再現が難しい小児看護学の演習に実写の360度VR映像を採用
実習に臨む学生へ新たな気づきを与えられるように
千里金蘭大学看護学部看護学科は、気持ちに寄り添う「ココロかんご」と、多職種連携の現場に対応できる「リアルかんご」の実現により、信頼される看護職者へ成長するための学びを展開している。しかし小児看護学の演習においては既存の手法では困難な場面があり、その改善策としてビジネスエンジニアリング(B-EN-G)のVR学習システム「mcframe MOTION VR-learning」を活用している。学生たちは現場に近いリアリティのある小児看護を体感でき、現場での実習に向けた心構えにつながったという。小児看護学を担当する教員はコンテンツを自ら作成し、学習の質のさらなる向上を図っていく方針だ。
現場での実習に参加する前に、臨場感がある小児看護を学生に体験させたいと考えていた千里金蘭大学では、VRの活用を検討。教育効果を高めるために、教材となるコンテンツを自分自身で作成・修正でき、他の演習にも応用が利く点を評価し、mcframe MOTION VR-learningの導入を決定した。
大阪府吹田市にキャンパスを置く千里金蘭大学は、3学部3学科・大学院1研究科を設置する私立大学だ。看護学部は2008年に開設し、実践的な演習と患者の心に寄り添うマインドを育む「リアルかんご」&「ココロかんご」を特徴とする。その一環として地域の人たちに患者役などとして参加してもらう「教育ボランティア」を募るなど、教育の質を上げるためのさまざまな取り組みを行っている。
だが、こうした工夫を行っても演習が難しかった領域が小児看護学だ。血圧測定で腕に巻く「マンシェット」など、体の大きさに合わせた選択や装着のコツは、シミュレータ人形を使って体験できる。しかし、看護の現場では、子どもが怯えたり嫌がったりするのが実状であり、そうした場面は演習で再現することが難しかった。小児看護学の演習を担当する、同学教授の合田友美氏は、以下のように語る。
「特に小児看護の場合、発達段階に応じて適切に対応しなければなりません。しかし、学生が患者役となる場合は、そもそも体格が子どもとは違いますし、小さな子どもがどんな反応をするかを再現するには限界があります。大人数の学生が一度に繰り返し経験することは難しく、模擬患者での演習にも限界がありました」
上記の課題を解消すべく、合田氏が着目したのがVR技術だ。数年前から360度カメラで映像を撮影し、より臨場感ある演習を行えるよう工夫してきた。
「最初に使ったのは、スマートフォンに厚紙で覆いをつけた簡易ゴーグルでした。その後に本格的なVRゴーグルを導入したものの、内容としては単なる360度動画で、インタラクティブ性はありませんでした」(合田氏)
合田氏がインタラクティブ性を重視したのは、ゲームデザイン要素を学習などに取り入れて参加者の意欲を高める「ゲーミフィケーション」の考え方に基づいたものだ。この要素を取り入れて教育効果を高めたいと考えていた合田氏は、実際にいくつかのVR製品を検討。しかし、そこでネックになったのが費用面や汎用性だ。
「検討したものの多くは3DのCGコンテンツを作成する前提であり、自分では教材の手直しができず、修正にも費用が生じてしまいます。でき上がったコンテンツは一度作って完成とするのではなく、教育効果を高め続けるために手を加えていけるものにしたいと考えました」(合田氏)
そんな折、同僚の教授を通じて知り合った企業から紹介されたのが、mcframe MOTION VR-learning(以下、VR-learning)だ。合田氏に提案を行った株式会社ビットエイジ 代表取締役 社長の大道顕二郎氏は、以下のように説明する。
「千里金蘭大学様の要望の内容や期間、コストなどを考慮して教材作成のツールを探したところ、出会ったのがVR-learningです。360度カメラで撮影して教員たちが自らコンテンツを作成でき、また実際にその場にいるような感覚が得られるなど、要望を満たせる製品だと感じました。また、追加の要望があればバージョンアップなどを通じて製品に反映していきたいというB-EN-Gの姿勢も心強いものでした」
こうして千里金蘭大学はVR-learningの採用を決定し、VRゴーグルと合わせて25セットを導入した。合田氏は今までのノウハウを活かしながら1カ月ほどでコンテンツを完成させ、演習に臨んだ。
「VR-learningは、実写の360度映像を元にコンテンツを作成でき、単に映像を見せるだけでなく、選択肢を出すなどインタラクティブな要素も加えられます。専門知識はほとんど不要で、教材の作成や作り直しも容易で、無事講義に間に合わせることができました」(合田氏)
小児看護学の演習では学生2人に対して1台のVRゴーグルを使用し、交替で装着して教材を視聴するほか、視聴して気付いた点を発表するなどのグループワークも取り入れた。映像内では途中に設問を設けて回答させ、すぐに正誤を表示することで、看護師としての適切な対応方法や留意するべき点を考え実感してもらえるようになっているという。
参加した学生からも「教材のVR動画からは非常に多くの気付きを得られました。また、子どもの実際の嫌がり方などもイメージでき、実習で現場に出たときに得られるものがより多くなると感じました」とコメントがある。使用にあたってはVRゴーグル装着に手間取ったりVR酔いをしたりする例もあったが、個別に対応するなど工夫して演習を進めた。学生からは「実習前の知識の再確認になった」など、総じて肯定的な感想が得られた。
「VR-learningで作った教材は、ゲーミフィケーションにおける『能動的参加』『即時フィードバック』『成長の可視化』の要素に対応します。合わせて実施したグループワークで、学生たちが自身の気付きを発言したり、感想を共有したりすることで、『自己表現』や『賞賛演出』も実現できるという授業設計です」(合田氏)
合田氏は今後も作成したVR教材の改善を図っていく方針だ。また、今回採用した以外の演習でも活用を検討しているという。
「VR-learningを採用することで、これまでできないと思っていたことができるようになりました。もちろん、子どもに演じてもらって撮影しているため、例えば危険な場面を映像化することができないなどの課題はありますが、VR-learningの分岐システムなどを上手く使って別の映像を組み込むなどして工夫しながら、効果的なコンテンツを作成していきたいと思います」(合田氏)
小児看護学での演習に利用されているVR教材の1シーン
1905年設立の私立金蘭会女学校を前身として、2003年に大学を設置、2008年に看護学部看護学科を開設。また2022年には大学院看護学研究科を開設した。2023年4月には、栄養学部栄養学科(旧生活科学部食物栄養学科)、教育学部教育学科(旧生活科学部児童教育学科)を新たに開設し、3学部3学科体制となる。
大学名 | 千里金蘭大学 |
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設立 | 1905年(大学設置2003年) |
学生数 | 859名(2022年5月1日時点) |
事業内容 | 大学および大学院を持つ私立女子大学 |
※本事例は2022年12月現在の内容です。
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