大手日本酒メーカーの白鶴酒造は、これまで売上や利益を上げるために、いかに多くの石数(※)を売るかという販売数量を指標に生産・販売活動を行ってきた。しかし日本酒の国内市場が縮小し、コロナ禍を経て需要構造が大きく変わっていく中で、これまでの手法では利益を上げられなくなる恐れがある。そこでビジネスエンジニアリング(B-EN-G)の原価管理パッケージ「mcframe 7 PCM」(以下、mcframe)を導入。製品別の原価を生産から販売まで一気通貫で管理できる基盤を構築し、利益率向上に向けた金額ベースの経営へと転換している。
※日本酒量の単位で、1石は180L。
製品別の原価を生産から販売まで一気通貫で管理し、工程別や部門別、顧客別などの切り口で分析できることに着目してmcframeを導入。経営層や現場の意識を変えるための仕組みづくりを目指し、まずは実際原価をしっかり押さえることに注力した。その上で次のステップとして標準原価や予算原価を導入するというロードマップを描いている。
国内市場が縮小を続け、厳しさを増す日本酒業界。その中で業界有数の売上を誇るのが、国内大手酒造メーカーの白鶴酒造だ。家庭用の商品は定評があり、全国のスーパーマーケットやコンビニへの配荷率も高い。50カ国を超える輸出も好調で、国外の売上比率も徐々に伸ばし始めている。
この安定した経営を支えているのが、酒づくりを革新し続けてきた取り組みである。伝統的な丹波流と呼ばれる製法を継承しつつ、杜氏の熟練の技と感覚を早くから科学的に分析し、量産化を実現してきた。さらに食品を扱うに値する衛生基準を取り入れた工場設計を施し、高品質と安全性を担保してきた。取締役 常務執行役員 経営企画室長の西村顕氏は、「美味しく、安全・安心な商品を、リーズナブルな価格でお届けできる体制を築いてきたことが、当社の強みです」と自負している。
ただし改善すべき問題も数多く残っている。その1つが原価管理の高度化だ。総じて日本酒メーカーは、「利益を上げるには量(石数)を売る」ことが重要視されてきた。白鶴酒造もこの例にもれず、実際に2017年頃までは、「○万石売れば○億円の経常利益が出る」という考えのもとに生産・販売活動を続けてきた。しかし、市場が縮小傾向にある中、こうした考えのままでは永続的な発展は見込めないという危機感もあった。
執行役員 マーケティング本部長の森伸夫氏は、「生産部門は当然ながら製造原価を把握していましたが、その後の販売施策、広告宣伝、マーケット施策などすべての工程を含めた原価への意識が欠けていました。トータルで原価をどう抑えていくのか、どうやって利益を出していくか、全社的な意識改革が求められていました」と語る。
また酒造業界は、酒税法の関係から適正な範囲内で価格競争を行っていることを証明し、コンプライアンスの観点からも原価を明らかにする必要がある。そこで同社の経営企画室でも年に1回、独自に原価計算を行っていたが、多大な労力がかかっていたという。同室 課長の山内隆寛氏は、「生産部門から出てきた製品原価をもとに、製品ごとに販売コストを按分して手計算で原価を出していましたが、商品アイテムは膨大であるため手計算で行うことは現実的ではありませんでした」と振り返る。
こうして白鶴酒造は、手動で行っていた原価計算のシステム化を目指すことになる。その中、情報収集目的で参加したコベルコシステムのセミナーで出会ったのがmcframeだ。
「製品別の原価を生産から販売まで一気通貫で管理し、工程別や部門別、顧客別などの切り口で分析できるなど、mcframeなら自分たちの課題を解決できると考えました。そして原価管理に関するコンサルティング力の高さを感じたコベルコシステムから導入することに決めました」(森氏)
2019年7月にmcframeの導入を決めた白鶴酒造は、すぐさま要件定義を開始。経営層や現場の意識を変えるための仕組みづくりを目指した。「特に注力したのは、まずは実際原価をしっかり押さえることです。その上で次のステップとして標準原価や予算原価を用いた予実分析を目指すというロードマップを描きました」(西村氏)
もっとも第一歩となる実際原価の把握にしても、容易なことではなかった。「スクラッチで開発され、複数のシステムが乱立した生産管理システムとmcframeを連携させるためのインターフェース開発は本当に苦労しました」(山内氏)
こうした苦労を重ねてきた末に、まずは実際原価のプロジェクトを2022年3月にようやく完了へと漕ぎ付けたのである。2022年7月に向けて白鶴酒造は、四半期ごとの原価計算を開始すべく、標準原価の取り組みに着手している。
先述のように実際原価のプロジェクトが完了したのは2022年3月だが、白鶴酒造では、先行して2020年頃から稼働を開始しており、いわばアジャイル的な導入を進める中で原価計算の精度向上に取り組んできた。そうした中からもすでに多くの成果が現れている。
「例えば、得意先ごとに商品ポートフォリオをリストアップし、原価を分析するといったことが可能となりました。この事実を目の当たりにして、営業本部の担当者も興味を示し、何かあれば『mcframeで石数ではなく、売上金額や利益率を出せないか』と求めるようになり、原価に対する意識が大きく変わり始めています」(山内氏)
加えてmcframeにより、これまで誰も気づかなかったコスト改善のポイントも原価計算結果から浮かび上がるようになったという。例えば、販促費や輸送費などのコストが精緻化され、それを踏まえて膨大な商品アイテムそれぞれの利益管理ができるようになった。これにより過去3年間の減収減益から、mcframe導入後の2021年度には減収増益に転じたという。
「2021年度における主力商品の利益率は、2019年度と比べて目に見えて向上しています。これもmcframeのデータに基づいて販売戦略を進めていったことが要因の1つだと考えています」(森氏)
そして何より経営面に表れた大きな変化は、2021年度まで石数をベースに立てられていた営業目標が、2022年度からは金額ベースで立てられるようになったことだ。
「導入前まで、当社の業務は特殊であり原価管理のシステム化は困難だと思っていました。それをmcframeのパッケージで成し遂げることができたのは大きな成果だと思います。パッケージ適用にあたって、業務の見直しも行うことができました」(西村氏)
もちろん、プロジェクトはこれで終わりではない。白鶴酒造では、より妥当な売価の根拠を得るべく標準原価のプロジェクトに取り組んでおり、そのほかにもBIツールを活用した原価分析およびその結果の全社共有化を見据えている。より精緻かつ迅速な原価管理、利益管理によるデータドリブン経営を実現することが、今後に向けた白鶴酒造の目標である。
商号 | 白鶴酒造株式会社 |
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創業 | 1743年 |
資本金 | 4億9,500万円 |
従業員数 | 417名(2021年4月現在) |
事業内容 | 清酒の製造・販売および媒介。焼酎・リキュール・味醂・その他酒類の製造、販売および媒介。ビール・醤油・清涼飲料水・その他食料品の販売。輸入ワインの販売など。 |
※本事例は2022年6月現在の内容です。
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