樹脂(プラスチック)原料の着色および加工を主事業とする山陽化工株式会社(以下、山陽化工)は、ビジネスエンジニアリング(B-EN-G)のmcframe CSをベースとする生産管理システムを22年間にわたり継続利用してきたが、ITインフラの老朽化を機に最新バージョンのmcframe 7への移行を決断した。mcframe 7への移行にあたり、既存の業務ルールやシステム要件をそのまま踏襲するのではなく、長年培ってきた自社の強みとなる部分は大事にしつつも、業務ルールの陳腐化や個別最適化が進んだ部分は徹底的に見直し、さらに最新パッケージの機能をフル活用するFit to Standardの方針を採用。その方針のもと一致団結して粘り強く業務改革を推し進めることで、業務の標準化・効率化やデータ活用、原価計算の精緻化など、アドオンを抑えつつも多大な効果を上げている。ITインフラにおいては、オンプレミスからAWSへのクラウドシフトやPostgreSQLの採用により、システム運用の負荷とコストの低減も図っている。
山陽化工は主に大手の化学メーカーより委託を受け、樹脂(プラスチック)原料の着色および加工を行っているコンパウンダーだ。
60年以上にわたり培ってきた「高充填」「多点フィードシステム」「ペレタイジング技術」といったノウハウとともに、光学用や医療用、フィルム、シートなどの低異物が求められる高品質製品の生産環境を実現する「クリーンルーム」を武器として備え、近年の高い技術要求に応えるカスタマイズド・コンパウンティグ・パートナーとして業界で高い評価を獲得している。
山陽化工 事業統括部 副部長兼生産本部長 伊藤英政氏は、「例えば近年では、EV(電気自動車)の部材として使われる特殊な樹脂やサステナブル社会に向けて注目されている環境材料についても携わってきました」と、同社の高度な技術力の一端を示す。
実際、化学メーカーの量産化ニーズに対応できる技術力を持つとともに、大企業が扱わない小口の要望に応えられる対応力を備えたメーカーは、国内では山陽化工を含めて数社に絞られている。確かな技術と柔軟性で合成樹脂業界の発展に大きく貢献してきた企業だ。
山陽化工の生産活動をこれまで支えてきたのがB-EN-Gのmcframe CSである。2001年に生産管理システムとして導入して以来、mcframeの特長でもある永続保守サポートを受けながら、22年間にわたり運用を続けてきた。
もっとも、このような長期に及ぶ運用のなか、いくつか問題を抱えるようにもなっていた。まず顕在化したのはITインフラの老朽化だ。永続保守により最新のOSやデータベースに追従してきたが、22年間の長期運用のなかでそれも限界に達していた。
そして潜在的ではあるが最大の問題として、業務ルールの複雑化・個別最適化、それに対応してきたシステムの複雑化・肥大化による保守性の限界だ。
山陽化工 関東工場 システム部マネージャーの松岡保信氏は、「注文書や請求書、運送等の伝票をはじめ、ラベルや包装材への直接印字の対応、在庫証明書や集計表のほか、使い始めた頃のmcframe CSには原価計算機能がなかったため独自開発した原価計算プログラム、その他管理帳票や便利機能など、ユーザー部門や得意先からの要望、法令対応のたびに社内で追加開発しており、そのプログラム本数は70本以上に達していました」と語る。また、そうした開発や運用保守は実質松岡氏ひとりで担っており、そのことにも危機感を抱いていたと言う。
前述のような課題を抱えていた山陽化工は、2022年3月にmcframe 7への移行を決定した。
同社 執行役員 管理本部 本部長の塚本善規氏は、「現状でもユーザー部門からの評価が高く、ある程度満足していましたが、自社の業務を見つめ直し、B-EN-Gが多くの製造業のユーザー企業と向き合うなかでmcframe 7に実装してきた標準機能や業務ノウハウ、最新技術を取り入れることで、業務の到達点のレベルを上げたいと考えました」と語る。
そしてこの考えを実現するため、mcframe 7への移行プロジェクトを進めるにあたり基本方針として掲げたのが「Fit to Standard」の徹底であった。すなわち現状の業務を踏襲してシステムを作り込むのでなく、mcframeが持つ標準業務プロセスに合わせて自社の業務プロセスを見つめ直すことで、業務の標準化・効率化・シンプル化・全体最適化とシステムのスリム化を目指す方針である。
事業統括部副部長(営業統括) (兼)海外支援室 室長の田呂丸氏は、「製造指示関連のロジックや製造指示書については、当社の生産スタイルの特徴や強み、こだわりがあること、変えるべきでないことはわかっていたので、この部分については当初からアドオンを見込んでいました。しかし、それ以外の部分についてはFit to Standardを徹底する方針としました」と語る。
自社の強みや特徴を押さえ、変えるべきでない範囲を明確にすることで、逆にそれ以外の範囲についてはFit to Standardの方針のもと、現状の業務を見つめ直し、業務改革を断行する覚悟であることを示したのである。
方針を明確化し、粘り強く推し進めたことで、結果としてFit to Standardのアプローチは、移行プロジェクトに対してまさに計画どおりの成功をもたらした。
同社 社長室 リーダーの中俣 武士氏は、「スケジュールどおりmcframe 7の運用を2023年5月より開始することができました。加えて、予算についても当初から予定した範囲内にしっかり収めることができました」と語る。
もっとも、Fit to Standardの方針のもと、業務改革を進めていくことが簡単ではなかったのも事実だ。20年以上に渡りユーザーニーズをもとに作り込んできただけに、「今と同じでよい」「なぜ変える必要があるのか」といった反応を示す方が自然ともいえる。山陽化工では、この課題をどうやって乗り越えていったのだろうか。
「従来は使い勝手は良いもののアドオンを多くしていました。新システムではFit to Standardを目指しましたが、それには社内の意識を変える必要がありました。プロジェクトメンバーが社内の浸透に粘り強く尽力し、それに皆がついてきてくれたことが大きいです」と田呂丸氏は語る。
プロジェクトメンバーの一人である関東工場 業務課 アシスタントマネージャーの山西学優氏は、「当初、Fit to Standardという言葉は知りませんでしたが、業務の標準化やシンプル化の必要性を強く感じていたので、方針についてはしっくりきました。そのため、Fit to Standardの軸がブレないよう、方針がブレないよう、社内でこまめに説明する機会を設けました。全体への説明だけでなく、個別面談もして理解してもらえるように努めました。お互い真剣なので、正直なところ理解してもらうのはとても大変でしたが、複雑化している業務を棚卸してシンプルにしたかった。それができるのはシステム刷新時だけなので、それを原動力にしていました」と語る。
現行踏襲の要求に対して、具体的にはどのように対処したのだろうか。山西氏は続けて語る。「長く業務をしていると個別最適化やルーティン化が進み、もともと何のためにそれをしているのか、なぜそのやり方をしているのかといったことがよくわからなくなってきます。そのため、原点に立ち返り、その業務の目的は何で、何のためにそれをしているのか。そのやり方は最善なのか、本当は不要ではないのか。パッケージの持つ標準業務プロセスに合わせることでパターンを集約できないかといったことを粘り強く詰めていきました」と語る。
続けて、松岡氏は、「業務を整理していくにあたり、幹の業務か枝葉の業務かを見極めていくことも大事です。既存と最新のmcframeを見たときに、機能の充実度合いに違いはあるものの、その根底に流れ、継承されている業務の思想が見えてきます。パッケージが持つ業務思想を深く理解することで、幹となる業務の流れと枝葉の業務を識別することができ、Fit to Standardを進めやすくなります。加えて最新バージョンではドキュメントが充実していたので、標準機能を理解するのに役立ちました」と語る。
また、Fit to Standardを進めるにあたり、他社の取り組みが参考になる部分も大きかったようだ。「システム導入の最中、多忙なためオンラインでの参加になりましたが、mcframeのユーザー会に参加していました。他社もいきなり大きな成果を得ようとするのではなく、ひとつひとつ地道に小さな成功を積み重ねることで大きな成功につなげていることを知り、粘り強く進めていく覚悟が決まり、励まされました」と社長室 リーダーの中俣氏は語る。
mcframe 7によって刷新されたシステムは、標準機能をフル活用することですでに多くの効果をもたらしている。
①リアルタイムに将来の在庫推移を把握
「従来はMRP実行後のスナップショットでしか将来の在庫推移を把握できなかったため、システムのデータをもとに人手で計算する必要がありました。mcframe 7ではオーダーや実績が在庫推移に即時反映されるので、手間なくリアルタイムに将来の在庫推移を確認でき、迅速に意識決定できるようになりました」(松岡氏)
②受注画面から受注に紐づく進捗状況をリアルタイムにトレース
「受注画面からの画面遷移で生産や出荷、売上等の進捗状況をリアルタイムかつ容易にトレースできることも効果が大きい」(松岡氏)。納期変更依頼などの対応可否を判断するうえで役に立っているようだ。
③進化したUIにより、システム入力負荷やチェック作業が大幅に軽減
また、UIの進化はシステム入力負荷やチェック作業の大幅な軽減にも寄与しているようだ。「画面でEXCELからデータを取り込めるので、マスタ登録をはじめとした入力業務がかなり短縮されました。入力補助機能のほか、入力時のエラーもわかりやすく表示されるようになったので、入力ミスの軽減にもつながっています。またデータ更新履歴を確認できるので、データがおかしいときの原因探索もしやすいです。結果として入力やチェック作業の負荷は1/3程度になっていると思います」(山西氏)
④ダッシュボードで素早く異常を検知
mcframe 7では蓄積した情報を可視化するダッシュボード機能も標準装備している。この機能を活用することで、業務・システムの状況や異常の有無を素早く視覚的に把握することに役立てているようだ。「日々の生産量の積み重ねグラフを見て、生産はいつも通りか、異常はないかを確認したり、ワーニングの発生状況を表示して、マスタ不備による問題は起きていないかなどを素早く検知することができます。また、手作業で作成していた月報や集計表もアウトラインをダッシュボードに表示し、詳細を知りたければワンクリックでレポートを起動することもできます」(中俣氏)
⑤原価計算の精緻化
2001年の導入時には備わっていなかった原価管理機能もmcframe 7では標準実装されており、原価計算の精緻化にも寄与しているようだ。「今までは自作で原価計算処理やレポートを作成していましたが、非常に難易度が高かったため、精度には限界もありました。mcframe 7では原料から中間品、製品までの実績ベースでのころがし計算や緻密な配賦機能が標準で備わっているため、精度よく製品・オーダー別の実際原価や損益を把握できるようになりました」(松岡氏)
さらに今回のmcframe 7への移行に伴いITインフラも刷新、システム運用コストの低減などの効果をもたらしている。「従来はオンプレミスでサーバーを自社で運用していましたが、今回の導入を機にAWSに移行しました。バックアップなどのサーバー運用から解放され、システム管理者としてはとても楽になりました。その時間をシステム活用や最新技術の習得などにあてられるようになったことは大きいです。また、データベースもOracleからオープンソースのPostgreSQLに移行することで費用低減を図りました」(松岡氏)
山陽化工の今を伊藤氏は次のように語る。「弊社は委託加工が主事業のため、お客様からさまざまなご要望をいただきます。もちろん極力対応したいのですが、業務バリエーションは増える一方でした。今回、実績あるパッケージをベースにFit to Standardの方針のもとシステム導入を進めた結果、自社の強みが明確化し、業務の標準化や幹・枝葉の理解が進んだことで、システムとしてもカルチャーとしても『ものづくりのスタンダード』を確立することができたと考えています。今後は自社のものづくりのスタンダードをさらに磨きつつ、お客様にご提案するアプローチをとることで、今まで以上にQCDのバランスのとれたサービスをご提供していきたいと考えています」
mcframeには現場でのリアルタイムな実績入力を支援するマルチデバイスオプションや現場帳票のデジタル化を進めるmcframe RAKU-PAD、設備稼働管理・保全管理のデジタル化を進めるmcframe SIGNAL CHAINなどの各種オプションが用意されており、これらを活用・連携することで、今回構築した『ものづくりのスタンダード』をさらに磨いていく考えのようだ。今回のmcframe 7への移行を契機に、山陽化工はカスタマイズド・コンパウンティグ・パートナーとしての競争力をさらに強化していく。
商号 | 山陽化工株式会社 |
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創業 | 1959年 |
資本金 | 9000万円 |
従業員数 | 160名 |
事業内容 | 合成樹脂(プラスチック)原料のコンパウンド加工(強化、耐熱性、対候性など付加価値の付与)および着色 |
※本事例及び発言者の部署、肩書は2023年10月取材時点の内容です。
※本事例中に記載の肩書きや数値、固有名詞等は掲載当時のものであり、変更されている可能性があります。
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