「直動システム(LMガイド)」などの機械要素部品を製造するTHKは、早くからグローバル展開を行い、産業機器をはじめとして世界中で使用されている。 2009年4月に経営基盤強化のための「P25プロジェクト」を発足。重点項目として収益力の向上を掲げられ、世界に広がる生産拠点を一元評価するためには共通の原価計算が必要だという考えから、「MCFrame 原価管理」を全世界共通で導入。中国3拠点での導入は、細かな原価算出と分析・シミュレーションによりコストダウンにつながっている。
「直動システム(LMガイド)」などの機械要素部品を製造するTHKは、早くからグローバル展開を行い、産業機器をはじめとして世界中で使用されています。2009年4月に経営基盤強化のための「P25プロジェクト」を発足。重点項目として収益力の向上を掲げられ、この取り組みの成果を明確にするため、生産や販売機能の強化といった改善・改革活動を正しく評価することが必要となりました。そういった中で、世界に広がる生産拠点を一元評価するためには共通の原価計算が必要だという考えから、ビジネスエンジニアリングの原価管理システム「MCFrame 原価管理」を全世界共通で導入した。
まずは国内7拠点に導入。運用開始1年で効果が出始めたことから、同様の製品を製造する中国3拠点にも導入を決定した。「もともと中国では自社の原価管理システムを導入していましたが、個別の原価計算になっており、日本拠点と比べてどちらがコストを安く製造できるのかなどを分析することができませんでした」と、経営戦略室情報システム部システム課の田岡弘征氏は話す。
ベースは日本拠点で展開したものですが、中国独自の在庫管理(保税、課税を分けるなど)を加味したり、3拠点で異なった原価管理を行っていた部分の要件定義を統一したりするなどの調整を行なった。期間は2011年3月から2012年4月の1年間。
中国3拠点の中でまず導入を開始したのは、最大規模かつ最も新しいTHK(遼寧)精密工業有限公司だ。2011年3月に導入準備を開始し、2012年4月に運用を開始した。ここではLMガイド、ボールねじをはじめとするハイエンド製品を主に製造している。もともと自社の原価管理システムを使いこなしており、1ロットあたりの原価を計算するなどかなり細かくレベルの高い原価計算も行っていた。そこに「MCFrame 原価管理」を入れたため、別で動いている生産管理システムとのすり合わせや中国独自の在庫の持ち方に関しての対応が必要だった。
「例えば在庫ですが、中国では保税と課税の在庫を分けて管理し、製造する必要があります。日本で展開したシステムとは別に細かいカスタマイズが必要で、日本のシステム担当者にかなり対応してもらいました」と、今野博之総経理は振り返ります。THK(遼寧)精密工業有限公司がパイロット工場となり、ここで培われたノウハウやカスタマイズが他拠点の導入に役立った。
導入の効果として、経営企画部原価管理課の鐘昱課長はこう振り返る。「従来行っていた原価管理システムより、コスト配賦を細かく行えるようになったため、生産工程ごとにどの程度のコストをかけてよいのか、また削減できるのかが見える化されました」。今後の課題としては以下の点が挙げられた。「分析機能をもっと使っていきたいです。指標の見方や、自分たちの工程がどうコストに影響しているかを上長クラスに知ってもらうことも重要です。現場に対しても入力作業の徹底を図っていきます。自分の仕事が他部門や製品コストにどうつながり、影響を持つかを知ることで、仕事がより意味のあるものになります」(孫悦副総経理)、「製品ひとつひとつに対して、どうしてこのコストがかかったのかなど、原価算出結果をより分析していく必要があります。分析結果をより経営改善に活かしていきたいです」(今野総経理)。
上海の西に位置するTHK(無錫)精密工業有限公司は2011年4月にシステム導入のキックオフをし、2012年4月に運用を開始した。生産工程内の原価を細かく見られるシステムに対応するために、機械のグループを再定義したり、工程の見直しを行ったりした。「システム導入をきっかけに生産現場を見直し、バーコードでの作業報告を活用することでムダを削減するよい機会になりました」(松本直之副工場長)。
製造支援部系統課の許峰課長は、導入過程で苦労した部分についてこう振り返る。「システム移行にあたり、それまで導入していた自社の原価管理システムとの差額が発生してしまいました。検証したところ、財務上での仕掛品の費用の計算方法、評価方法が変わったことが原因だとわかりました。仕掛品のコードは数千あり、コストの計算方法や評価方法を3、4日かけてすべて調整していきました」。
導入の効果としてはまず、1晩かかっていた原価計算の時間が1時間と、大幅に短縮された。原価構成の内訳が見やすくなり、どの製品がどれだけのコストを生んでいるのかがわかるようになった。最近では砥石や工具、刃物など消耗品も原価管理に入れて管理するようになり、それらの在庫の合理化も考えている。
「日本工場との一番の違いは、外注を使っていないということです。稼働率が直接原価に反映されるため、稼 働率を上げるとともにコストダウン活動に取り組んでいくことが必要になってきます。現在中国への出荷がほ とんどですが、日本やヨーロッパなどからの受注も増え、全体での受注量がかなり増えてきています。全世界 共通で原価が見えるようになったことで、コストを抑えられている中国工場への発注が増えてきたのかもしれ ません」と松本副工場長は分析する。コストが見える化されたことで、管理者クラスのコスト削減に対する意識 が次第に高まってきている。今後は管理者から現場作業者へとコスト削減意識を浸透させていきたいといっている。
大連THK瓦軸工業有限公司は3拠点の中でもいち早く設立された工場ですが、今回のシステムを導入したのは3番目。2011年12月から導入準備を開始し、2012年4月より運用を開始した。もともと原価管理システムを導入しておらず、膨大な量を手作業で計算をしていた。「プロジェクト開始にあたり、総経理から全社員に向けてなぜ原価計算システムを導入する必要があるのか、という説明があった。『厳密な原価管理をしなければ利益を創出するためのコストダウンはできない』という共通の認識を持って取り組みました」。プロジェクトの旗振り役となった、製造推進部原価管理課の范娜課長はこう振り返る。
システム導入のためには業務の洗い出しが必要ということで、製造・非製造部門問わず各部署からメンバーを集めてプロジェクトチームを結成し作業にあたった。「ソフト導入は初めてだったのでマスターの設定、ルール設定など難しい部分もありました。しかし日本本社のシステム導入担当者が私たちの意見を聞いて他拠点での導入事例から管理方法などの案を多く与えてくれ、自工場のマネジメントに合ったシステムを遠回りせずに導入できました」(范娜課長)。項目も多かったため、段階を分けて徐々にシステムに移行していった。
運用を開始してからも、現場にデータ入力の習慣が浸透せず、作業報告を怠ったり、忘れたりするヒューマンエラーも発生していた。毎回各部署のミス回数を全社に発表するという対策を取ったことで、大幅に削減することに成功した。
部署横断でのプロジェクトだったため、全社一丸となったコストダウンの意識が高まった。自分の仕事がどのようにコストダウンに影響しているのかがわかると、改善活動も活発化する。「管理者としても信憑性の高い原価データを現場に渡せるようになったので、どの部分をどう改善すべきなのか具体的に対策がとれるようになりました。全社で横串を通して原価が見られるのは非常に助かっています」と大野和重総経理は話す。
「システム導入以前はコストダウンと言われても何をしたらよいかわからず、自分には関係ないと思われがちでした。しかしコストが細かく正確に把握できるようになったことで現場のコストダウン意識が高まり、『この改善策を実行するとコストにどんな影響がある?』と積極的に聞きにくるようになりました」(范娜課長)。
今後の課題として、原価計算をより正確にしていくことが最優先事項。原価計算の正確性にかかわる作業などの要素をリストアップし、重要度順に毎月各項目を確認して関連部署の担当者と一緒に現状チェックと改善に取り組んでいる。「一緒に取り組むことで、コストダウン活動への抵抗もなくなりますし、勉強にもなります。原価管理システムの機能を使いこなし、全社でコストダウン活動を推進していきたいです」(范娜課長)。
原価計算はもちろんですが、中国での展開にあたっては不良特性の分析にも大いに役立っている。工程ごとに原価を細かく見ることができるので、どの時点でどのように発生した不良なのかを分析でき、具体的な対策を講じることができる。不良やムダなコストがかかっている原因を現場に伝え、どう改善していくべきなのかを考えさせるという現場力向上のためのツールとしても役立てている。不良が発生した時の手戻りや修正も原価計算に取り入れることで、より厳密な原価を算出することも可能だ。
同社製品は精密な加工が求められ、人が関わる作業も多くある。中国での不良率低減は大きな課題であるといえる。
3拠点に原価管理システムを導入し原価分析を行ってきて、日本と中国との戦略の差も見えてきた。同じ製品でも日本では外注した方がコストを抑えられていたものも、中国では内製化する方が良い、といったことや、手作業を自動化した方が不良を抑えられるという例もある。さまざまな面から分析・シミュレーションが可能なため、次の戦略に活かしていける。
全世界での原価システムの共通言語化を推し進める同社は、中国に引き続き、2013年3月よりアメリカに導入、運用開始した。「製品の性能や質が良いだけで、いつまでも利益を得られるとは限りません。戦略を立て、どの製品をどこで、どう製造すればよいのかをリアルタイムに見極めていくことが必要です」(経営戦略室情報システム部システム課係長の細川智行氏)。
原価計算をしたからといって、直接原価低減につながるわけではなく、分析・シミュレーションを行って戦略を立て、情報をもとに現場と管理者、経営者が一体となってコストダウン活動に取り組んでいくことが必要である。
パートナー紹介
畢恩吉商務信息系統工程(上海)有限公司(B-EN-G上海)
B-EN-G上海は、2010年の法人設立以来、中国の日系製造業様に豊富な導入経験を持つ中日バイリンガルコンサルタントが、生産・販売・原価管理「MCFrame」を導入、保守運用を支援いたしております。
THK様は、生産や販売機能の強化といった改善・改革活動を、全社共通で正しく評価する精緻な原価計算の仕組みが必要となり、「MCFrame 原価管理」の導入を決めました。その背景には配賦ルールを更に実態に即して変更したい。原価をより多角的に分析したい。毎月の原価計算結果をより早く見たいなどの課題をもたれていました。
MCFrameを導入する過程で、MCFrameの画面の使いやすさを現場ユーザ様に評価いただきました。また、配賦機能の柔軟性により原価計算の精度を向上でき、高速な原価計算エンジンと豊富な原価データ集計・分析機能を活用することで効率的な原価管理運用ができるようになりました。特に、多彩な帳票を自由に抽出できることはTHK様が重要視されていた機能の一つであり、MCFrameの簡単なマスタ設定により、個別受払表など複雑な帳票を組み合わせて作成できるようになったことは非常に満足いただいております。
これも導入中、THKグループの関係者のみなさまが積極的にご協力いただいたことで中国3拠点の展開プロジェクトを順調に進めることができた結果だと感謝しております。
これからTHK様がMCFrameを末永くご愛用いただき、更なる成長を遂げられ、中国の製造業様の原価管理の見本となることを確信しております。
LMガイド、ボールスプライン、ボールねじ、電動アクチュエータ等をはじめとする機械要素部品を開発、生産し世界へ供給している。その他、メカトロ関連製品各種、自動車部品、免震システムの開発・製造・販売も行っている。
商号 | THK株式会社 |
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設立 | 1971年4月10日 |
資本金 | 346億円600万円 |
従業員数 | 3,372名 / 連結会社合計 9,177名(2014年3月31日現在) |
中国拠点 | ・THK(遼寧)精密工業有限公司 ・THK(無錫)精密工業有限公司 ・大連THK 瓦軸工業有限公司 |
事業内容 | LMガイド、ボールスプライン、ボールねじ、電動アクチュエータ等をはじめとする機械要素部品を開発、生産し世界へ供給している。その他、メカトロ関連製品各種、自動車部品、免震システムの開発・製造・販売も行っている。 |
※本事例は2014年10月現在の内容です。
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