーケティング、ITなどの各分野にて様々なクライアント様改革事例がございます。各方面の実績や知見に関してご質問やご関心がおありになる場合は、ぜひ弊社ホームページからお問い合わせ下さい。読者各位からのご意見をお待ち申し上げております。
末筆ながら読者各位の改革推進成功を祈念しております。

▼株式会社 アットストリーム
http://www.atstream.co.jp/

このコラムの著者
中平将仁
中平将仁
株式会社アットストリーム ディレクター

(株)大和銀行、ローム(株)、アーサーアンダーセンビジネスコンサルティングを経て、2003年にアットストリームコンサルティング(株)[現(株)アットストリーム]入社。
共同経営者として参画。サプライチェーン改革、CRM構想立案、情報システム化構想立案などの各種プロジェクトに従事。主な著書に「ヘドロ在庫をなくせ~部品・素材メーカーのサプライチェーン改革」。


杉原健史
杉原健史
株式会社アットストリーム マネジャー

(株)第一勧業銀行、キーエンス、アーサーアンダーセンビジネスコンサルティング等を経て、現在に至る。
KPIマネジメントによる経営改革の推進、各種SCM改革の企画・立案・実行支援などの各種プロジェクトに従事。
主な著書に『SCP入門』(共著)工業調査会、『e生産革命』(共著)東洋経済新報社。

このコラムの著者に聞く:

(※(株)アットストリームの中平氏と杉原氏に、直接メールで連絡を取ることができます。)


(株)アットストリーム
株式会社アットストリーム
http://www.atstream.co.jp/

最もクライアントに信頼されるブティックコンサルティングファームを目指し、2001年に設立。
現在、東京・大阪・名古屋・上海・米国に拠点を置き、グローバル製造業を対象としたサービスを本格展開。
実践力を持つ専門人材(生産系・会計系・ IT系・マーケティング系)が融合してプロジェクトを編成し経営課題の解決を推進する。
特に、数多くの企業で実践、成果を上げている生産分野の業務改革支援は、現場での根気強い取り組みと豊富な実績で定評がある。


お問い合わせ先:

株式会社アットストリーム 代表E-mail: (広報:山本)


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2009年8月25日(火)【東京会場】(終了)
2009年9月 3日(木)【大阪会場】(終了)
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