当社のmcframe MOTION VR-learning(以下、VR-learning)を用いた業務課題の解決方法をご紹介する本コラム。今回のテーマは、現場での発生頻度の少ないトラブル対応に向けた訓練やシミュレーションです。
交通インフラやエネルギー系インフラは、極めて複雑なシステムで成り立っています。何らかのトラブルが発生して事業が停止してしまえば多くの人に影響が及ぶため、同業界では設備や機器に信頼性を求める傾向にあります。もちろん石油や金属、化学といったプラントなども、設備や機器の状態に作業者の安全や製品の品質が大きく左右されるため、やはり信頼性は重要です。
これらの業界で用いられる複雑かつ巨大なシステムが安定して稼働し続けられるのは、日々の点検整備を行う現場作業者たちや、より故障しにくい製品の開発に取り組んできた設備・機器・部品メーカー、ルールの整備などを通じて安定稼働を図る組織が、長年にわたり努力を積み重ねてきたためです。
ところが近年、こういった業界における深刻なトラブルへの対応力の低下が、一部で聞かれるようになってきました。実際、障害が発生した際に作業者が復旧作業をスムーズに行えなかったために、障害が大規模化してしまう例も見受けられます。
設備や機器の信頼性が高まった結果としてトラブル対応を実際に体験する機会が減っていること、かつて深刻なトラブルへの対応を行った経験のあるベテラン作業者が次々に引退していることなどから、現場ではトラブル対応の総合的な能力が低下しているのではないか、との指摘もあります。
発生頻度の少ないトラブルへの対応能力の低下は、設備や機器の故障時にのみ影響するわけではありません。頻発する自然災害への対応においても後れを取る可能性があるため、憂慮すべき状況と言えます。ベテラン作業員の引退は避けて通れないため、若手に訓練を施すことで対応力向上を図る必要があります。
ただ前述のように、トラブルの発生そのものが減っている上に、実地で指導できるベテラン作業員が少なくなってきているため、これまでのように実際のトラブル対応を通じての指導はますます困難になっていくでしょう。
VR教材による指導は、トラブル対応の課題に対しても効果を発揮すると期待されています。もちろん、発生頻度の少ないトラブルへの対応能力を向上するためには、実際の設備や機器を使ったデモンストレーションが必要です。障害をシミュレーションできるよう、詳細な3Dモデルで再現するという方法も考えられますが、教材の制作だけでも多額の費用と長い期間が必要になるため、多くの企業では現実的とは言えません。
これに対しVR-learningでは、現場に設置されている本物の設備や機器を撮影した360度映像を基に、自社内で容易に教材を制作できます。たとえば選択式の設問を設けて回答に時間制限を設定し、「対処が遅れたために障害が拡大した」といった状況を再現したり、トラブル対応の際に設備機器のどこに注目し作業すべきかを360度映像の中で明示したりすることも可能です。
実写の360度映像では、発煙や発火などといったトラブル状況そのものを撮影・再現することは困難かもしれませんが、コンテンツ内の表示方法を工夫すれば、視聴者にトラブル対応のポイントを伝えられるようになります。教材制作において重視すべきは状況の完全再現ではなく、むしろトラブル対応のポイントや手順を覚えさせることです。
またVR-learningは、制作した教材を容易に修正できます。トラブル対応の経験者にもコンテンツを視聴してもらい、経験者が保有しているノウハウを教材に盛り込んで内容をアップデートしていくことも可能です。自社OBや、業界内の他社の経験者などの協力が得られれば、より多彩な体験談を基にコンテンツを作っていくことができ、個々人の体験を組織あるいは業界全体が受け継ぐことも可能です。
また、VR-learningはトラブル対応手順の見直しにも役立ちます。
障害対応では原因や状況などのケースによって、求められる操作手順が異なります。多くの会社が、それらの手順を網羅した紙の対応手順書を用意していることでしょう。しかし、イレギュラーなトラブルへの対応経験が、必ずしも紙の対応手順書に追記されているとは限りません。そもそも、規定された手順を再検討する機会は少ないでしょう。
VR-learningなら、稀にしか発生しない、あるいは想定が難しいシナリオも含め、さまざまなトラブル発生のシチュエーションを設定でき、さらにそれらのコンテンツを繰り返し視聴できます。制作したコンテンツの利用をきっかけに、見直される機会が乏しいトラブル対応マニュアルを見直す機会が生まれる可能性があるというのも、VRを活用するメリットといえます。