航空機降着装置・新幹線熱交換器の分野で国内ナンバーワン製品を保持する精密機器メーカー、住友精密工業株式会社が数十年ぶりの基幹システム全面刷新を決断した。プロジェクトは想定外の困難に直面しながらも、mcframe 7を中核とした新基幹システムの稼働にたどり着いた。2026年3月12日に開催されたmcframe Day 2026では、同社コーポレート部門フェロー・三好力氏が登壇。プロジェクトの成功と失敗を分けた勘所を11のTIPSに凝縮して語った。
講演者:三好 力 氏 住友精密工業株式会社 コーポレート部門 フェロー
講演タイトル:「基幹プロジェクト 成功と失敗の分岐点 〜mcframe 7 導入とその効果を振り返って〜」
中堅メーカーにおける基幹システム全面刷新プロジェクトにおいて、mcframe 7の導入効果を振り返る。長期・大規模プロジェクトの成否を左右する「勘所」を11のTIPSとして解説する。
住友精密工業は、航空機の降着装置(脚)の国内シェア100%、新幹線向け熱交換器(主変圧器、ブレーキ)のシェア100%、大手航空機エンジンメーカー向けの熱交換器製造という極めて競争力の高い製品を持つ精密機器メーカーだ。単体で売上高444億円、営業利益51億円、従業員1,300人規模の中堅企業でありながら、航空・宇宙からプラント熱交換器、オゾン処理装置、MEMSデバイスまで、多角的な事業を展開する。事業ごとに業界も顧客も生産方式もまったく異なるため、1つの事業体にシステムを導入しても、横展開が難しい複雑なIT環境を持つ。
競争力やガバナンスの低下に対しては、社内でじわじわと危機感を抱いていたが、システム刷新に踏み切る直接的なトリガーとなったのは、「レガシーシステムでは工数に関する可監査性に乏しい、という評価が外部から下されたことでした」と三好氏は語る。この評価を受け、基幹システムの全面刷新が経営トップダウンで決定。2019年6月から企画構想が始まり、2020年9月に最初のプロジェクトが動き出した。
なお、三好氏は、パナソニックで31年間一貫して情報システムに携わってきた経歴を持つ。住友精密工業へ入社したのは、この基幹システム刷新プロジェクト実動開始の直後であり、転職から約1年後にプロジェクトマネージャーとして陣頭指揮を執ることになった。
新基幹システムの構成は、SCM業務系にmcframe 7、会計にProActive、連結会計にBizForecast、調達EDIにe商買DX、データ活用基盤にPower BIという組み合わせだ。事業ごとに段階的に導入を進める方針を採り、最初のフェーズである全社会計ならびに航空宇宙部門への導入には2年8カ月を要した。プロジェクト開始から7年が経過した現在(2026年3月時点)も全事業への展開は続いており、「あと2年でレガシーシステムを根絶できる。最終コーナーが見えてきました」と三好氏は語る。
だが、プロジェクトは当初の計画通りに進まなかった。コストは増加し、スケジュールも延長せざるを得なかった。原因として三好氏が挙げたのは、自社リソースの不足と自社タスクの見落としだ。RFP(提案依頼書)作成時に描いた全体スケジュールは理想ではあるが、どちらかと言えば実力を無視した願望に近かった。「自社のタスクを洗い出さなければならない」という認識が当初は不十分だったため、プロジェクトが動き出してからタスクの漏れが発覚。新たなベンダーを探す事態にもなり、スケジュールが遅延していった。
業務プロセスの可視化不足も大きな痛手となった。当初mcframe 7に機能がなかった修理業務をカスタム開発したが、修理プロセスの深さと複雑さを十分に把握できていなかったと三好氏は振り返る。
「最初は必須機能でかつ小規模だからとそのままカスタマイズを行うことに決めましたが、時間が経つにつれてどんどん規模が大きくなり、総合テスト中にも次々と要件が増えていきました。業務の再設計ができないまま、五月雨式にシステム化してしまったことが、最大の反省点でした」(三好氏)
こうして紆余曲折を経て導入が完了したmcframe 7に関して、三好氏は導入効果を3つの切り口で整理した。
1つ目の切り口は旧システムとの違いだ。在庫管理では品目・場所・工程・ロット単位への細分化が実現し、多角的な分析が可能になった。完成品から部材ロットまでのトレーサビリティも確立し、外注工程を含めたロットトレースができるようになった。原価管理では、旧システムで予定原価しか管理できなかったものが、mcframe 7により指図単位での実績原価計算が可能となり、予実対比による原価低減の道筋が整った。
2つ目の切り口として、現場へのヒアリング結果をBSC(バランスト・スコアカード)の4視点で整理した成果を紹介した。プロセス面では、データ入力者と承認者の垂直分離・実施部署と管理部署の水平分離による内部統制の強化、Excelで行っていた外貨管理のmcframe 7への一元化、電話中心で行っていた工程進捗確認のシステム化などが実現した。調達EDI率は70%から90%へ向上し、連結決算の締めは翌月15営業日から9営業日へと短縮、経理部門の残業は約3割減少した。
こうして紆余曲折を経て導入が完了したmcframe 7に関して、三好氏は導入効果を3つの切り口で整理した。
1つ目の切り口は旧システムとの違いだ。在庫管理では品目・場所・工程・ロット単位への細分化が実現し、多角的な分析が可能になった。完成品から部材ロットまでのトレーサビリティも確立し、外注工程を含めたロットトレースができるようになった。原価管理では、旧システムで予定原価しか管理できなかったものが、mcframe 7により指図単位での実績原価計算が可能となり、予実対比による原価低減の道筋が整った。
2つ目の切り口として、現場へのヒアリング結果をBSC(バランスト・スコアカード)の4視点で整理した成果を紹介した。プロセス面では、データ入力者と承認者の垂直分離・実施部署と管理部署の水平分離による内部統制の強化、Excelで行っていた外貨管理のmcframe 7への一元化、電話中心で行っていた工程進捗確認のシステム化などが実現した。調達EDI率は70%から90%へ向上し、連結決算の締めは翌月15営業日から9営業日へと短縮、経理部門の残業は約3割減少した。
3つ目はデータ活用基盤の整備だ。Power BIによる経営ダッシュボードが構築され、単体・連結・事業別の財務数値をグラフィカルに共有できる体制が整った。三好氏は「経営会議もペーパーレス化でき、業績報告もこの画面を見ながら共有していただけるようになりました」と話した。
こうした経験を踏まえ、システム導入のTIPSとして、三好氏が提示したのが以下の11項目である。前半の4つは、いずれも「自社を知る」ことを出発点として置く。これを順に紹介しよう。
三好氏が特に重要と強調したのは、データアーキテクチャとアカウントの一貫性だ。三好氏は、「企業の各システムへのログインIDが全社として統制できているか」と問いかけた上で、同社ではシステムごとにバラバラになっていたアカウントを一元管理する仕組みを構築したと説明した。ERPを導入すれば全て解決するという思い込みを排し、周辺サブシステムも含めた全体設計の視点が求められる。
コンサルタントは体制作りやファシリテートを支援してくれるが、意思決定も最終責任も担わない。「絶対に丸投げはできません」と三好氏は断言する。自立自走する覚悟が前提であり、同社では厳しい採用環境の中でもキャリア採用を続けつつ、そしてプロジェクトを進めながら社内人材を地道に育てていった。
住友精密工業では最初のプロジェクトでこれがうまくいかず、ステップ2以降でやり方を改めたという。プロジェクト開始のキックオフで事業部門リーダーは重点改革ポイントを自ら宣言し、その後のステアリングコミッティ(プロジェクト運営委員会)で毎回進捗を報告する仕組みを導入した。これにより、課題が出ても一緒に考えてもらえるようになり、どんなに忙しくても重要なな運用テストに主体的に取り組んでもらえたという。
同社ではシステムだけでなく、業務自体がブラックボックス化している領域がかなりあったという。個人レベルでは自分の担当を把握していても、全体を理解している人間がいないという分野が点在していた。「最初に可視化しきるという気持ちが重要となります」と三好氏は強調した。
Fit to Standardの考え方について、三好氏は0か1の問題ではないと述べた上で、カスタマイズできる前提として「パッケージの寿命が長いこと」と「カスタマイズを保証してくれるパッケージであること」の2条件を挙げた。競争優位に直結するロジックや、顧客との取引上変更できない業務であれば例外として認められるが、「カスタマイズ後の運用コストが増えることを十分に認識した上で判断しなければなりません」と語った。
これを明確にする理由として三好氏は、「プロジェクトごとに最初から決めておかなければ、問題が起きたときの意思決定が遅れます」と指摘した。三好氏自身のスタンスは納期最優先だ。品質は生命・金銭・取引先に関わる部分を100点の目標とし、それ以外は80点でマネジメントするという。「コストは納期と表裏一体。最終的には経営判断が求められます」とも述べた。
これは、自社の情報システム部門のスキル・人数・経験を正直に評価した上で立案し、ベンダーのタスクだけでなく自社のタスクを徹底して洗い出すことが前提となる。
データ移行については「難易度を正しく評価できているか」が問われる。新旧システム双方に精通していなければ移行設計はできず、レガシーからの移行は移行元データの正確性にも問題を抱えることが多い。新システム側の移行はベンダーが担えるが、移行元データの加工と正確性担保は社内側の責任となる。同社では移行リハーサルを7回実施して本番に臨んだ。
三好氏は「毎月の経営会議で報告をしていました」と述べた上で、実際にコストオーバーやスケジュールオーバーが生じた局面でも「経営陣は一緒に考え、意思決定をしていただけました」と振り返る。問題が起きてから報告するのではなく、日頃から透明性を保って接し、経営層を「味方につける」ことが、大規模プロジェクトを乗り切る力となった。
これについては、「内部統制の強化が刷新のきっかけだったにもかかわらず、RCMのタスクが本番数カ月前まで抜け落ちていた」という失敗体験を率直に明かした。特権IDの運用管理(都度払出しと利用後の無効化)も本番導入後の監査で指摘され、期首にさかのぼって多大な工数をかけて監査証跡を証明する事態となった。なるべく早く取り組むべき事項だ。
情報システム部門に100〜200人を擁する大企業と中堅・中小企業とでは、リソースも経営環境もまったく異なる。コンサルタントやITベンダーもその違いを見極めずに対応するとうまくいかない事態を招きかねない。自社の規模と実力に合った判断軸を持つことが、中堅企業が大規模刷新を成し遂げるための前提だという。
終盤で三好氏が語ったのは「プロジェクトの成否は人次第だ」という言葉だった。自分事として深く考える人がいるか、「本当にそうか」と常に疑える人がいるか、プロジェクトメンバー外にも味方がいるか、こうした要素は課題発生時の対応力に響いてくる。役割分担をしながらも壁を作らず、「三遊間のゴロを積極的に拾いに行くような人材」の存在が大規模プロジェクトの成否を分ける。
三好氏は、縦割り文化を突破するには経営の力が必要だと指摘した上で、「プロジェクトマネージャーは先手先手でアラートを上げ、経営層はそれを受け止めるという構図が絶対に必要だと思っています」と締めくくった。