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{{ group.name }} | 第3回 『スマートフォンを効果的に導入・定着させる秘訣』 | {{ site_settings.logo_alt }}

作成者: 安東 恭二 氏|2011/09/27 5:20:00

さて、本コラムも今回で3回目となりました。これまでは実例を中心に製造業での利活用をご紹介しましたが、今回は一歩進んで実際に導入する際のポイント、また早期に定着させる秘訣について考えていきましょう。

スマートフォンへの考え方

下のグラフをご覧頂ければお判りの通り、スマートフォンはここ3年、毎年250%の伸びで出荷台数が増えてきています。この伸びを支えているのは法人へのスマートフォンの浸透であり、業務利用の浸透です。業務利用の用途がメール・スケジュールの確認('08年)、営業ツールとしての電子カタログ('09年)、SaaS・クラウドとの連携('10年)というように用途が拡がりを見せるのに併せてスマートフォンは法人に浸透し、当初のような「キワモノ」という扱いから「ビジネスツール」に進化しています。さらに言うならば'08年以降、メール→営業ツール→システムソフトウェアというように単なるコミュニケーションツールから業務基幹系にだんだんと中核へと浸透しています。

※フィーチャーフォンとは、従来の携帯電話を意味します。(MM総研調べ)

スマートフォンは80点主義

結論から申し上げて、単に電話機能やメール機能などのコミュニケーションを強化したいのであれば、スマートフォンは決してオススメできません。電話番号を押すのであれば慣れ親しんだ携帯電話には敵いませんし、メールもタッチパネルから長文のメールを書くことはかなり大変な作業です。

しかし、以前のように携帯電話・パソコン・デジカメ・PDA・ハンディーターミナル・カタログをカバンに入れて持ち歩くことに比べれば、スマートフォンはオールインワンで全てを網羅することが可能です。つまり何でもそつなくこなす80点主義な端末ということができます。

スマートフォンを80点ではなく、100点にする現場の知恵の活用

では、そのような80点主義のスマートフォンを効果的に業務に利活用するためにはどうすれば良いでしょうか? その秘訣は「自社専用アプリの開発」にあります。スマートフォンの利点である「直感的な操作」や「大きく見やすいUI」などを活用して、自社の業務プロセスのど真ん中に導入することが成功の秘訣と言えます。

ここである成功事例をご紹介しましょう。この事例となる企業はピッキング作業を行っている物流業です。

ピッキング作業は、片手(利き腕)で商品のピッキング、逆の手でハンディーターミナルやピッキングリストを、というように両手・両腕をフル活用しての作業でしたが、ここでひとつ大きな問題がありました。

基本的にこの企業の使っているハンディーターミナルは右利きの人にとって使いやすいUIになっており、左利きの人にとってはかなり使い勝手が悪いものでした。そこでスマートフォン(本件の場合はiPhoneで開発)の画面を右利き用と左利き用で切り替えられるように開発を行いました。

改良アプリ構成図

いかがでしょうか? たかだかこれだけの違いではありますが右利きの場合は右手(利き手)に製品を持ちますので、左手でiPhoneを持つことを想定し画面の左側にボタンを集中させ、逆に左利きの方が使う場合は右側にボタンを集中。すべての作業を親指一本で完結できるようにしたのです。ハンディーターミナルの操作のために作業が止まることもなく、また製品を一瞬どこかに置く必要もなくなったことで、日々の作業効率は大きく引き上げられました。

現場の仕事は極めて労働集約型の作業ですので、この1工程の作業時間を最適化することで生産性は大きく改善しました。このように、自社の業務プロセスを改善する仕掛けがあること、また運用のノウハウや現場の知恵を盛り込むことでスマートフォンは現場力強化のツールとなり、80点ではなく100点の業務端末に成りうるのです。

さらに100点から、120点に引き上げる秘訣

ここまでお読み頂いてお判りの通り、自社の現場の知恵や業務プロセスを反映させるには『自社専用アプリ』が必須と言えます。なぜならば、汎用アプリ(既製品、市販品)では前項のようにレイアウトを自由自在にデザインしたり、自社の業務プロセスにフィットさせたりするには限界がありますが、自社開発ならば自社の思うままに設計することが可能です。

自社の運用プロセスや現場の知恵・力など、競争力や生産性の根源となる業務において、汎用アプリを利用し、少しでも違和感を持ち続けることは、遠からず自社の力の悪影響に繋がってしまいます。この部分は是非、妥協すること無くお考えいただければと思います。

逆に、社内グループウェアとの連携や内線電話機能、さらには現場での図面参照や動画マニュアルなどのサービス・アプリなどは、既に有用な汎用アプリが多数存在しています。このように自社専用アプリにプラスアルファできる便利なアプリは積極的に活用すべることをお勧めします。ただし、自社専用アプリに連携させるとなると、開発工数は加速度的に増加していきますので、注意が必要です。

つまり、自社専用アプリと汎用アプリを使い分け、開発は自社専用アプリのみとし、汎用アプリは自社に最適なものを選択(+若干のカスタマイズ)するだけで実運用可能なものを選ぶとよいでしょう。一から十まで専用アプリ開発をしてコスト増大を招くのではなく、自社の業務ノウハウが詰まった作業の部分は専用アプリ、それ以外の部分は汎用アプリと切り分けることが効果的な導入の秘訣と言えます。

スマートフォン定着のツボ

せっかく導入したスマートフォンが、単なる携帯電話やハンディーターミナルとしてしか活用できていないという声を時々耳にするようになりました。また、導入したものの使いこなすことが出来ず形骸化している事例もよく目にします。

なぜこのような事態になってしまったのでしょうか? このような失敗例から『スマートフォン導入の際に運用プロセスを変えてしまった』ことで定着しなかったケースをご紹介します。

(ケース:一部工程の生産性悪化が全体の生産性悪化に繋がった例)
スマートフォンを業務端末で使用し、無線LANでデータ送信をさせようと思ったが、一部工程が無線LANの届かない場所だった。その工程の作業者は仕方なく、データ送信時には電波圏内まで移動しなければなりませんでした。

実は稼動前からこの問題は分かっていたのですが、データ送信頻度がそれほど多くないということで、この工程のみ作業手順を変更させました。しかし、毎日何度もデータ送信のために行ったり来たりするのが面倒になり、そのうちデータ送信間隔が広くなり、工程管理の精度が低くなってしまいました。

本来は導入前に電波増強を行うか、この工程のみ違う方法でのデータ送信をするという通信側の努力で運用をカバーすべきでしたが、通信の問題を運用でカバーさせるという判断をしたがために、全体に影響を及ぼし、またスマートフォンの利用が定着できないという悪循環に至ってしまいました。

スマートフォンは冒頭に申し上げた通り80点主義の端末ですが、専用アプリの設計・内蔵通信機能の活用・標準機能(メール・カメラなど)の活用で、かゆいところに手が届く業務端末に生まれ変わるのはご説明した通りです。しかしこの開発や設計の段階で運用に無理を加えてしまう=現場力を下げてしまうと、80点どころか70点、60点の端末にもなり得ます。

このような失敗を回避するためには、例えば開発SIerとの付き合い方やセキュリティポリシーの考え方、はたまた導入後のサポートなど......、押さえておいたほうがよいツボがいくつかあります。

次回のコラムでは、このようなスマートフォンの上手な開発方法、プロジェクトの進め方などをご説明させて頂ければと考えています。

最後に今回のコラムのまとめを記載します。

  1. 自社専用アプリを開発することで、生産性UP・競争力向上を!
  2. 汎用アプリの情報・事例を収集し、自社に活用することで自社開発コストを抑制せよ。
  3. 現場作業にスマートフォンを合わせること。スマートフォンに作業を合わせさせることはご法度。
第4回コラム「スマートフォン導入の4つのカギ」に続く