医療機器業界特有の業務要件に対応しつつ、業務効率化を実現
「原価をモノサシ」にすることで、カイゼン文化を会社の仕組みに
導入製品
株式会社東海メディカルプロダクツ(以下、東海メディカル)は、国内トップシェアのバルーンカテーテルを中心に医療機器の開発・製造・販売を行っており、創業期の実話を基にした映画「ディア・ファミリー」が公開されるなど注目を浴びている。東海メディカルは、医療機器業界特有の品質や納期に対する厳しい要求に応えながら、業務の生産性を高めるために、基幹システムをmcframe 7(生産・販売・原価管理)に刷新した。
既存業務を見直しながらmcframe 7の標準機能を活用することで、製造手配業務や分析集計作業の効率化を実現し、受注・出荷業務ではマスタ運用を大幅に見直して月間100時間の工数削減を達成した。さらに、製品別の実際原価を把握できるようになったことで、同社に浸透しているカイゼン活動の優先度判断や効果検証のための「モノサシ」として原価の活用が進んでいる。
東海メディカルが、様々な効果を上げられた背景には、創業の精神に裏打ちされたカイゼンの文化の存在と、リーダー同士が喧々諤々の議論を重ねたこと、そして、それを力強くサポートする導入ベンダーの存在があった。
愛知県春日井市に本社をおく東海メディカルの設立は1981年にさかのぼる。創業者である筒井宣政氏は、先代から樹脂加工の町工場を引き継いだが、次女・佳美さんの心臓疾患をきっかけに、人工心臓の研究に着手する。陽子夫人と二人三脚で取り組んだ研究は10年以上に渡ったが、人工心臓はついに完成することはなかった。しかし、「娘を助けたい」という想いは形を変えて結実することになる。
当時、心臓医療の現場では、IABPバルーンカテーテルを用いた手術で医療事故が頻発していた。IABPバルーンカテーテルとは、心臓のポンプ機能が弱った患者向けの医療機器であり、主に足の付け根から挿入し、心臓に近い大動脈内に小さな風船のようなバルーンを留置し、人工的に膨張・収縮させることで、弱った心臓のポンプ機能を補助するものである。当時は海外製品しかなく、海外製のバルーンカテーテルは軸が金属製のため曲げにくく、血管に湾曲が多い日本人の身体には合わなかったのだ。そこで筒井氏は、人工心臓の研究で蓄積した知見と技術を活用することを決め、試行錯誤の結果、日本人の身体に適合した国産のバルーンカテーテルの開発に初めて成功したのであった。その後、このバルーンカテーテルは延べ17万人の命を助けることになる。この物語は、創業期の実話を基にした映画「ディア・ファミリー」として2024年6月に公開され、注目を浴びた。
「一人でも多くの生命を救いたい」という創業の精神は、いまなお東海メディカルに生き続けており、国産初のバルーンカテーテルの開発に成功して以来、心臓疾患に限らず、全身の各疾患に対応するバルーンカテーテルを開発し、国内カテーテル市場のトップ企業として業界を牽引している。「研究開発型企業」を標榜している同社の特長は、医療機関の細やかなニーズを汲み取り、共同で設計開発に取り組み、製造・販売までを一手に担っているところにある。すでに市場ができあがった領域で収益を上げるだけでなく、次なる医療ニーズに応えるために投資することで、新たな疾患や治療法に対応した製品を開発し続けている。
医療機関との研究開発をビジネスの原点におく東海メディカルは、いわゆる多品種少量型のものづくりが特徴である。さらにバルーンカテーテルは、構造上とても繊細で手作業での工程も多い。そのなかで、医療機器として厳しく求められる品質を維持・向上させるために、それぞれの製造拠点では、常に「今よりもっと良くしよう」というカイゼンの文化が浸透している。半期に1度のペースで、チームごとにカイゼンテーマに取組み、優れた成果をあげた活動は、全社で共有する機会が設けられている。
常務取締役の伊藤博俊氏は、「東海メディカルには、真面目な人が多い。やりにくいことや間違ったことは排除していこう、と考えることが当たり前になっている。」と語る。
こうしたカイゼンの文化には、医療機器業界に特有の背景もある。医療機器の販売価格は、保険償還価格という国の医療政策によって決まるが、医療費削減の流れから定期的に価格が引き下げられる傾向にある。原価管理のカイゼンをリードする大原丈久氏は次のように説明する。「医療費削減の圧力が厳しくなる前は、ある程度利益を確保しやすかったので、売上だけ見ておけば良かった時期もありました。しかし、保険償還価格が下げられればウチも従うしか無く、良い原材料を使えば高く売れる、という訳でもない。利益が出ていて体力があるうちに、しっかりとコスト意識を高めていかないといけないと感じていました。」
製造部門を統括する片桐勝也氏は、刷新プロジェクト開始前の状況を次のように振り返る。「日々、会社を良くしようという取り組みはしていました。ただ、それまでのシステムでは、材料費を見直したほうが良いのか、工数を見直したほうが良いのか、すぐに把握することができませんでした。個別のデータが色々なExcelに散らばっていて、自分たちで集計しなければならず、優先順位をつけるのが難しい状況でした。」
こうした状況のなか、既存システムの保守期限が迫り、基幹システムの刷新プロジェクトが立ち上がる。プロジェクトオーナーを務めた伊藤氏は、新たなシステムの選定軸として次の4点を定めた。
6社からの提案の中から、東海ソフト株式会社(以下、東海ソフト)が提案したmcframe 7を活用したソリューションが採用された。「mcframeであれば、30社を超える医療機器メーカーへの導入実績もあり、ウチの細かな工程も実現できそうだと思いました。(伊藤氏)」
選定に関わった片桐氏は、「製造実績に基づいて、歩留まりや工数がグラフで出力できると聞いて、なかなか面白いなぁと感じました。(他に比べて)自分たちが手作業でやっていることをシステムで実現できそうだ、という期待感が一番大きかったのがmcframe 7でした。」と振り返る。
東海メディカルには、本社工場以外にも春日井市と土岐市に3工場、春日井市に研究・試作開発を行うイノベーションセンターがある。今回のプロジェクトでは、それぞれの拠点、業務領域からリーダーが選出された。
土岐事業所の山岡史織氏は、製造現場の取りまとめを任されたリーダーの一人だ。
「各拠点のリーダーと、毎週のように議論を行い、色々と意見を出し合って、できるだけ良い業務、良い現場にしようと話し合いました。現場には、私より職歴が長いパート勤務の方もいらっしゃいます。この方たちの理解を得られなければ、業務は回らないと考えました。」 リーダー間で喧々諤々の議論をした結果、課題リストは250件に上ったという。
医療機関からの受注を取りまとめる営業管理チームを統括する千種淳一氏は、「自分のチームは、1日に600件近くにもなる受注登録を5名のパートのみなさんで捌いています。より良くしようとすることは、現場目線では仕事のやり方を変えなければならなくなります。これまでのシステムで実現できていた業務は、mcframeでも実現した上で、より良く、便利になるようにしなければ、現場のメンバーには受け入れてもらえないと思っていました。」
現状を否定して、新しい業務に変えていくことは、簡単なことではない。変革が求められる状況で、よくありがちなのが、トップダウンで現場の反対を押さえつける方法だ。全体最適の視点は、経営層だからこそできることで、トップがメッセージをだすこと自体は重要なことである。しかし、例えば、「このパッケージの標準業務が正しい、同業他社のやり方を真似るべきだ。」というような理想論だけで、現場の実態や意見を無視して変革を強行したとしても、導入後にその業務が定着しなかったり、特定の部門に負荷が偏ったりして、結局は変革を通じて狙った効果を得られないばかりか、返って混乱を生じてしまうケースもある。
東海メディカルのケースでは、経営層の伊藤氏が変革の方向性を示しつつ、具体的な取り組みについては次世代を担うリーダーたちを信じて任せた。それぞれのリーダーは、東海メディカルが研究開発型企業として社会で果たす使命を理解した上で、将来のあるべき業務の在り方を見据えて、リーダー同士でお互いの業務や役割を理解し、建設的な議論を重ねた。トップの示した方向性を踏まえて、ミドル層のリーダーたちが主体性をもって変革を推進したことが奏功したといえるであろう。
そして、もう1人、重要な影の立役者がいる。それが、システム導入を支援した東海ソフトのプロジェクトマネージャー浅岡清徳氏である。浅岡氏については、複数のリーダーが信頼を寄せ、高く評価している。
受注業務を統括する千種氏は次のように評価する。「東海メディカルは、その日に受注したものを即日出荷することをポリシーとしているのですが、このオペレーションが中々大変です。というのも、需要は患者さん次第なので常に変動しますし、出荷するときも同じ医療機関でも診療科によって代理店も異なるので手配の仕方を変えないといけない。浅岡さんには、ウチのややこしい業務の流れをしっかりと理解していただいた上で、東海ソフトのこれまでの経験を踏まえて、変えるべきところを助言してもらえました。いまの業務を何か変える判断をする時も、現場が大変にならないかシミュレーションをしてみて、課題があれば浅岡さんにぶつけて解決策を一緒に考えてもらえました。」
浅岡氏は当時を振り返って次のように語る。「東海メディカルのみなさんは、業務を良くしていきたいという想いを強くお持ちでした。まずは、しっかりと我々ベンダー側が業務理解をすること、その上で、カイゼンに繋がる案を提案しないといけないと考えました。」
刷新プロジェクトの時期はコロナ禍であったが、浅岡氏は、可能な限り対面での打合せと入念なユーザートレーニングを東海メディカルに提案した。ユーザートレーニングでは、単純な座学形式ではなく、早期にプロトタイプを構築し、実運用と同等のマスタを用いたデモ機でトレーニングを実施し、浅岡氏始め東海ソフトのメンバーが手厚くサポートした。製造現場への展開を任された山岡氏は、次のように振り返る。「導入にあたっては、まず自分自身がmcframeを理解し、慣れないといけないと思いました。その際に、分からないことがあれば、すぐに東海ソフトのみなさんに聞けたのが大きかった。定例の打合せ以外でも、電話やWEB会議で確認でき、前に進めたのは本当に助かりました。」
システム導入では、導入する企業自身や導入するシステム(製品)はもちろんのこと、導入ベンダーが果たす役割も大きい。選定時の条件に「業務とシステムの双方に精通した技術力のある導入パートナーに支援してもらえること」を掲げていた伊藤氏は、総括する。「システム化において一番大事なことは、我々がやっている普段の仕事を他の人が分かるように、どう言葉にするかということ。しかしそれが難しい。浅岡さんはじめ、東海ソフトのみなさんには、我々がやっていることを理解してもらい、いまの仕事自体が良いか悪いかも含めて、相談に乗ってもらえたことが良かった。」
東海メディカルは、mcframe 7の導入により、具体的にどのような効果をあげたのだろうか。
まず特筆すべきこととして、受注登録業務の効率化が挙げられる。医療機器業界特有の商習慣に対応するため、従前のシステムでは同じ医療機関でも診療科や代理店の違いで病院コードが1,700件ほど登録されていたが、マスタを見直して半分以下の800件ほどに整理した。これにより日常的な登録の手間とミスを減らすことができた。
また、単価系のマスタでは、同一製品でもサイズ違いなどで増幅しており4万件ほど登録されていたが、品群でグルーピングする機能や、基準単価と取引先別の単価を別持ちできる機能などmcframeの標準機能を活用することで、1.2万件ほどに集約できた。そのため定期的な単価見直しに伴うマスタメンテナンス業務の負荷軽減に繋がった。
受注登録業務は、5人で担当しており、繁忙期には、残業対応に加え、管理職も登録作業にあたることもあったが、mcframeの導入により、総工数で1日あたり5時間、月間で100時間ほどの工数削減を実現でき、管理職が支援する場面も見られなくなった。ちなみに、「100時間の工数削減」は、半期に1度のカイゼンテーマとして検証され、担当者自ら新旧システムを使い比べて時間計測し、算出された結果であり、ここからも同社のカイゼン文化が実を結んだことが分かるだろう。
次に挙げるべきは、製品別実際原価の把握である。mcframe導入前の原価管理は、財務会計のための管理という側面が強く、ざっくりとした配賦計算ベースで算出されているケースも少なくなかったという。今回、原価管理のリーダーを務めた大原氏は元々、本社工場の生産管理を担当していたが、当時から原価計算の方法や数字に関心をもっていたこともあり、今回の刷新プロジェクトを機に原価管理のリーダーに手を挙げた。「リーダーとして、東海ソフトの浅岡さんとの議論にしっかりついていけるように、改めて工業簿記を勉強し直し、簿記2級を取得しました。」と当時の苦労を振り返る。大原氏は、原価管理導入の効果をこう語る。「以前は、原価の数字が実態を表しているか、本当に利益が出ているのか不安でした。今回やっと、製造現場で登録した実績データをベースに実際原価を出すところまできました。そのおかげで製品ごとに利益がでているのか、ひと目で分かるようになりました。」
しかし、大原氏は現状に満足はしていないようだ。むしろ、現時点の実力が見えてきたからこそ、次のステップアップを具体的に描いている。「これからは配賦基準の見直しを進め、より実態に近い原価を把握できるようにしたいと考えています。もちろん、ただ単純に数字が見えるだけではダメで、原価の数字をもとにカイゼンに繋げていきたいと思っています。将来的には、精度の高い原価情報を活用して、開発時に目標原価を立てて、実際原価との差異を分析していく、という流れにしていきたい。」
刷新プロジェクトが本稼働を迎えてもなお、システムを使い倒すようにカイゼンに取り組む企業や担当者は決して多くはない。大原氏の言葉の背景に、しっかりと利益を確保することが次の研究開発の原資となり、また新たな生命を救う医療機器の開発に繋がるという好循環を作りたいという、研究開発型企業としての使命を垣間見ることができた。
また、本稼働後の継続的なステップアップ支援についても、東海ソフトの浅岡氏がアドバイザーとして伴走しているという。社外からの視点で助言をもらうことで、新しい気付きを得て、社内を変える原動力にしているようだ。
予定通りの期間でシステム導入を果たし、業務的な効果をあげることもできたが、東海メディカルのリーダーたちは、より高みを目指している。
製造担当の山岡氏は、「mcframeではExcelでの入出力ができるので、製造手配の登録が圧倒的に楽になりました。今後は、工数管理機能を活用して、工程ごとの標準工数を設定し、実際の工数と比較することでカイゼンに役立てていきたいです。」と意気込む。全社の製造を統括する片桐氏は、「今回のシステム刷新で業務運用や管理レベルの底上げをすることができました。今後は、実績登録の手間を減らし、ペーパーレス化を進めるなど、さらなる効率化にも取り組んでいきたいです。」と語る。
今回のプロジェクトについて、常務取締役の伊藤氏は高い評価をしながらも、目線は常に将来を見据えている。今後に向けて、次のように語る。
「医療機器は、規格化されて売れることが分かれば、大手が安く大量に作るようになるのです。しかし、それは我々のやり方とは違う。東海メディカルは、創業時から常に臨床のお医者様に寄り添い、患者さん一人ひとりの命を救うためにモノづくりに取り組んできました。我々のような多品種少量のモノづくりでは、大量にデータを溜めて活用していくということは、なかなか難しい。だからこそ、東海メディカル流のDXを実現できれば価値があるし、挑戦していきたい。今回の基幹システム刷新は、そのための第一歩です。」
「一人でも多くの生命を救いたい」という創業の精神は、今日もなお、東海メディカルで働く人たちの中に生き続けている。今後も東海メディカルは、より良いものづくりを通じて、また新たな生命を救ってくれるはずだ。
執筆 松村喜弘(B-EN-G)
商号 | 株式会社東海メディカルプロダクツ |
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資本金 | 8,475万円 |
設立 | 1981年 |
従業員数 | 248名 |
事業内容 | バルーンカテーテルを代表とした医療機器の開発、製造および販売 国産初のIABPバルーンカテーテルを開発して以来、全身の各疾患に対応した製品を開発・販売し、17万人以上の命を救ったと言われる。現在も国内のバルーンカテーテル市場のトップ企業として業界を牽引。 |
※本事例は2024年6月現在の内容です。
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