今回から5回にわたり、SPC機能を搭載したRAKU-PADについて解説していきます。まず1回目のテーマとなる「SPC」(Statistical Process Control)とは、一体どのような手法なのでしょうか?製造現場でものづくりに携わる担当者の皆さんは、SPCという言葉をご存じの方も多いでしょう。あるいはSPCを知らなくても、普段から管理図を使って、不具合や不良品が発生しないように品質を管理しているかもしれません。ここではSPCの基本的な知識と、SPCでよく使われる管理図について学んでいきましょう。
SPCは、日本語では「統計的工程管理」と呼ばれるものです。端的にいうと「さまざまな製品をつくる工程において、不良品が発生する前に先まわりして異常を検知し、対策につなげる管理手法」がSPCなのです。
SPCによって、品質を左右するデータを製造プロセスごとに取得して、統計学的に分析すると、不良品の発生を未然に防げるようになります。従来のように不良品が発生してから全数検査で取り除く手間がなくなり、生産効率の向上に大きな威力を発揮してくれます。不良品を出さないためには、いち早く異常を検出しなければなりません。そこでタイムリーでリアルタイム性を備えたSPC機能を持つツールが求められています。
さて、このSPC機能ですが、品質管理に役立つ「QC7つ道具」(チェックシート、散布図、特性要因図、グラフ、ヒストグラム、パレート図、管理図)を統計的工程管理として広義の意味で含める考え方、あるいは品質管理の実践に役立つ管理図を中心に捉える考え方もあります。以下、SPCにおいてよく使われる管理図にフォーカスして説明しましょう。
管理図は、品質のバラツキを判定・分析する際に役立ちますが、品質のバラツキには標準的な方法で製造してもどうしてもバラツキが起きてしまう「偶然原因」と、工程において何か異常が生じて起きる「異常原因」に分けられます。このうち、偶然に起きるバラツキは原因を調べても対策の仕方がありません。一方で、異常によるバラツキは原因を迅速に特定して、対策を練ることで品質の改善が期待できます。
管理図は、横軸に群番号(時間)、縦軸にデータ値を取ります。横軸の群は、時間やロットごとの複数のサンプルデータの塊(グループ)です。もしサンプル群の塊のデータ数が20ならば、n=20です。その塊の番号が群番号であり、1,2,3……となります。データは時系列で取っていくので、群番号は時間とヒモづいています【図1】。
縦軸には、平均値(μ)の「中心線」(CL:Center Line)を引きます。バラツキの度合いを示すには、おなじみの標準偏差(σ)を用いて、中心線から+3σ(シグマ)ぶん上に「上方管理限界線」(UCL:Upper Control Limit)を、-3σぶん下に「下方管理限界線」(LCL:Lower Control Limit)を引きます。
そして、サンプルデータの数値をプロットしたグラフを作ります。このとき各点が±3σ以内に収まっておらず、UCLやLCLを越えてしまった場合や、並び方がおかしい場合には異常であると判定します。ちなみに正規分布(ガウス分布)に則っている場合は、±3σの範囲が99.7%となるので、残りの0.3%で異常が発生するという確率になります。
管理図を大別すると、扱うデータの種類によって、「計量値管理図」(長さや重量、温度などを計測して連続的に変化する値)と「計数値管理」(カウントできるような離散的な値)に分けられ、複数の種類の管理図があります。
以下、よく使われる計量値管理図について、代表的なものをピックアップしてみましょう。
長さや重さなどのサンプルの計量値が、対象から1つしか得られないような場合に用いられます。工程の各測定値(X)を時系列でプロットしてグラフ化した「X管理図」と、測定値の移動範囲(前データから現データを引いた絶対値)をグラフ化した「Rs管理図」で構成されます。通常は下記のように両方の図を上下に並べて併用して使います【図2】。
長さや重さなどのサンプルの計量値が、対象から複数データぶん得られる場合に用いられます。ここで紹介した管理図の中では最も多くの情報が得られます。工程の品質管理のために、群(グループ)ごとのデータ平均値のバラツキをグラフ化した「Xbar管理図」と、群ごとの測定値の分布範囲をグラフ化した「R管理図」で構成されます。こちらも通常は両者を上下に並べて併用して使います【図3】。
Xbar-R管理図と同様に、長さや重さなどのサンプルの計量値が、対象から複数データぶん得られる場合に用いられます。Xbar-s管理図は前出の平均値のXbar管理図と、群ごとの測定値の標準偏差をグラフ化した「s管理図」を組み合わせたもの。前出のXbar-R管理図では、測定値のバラツキに測定値の最大値から最小値までの振れ幅を表す範囲を使っていましたが、データ数が多くなると、その範囲でのバラツキが把握しづらくなってしまいます。そこでXbar-s管理図は、範囲の代わりに標準偏差を利用しています【図4】。
ここでは、3つの代表的な管理図について説明しましたが、このほかにも計数値管理図に「np管理図」「p管理図」「c管理図」「u管理図」などがありますが、ここでは説明を割愛します。
管理図を見る場合に重要となるポイントは、データに何か異常があったときに原因を特定し、対策を練って品質の改善に努めることです。そこで事前に異常を検出するルールを設定しておき、そのルールに逸脱する異常なデータが現れたら、それを管理者に迅速に通知してくれるようにしておきます。こういったルールに関しては、各点が上方/下方管理限界(UCL/LCL)を越えているかどうか?すなわち±3σによって、品質のバラツキを判断して異常がないかどうかを判別するだけでなく、新JISで定められた異常判定ルールや、自動車業界で使われるIATF16949ベースの判定ルールなどがあります【図5】。
前セクションではデータの異常なバラツキを検知する管理図と、異常データを検出するルールについて触れましたが、同一工場内の製造ライン同士の優劣や、異なるラインを担当する作業者の能力などを定量的に比較し、規格を満たす製品を安定して作り続けられる能力を示す「工程能力指数」(Cp/Cpk)も指標の1つに挙げられます。
この工程能力が高い製造ラインは生産プロセスが安定していますが、逆に工程能力が低いラインは規格外の不良品が多くなってしまいます。工程能力指数のうち、Cpは「完全に管理された理想の工程」を想定したもので、Cpkのほうは「偏りを考慮した、より実務的な工程」の数値となります。実際に製造ラインの工程能力指数を出すときは、Cpkを用いたほうがより実態にあった数値になるでしょう。
製品の品質管理は、上限規格値と下限規格値を設けて、規格の合否基準として利用します。Cpkによって、上限規格値と下限規格値の規格幅における実データのバラツキの位置を確認できますが、おおむねCpkの値が1.33~1.66あれば「優れた能力工程である」と言われています。なおCpとCpkは、上下限の規格値と元データの標準偏差が分かれば、以下の計算式で簡単に求められます。
・両側(上限/下限)の規格値が決まっているとき
Cp=(上限規格値-下限規格値)/6σ
・片側(上限/下限)の規格値しか決まっていないとき
上限規格が決まっている場合は
Cp=(上限規格値-平均値)/3σ
下限規格が決まっている場合は
Cp=(平均値-下限規格値)/3σ
一方、Cpkを算出する際は「上限とデータの平均値との差」と「データ平均値と下限の差」のうち、数値が小さいほうを用います。すなわち
Cpk=((上限規格値-平均値)または(平均値-下限規格値))/3σ
となります。
ここまでSPCを中心に解説してきましたが、実は当社の主力製品の1つである現場帳票電子化システム「mcframe RAKU-PAD」にもSPC機能が搭載されており、安定生産の実現に寄与する多彩な工程管理機能をサポートしています。
最後になりますが、このRAKU-PADについて簡単に触れておきましょう。RAKU-PADは「ラクチン」のRAKUに、iPADの「PAD」を付けた製品名で、記録(Recording)、分析(Analyzing)、知識(Knowledge)、活用(Utilizing)という英語の頭文字4つを取ったRAKUの意味が込められています。これらの機能により、製造現場のデジタル化を推進できます。
手元のモバイル端末(iPad/iPhon/Windowsタブレット)で現場から吐き出されるデータを入力し、それらの収集データを分析することで、ここで紹介した管理図を含むQCの7つ道具の図表(特性要因図を除く)をダッシュボード上で分りやすく出力し、誰でも手軽に活用できるようになります【図6】。
RAKU-PAD自体の説明や特徴、実装されたSPC機能に関しては、次回からのコラムで詳しく解説していきます。第一回目は「SPCとはどのようなものか?」という概要について頭に入れていただきました。次回のコラムでは、RAKU-PADで紙の帳票電子化を実現し、SPC機能を使ってDXへの第一歩を踏み出す意味やメリットについて考えていきましょう。