タツノでは、横浜工場のリニューアルに伴うラインの自動化に合わせ、生産管理システムの刷新と原価管理システムの構築を決定。生産管理・原価管理の仕組みとして、ビジネスエンジニアリングの製造業向けパッケージ「mcframe」を採用した。これにより、生産の効率化と柔軟性の向上や原価の見える化と処理のスピードアップ、JIT生産方式の実現、月間3,000枚の用紙削減など、多くの効果を上げている。
創立100周年事業の一環となる横浜工場のリニューアルに伴い、生産管理システムの刷新と原価管理システムの導入を決めたタツノ。mcframeの導入により、ルーチンワークにかかる時間を削減し、より創造的な仕事に時間をかけることができる仕組みを実現した。
ガソリン計量機の販売で、65%以上の国内シェアを持つ株式会社タツノ(以下、タツノ)。同社の強みは、常にオリジナルの計量機を開発・製造してきた技術力である。「計量機の電子化やPOSシステム、セルフ化、水素ステーションなど、他社に先駆けてサービスステーション用の製品を市場に投入してきた自負があります。常に他社より一歩先を行くのが、タツノの研究開発ポリシーです」と同社の取締役 研究開発本部長 兼 生産本部長 羽山文貴氏は説明する。
現在、水素エネルギー事業に注力しており、国内の水素ステーションの半数がタツノ製の設備を採用している。羽山氏は、「近年では、水素をはじめガスやアルコールなど、エネルギーの多様化が進んでいます。そこで、市場の変化に柔軟かつ迅速に対応することが必要ですが、これまでの生産管理システムは老朽化が進んでおり、変化に即応することが困難になっていました」と語る。
また、タツノの生産本部 製造部 部長の井上謙司氏は、「生産管理も原価管理もこれまで人手がかかるイメージがありました。例えば、資材所要量計画(MRP)にも時間がかかりますし、原価計算も手作業でデータを集めるなど、担当者が力ずくで計算していました。海外市場における競争力強化を進めるにあたり、日本は間接費が大きいことがネックでした。そこで、ルーチンワークにかかる時間を削減し、より創造的な仕事に時間をかけることができる仕組みを実現することが不可欠でした」と話す。
タツノでは、創立100周年事業の一環として、横浜工場のリニューアルを実施し、2011年4月に竣工した。これに伴い、生産ラインの完全自動化を目指すとともに、生産管理システムの刷新および原価管理システムの導入も決定した。羽山氏は、「まずは原価を正確に把握できる原価管理システムの導入が必要でした。そのためには、正しい実績を積み上げることが不可欠であり、生産管理システムの刷新も必要でした」と話している。
これまでのタツノの生産管理システムは、パッケージ製品をベースに、ほぼ原形をとどめないほどのカスタマイズを施し、さらに独自に開発した周辺システムと連携させることで運用されていた。同社の生産本部 製造部 資材グループ リーダーである足代隆氏は、「必要に応じてカスタマイズを繰り返してきたために、データの信頼性に起因する不整合も発生していたほか、システムとしても重たくなっていました」と振り返る。
また横浜工場のリニューアルに伴い、手作業の多かった生産工程の自動化が必要だったが、既存の生産管理システムでは対応しきれないことも課題であった。一方、原価管理は、専用のシステムが構築されていなかったため、担当者がExcelなどを使って手作業で必要なデータを抽出し原価計算を行っていた。そのため、年度末に会計ステムで決算を行い、初めて正しい原価を把握できるという状況であり、情報をタイムリーに経営層に提供できる仕組みが必要だった。
足代氏は、「調達部門では、ジャストインタイム(JIT)生産方式の実現に対応できないことも生産管理システムの課題の1つでした。一部、手作業でJIT生産方式を実現していましたが、これを完全にシステム化したいと考えていました」と話す。
そこで、2010年より、新システム構築の検討を開始。まずは十数種類の国内外のパッケージ製品を検討した後、最終候補として3製品を絞り込んだ。2011年11月にmcframeの採用を決定し、2013年4月に稼働を開始した。
mcframeの採用を決めた理由について、タツノの生産本部 製造部 生産情報グループ リーダーの寺田正広氏は次のように語る。「こだわったのは、オープンソースが利用できること、データベースが公開されていることです。旧システムでは、周辺ステムを独自に開発していたこともあり、新システムの導入においても、ある程度は独自開発を取り入れていきたいと思っていました」
また、エンドユーザーコンピューティング(EUC)を取り入れていきたいと考えていたこともmcframeを採用した理由の1つであった。足代氏は、「新しい生産管理システムでは、実績などのデータをどのように活用していくかが重要なポイントでした。ただ生産業務での利用だけでなく、分析のためにも利用したいと考えており、そこはEUCを実現したいと思っていましたので、こうした条件をすべて満たしているのがmcframeでした」と話している。
mcframeの導入は、IT部門と生産現場の担当者で構成されたプロジェクトチームにより進められた。最大の特長は、IT部門ではなく生産現場を主導とし、係長クラスを中心にプロジェクトチームを構成したことである。足代氏は、「係長クラスをチームリーダーにしたのは、次の世代の人たちに自分たちのシステムを構築しているということを意識づけることが狙いでした」と話す。
まずは、現場担当者を中心とした業務チームで現状の課題を洗い出し、次にIT部門を中心とした共通チームで解決策を取りまとめた。また原価管理は、別に原価チームを構成して導入が進められた。寺田氏は、「パッケージの導入はこれで3回目ですが、前回は必要なものをすべて取り込んだので、典型的な失敗パターンになってしまいました。今回は、パッケージのメリットを生かし、取り込むものと切るべきものを見極めました」と話す。
mcframeの導入により、業務プロセスがこれまでとは若干変化したものの、生産現場の担当者を中心としたプロジェクトチームで導入したことで、現場からの大きな抵抗もなく導入することが可能になった。寺田氏は「現場に“やらなければいけない”という雰囲気ができあがっていたことが成功の要因でした」と話す。また、mcframeの導入パートナーである横河ソリューションサービスのサポートも導入を成功に導いた要因の1つだった。
横河ソリューションサービスをパートナーに選定した理由を寺田氏は、「母体の横河電機は同じ製造業であり、生産管理や原価管理のノウハウを有していることが、選定の大きな理由です。また、経験豊富な担当者に導入をサポートしてもらえたことで、若手中心のプロジェクトチームでも大きな問題なく導入できました。今考えると、非常にバランスのとれた、良いプロジェクトだったと思っています」と話している。
今回、構築された「TaimPro」と呼ばれるシステムは、mcframeで構成される「Core」と呼ばれる部分と、独自開発の「Middle」と呼ばれる部分をインターフェースで連携した構成になっている。たとえば、払い出し作業では、mcframeから「どの部品を、何個、どこに届ける」というデータをCSV形式で抽出し、Middle側で受け取り、加工してタブレット端末で確認。作業後は、タブレット端末から入力された実績データがCSV形式でmcframeに戻る仕組みになっている。
以前の生産管理システムは、印刷された作業指示書を介したアナログ的な作業だったために、急ぎの作業指示を割り込ませる柔軟な変更ができなかった。mcframeを導入したことで、急ぎの割り込みをしても、リアルタイムにタブレット端末にデータが送信されるため、ピッキング担当者は意識することなく作業をすることができる。またピッキング担当者は、作業しやすい順番を自身で設定することで、作業効率を向上させることもできる。
足代氏は、「生産管理では、数年後にどのように変化しているかが予測できないので、変化に柔軟に対応できる仕組みが必要でした。以前の生産管理システムは、データの部分もカスタマイズしたために、その後のメンテナンスが非常に困難でした。今回は、その反省も踏まえ、パッケージのデータは変更することなく、必要なデータはCSV形式で抽出し、独自開発の周辺システムで加工して利用する仕組みにしています」と語る。
また、導入目的の1つであったJIT生産方式も実現している。生産本部 製造部 生産情報グループ 矢野博氏は、「以前は、Excelなどのツールによる手作業のため品目点数を増やすことが困難でしたが、mcframeを導入したことで、JIT生産方式に対応した品目点数を100倍以上に拡大できました。これにより、在庫削減も可能になり、貴重なスペースを有効に活用できるようになりました」と話す。
そのほか、mcframeを導入した目に見える効果として「ペーパーレス化」がある。生産本部 製造部 生産情報グループの宮田悠平氏は、次のように語る。「以前は印刷された出庫指示書を使って、担当者がピッキング作業を行っていました。mcframeを導入したことで、出庫指示をタブレット端末で確認できるので、出庫指示書を印刷する必要がなくなりました。これによって1カ月あたり3,000枚の紙を削減できました」
そのほか、mcframeの導入後では、B-EN-Gがユーザ会の会員メンバーの特典として提供する「トランザクションデータ削除キット」の活用も大きな効果を上げている。新システムが稼働してから3年間が経過し、増え続けるトランザクションデータは、データベースの拡張を行うことで対応していたが、サーバーの容量が限界に近づいていた。IT推進室 松﨑涼氏は次のように語る。
「膨大化するトランザクションデータの削除が必要でした。データの大半は原価データが占めていたので、トランザクションデータ削除キットに原価データを削除する機能を追加してもらう必要がありましたが、これも対応してもらうことができました。その後、機能が追加された削除キットで2016年12月に原価データの削除を実施しました。このおかげで約41%のデータを削減でき、システムを軽量化することができました」
今後の展望を足代氏は、「今後、mcframeや周辺システムで蓄積されたデータを、いかに活用していくかが重要です。現在は、昔のように匠がいて、匠の技で何でもできるという時代ではなくなっています。そこで究極的には、昨日街を歩いていた人が、今日入社してもラインでものづくりができるような、属人性を排除した生産体制の確立が必要です。そのためにも、横河ソリューションサービスやB-EN-Gには今後もサポートを期待しています」と話している。
1919年に日本で初めてのガソリン計量機を製作して以来、ガソリン計量機の製造販売を事業として展開。国内初のガソリンサービスステーション(SS)向けPOSシステムや地下タンク在庫管理用油面計、油槽所関連機器など、独創的な製品を開発し、SSをはじめ、貯油、給油施設の設計、施工にも90年以上の実績がある。特にガソリン計量機は、国内シェア65%以上を占め、国外には東南アジアを中心に75カ国以上に製品を輸出している。
商号 | 株式会社タツノ |
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創業 | 1911年5月1日 |
資本金 | 4億8,000万円 |
従業員数 | 1,194名(2017年6月末現在) |
事業内容 | 石油用各種機器開発製造販売。ガソリンスタンド向け販売業務用OA機器製造販売。ガソリンスタンド、油槽所、工場用プラントの設計・施工。石油用各種機器の修理および維持管理。ガソリンスタンド、油槽所などの施設の土壌環境保全事業。 |
※本事例は2017年10月現在の内容です。
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