

20年を支えた基幹システムから、次の20年へ
標準導入を軸に、譲れないこだわりは「適材適所の思想」で支える
導入製品
旭化成グループの一角を担い、家電・OA機器の樹脂成形品、電子部材、そして国土交通省の基準を満たした字光式ナンバープレートまで、多彩な製品を世に送り出してきた旭化成テクノプラス株式会社。2002年から事業を支えてきた基幹システムは、メーカーのサポート終了を機に刷新の時を迎えた。同社が選んだ指針は「標準導入」。mcframe 7のパッケージ機能を最大限活かしつつ、譲れないこだわりは「適材適所の思想」で支える ― 2023年11月の構想開始から2025年8月の本稼働までの歩みを追う。
旭化成テクノプラスは、大きく三つの柱から成り立っている企業だ。本プロジェクト責任者の瀧波 敬明 氏は同社について、旭化成本体の加工技術を基盤として、三事業それぞれに特有の技術的強みを持つ会社であると語る。
1つ目が家電・OA機器のハウジングと、自動車部品の成形・組立を手がける射出樹脂製品事業。2つ目がコネクターや半導体などの電子部品を、メーカーから基板組立工場へ運ぶための樹脂製パッケージを、自社工場を持たないファブレス体制で製造している電子部材事業。3つ目がオートモーティブ事業で、夜間に文字が浮かび上がる「字光式ナンバープレート」の照明器具と、樹脂製ナンバー本体の成形・組立を担っている。特に字光式ナンバープレートは国土交通省の基準を満たしており、付加価値の高い事業を展開している。
2002年の稼働以来、同社の業務を支え続けてきた旧基幹システム。OSのバージョンアップのたびに互換対応を重ねてきたが、メーカー側から保守終了が宣言されたことで、根本的な刷新が不可避となった。さらに、20年にわたり独自システムを開発・運用してきたキーパーソンの退職を控えており、システム管理の属人化解消も大きな経営課題となっていた。
プロジェクトマネージャーの岩崎 弘明 氏は、これからの20年に耐えうる仕組みには閉じた環境で完結するシステムではなく、外部との接点を標準で備えるシステムが必要だと考えたという。
経営の見える化にも課題があった。原価リーダーの上村 一彦 氏は、以前の基幹システムはマスタに登録した標準値を元に計算をする仕組みであったと振り返る。樹脂成形品とナンバープレートを同じ埼玉工場で生産しているにもかかわらず、事業間の費用の割り振りは感覚的に掴むしかなく、実際の数字で裏付けるのは難しい状況だったという。
属人化の解消のため、同社が刷新の出発点に据えたのは標準導入の方針であった。仮に新しい仕組みでも同じようにカスタマイズを重ねれば、システムの仕様そのものが属人化し、いずれ同じ壁にぶつかってしまう。そのため、コア機能には手を加えずに譲れない強みだけを実装して、誰もが維持していける仕組みを築く。その線引きが、プロジェクトの背骨となった。システムの刷新にあたり、同社は複数の生産管理パッケージを比較検討のうえ、mcframe 7を選定した。決め手となったのは、製造業の業務特性に即した標準機能の充実度と、外部の仕組みと柔軟に連携できる拡張性である。岩崎氏は、選定の背景について、「mcframe本体には手を加えず、譲れないこだわりは外部ツールとして開発し、柔軟に連携させられる点を評価しました」と振り返る。
導入パートナーとして選定されたのは、株式会社東京システム技研(TSL)である。決め手となったのは、旭化成テクノプラスの業態への深い理解と、190社以上のプロジェクトで培った経験値、そして標準導入の方針と軌を一にする独自の方法論であった。岩崎氏は、パートナー選定時の手応えをこう振り返る。「B-EN-Gが業態をよくヒアリングした上でTSLを紹介してくれたこと、そしてTSLが提案段階から業務の細部まで丁寧に聞き取ってくれたことが、頼れるパートナーだという確信につながりました」
そして、その方法論を支えるのが、TSLが190社以上のプロジェクトで培ったナレッジを基に確立した独自の導入手法「MPDOM」である。TSL営業担当の佐藤 尚志 氏は、「MPDOM」とはプロトタイプ作成と標準機能の活用を重視することで開発コストを抑える導入手法であると語る。同手法は、旭化成テクノプラスが掲げた「標準導入」の方針と重なり合うものだった。要件定義フェーズでは、顧客任せにせずTSL側が積極的にドキュメントや基準を定型化して支援する緻密な姿勢が、プロジェクト推進の土台となっていった。
標準導入を貫くといっても、同社の事業特性に深く根差した業務までパッケージに寄せることは現実的ではない。譲れないこだわりは適材適所でmcframeとつなぐ ― この切り分けが、プロジェクトの骨格となった。
その代表例が、字光式ナンバープレートの管理である。一般的な製造業向けシステムでは、品目ごとにBOM(部品構成表)を登録し、構成マスタを参照しながら所要量を計算する。ところが、ナンバープレートには、この常識を成り立たせない極めて特殊な事情があった。
車両1台分(前後2枚)でしか同じ構成が現れず、案件ごとに数字・文字・地名・分類記号の組み合わせが変わる。注文を受けるたびに新しいBOMを作り、登録していけば、マスタは爆発的に膨れ上がってしまう。一方で、文字や数字の使い回しを構成マスタに任せようとすれば、組み合わせの数だけそれぞれのパーツに対応する部品コードが必要になり、これも現実的ではない。
今回のプロジェクトで採用したのは、品目をプレートごとに分けず、標準機能を活用して、個別の識別キーで管理する方式である。汎用マスタには文字・数字・記号のパーツ単位を持たせておき、受発注データから個々の文字列を読み込んで、BOMのメモ欄に文字情報を持たせる。そこから逆算して投入品を計算し、実績・出来高に繋げる ― 品目分けに頼らず、案件ごとの識別キーで識別する設計だ。
mcframeへの移行にあたっては、この発想をそのまま標準導入の枠組みのなかに組み込む方針が採られた。mcframeのコア機能(BOM・所要量計算・実績管理)には手を加えず、文字列の読み込みとBOM展開を担う部分だけを外部ツールと連携する形で実装。識別キーによる個別識別という設計思想を保ったまま、新基盤のなかで動かしている。これにより、ナンバープレート事業特有の業務はそのまま継続しつつ、mcframe側は標準のまま運用できる構造となった。
同様のアプローチは、他のこだわりポイントにも適用された。自動車部品事業向けの「かんばん方式」による受注取り込み口、納品書の自動FAX送信サービスへの呼び出し連携、EDIの集計軸機能など、いずれもmcframe本体には手を加えず、外部ツールの拡張と連携をすることで実装された。
守るべきこだわりは守る。任せられるところはパッケージに委ねる ― 適材適所の切り分けが、次の世代も見据えた基盤づくりを支えている。
プロジェクトを推進した同社の事務局メンバーは少数精鋭であった。少人数で複雑な基幹システム刷新を完遂するためには、それぞれの得意領域に集中する分業と、現場部門への丁寧な働きかけの両輪が不可欠となる。
プロジェクトの後半、岩崎氏は200を超えるマスタを含むデータ移行に専念し、現場との調整や定例会の進行は瀧波氏が引き受けた。原価・会計連携は、前職での基幹システム刷新を経験している上村氏が一手に担った。それぞれの得意領域に集中する分業が、プロジェクトを支える屋台骨となった。
そしてもう一つの両輪、現場部門への働きかけにおいて中心的な役割を担ったのが、生産リーダーの清水 佑樹 氏である。同社の業務は事業部ごとに分かれており、ともすれば一人だけが業務を理解しているという状況が生まれがちであった。清水氏が大切にしたのは、その状況を意図的に避け、作業を一人に背負わせないことだった。業務が事業部ごとに分かれているからこそ、お互いにフォローし合いながら、全体の理解度を底上げしていく ― それが清水氏の描いていたチームの姿である。
TSLから教育スケジュールが届くと、清水氏はまず現場に出向き、業務を合わせていこうと呼びかけた。1回目に参加できなかった人には2回目、2回目も参加できなければ3回目と、参加機会を必ず用意し、欠席者には事前に録画を共有して内容を把握してもらった。運用テスト前の習熟期には、日付と範囲を明確に区切り、その日までに該当範囲を網羅してほしいと工場メンバーに役割を預けた。最後は駆け足になりながらも、一丸となって稼働日へたどり着いた。
清水氏自身も、現場と一緒に学びを深めていった。「業務を覚えながら、mcframeで業務がどう変わるかをメンバーとのやり取りを通じて掴んでいく ― そうしてメンバー全員で、業務とシステムへの理解度を引き上げていきました」と振り返る。一人で抱え込まず、複数名で水準を上げていく ― 業務とシステムの両面を理解する人材が現場側に育ったことは、稼働後の運用を支える力にもなっている。
プロジェクト全体を伴走したTSLの神坂 智 氏は、当時の同社の取り組みについてこう振り返る。「標準機能で完遂するという強い意思で現場をリードしてもらえたこと、定例会で課題が浮上した際も同社自らが解決策を見出し、主体的に対応されたことが印象的でした。自律的な判断がなければプロジェクトは停滞してしまいますが、その役割を事務局が完全に担ったことが、成功の大きな要因でした」
本稼働を経て、原価計算と在庫管理、そして社内の横のつながりの三つの領域で、目に見える改善が現れ始めている。
原価計算については、旧システムから処理時間が大幅に短縮された。原価リーダーの上村氏は、旧システムでは2〜3時間かかっていた原価計算が今は5分で終わるようになり、その時間を計算結果の検証に充てられるようになったと語る。また、原価計算結果は、実際の工数等の実績をベースにした原価の積み上げと配賦が可能になった。製品別の損益に関しても、以前は外部のデータベース上で集計していたが、mcframeでは標準の画面から確認できるようになっている。
月次の会計連携も大きく前進した。SuperStreamとの間で標準連携機能を活用した連携を構築し、製造経費の取り込みから棚卸資産の連携まで、これまで分断されていたデータが一気通貫で流れるようになっている。
在庫管理についても、これまでシステム上では管理されていなかったロット管理・倉庫管理を、新システム稼働を機に全面的に導入した。ロット管理の導入によって、長期滞留在庫の見え方も変わった。以前は一度入出庫があると連続滞留月数がゼロにリセットされてしまっていたが、ロットNo.での識別に切り替えたことで、滞留状況を正確に可視化できるようになった。経営会議では月次で長期滞留在庫の資料が示されるようになり、現場でも滞留を意識した運用が根付きつつある。
そして、社内のコミュニケーションにも変化が出ている。上村氏は、「以前は各事業が独立して業務を行っていたため、事業を越えた情報共有の機会が限られていましたが、今回のプロジェクトを通じてコミュニケーションが活発になりました」と語る。内部統制の課題について部門横断で検討が必要になった際にも、事業部間でスムーズな連携が可能になったという。
さらに、最大の課題であった属人化の解消も、標準導入とプロジェクトを通じたナレッジ共有により、業務が円滑に回るようになったという形で確かな手応えとなって現れている。
本稼働を終えて、岩崎氏は、次のように語る。
「ここがスタートラインです。これからはシステムを使いこなすフェーズで、業務の見直しもしていかなければなりません。今から始まったばかりという印象です」
今後の展開は、インプットとアウトプットの両面で動きだしている。インプット面では、EDI対応取引先からの受注データの自動取り込みや、マルチデバイスオプションを活用した現場入力の自動化、i-Reporterの作業日報データのmcframeへの取り込みといった、データの収集を自動化する取り組みが構想されている。アウトプット面では、mcframe COCKPITの本格活用によるデータ分析の強化が控える。原価については、実際原価の精度をさらに高めたうえで、標準原価との対比による改善に繋げていく。また、AI活用への期待も高い。瀧波氏は、注文書の文言変更や内部統制チェック、i-Reporter入力品質の判別などへの期待を率直に語っている。
20年を支えた基盤から、次の20年へ。譲れないこだわりは「適材適所の思想」で支え、任せられるところはパッケージに委ねる ― この選択が、旭化成テクノプラスの新しい挑戦を支える礎となっている。本稼働は、まさにそのスタートラインである。
<システム構成図>
執筆 伊藤 舜弥
| 商号 | 旭化成テクノプラス株式会社 |
|---|---|
| 設立 | 1950年 |
| 資本金 | 160百万円 |
| 事業内容 | プラスチック成形品(家電・OA機器のハウジング、自動車部品)、電子部材、字光式ナンバープレートの製造・販売 |
※本事例は2026年5月現在の内容です。
※本事例中に記載の肩書きや数値、固有名詞等は掲載当時のものであり、変更されている可能性があります。
※掲載企業様への直接のご連絡はご容赦ください。
Copyright(C) Business Engineering Corporation. All rights reserved.