前回は他社のSPCツールから「RAKU-PAD」にリプレイスする本質的な理由と、RAKU-PADに搭載されているSPC機能のうち、新JIS対応の管理図の異常判定ルールを中心に解説しました。
RAKU-PADは、生産している製品の品質にバラツキなど、何か異常の兆候が現れたときに、担当者や関係部署などにメールやチャットで通知してくれる便利な機能があります。この機能は単に品質の分析だけに留まらず、異常が起きた際に迅速に現場でアクションを起こせるという意味でも重要なポイントでした。
最終回は、自動車業界に特化した品質マネジメントの国際標準規格である「IATF16949」の観点から、RAKU-PADにおけるSPC(Statistical Process Control)機能の優位性を見ていきましょう。
そもそも「IATF16949」とは、一体どんな国際標準規格で、この規格を取得するとどのようなメリットがあるのでしょうか? まずは基本的なところから説明していきましょう。
IATF16949とは、自動車の製造分野に特化した品質マネジメントシステムの国際規格のことです。1990年代に米国三大自動車メーカーのGM、クライスラー、フォードによって制定された品質マネジメント規格の「QS-9000」から始まりました。その後、国際標準化機構の「ISO9001」をベースにして「ISO/TS16949」として標準化され、これが世界基準の自動車産業規格としてワールドワイドに広まりました。
さらに2015年度にISO9001が改訂されたタイミングで、国際自動車産業特別委員会・IATFが自動車専用の要求事項を追加し、その規格を制定・管理することで、現在のIATF16949となりました。いまIATFは自動車メーカー10社・自動車産業5団体によって構成されており、「IATF16949認証制度」の運営元となっています。
IATF16949が制定されたのは、Tier1などの多種多様な部品を供給するサプライヤーを自動車メーカーが数多く抱えていたという背景があります。大手自動車メーカーとしては、サプライチェーン全体にわたって、自動車部品の品質管理を確実に実施したいという思いがありました。
IATF16949認証を取得した部品を調達することで、高品質な製造基準を維持でき、生産工程や業務工程も改善され、合理的な生産と管理が可能になります。これにより生産性の向上や、無駄なコストの削減が期待できるわけです。
一方で部品サプライヤーも、IATF16949の認証を受けると大きなメリットを享受できます。IATF16949は海外の主要な自動車メーカーが採用している規格なので、その認証を取得すれば部品メーカーとしての信頼性やブランディングにつながり、国際市場で自社のスタンスを優位にしてくれる可能性があります。いずれ海外進出を計画している企業ならば、品質が国際基準を満たしているという証明になり、海外企業からの信頼を勝ち取れるでしょう。
ここからはIATF16949の要求事項について見ていきましょう。この要求事項には、品質マネジメントシステムを構築・運用するうえでガイドラインとなる「ISO9001の要求事項」のほか、大手自動車メーカーが求める独自要求事項である「自動車産業固有要求事項」と、顧客(自動車メーカー)が独自にサプライヤーに対して提示する「顧客固有要求事項」の3つがあります。IATF16949認証のためには、これらの要求事項を満たすマネジメントシステムの構築と運用が求められます。
このうち顧客固有要求事項を満たしているかどうかという点が最も重要なポイントになります。そのために「コアツール」と呼ばれる5つの技法が用いられます。具体的には「PPAP」(生産部品承認プロセス)、「APQP」(先行製品品質計画)、「FMEA」(故障モード影響解析)、「MSA」(測定システム解析)、「SPC」(統計的工程管理)という5種類のコアツールがあり、これらを駆使して品質マネジメントシステムを構築していきます。詳細については下記の表を参考にしてください。
ここで挙げたコアツールの1つであるSPCとして、RAKU-PADのSPC機能を利用して、各種管理図と工程能力指数Cp/Cpkを管理するわけです。いずれも製造工程が「統計的管理状態」にあるかどうかを判断するもので、前回のコラムでも紹介したとおりです。
SPCでは、製造工程内で重要なデータを測定・監視することで、これらを統計学的に処理し、製造中の品質や不具合を検出できるようになります。さらに不具合の原因を迅速に見つけて対処することで、最終段階で不良品の発生を未然に抑えられます。たとえば、RAKU-PADから入力したデータをもとに、Xbar-R管理図を作成して、製品の品質に変動がないかどうかを素早く評価できます。ある工程におけるサンプリングデータがUCLを超えた場合(3σを超えた場合)は、そのデータのバラツキが99.73%の範囲をオーバーしたことになり、0.27%以下の発生確率という稀有な事象になります。そのため「該当の工程に何か変動要因が潜んでいる」と判断するに至る妥当性が生まれます。
さて、ここでIATF16949への対応を加速するために、RAKU-PADを導入すると何が良いのでしょうか?RAKU-PADにはSPC機能が実装されているため、わざわざ専用のSPCツールを別途購入する必要がなく、まずはコスト面でのメリットが生まれます。もちろん優れたコストパフォーマンスだけでなく、RAKU-PADの機能や使い勝手の良さも前回までのコラムで何度もご紹介したとおりです。
製造現場で担当者がタブレットによって検査結果等のデータを簡単に入力でき、そのタブレット入力画面はこれまでの紙の記録用紙とほぼ変わらないフォーマットを実現できるため、現場も混乱することなく導入できます。そして、入力されたデータはデータベースで一元管理され、ダッシュボード上で管理図などのQC7つ道具の結果を素早く可視化してくれます。さらに新JIS対応の管理図の異常判定ルールや、今回のテーマであるIATF16949に対応する異常判定ルールで、異常判定の際にアラートを通知することもできます。 RAKU-PADのSPC機能のように「タブレットによるデータ入力」の機能から、「管理図の自動作成」、「異常判定ルールでの監視、及び通知」までをカバーしているSPCツールはあまり見かけないのではないでしょうか。
繰り返しになりますが、RAKU-PADでは「お気に入り」のグラフとして登録した管理図(X-Rs管理図、Xbar-R管理図、Xbar-s管理図)を、あらかじめ設定したタイミング(15分~60分程度毎のタイミングで)ごとにルールに基づいて判定し、それに合致した場合は関係各所にメールやチャットで知らせてくれるため、迅速な初動対応を実現できるようになります。またアラートが発生したときの履歴も残っているため、あとからレポートを提出する際に確認することも可能です。
また工程能力指数のCp/Cpkも簡単に算出でき、狙いの数値以上が出ているかどうかを判断できます。IATF16949でも工程能力指数Cp/Cpkの算出が要求されますが、特に重要な特性についてはCp/Cpkとして「1.67以上」が求められています。前回のコラムでご紹介した新JISでは1.33以上の数値なので、より厳しい数値になっていることがわかります。Cp/Cpkを向上していくためには、製造工程での持続的な品質改善が必要になるため、SPCによる管理が重要視されています。
さて、ここからはIATF169494の5つの異常判定ルールと、その見方について詳しく見ていきましょう。基本的には新JISのときのルールと似ていますが、より判定基準が厳しくなったり、逆に基準が緩くなったりと、いくつか変更点が加えられています。
これらは管理限界外れ(±3σ)のデータになるため異常と見なされます。製品の特性が悪化している(中心位置の変化やバラツキの増大など)、あるいは装置の異常や測定者の変化、管理図の記入ミスといったことが原因として考えられます。
連(点のつながり)の異常が見られるケースです。こちらも装置の不良や異常などが原因であったり、原材料や製造条件の変動によって工程が変動したり、あるいは測定者の変化などが原因であったりしますのでチェックが必要です。
ルール3と同様に、連(点のつながり)の異常が見られるケースです。このようにデータの増加や減少の傾向が見られたら、装置の見直しや、工程変動要素の調査、測定システムの変動が考えられるため、その対処を迅速に行いましょう。
±1σの範囲内の点が90%以上あり、2/3よりはるかに多く集まっている場合は、分布に異常が見られると判断します。サンプリング方法が不適切であったり、データの編集時に平均値から外れたデータを除去していなかった、あるいは管理図の記入ミスや統計量の計算間違いなど、さまざまな原因が考えられるため、もう一度チェックしましょう。
±1σの範囲内の点が40%以下で、2/3よりはるかに少なくて、分布に異常が見られるケースです。こちらもサンプリング方法が不適切なことが原因かもしれません。連続するサブグループに違う材料が含まれているなど、変動要因になる原因がないかどうかを確認しましょう。
IATF16949の認証取得は、日本の自動車メーカーや自動車部品メーカーにとって、グローバルビジネスを展開するうえで欠かせない絶対条件です。国内自動車部品メーカーが、欧米のメーカーや新興の中国メーカーなどに販路を拡げていくために、まさに避けて通れない道と言っても過言ではないでしょう。ぜひ弊社のRAKU-PADとSPC機能をご活用のうえ、世界のビジネスの扉を開いていただければ幸いです