かつてMicroCADAM(2DCAD)のカスタムエンジニアをしていた30年ほど前の話、とある個別受注生産企業の設計室に入ると、まず目につくのが整然と並ぶドラフターとブラウン管に映る2DCAD。耳に響くのは、ペンプロッタの動作音や、図面を広げた大きなテーブルを囲み、闊達に意見を交わす各部門の識者たちの声。アナログながらフロントローディングの実践、技術継承や新技術の創造を支えてきた所謂”ワイガヤ“、モノづくり大国と言われた頃の風物詩でした。
今、先進的な個別受注生産企業は、かつての“強さ”を取り戻そうと、図面を3Dモデルに、大きなテーブルをPLM(Product Lifecycle Management)基盤に、物理コミュニケーションを仮想コミュニケーションに置き換え、古き良き“ワイガヤ”をデジタルスレッドによる“デジタルワイガヤ”へ進化させる試みを始めています。今回コラムでは、私が提案に係わったお客様の事例から、取り組みのポイントを掻い摘んでご紹介してみたいと思います。
“デジタルワイガヤ”を実施するに至った先進企業にも、プロジェクト開始前は、「図面と部品表での業務運用はダメなんですか?」と、変革に否定的な発言をする方が少なからずいらっしゃいました。ここで、何が問題となるのかを示す具体例を3つご紹介します。
“デジタルワイガヤ”の実践と、それに先立つ組織改革の必要性に続き、本節ではデジタルスレッドの核となるBOMについて、その役割と機能を改めて解説します。
BOMは、デジタルスレッドの構成要素の一つであり、全データの中心でもあり、デジタルスレッド本体でもある、特別な役割を持つデータモデルです。PLM基盤もBOMによって、データの一元化、バージョン保証、アクセス制限を実現しています。また、複数のエンタープライズシステムの相互連携も、BOMを介したSOA(Service Oriented Architecture)インターフェースが実現しています。ここで、BOMの役割と機能を3つに整理しておきます。
さて、少し視点を変えてみましょう。
BOMと言えば・・・の頻出テーマ、『役割別BOM』と『統合BOM』について少し触れておきたいと思います。2000年ころを皮切りに、どちらが良いのかベンダー間で激しい論争がありました。現在は、良いとこどり『ハイブリッドBOM』が正解と言う所に落ち着いていると思います。
B-EN-Gが提供するmcframe PLMは、図にあるように『ハイブリッドBOM』運用を実現するPLM基盤として2015年に誕生しました。
デジタルスレッドによるデータ高度利用がデータドリブン経営の実現に欠かせません。モノづくりに関わる全ての情報をBOMに関連づけて蓄積すれば、部門横断の知識・知恵が全社に共有されて、これまでにない気づきや洞察を得ることが現実的に、身近になってきます。いわゆるデジタライゼーション、DX(デジタルトランスフォーメーション)の実現に繋がっていくわけです。未来を見据えたDX戦略の土台、デジタルスレッドの主役として“BOM”が大きな役割を果たすことになります。
次回はE-BOMとM-BOMの違いについて説明したいと思います。