キッコーマンでは、持株会社制への移行に伴うグループ各社のシステム統合にビジネスエンジニアリング(B-EN-G)の製造業向けパッケージ「mcframe」を採用した。mcframeの導入過程で、グループ各社の生産・原価管理業務を標準化したことで、しょうゆからバイオ製品まで、多様な生産品目を同じ枠組みで管理することを可能にした。これにより、データの比較可能性が高まり、問題の原因究明や改善活動を容易にしたほか、業務の大幅な効率化を実現している。また、新工場や新会社が増えても、容易にシステム統合が可能な基盤を構築した。
江戸時代初期に創業し、しょうゆのトップブランドとして日本の食文化の発展に貢献するキッコーマン株式会社(以下、キッコーマン)。1917年に株式会社を設立してから100年にわたり、しょうゆ、およびしょうゆ関連調味料を中心に製品のラインアップを広げ、つゆやたれ、和風そうざいの素、デルモンテのトマト製品、マンジョウ本みりん、マンズワイン、豆乳飲料など、食生活を豊かにするさまざまな商品を、国内で展開するほか、海外に7つのしょうゆ工場を持ち、世界100カ国以上でキッコーマンしょうゆを販売している。
キッコーマンでは、2008年4月に2020年に向けた将来ビジョン「グローバルビジョン2020」を策定。キッコーマンしょうゆをグローバル・スタンダードの調味料にする、食を通じた健康的な生活の実現を支援する企業となる、地球社会にとって存在意義のある企業となるという「目指す姿」と、しょうゆ世界戦略、東洋食品卸世界戦略、デルモンテ事業戦略、健康関連事業戦略、豆乳事業戦略という「基本戦略」を定めている。
グローバルビジョン2020実現に向けた取り組みの一環として、キッコーマンは2009年10月に持株会社制に移行した。この目的は、グループ戦略機能の強化、各事業会社の価値創造力強化、グループシナジーの発揮である。そのための取り組みの1つとして、これまで各社で運用していた基幹システムをグループで統合することを決定した。第1弾として、生産管理システムおよび原価管理システムの再構築プロジェクトがスタートした。
キッコーマンは言わずと知れた調味料メーカーとして常に高い市場シェアを維持し続けてきたが、そうした環境に慢心せず、新事業の立ち上げやM&Aを早い時期から手がけてきた。だが、その反面、グループ各社でシステムのサイロ化という課題が生じていた。当時、キッコーマングループのシェアードサービス会社であるキッコーマンビジネスサービス株式会社情報システム部長を務め、現在はキッコーマングループの中核企業の一社である日本デルモンテ株式会社で常務執行役員を務める三津兼一郎氏は、かつてを次のように振り返る。「グループ各社では、しょうゆをはじめ、調味料、飲料など、多種多様な商品を製造していますが、各社それぞれが異なる生産・原価管理システムで管理していたので、生産管理にしても原価管理にしても同一の尺度で比較することが困難でした。そこで、持株会社制への移行のタイミングにあわせ、グループ全体のシステムを統合したいと考えました」と話す。
また、情報システム部の竹沢克昌氏は、「キッコーマン本社の基幹システムは、20年以上前にオフコンで構築され、運用してきました。そのためにメンテナンスが非常に困難であり、再構築が必要でした。また、グループ各社でも、それぞれが生産管理システム原価管理システムを導入していたために運用・管理が煩雑で、メンテナンスコストも馬鹿にならない状況でした」と話している。
キッコーマンは、2009年3月より、生産管理システムおよび原価管理システムの再構築プロジェクトに着手した。まずは、グループ全体として業務の標準化をどのように進めていくか検討を開始。約1年をかけて、各社の業務構造を見える化し、汎用化、簡素化の観点で標準化、新しいシステムのあり方を決定した。三津氏は、「じっくりと時間をかけて業務標準化プロセスに取り組んだことが、後のプロジェクト成功の大きなポイントになりました」と話す。
こうして標準化した業務プロセスに基づき、RFP(提案依頼書)を作成し、生産管理システムおよび原価管理システムの選定作業にとりかかった。システムの選定について三津氏は、「14社に提案書を依頼しましたが、実のところ、B-EN-Gは最後に依頼した会社でした。B-EN-Gに依頼したのは、それまでの提案では大手外資ERPをベースとした提案が多く、国産の専業メーカーの話も聞いてみた方がよいのではないかと思ったことがきっかけでした」と当時を振り返る。
検討の結果、最終的に3社の提案が選定の候補として残った。そこで、現場の担当者に実際の画面や機能をレビューしてもらった結果、「mcframeがもっとも使いやすい」という声を受けて、mcframeの採用を決定した。また、食品業界に導入された実績が数多くあることもmcframeを採用した理由の1つであったという。最後まで候補に残った大手外資ERPではなく、mcframeを採用した理由を三津氏は次のように語る。
「今回は、生産管理システムと原価管理システムだけをベスト・オブ・ブリードで導入したかったのですが、検討したもう1社のERPは統合パッケージであり、会計システムだけを導入した実績は多いものの、生産管理・原価管理システムだけを導入した実績が少なかったことが懸念材料でした。また、その外資ERPは、導入するとシステムが必要以上に大きくなる傾向があることから、生産管理および原価管理に特化したmcframeの採用を決めました」
また、B-EN-Gのサポートを高く評価したことも、mcframe採用の決め手だった。キッコーマン経営企画室の服部憲晃氏は、「当時、私は生産管理部に所属しユーザーを代表する立場で導入に関わっていました。システム導入では、困ったときにどれだけユーザー目線で相談に乗ってもらえるかが重要ですが、外資ERPを提案した他の会社の話は、スマートすぎて一緒に仕事をするパートナーとして少し相性が合わないと感じました。一方、B-EN-Gの担当者は、同じ目線で話をしてもらえている安心感が強くありました」と話している。
mcframeの導入は、3期に分けて実施された。まずは、2010年4月より第1期として、キッコーマン食品をはじめとする5社12工場に導入。次に2011年4月より第2期として、ヒゲタ醤油、キッコーマンソイフーズなどの3社5工場に導入。最後に、2012年4月より第3期として、日本デルモンテ、宝醤油、マンズワインなど、3社6工場に導入した。mcframeの導入について竹沢氏は次のように語る。
「今回、mcframeの導入にあたり、グループ各社の現場担当者の声を直接聞きながら要件定義を行い導入したことで、スムーズな導入が実現できました。いわば、生産部門主導の導入で、これが導入成功のポイントでした。一般的には、システム部門が主導でシステムを導入することが多いのですが、それではうまくいかなかったでしょう」
キッコーマンでは、導入プロセスの第1期にて、業務プロセスがもっとも複雑なしょうゆの製造業務における要件定義を、時間をかけて実施した。これによって第2期、第3期での各社の要件への対応は若干の変更だけで済んだという。竹沢氏は、「今後、新しい工場ができたり、M&Aで新しい会社が増えたりといった変化が生じても、容易にシステムを統合できます。また、グループ全体として、システムのメンテナンスコスト削減が実現できています」と話す。
キッコーマンではmcframe導入により数々の成果が得られている。まず生産管理における効果について、服部氏は「以前は、実績を日々手書きのメモやExcelに残しておき月次バッチでまとめて処理していました。mcframeでは、日々入力するので現場の作業は増えましたが、結果が良かった場合、悪かった場合の原因究明が直ちにできるので、数値の精度は大幅に向上しています。これにより、改善活動がやりやすくなり、スピードが大幅に向上しました」と説明する。
また、グループで共通の仕組みを導入しているので、同じ管理用語や尺度でグループ全体の改善活動に取り組めるようになったのも大きな効果だ。業務改善という同じ目標に向かい、お互い刺激し合い、切磋琢磨できるようになった。予算に関してもシステムで作成・管理しているが、単純に次年度の予算の管理だけでなく、設備投資のような長期におよぶ計画を管理できるようにした。三津氏は、「設備投資は投資案件の中でも金額が大きいので、グループ経営上重要なリスク管理対象です。その設備投資計画を一元管理できるようにしたので、メリットがありました」と話す。
さらに、原価管理における効果を服部氏は次のように話す。「mcframeの導入により、グループ全体の原価管理の標準化が実現できました。これにより、原価上で問題が発生した場合でも原因追求しやすくなったばかりか、グループ会社間をまたぎ製造する製品の原価も、簡単に一気通貫で見えるようになりました。また、mcframeの特徴として配賦の仕組みが柔軟に組める点があげられますが、これは我々にとって大きなメリットでした」と話す。
原価計算では、配賦ロジックをかなり細かく設定して、どのように原価が積み上がっていくかを作り込んでいる。これにより、原価自体の正確性を担保できるのだ。また、これまで原価計算は、工場に専属の経理担当が必要だったが、mcframeを導入したことで、本社に統合して業務が行えるようになった。服部氏は、「現在は、グループ全体の原価計算を本社で一元管理しています。これは副次的な効果でした」と話す。
そのほか、mcframeの導入によって生産管理システムと購買システムが連携されたことで、購買業務が大幅に効率化されている。竹沢氏は、「以前は、生産管理と購買のシステムが連携されていなかったので、生産計画のデータを紙ベースでもらい、購買システムに再入力しなければなりませんでした。また、購買データが一元化できたことで、購買実績の把握も容易になり、グループ全体の購買戦略の立案に大いに役立っています」と話している。
今後の取り組みについて服部氏は、「現状では、mcframeのデータを、まだまだ活用しきれていないと考えています。この膨大なデータを労力をかけず、いかにわかりやすく直感的に現場の担当者に見せることができるか?そのための方策として、ビジネス・インテリジェンス(BI)ツールの導入を進めています。また、今回導入したシステムも既に6年が経過し、いずれシステム更新が必要ですが、新しいテクノロジーを取り入れたシステムに、より効果的に移行できるスキームを、B-EN-Gには示してほしいと思っています」と話す。
またキッコーマンでは、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)や人工知能(AI)などを生産管理に組み込むことも視野に入れながら、さらなる変革を目指しているという。
「テクノロジーが進化していく中で、新しい入力デバイスへの対応、制御系や会計システムと生産管理との連携なども大きなポイントです。さらに、B-EN-Gの得意なアジア地域だけでなく、欧米も含めた当社のグローバル展開に対しても、B-EN-Gの支援体制に期待しています」と三津氏は話している。
キッコーマン食品をはじめ、キッコーマン飲料、キッコーマンバイオケミファ、日本デルモンテ、マンズワインなどの国内グループ会社と、米国、欧州、アジア地域に展開する海外グループ企業を擁するグローバル企業。しょうゆに代表される調味料や食品、飲料、酒類などの食料品製造販売事業やバイオ事業、健康事業を通じて「食と健康」に関わる商品やサービスを国内外に提供している。
商号 | キッコーマン株式会社 |
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設立 | 1917年12月7日 |
資本金 | 115億9,900万円(2017年3月31日現在) |
従業員数 | 6,771名(連結)(2017年3月31日現在) |
事業内容 | 調味料、食品、飲料などの製造・販売 |
※本事例は2017年5月現在の内容です。
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