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OJTを機能化させるポイント

作成者: 柳原 智 氏|2025/03/14 2:16:01


OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)は、新人を現場で実践的に育成するための重要な手法です。実際の業務を通じて知識や技術を学ぶことで、即戦力としてのスキルを効率的に身につけることができます。しかし、OJTが機能するかどうかは、単に現場任せにするのではなく、計画的な指導や仕組みの整備がなされているかによって大きく変わります。
これまでOJTの失敗例や課題について述べてきましたが、その多くの企業では、OJTが「現場で先輩から学ぶ」という漠然とした形で実施されています。OJTを機能化させるためには、現場任せにするのではなく、組織全体でOJTの目的と仕組みを明確にし、計画的に進めることが必要です。

第五回の今回は、これまで述べてきたOJT指導の内容を改めて整理し、押さえるべき5つのポイントとその具体的やり方についてまとめていきます。OJTを機能させ、現場での生産性を向上させるとともに、より良い育成体制を構築していく手法について考えていきましょう。

OJTを機能化させるためには、以下の5つのポイントを押さえ、現場に即した形で導入することで、その効果を最大限に発揮することができます。

1. 明確な指導計画の策定

OJTを機能化させるには、あらかじめ計画を立て、新人がどのようなステップで学ぶべきかを明確にすることが重要です。計画的な指導が行われることで、新人は目的意識を持って学習に取り組むことができ、業務習得のスピードが向上します。また、指導者側にとっても、指導内容が整理されていることで効率的な教育が可能となります。

①育成計画の作成:まずは新人に、いつまでに、どのような状態(スキルレベル)になってもらいたいかを明確に定めます。例えば、1年後までに現場業務に必要な基本知識の習得、機械設備の使い方習熟、および必要な資格を取得するなど、目指すべき姿を決め、そこから逆算して、どの業務を、どの順番で、どの期間で習得するのかを具体的に計画し、学習のロードマップを作成します。

②指導項目の標準化:指導者ごとに内容が異なることを防ぐためにも、統一された指導内容で進めます。例えば、製造現場では「機械操作の基本」「安全対策の理解」「品質管理の基準」などの指導項目を設定し、それぞれに対して具体的な指導手順や達成基準を明確に設定し、新人がどの程度理解しているかを確認する仕組みを整えることが重要です。

③チェックリストの活用:新人の習得状況をチェックリストなどで可視化し進捗を管理、適宜調整しながら進めます。例えば、「基本作業の習得」「応用作業の実践」「独り立ちできるか」のような段階を設け、それぞれについて細かいスキルのチェックを行います。

④OJTスケジュールの作成:業務時間中のどのタイミングでどの業務を習得させるのか、計画的に配置することで、無駄なくスキルアップできる環境を整えます。指導者と新人の双方がスケジュールを共有することで、教育の進捗を可視化し、計画的な指導を実現します。特に夏季・冬期の長期休暇やゴールデンウイークなどをはさむ場合は、復習の期間を設けるなどすると効果的です。

さらに、指導計画には柔軟性を持たせることも重要です。新人の理解度や業務の進捗に応じて計画を見直し、必要に応じて補足研修や追加指導を行う仕組みを取り入れることで、より効果的なOJTを実現できます。

2. 指導者の役割とスキル向上

指導者の能力によって、OJTの効果は大きく左右されます。多くの指導者は「教える専門家」ではなく、現場での経験を基に指導を行っているため、体系的な教育方法を学ぶ機会が不足しているケースが少なくありません。指導者自身のスキル向上と、指導の負担を軽減する仕組みが必要です。

①指導者研修の実施:例えば、「新人への適切な声かけ」「理解度を確認する質問の仕方」など、具体的な指導技術を学ぶ研修を定期的に実施するなど、指導技術やフィードバックの方法を学ぶ機会を設け、教育者としてのスキル向上を図ることが求められます。

②メンター制度の導入:指導者一人だけに頼るのではなく、経験豊富な社員をメンターとして配置することで、新人の不安を軽減することができます。新人が相談しやすい環境を整え、精神的なサポートも提供することで、孤立を防ぎます。

③ローテーション指導:複数の指導者が関わることで、新人が幅広い視点を持てるようにします。同じ指導者のみが担当するのではなく、異なるスキルセットを持つ複数の指導者が関与することで、多角的な学びを促進します。また、複数のOJT指導員と複数の新人を組み合わせてOJT指導するなど、1対1の指導ではなく、多対多で指導することも効果的です。

④OJT指導マニュアルの整備:指導者ごとの教え方のばらつきを防ぎ、均一な教育を実現するための基準を設けます。例えば、指導時に活用する共通チェックリストや、効果的な教え方の事例をまとめたマニュアルを用意し、新人がスムーズに成長できる環境を整えます。

⑤指導者の負担軽減の仕組み:指導者は本来の業務と並行してOJTを行うため、負担が増加しやすい傾向にあります。指導を効率化するために、動画マニュアルやEラーニングなどのデジタルツールを活用し、一部の教育をオンラインで補完することも効果的です。

3. 定期的なフィードバックと評価

新人の成長を促すためには、適切なフィードバックが欠かせません。フィードバックが不十分だと、新人は自分の進捗状況を正しく把握できず、不安を抱えながら業務を続けることになります。また、適切な評価がなされないと、成長の実感が得られず、モチベーションの低下につながる可能性があります。定期的なフィードバックを通じて、新人が自身の強みと課題を認識し、より効果的にスキルを習得できる環境を整えることが重要です。

①1on1ミーティングの実施:定期的に対話の機会を設け、新人の不安を解消します。週単位や月単位で進捗を確認し、具体的なフィードバックを行うことで、成長を促すだけでなく、新人の心理的な負担を軽減できます。

②具体的なアドバイス:抽象的な指摘ではなく、具体的な改善点を伝え、成長を促進します。「もっと頑張れ」ではなく、「次の作業では、この点に注意すると効率が上がる」「作業に慣れるまであと〇回実践しよう」といった具体的行動の指示や、定量化した内容でアドバイスすることが重要です。

③目標の見直し:新人によって成長の速度は違う上、得意不得意もあります。進捗に応じて現在の目標と照らし合わせ、それぞれに合った形で次のステップを設定し、成長の方向性を示します。1週間、1か月といった短期的な目標と、1年後、3年後といった長期的な目標を組み合わせることで、新人が達成感を得やすくなります。

④評価基準の明確化:新人がどの基準で評価されるのかを明示し、目標設定をしやすくします。例えば、「基本動作の習得」「業務スピードの向上」「エラー率の低減」といった具体的な評価基準を設定することで、新人も自身の成長を実感しやすくなります。

⑤ポジティブフィードバックの活用:改善点だけでなく、新人の良い点を積極的に伝えることで、自己肯定感を高め、成長意欲を維持させることが大切です。「できたこと」や「成長した点」を具体的に伝えるたり、本人にも考えてもらうことで、新人のモチベーションを高めることができます。

適切なフィードバックは、新人は自身の成長を実感しやすくなり、業務に対する積極性が高まります。しかしながら、フィードバックはどうしても後回しになりがちです。あらかじめスケジュールの中に事前に組み込み、優先順位を上げておこなうことが大切です。また、フィードバックを単なる指摘の場にするのではなく、指導者と新人が共に課題を解決する場として活用することで、より実践的な成長が促進されます。

4. OJTをサポートする仕組みの導入

OJTを円滑に進めるためには、指導者や新人を支援する仕組みが必要です。効果的な仕組みを導入することで、指導者の負担を軽減し、新人の学習効率を向上させることができます。特に、情報共有の仕組みや、デジタル技術を活用した教育ツールの導入が重要になります。

①動画教材やVRの活用:繰り返し学習できる教材を用意します。例えば、業務の手順を記録した動画を作成し、新人が必要なときに何度でも見直せるようにすることで、記憶への定着を図るとともに、指導者の負担も軽減することができます。またVR教材などを活用することで、実際に現場にいなくとも現場と同じ状況をリアルに再現し、疑似体験を重ねることで、より学習効果を高めることができます。

②デジタルツールの導入:進捗管理アプリやEラーニングを活用し、OJTの効率化を図ります。例えば、クラウド上で新人のOJT進捗状況を可視化し、指導者と新人がリアルタイムで情報を共有できる環境を整え、共通の認識をもって取り組むことで、指導の行き違いを防ぎます。

③新人同士の学びの場の設定:グループディスカッションや相互学習の機会を取り入れることも効果的です。例えば、「ペアワーク」や「ロールプレイング」などを導入し、新人同士が互いに学び合う機会を増やすことで、知識の定着を促します。また、新人同士で現在の悩みなどを話す機会を設け、周囲が積極的に取り上げることで不安の解消にもつながります。

④OJT管理の仕組み:新人育成の進捗を正確に把握し、適切なサポートを提供できる環境を整えるためにも、OJT管理を仕組みとして運用することも必要です。例えば、OJT記録シートをデジタル化し、習熟度やフィードバックの内容をデータベース化するなど、OJT管理を仕組み化することで、年度ごとのばらつきや、組織全体としてのスキルの習熟を把握することでより効果的な育成を行うことができます。

⑤成長ステップの可視化:具体的なスキル習得の基準を定め、新人がどの段階にいるのかを明確にします。例えば、社内ルールなど基礎知識が身についた段階、機械操作など基本作業ができる段階、応用技術が身についた段階、独り立ちできる段階など、ステップごとに評価基準を設定し、成長の可視化を行います。

このようにOJTのサポート体制を整えることで、新人は学習の方向性を明確にしやすくなり、指導者も効率的に指導を進めることが可能になります。特に、デジタル技術や標準化されたツールを活用することで、教育の品質を向上させることができます。

5. 職場全体でのOJT意識の向上

OJTを指導者だけの負担にするのではなく、職場全体で新人を育成する文化をつくることが大切です。職場のメンバー全員が新人の成長を支えるという意識を持つことで、より効果的なOJTが実現できます。OJTを現場全体の取り組みとすることで、新人は組織の一員としての意識を早い段階で持つことができ、チームワークの向上にもつながります。

①新人を受け入れる意識の醸成:現場のメンバー全員が育成の意識を持ち、新人が働きやすい環境を作るように心がけます。例えば、入社時の歓迎会やウェルカムミーティングなどを実施し、会社の風土や期待する役割を共有することで、新人が安心して業務に取り組めるようにします。

②成功事例の共有:うまくいった指導方法を社内で共有し、改善を継続します。例えば、定期的に指導者向けのミーティングを開催する、成功事例発表会を実施するなど、成功した指導方法や工夫を共有することで、OJTの質を向上させます。

③フォローアップの実施:一定期間後に研修を実施し、OJTの効果を振り返ることで、改善点を洗い出します。特に、OJT指導が終わり、新人が独り立ちした後にも、新人個々の課題を明確にし、追加のトレーニングや補助プログラムを用意することが重要です。

④職場全体でのフィードバック文化の確立:例えば、定期的なチームミーティングを開催し、業務の進捗や課題について意見交換する場を設けることで、新人が積極的に質問しやすい状況を作ります。また指導者以外の社員からもアドバイスを受ける機会を増やすことで、多角的な視点から学ぶ環境を整え、さらに、OJTの一環として『相互フィードバック制度』を導入し、新人自身も指導者や先輩社員に対して意見を述べる機会を与えることで、よりオープンなコミュニケーション文化を醸成することができます。

職場全体でOJTを支える仕組みを作ることで、新人は安心して学ぶことができ、指導者の負担も軽減されます。OJTの成功は、組織全体の意識と協力にかかっていると言えるでしょう。

OJTを機能化させるためには、単なる「現場での経験」に頼るのではなく、計画的な指導と仕組みづくりが不可欠です。組織全体でOJTの意識を高め、指導者のスキルアップや支援体制を整えることで、新人の成長スピードを加速させることができます。

また、OJTの改善は一度きりではなく、継続的に見直しを行うことが重要です。環境や技術の変化に応じて教育手法を進化させることで、より実践的で効果的なOJTが実現できます。

次回は、最新の教育方法やデジタル技術を活用したOJTの進化について解説します。