前回では、「ヘドロ在庫発生メカニズムとヘドロによる影響」を概説しました。今回から数回にわたって、ヘドロ在庫を抽出・削減した上で、今後は出来る限り発生させないためにどう改革を推進していけば良いかをご紹介してまいります。
ここで最終的に目指す姿としては、「たとえ営業予測が外れたり市場が急激に変化したりしてもヘドロ在庫の発生を極力防ぐ仕組みが機能して、総在庫を最適な形に維持している状態のこと」です。
「ヘドロ在庫削減」及び「最適在庫維持」を実現していく改革の流れを、必要な改革手法と合わせ、以下の図1に示します。
<図1:在庫の削減および管理手法>
個別改革手法の詳細については、それぞれ次回以降のコラムにて改めて解説しますので、ここでは各手法の要旨をまとめて簡単にご紹介するにとどめます。
1.ABC分析さて、いよいよ改革各手法を詳述していきます。まずはヘドロ在庫を炙り出す新ABC分析についてお話します。この手法は、これまでのコンサルティング経験を踏まえ、(前述の通り)従来のABC分析にはない追加項目があります。手始めにそこから説明します。
従来のABC定義による管理で、「A区分でも廃却損が出た」経験はありませんか。例えば、数多く出荷している製品でも販売先が1社の場合で、以下を想定してみて下さい。
-販売先の経営状況が急に悪くなったらどうなるだろうか。
-販売先の経営方針が変わり取引が急にしぼむようなことになったらどうなるだろうか。
特に昨今はコストダウン要求が厳しいため、競合他社への乗りかえといったことも頻発するかもしれません。あるいは、突然に事業から撤退する可能性だってあり得ます。そのようなリスクを勘案すればするほど、管理区分には取引先数を盛り込んだ設定が必要となってきます。大量流動品でも取引社数が1社であれば、見込み生産は極力避け、受注生産に切り替えたいところです。
なお、自動車部品製造会社など、1製品1企業の場合には、「この部品は何種類の車種に使われているのか、売れている車に使われているのか」という観点で区分すると良いでしょう。
需要変動の管理は在庫コントロールに必要不可欠と考えます。需要変動の小さい製品は、在庫のコントロールが容易です。このような製品こそ情報システムに管理を任せ、管理担当は主に異常値をチェックしておけば良いでしょう。
上記2点の追加視点-「顧客数」と「需要変動」-については、あくまで管理区分を設定する際に会社の置かれている立場や諸条件によって重要になることもならないことがあります。言い換えれば、業界特性や(最小ロットサイズなどの)生産制約など、自社状況を十分検討しながら、どの視点を最重要視して在庫区分設定するか考えておく必要があるのです。この区分設定時の留意点については次回コラムでお話します。
ほとんどの会社で、在庫は「A」「B」「C」の3区分に分類され、管理されています。多くの会社で導入が進むERP(Enterprise Resource Planning)パッケージの機能も、C区分までのようです。しかし、C区分にはB区分に近い製品と数年間受注「0」の製品が等しく含まれます。本当にこの2つの製品を同じ管理方法で管理して良いのでしょうか。 前者の在庫は廃却損発生の可能性は低く、後者の在庫はほぼ100%の確率で廃却損が発生します。つまり、この2種類の製品在庫は管理方法を変えるべきです。管理方法が違うとなれば、管理区分も変えたほうが混乱を招きませんし、区分ごとに目標在庫水準を定める場合にも役立ちます。 結論を先に言ってしまうと、本コラムでは、以下の図2にあるような「A~E」の5区分管理を推奨していきます。これら区分設定の詳細については次回コラムで説明します。
<図2:ABCDE管理区分例>
今回は、前半でヘドロ在庫削減・管理の改革各手法を概説し、後半で手法のトップバッター新ABC分析と従来のABC分析の違いを述べてきました。次回は、この新ABC分析について具体例を挙げながら更に検証し、ヘドロ在庫の現状把握を解説してまいります。