皆さんこんにちは。前回より引き続き、BDOシンガポール・ジャパニーズデスク 岸が担当させていただきます。今回でシンガポールについては最終となりますが、今回はシンガポールにおける優遇税制と日本との租税条約についてお話しさせていただきます。
法定のインセンティブ - シンガポール政府機関による承認を必要としない税務上のインセンティブのことであり、一定の要件を満たす場合にはどの産業に属する法人であっても所得控除等の適用が受けられます。
具体例として、生産性・革新クレジット(PIC)スキームにおける所得控除等、研究開発活動(R&D)費用に関する所得控除、マーケティング・市場開拓費用、合併・買収(M&A)所得控除、適格知的所有権(IP)に係る資本的支出の所得控除等があります。 各法人は各税務インセンティブに関する適用要件を満たすか否かを自ら検討した上で、シンガポール内国歳入庁(IRAS)に対して提出する確定申告書上において、各種インセンティブを適用します。
任意のインセンティブ - シンガポール経済開発庁(EDB)、シンガポール国際企業庁(IE Singapore)、シンガポール海事港湾庁(MPA)及びシンガポール通貨金融庁(MAS)といったシンガポール政府機関が管轄・承認を与える税務インセンティブがあります。これらインセンティブは、広範囲に及ぶ産業(製造業、海運業、トレーディング業、金融サービス業等を含む)に属する法人が申請可能であり、シンガポール政府が推し進める経済・テクノロジーの発展計画に合致するようなビジネス活動を行っている法人に対して付与されます。インセンティブを付与された法人は、通常5年から10年の間(適用期間の延長もなされうる)、免税や軽減税率の適用という形で恩恵を受けられます。
各税務インセンティブの適用要件は、各シンガポール政府機関に提出される事例毎に事実関係・メリットによって異なります。シンガポール政府機関との交渉によって、特定要件の内容、享受しうるサポートの程度やインセンティブ期間が決定されますが、これらは事例毎に異なります。申請が承認されるか否かは、しばしばインセンティブの適用期間中に、当該申請法人がシンガポール国内においてどの程度支出する計画(例えば固定資産の取得計画)があるのか、シンガポール国内でどの程度雇用を増やすのか(どういった職種の者を雇うのかを含む)、シンガポールでの売上増加がどの程度見込まれるか、当該申請法人が行うビジネス活動がシンガポール経済発展に沿ったものであるか等の質及び量的要因(すなわち、どの程度シンガポール経済に貢献するのか)を加味して判断されます。
任意のインセンティブのうち製造業、トレーディング業及びサービス業で利用されるものは以下となります。
製造業、トレーディング業及びサービス業 | |||
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インセンティブの種類 | 要件 | 内容 | 承認機関 |
パイオニア産業・パイオニアサービス企業インセンティブ | 対象となるプロジェクトが非常に戦略的なものであり、シンガポールにとって望ましい産業を生み出す結果となるもの (例:産業全般の水準を高めるような新たなテクノロジー・技術・知識等の創造が期待できるもの) | 適格所得に対して5年から15年の間、免税 | シンガポール経済開発庁(EDB) |
開発・拡大インセンティブ(DEI) | シンガポールにおいて著しい経済効果をもたらすプロジェクトであること | 適格活動に係る所得の増加部分に対して当初10年間、5%から15%までの軽減税率を適用(最長20年までの延長あり) | シンガポール経済開発庁(EDB) |
地域統括インセンティブ(RHQ) | シンガポールにおいて地域統括会社としての機能を有する法人で、シンガポールで一定以上の支出を行う等をコミットする法人であること | 適格統括会社活動から得られる所得の増加分に対して3年間、15%の軽減税率が適用(要件を満たす場合、更に2年間の延長も可) | シンガポール経済開発庁(EDB) |
国際統括インセンティブ(IHQ) | 上述のRHQにおける要件を大幅に超えてシンガポールに投資すること等をコミットする地域統括会社であること | 適格統括会社活動から得られる所得の増加分に対して5年間、更なる軽減税率(最低0%)が適用 (適用期間の延長もあり) | シンガポール経済開発庁(EDB) |
グローバル・トレーダー・プログラム(GTP) | シンガポールをオフショア拠点として、適格商品・製品に関して国際貿易、発注、流通、輸送を行う法人であって、一定規模の売上や支出等の実績がある法人であること | 適格貿易所得に対して、各法人のコミットメントの水準に応じて、5年間、5%あるいは10%の軽減税率が適用(適用期間の延長もあり) | シンガポール国際企業庁(IE Singapore) |
租税条約とは、国際的な二重課税の回避、脱税及び租税回避等への対応を主たる内容とする条約であり、国内法よりも優先されます。日本とシンガポールは租税条約を締結しており、現行の租税条約は1996年1月1日より適用されています。同条約は全30条からなっており、その主な内容をいくつかピックアップすると以下となります。
なお、シンガポールの税制上、シンガポール法人が居住法人とされる場合のみ、当該法人は租税条約上の恩恵を享受できます。この点、シンガポール税制では経営および管理がシンガポール国内で行われている場合(具体的には、シンガポール国内で取締役会が開催されている場合)において居住法人として取り扱われるため、外国会社のシンガポール支店は通常、非居住者法人として取り扱われ、租税条約上の恩恵を享受できない点には留意が必要です。