実写の臨床映像を用い
CGでは難しいリアルなVR教材を制作
平等かつ潤沢な学習機会を学生たちに提供
中越地域の保健・医療・福祉の拠点となる開かれた大学を目指す長岡崇徳大学。看護学部看護学科の単科大学として、高度な看護の実践者の育成に力を入れており、看護教育の現場における、「実習の機会を得にくい」という課題の克服に向け、VR教材の活用に乗り出した。取り組みの2年目には、ビジネスエンジニアリング(B-EN-G)のVR学習システム「mcframe MOTION VR-learning」を導入。総合的な観察や判断が求められる「統合実践演習」に取り入れたことを皮切りに、さまざまな専門領域を担当する教員たちが活用していく方針だ。
VR教材を内製でき、カリキュラムの進捗や想定シナリオに合わせて教材を用意しやすいなど、柔軟性に着目。また、出来合いのVR教材にはない、各学習領域の知識を組み合わせて行う統合実践演習の内容にも対応できることを評価して導入。
医療・福祉などの事業を幅広く手掛ける崇徳厚生事業団 長岡医療と福祉の里グループの一員である長岡崇徳大学。グループ各法人の施設が同じ敷地内に集まり、医療・福祉の現場を身近に感じられる実践的な学びの場を提供しているのが特徴だ。
「同じ長岡市には、長岡技術科学大学と長岡造形大学という専門性の高い大学があります。すでに2大学とは医療と工学、医療とデザインなど、それぞれの専門分野を生かしたコラボレーションの取り組みも始まっています」と、精神看護学教授の板山稔氏は説明する。
学生に先進的な学びの場を提供している同大学だが、看護学の各領域における実習機会の確保に課題を抱えていた。小児看護学講師の沼野博子氏は、「例えば小児看護学では、実習に臨むときに実習を受け入れてくれる患者さんが必ずしも見つかるとは限りません。母性看護学や、急性期でも同様であり、実習の機会を得にくいことが課題でした」と語る。加えて、開学からほどなく突入したコロナ禍において、医療現場の逼迫の影響により学生実習の受け入れ先施設の確保自体が難しくなってしまった。
そこで長岡崇徳大学は、実習を補う形でVR教材を取り入れ、体験の機会を増やす取り組みを始めることにした。「文部科学省の補助金事業に採択されたこともあり2022年にはVRゴーグルなど必要な機材を導入でき、学内ではVR活用促進のため専門の委員会も立ち上げました」と板山氏は説明する。
導入したVRゴーグルは1学年の定員80名に対し、2人に1台が行き渡る40台。同時期に導入したフルCGのVR教材は、VR空間内で患者や家族に接することができ、看護基礎教育における各領域のシナリオが用意されている。
「実際の演習に採用するかどうかは各担当教員が判断するかたちとしましたが、結果として参考教材としての使い方を選んだ教員もいました。没入感がいまひとつであること、またシナリオが決まっており授業の目的とするポイントからずれていても調整ができないなどの理由からです」(板山氏)
また、既成のCG教材では各学習領域の知識を組み合わせて行う演習に合ったシナリオが存在しないことも課題だったと成人看護学 准教授の目黑優子氏は語る。
「特に、4年次に行う『統合実践演習』は、それまで学んできた各領域の知識を組み合わせて活用する実践的な内容です。この演習にVRを取り入れようにも、学習領域ごとにシナリオが独立している既成のCG教材では対応できなかったのです」(目黑氏)
上記の課題に対して長岡崇徳大学は、2023年度で新たにmcframe MOTION VR-learning(以下、VR-learning)を追加導入し、教員たちが自作したVR教材も演習に取り入れることにした。その経緯について沼野氏はこう説明する。
「VR-learningなら自分たちが考えたシナリオで教材を作成でき、カリキュラムの進みに合わせて教材を用意できるので、幅広く応用できると考えました。また、実写VR映像であれば臨床とほぼ同じ場を再現でき、没入感や臨場感のある教材によって演習と実習のギャップを低減できると考えました」
こうして導入されたVR-learningは、まず「統合実践演習」向けの教材作成に用いられた。
「VR-learningなら演習の内容を繰り返し体験できますし、シナリオ上で確認するべき項目を学生たち自身もすぐに把握できます。実写映像によるリアルな空間の中で状況に応じた設問を表示するなどの機能を使い、考えながら行動することを体感してもらえるよう意識してシナリオを作りました」(沼野氏)
VR-learningでの教材制作には、B-EN-Gのもつ知見も役立ったという。例えばシナリオ設定では、学生に得てもらいたい気付きをVR-learningのどのような機能(「設問」や「ポップアップ」と呼ばれる部品)に落とし込むのが適切かといった助言も得られた。また、360度カメラでの撮影のコツなど、 事例に基づく情報提供や、VR-learningの具体的な操作に関するサポートも受けながら完成にこぎつけたそうだ。
教材制作に携わった基礎看護学講師の熊倉良太氏は、「制作した教材のデータをVRゴーグルに移す際に細かい不具合が何度かあったのですが、その都度B-EN-G に迅速にサポートしてもらって解決しました」と語っている。
オリジナルVR教材は、2024年4月から実際に講義の場で活用されている。受講した学生へのアンケート結果によると、「患者状態の確認項目」「手順や優先度」などの理解ができたとする回答のほか、「実際に病室にいるような臨場感があった」「何回も振返りができる」といった評価の声が寄せられている。もっとも「映像が粗い」「音量が小さい」「設問の表示時間が短い」いう反応もあったことから、今後は360度映像を撮影する際の画素数や音量調整、教材に表示する設問の表示時間など、撮影や編集面で工夫を凝らし、さらに見やすい教材を作っていきたいと沼野氏は語る。
今回制作された統合実践演習用のVR教材を踏まえ、各教員は今後それぞれの担当演習にどのように取り入れるのが適切かを検討し始めている。板山氏は以下のように見通しを語る。
「実習の場や時間は極めて限られています。例えば手術室などは、グループ内に医療法人を持つ本学ですら確実に確保できるものではなく、常に学生たち全員に等しく機会を提供できるとは限りません。こういった貴重な場をVR教材化し、より平等な学習機会を設けることは今後の取り組みとして重要だと考えています」
医療、高齢者福祉、障害者福祉の事業を手がけるグループ「崇徳厚生事業団」8法人の1つ、学校法人悠久崇徳学園が運営する看護大学。1992年に「長岡福祉専門学院」として開校、1995年には看護学科を設置し「長岡看護福祉専門学校」に改称、2019年4月には中越地域初の看護大学となる「長岡崇徳大学」を開学。
大学名 | 長岡崇徳大学 |
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設立 | 1992年(大学開学 2019年) |
学生数 | 232名(2024年5月1日現在) |
事業内容 | 看護学部看護学科を持つ私立大学 |
※本事例は2024年10月現在の内容です。
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