Chinese | English

03-3510-1616 受付時間 9:00〜17:00(土日除く)

お問い合わせ 資料請求

 

  • HOME
  • コラム
  • アジア諸国における会計及び税務制度 【連載第6回】シンガポールにおける優遇税制及び日本との租税条約

コラム

グローバル

アジア諸国における会計及び税務制度 【連載第6回】シンガポールにおける優遇税制及び日本との租税条約

アジア諸国における会計及び税務制度 連載第6回 シンガポールにおける優遇税制及び日本との租税条約 

皆さんこんにちは。前回より引き続き、BDOシンガポール・ジャパニーズデスク 岸が担当させていただきます。今回でシンガポールについては最終となりますが、今回はシンガポールにおける優遇税制と日本との租税条約についてお話しさせていただきます。

優遇税制

シンガポールではシンガポールの社会及び経済にとって望ましいとされる特定の活動やビジネスをシンガポールに呼び込み、外国企業及び国内企業による投資を促進するために、広範囲に及ぶため免税や軽減税率の適用等、税務上のインセンティブ(優遇税制)が設けられています。税務上のインセンティブは、以下のように法律で認められているインセンティブと監督官庁からの承認を必要とする任意のインセンティブに分類されます。

 

法定のインセンティブ - シンガポール政府機関による承認を必要としない税務上のインセンティブのことであり、一定の要件を満たす場合にはどの産業に属する法人であっても所得控除等の適用が受けられます。

具体例として、生産性・革新クレジット(PIC)スキームにおける所得控除等、研究開発活動(R&D)費用に関する所得控除、マーケティング・市場開拓費用、合併・買収(M&A)所得控除、適格知的所有権(IP)に係る資本的支出の所得控除等があります。 各法人は各税務インセンティブに関する適用要件を満たすか否かを自ら検討した上で、シンガポール内国歳入庁(IRAS)に対して提出する確定申告書上において、各種インセンティブを適用します。

任意のインセンティブ - シンガポール経済開発庁(EDB)、シンガポール国際企業庁(IE Singapore)、シンガポール海事港湾庁(MPA)及びシンガポール通貨金融庁(MAS)といったシンガポール政府機関が管轄・承認を与える税務インセンティブがあります。これらインセンティブは、広範囲に及ぶ産業(製造業、海運業、トレーディング業、金融サービス業等を含む)に属する法人が申請可能であり、シンガポール政府が推し進める経済・テクノロジーの発展計画に合致するようなビジネス活動を行っている法人に対して付与されます。インセンティブを付与された法人は、通常5年から10年の間(適用期間の延長もなされうる)、免税や軽減税率の適用という形で恩恵を受けられます。

各税務インセンティブの適用要件は、各シンガポール政府機関に提出される事例毎に事実関係・メリットによって異なります。シンガポール政府機関との交渉によって、特定要件の内容、享受しうるサポートの程度やインセンティブ期間が決定されますが、これらは事例毎に異なります。申請が承認されるか否かは、しばしばインセンティブの適用期間中に、当該申請法人がシンガポール国内においてどの程度支出する計画(例えば固定資産の取得計画)があるのか、シンガポール国内でどの程度雇用を増やすのか(どういった職種の者を雇うのかを含む)、シンガポールでの売上増加がどの程度見込まれるか、当該申請法人が行うビジネス活動がシンガポール経済発展に沿ったものであるか等の質及び量的要因(すなわち、どの程度シンガポール経済に貢献するのか)を加味して判断されます。


任意のインセンティブのうち製造業、トレーディング業及びサービス業で利用されるものは以下となります。

製造業、トレーディング業及びサービス業
インセンティブの種類 要件 内容 承認機関
パイオニア産業・パイオニアサービス企業インセンティブ 対象となるプロジェクトが非常に戦略的なものであり、シンガポールにとって望ましい産業を生み出す結果となるもの (例:産業全般の水準を高めるような新たなテクノロジー・技術・知識等の創造が期待できるもの) 適格所得に対して5年から15年の間、免税 シンガポール経済開発庁(EDB)
開発・拡大インセンティブ(DEI) シンガポールにおいて著しい経済効果をもたらすプロジェクトであること 適格活動に係る所得の増加部分に対して当初10年間、5%から15%までの軽減税率を適用(最長20年までの延長あり) シンガポール経済開発庁(EDB)
地域統括インセンティブ(RHQ) シンガポールにおいて地域統括会社としての機能を有する法人で、シンガポールで一定以上の支出を行う等をコミットする法人であること 適格統括会社活動から得られる所得の増加分に対して3年間、15%の軽減税率が適用(要件を満たす場合、更に2年間の延長も可) シンガポール経済開発庁(EDB)
国際統括インセンティブ(IHQ) 上述のRHQにおける要件を大幅に超えてシンガポールに投資すること等をコミットする地域統括会社であること 適格統括会社活動から得られる所得の増加分に対して5年間、更なる軽減税率(最低0%)が適用 (適用期間の延長もあり) シンガポール経済開発庁(EDB)
グローバル・トレーダー・プログラム(GTP) シンガポールをオフショア拠点として、適格商品・製品に関して国際貿易、発注、流通、輸送を行う法人であって、一定規模の売上や支出等の実績がある法人であること 適格貿易所得に対して、各法人のコミットメントの水準に応じて、5年間、5%あるいは10%の軽減税率が適用(適用期間の延長もあり) シンガポール国際企業庁(IE Singapore)

日本・シンガポール租税条約

租税条約とは、国際的な二重課税の回避、脱税及び租税回避等への対応を主たる内容とする条約であり、国内法よりも優先されます。日本とシンガポールは租税条約を締結しており、現行の租税条約は1996年1月1日より適用されています。同条約は全30条からなっており、その主な内容をいくつかピックアップすると以下となります。


    • 人的役務の提供を主たる内容とする事業所得(第7条、第17条)
      • 日本・シンガポール租税条約第7条によると、「一方の締約国の企業の利得に対しては、その企業が他方の締約国内にある恒久的施設を通じて当該他方の締約国内において事業を行わない限り、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。」とされている。すなわち、日本企業がシンガポール国内において、人的役務提供事業を行う場合、恒久的施設(PE、支店や営業所等)を有していない限り、シンガポールでの租税は免除される。
        いわゆる、「PE無ければ課税無し」という原則ルールが適用される。ただし、演劇、映画、ラジオもしくはテレビの俳優、音楽家その他の芸能人又はスポーツ選手による役務提供については、上記の原則は適用されずに役務提供国にて課税される(第17条)。

    • 配当(第10条)
      • 日本法人からシンガポール法人に配当を支払う場合で、当該配当を受ける者(実質的受益者)が法人であり、①配当がなされる会計期間の期末日以前において6か月以上に渡って、②当該配当支払法人の25%以上の議決権を有する株式を保有している場合:5%の源泉税率が適用される
      • 日本法人からシンガポール法人に配当を支払う場合で、上記のケースに該当しない場合:15%の源泉税率が適用される
      • シンガポール法人から日本法人に支払う場合:源泉税率は0%

    • 利子(第11条)
      • 一方の締結国内で生じる利子で、他方の締結国の政府(具体的には、日本国政府、日本の地方公共団体、日本銀行、国際協力銀行、シンガポール国政府、シンガポール通貨金融庁等)に対して支払われる場合:源泉税率は0%
      • 上記以外の利子:10%の源泉税率が適用される

  • 使用料(第12条)
    • 文学上、美術上若しくは学術上の著作物(ソフトウェアや映画フィルム等を含む)の著作権、特許権、商標権、意匠等の使用もしくは使用の権利の対価(その権利の譲渡の対価を含む):源泉税率は10%
    • 産業上、商業上もしくは学術上の設備の使用若しくは使用の権利の対価:源泉税率は10%
    • 産業上、商業上もしくは学術上の経験に関する情報の対価として受領するすべての種類の支払金及び船舶又は航空機の裸用船契約に基づいて受領する料金:源泉税率は10%

なお、シンガポールの税制上、シンガポール法人が居住法人とされる場合のみ、当該法人は租税条約上の恩恵を享受できます。この点、シンガポール税制では経営および管理がシンガポール国内で行われている場合(具体的には、シンガポール国内で取締役会が開催されている場合)において居住法人として取り扱われるため、外国会社のシンガポール支店は通常、非居住者法人として取り扱われ、租税条約上の恩恵を享受できない点には留意が必要です。

漫画_世界で闘う準備はあるか
岸 賢一郎 氏
岸 賢一郎 氏
BDO Tax Advisory Pte. Ltd. 
税務マネージャー兼ジャパン・デスク担当 慶應義塾大学商学部卒、日本国公認会計士
2001年10月より監査法人トーマツ(現、有限責任監査法人トーマツ)の東京事務所にて約6年間国内監査業務に従事。 その後、BDO税理士法人(日本)にて約4年半、国内及び国際税務サービスを提供。 2012年5月以降、BDOシンガポールにて税務マネージャーとして日系・非日系の法人向け・個人向けの税務サービスを提供するとともに、ジャパン・デスク担当としてシンガポール進出を目指す日系企業等に対する会社設立、法定監査、税務申告、会計サービス等に関するコーディネーション業務を提供中。 https://www.bdo.com.sg/en-gb/home