前回は、日本の生産方式をそのまま海外に持ち込んで、生産できない事態に陥った事例を紹介した。今回は、そのような事態を招かないようにするには、どんな検討が必要かを述べることにする。前回ご紹介したタイ拠点でワンマンセル生産を導入して生産ができなくなった原因は、人の入れ替わりの多さという、日本とタイとでの生産条件の違いが原因であった。この事例からもわかるように、生産条件の違いを適切に把握し、それに対応した「ものづくり」にしないと、うまく生産はできないということだ。
日頃の生産を振り返ってみていただきたい。どの生産現場でも、変化点管理ボードがあり、「本日の変化点」については、生産前に確認しているはずである。生産の4Mの中の何かが変われば、不良の原因になる。従って、変化点を明確にし、それに対し、適切な事前の対策管理をしているはずだ。例えば、「人が変わる」ということであれば、作業手順が理解できているか、作業ポイントが理解できているか、正しい作業が標準時間内でできるか、作業した結果はどうか等を確認するはずだ。
海外で生産する場合も、これと同じ検討がされていなければならないということ。すなわち、日本と海外拠点とで、生産条件として何が違うか「変化点」を明確にし、それを踏まえて、どんなリスクが想定されるかを出し、それに対応した生産システムを検討するということだ。変化点があるのに、それを無視して適切な対策を行なわなければ、当然、まともに生産することはできないからだ。
ジェムコでは、多くの企業の海外進出のご支援をしているが、海外での生産システムを検討する際には、先ず、日本と進出先とで、生産条件の違いをすべて抽出した上で、その違いから生産に支障を及ぼすと考えられるリスクを整理し、そこから、それらリスクに対応した生産システムを検討してもらうことにしている。また、進出エリアの検討でも、同様にエリア毎の違いを明確にして検討する。
それでは、日本と海外拠点とで、生産条件として、どんなことが違うだろうか。
同様に、生産する上での環境や条件の違いという点では、メンテナンス体制や、電力事情(含む電圧変動)、水の確保のしやすさ、水質状況や水質規制、温度や湿度、虫などの多さ、物流状況(道路事情)、廃棄物処理基準、地盤沈下の有無、水害の有無等が相違点としてあげられる。実際、道路事情が悪く、悪路が多いところでは、製品の箱が壊れたり、梱包形態が悪い場合は部材や製品の不良が発生するということもある。
このように、各国、各地域で、生産するにあたっての条件は違うということだ。これがわからないまま、また、この違いに対策しないままで、日本と同じ生産方式を導入したのでは生産がうまくできないばかりか、その国の環境基準違反ということさえおこしかねない。
次回は、これら生産条件の違いへの対策について解説したい。