日本全国で低温一貫物流を提供する日水物流では、人材の確保・定着・育成という業界共通の課題に対し、VR(バーチャルリアリティー:仮想現実)技術を用いた人材育成の仕組みの導入を検討していた。そうした中、ビジネスエンジニアリング(B-EN-G)のVR学習システム「mcframe MOTION VR-learning」が目に留まり、採用。VR教育コンテンツを自社内メンバーで作成できるようになった。この仕組みはすでに新入社員の安全教育に活用され、VRによる臨場感の高い教育を実現している。
従業員教育を改善すべく、VR技術の活用が効果的と判断した日水物流。mcframe MOTION VR-learningでは、360度カメラを用いて自社で撮影した映像を利用するため、作成の難しい自社専用のVR教育用コンテンツを容易に低コストで制作できるようになった。
日本水産グループの物流会社として、全国各地の物流センターを拠点として低温物流を手掛ける日水物流。業界有数の規模を誇る広域の物流ネットワークに加え、運送や通関といった関連事業を幅広く手掛けている。
同社が近年力を入れているのが、人材の確保・定着・育成だ。今や日本全体の課題ともいえる労働力不足は物流業界でもその例外ではない。日水物流でも貴重な人材をこれまで以上に手厚く教育し、育てていこうとしている。
「当社は主に食品を扱っており、小さい商品も多い上に形状もさまざまです。加えて賞味期限など品質面での管理も不可欠で、繊細な作業が要求されるため、人が何よりの財産となります。従業員に長く定着してもらい、スキルを身に付けてもらうために、さまざまな工夫を凝らしています」と、日水物流の管理部次長 兼 人事課長の坂岳幸氏は語る。
例えば、柔軟な働き方への対応や多様な人が働けるための業務の標準化なども進めている。定着や育成に関しては、人材教育、特に安全教育に新たな工夫を盛り込むことを検討してきた。「現場ではフォークリフトによる荷役作業など危険を伴う場面があり、安全教育は欠かせません。以前から座学や現場での危険予測訓練などを繰り返し行ってきましたが、これらは慣れが生じやすく効果も薄れがちで、いかに実感を高められるかが課題でした。そこで現場で生じうる危険を擬似的に体験させ、より実感の伴った安全意識を身につけられる仕組みを作りたいと考えました」と坂氏は話す。
同社の人材育成の仕組み作りは、経営企画部 経営企画課のメンバーが中心となって進めている。安全教育だけでなく、人材教育全般で受講者がより深く実感できるような指導方法が求められていた。
経営企画部 経営企画課 係長の福永茂氏は、「例えば荷役機器や冷凍機などの倉庫設備の保守点検に関しても、経験や体験を通じて心に刻まれる仕組みがほしいと考えていました。しかしその教育に実機を用意するのは費用や場所が課題となります。そんな折に知ったのがVR学習システムでした。VRなら場所を取らない上に、臨場感、また新鮮味もあるので、当社の教育に使えるのではないかと考えたのです」と語る。
しかし、VR教育を行うには懸念材料もあった。システムや機材、そしてコンテンツ制作のコストだ。経営企画部 経営企画課 係長の鍬ヶ谷克美氏は、ある会社にVR学習システムの導入を相談したが、当時を次のように振り返る。
「そのシステムは、作成された仮想空間の中でユーザーが動き回るというものでした。現場に即したコンテンツを用意するには、それぞれ構造、配置や設備の異なる物流センターのモデル映像を1つずつ作らねばならず、かなりの費用が必要になってしまうことがわかりました」(鍬ヶ谷氏)
そうした中、坂氏らは2017年8月の展示会でmcframeMOTION VR-learning(以下、VR-learning)の存在を知る。同製品であれば、360度カメラを使って自社で撮影した映像を素材とするため、コンテンツの内製化も難しくはない。
「説明をお聞きしたところ、VR-learningでは、さまざまな用途のコンテンツを作れる可能性を感じました、構造も設備も異なる多数の物流センターを持つ当社としては、内製化できるかどうかは汎用性や発展性を考えると重要なポイントです。うまく活用すれば、我々の求める教育が実現できるだろうと考え、採用を決定しました」(坂氏)
こうして2018年2月、日水物流にVR-learningが導入された。現在、コンテンツ制作は鍬ヶ谷氏と福永氏が中心となり、B-EN-Gや現場の協力を得て進められている。
「B-EN-Gには、採用が決まる前から、デモやコンテンツ作成の指導などいろいろと協力してもらっています。我々としても、より良い教育コンテンツを作りたいので、製品に対する要望を出し改良してもらっています」と福永氏は話す。
実際に、日水物流のリクエストにより、VR-learningの音声対応も実現している。物流の現場では、フォークリフトの走行音や後退時に鳴らすブザー音なども安全確認で重要な要素であり、これがないと臨場感が欠けてしまうからだ。
「2018年の新入社員研修では、全員にVRで現場を体感してもらいました。倉庫内では通行帯を歩くということ、また歩いている最中に柱の死角からフォークリフトが走行してくることもあることをわからせる内容を、実際の現場に行かずに体験させることができました」(鍬ヶ谷氏)
同社では引き続きさらなるコンテンツの拡充を進めていこうとしている。坂氏は「アイトラッキング機能を用いれば、例えば設備点検の際に見るべきポイントをチェックするのに役立つでしょう」と期待を示す。安全教育だけでなく、生産性向上や業務標準化などにもVR-learningを活用していく考えだ。
従業員一人ひとりを財産と考える日水物流。安全配慮と業務スキル底上げのためにVRという新しい技術を使って、だれでも手軽に体験できかつ実践的な教育コンテンツを提供し、事業所や従業員ごとの教育環境の差を埋める仕組みを構築しようとしている。
倉庫内を歩行中に急にフォークリフトが出てくるシーンを臨場感のあるVRで体験させ、安全意識を高めさせる
日本水産の冷蔵倉庫部門として創業。同社と東部冷蔵食品と西部冷蔵食品が統合して、2007年に設立された物流会社。中核となる倉庫業においては東北から九州までの全国各地に物流拠点を展開するほか、貨物利用運送や流通加工、通関業務といった幅広い関連事業を手掛ける。ニッスイグループとして長年培ってきたメーカー物流品質を基盤とし、つくる人から食べる人をつなぐ「低温一貫物流」のサービスを提供する。
※写真は大阪舞洲物流センター
商号 | 日水物流株式会社 |
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設立 | 2007年4月1日 |
資本金 | 20億円 |
従業員数 | 384名 |
事業内容 | 事業内容 倉庫業、貨物利用運送業、冷蔵および凍結業、魚介類・穀物野菜類・肉類の加工および販売、通関業、不動産賃貸業、発電および売電に関する事業 |
※本事例は2018年6月現在の内容です。
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