記録するシステムから「価値創造の基盤」へ。mcframe開発責任者が語るAI時代のERP再定義――mcframe Day 2026 セッションレポート

製造業向け業務システムパッケージ製品である「mcframe」が2026年に30周年を迎えた。1,094社、17カ国・地域での稼働という実績を積み上げてきた同製品は今、生成AI・エージェントAIの急速な進化と、環境対応への移行という2つの潮流の中で、その使命を「再定義」しようとしている。2026年3月12日のmcframe Day 2026に登壇したビジネスエンジニアリング取締役・商品開発本部本部長 入交俊行と、商品開発本部副本部長・中村俊一が、「AI時代のERP」「製造業のDX促進」「サーキュラーエコノミー」の3テーマを軸に、mcframeの将来の姿について語り合った。
講演者:
入交 俊行 ビジネスエンジニアリング株式会社 取締役 商品開発本部 本部長(講演時)
中村 俊一 ビジネスエンジニアリング株式会社 商品開発本部 副本部長(講演時)
講演タイトル:「mcframeの未来を"再定義"」
mcframeの開発担当役員と商品開発本部副本部長が、30年の歩みを振り返りつつ、将来のmcframeの使命と、世界の製造業に提供する次世代の価値を"再定義"する。
30年の蓄積を経て、今「再定義」が必要な理由とは?
mcframeが30周年を迎えた。その間一貫して大切にしてきたのは「安心して長くご利用いただける製造業の基幹システム」の提供という一点だ。こだわりの機能群とフレームワークコンセプトによるジャストフィットな導入、日本発グローバルへの展開、そしてユーザーコミュニティの醸成。これらが長期利用を支える柱となってきた。
しかし、外部環境は大きく変わりつつある。入交はメガトレンドとして5つの変化を示した。地政学リスクの常態化、不確実性の高い世界経済、人口構造の変化、急速に進化するAI、そして加速する気候変動だ。これらが製造業に突きつけるパラダイムシフトは多岐にわたる。価値創出の軸は「モノづくり」から「モノづくり+コトづくり」へ。製品ライフサイクルは廃棄を終点とする「Cradle to Grave」から資源を循環させる「Cradle to Cradle」へ。サプライチェーンはグローバル最適調達からレジリエンス重視の地域分散へと移行しつつある。
製造業向けのシステムにも対応が迫られる。ERPの役割は業務管理にとどまらずデータプラットフォームへ拡張され、データ活用はBIによる分析を通じた過去の振り返りからAI予測・最適化へ、業務インターフェースは画面操作からAIアシストへと変わっていく。入交はこれまでの変化への対応で十分だった時代の終わりを示唆し、「なぜ再定義が必要か」をセッション全体のテーマとして提示した。
AI時代にERPはなくなるのか。役割の変容と「業務モデル」という競争力
入交は、ある大手自動車メーカーの元役員から「AI時代にERPはどうなるのか」という質問を受けたと明かした。これに向き合う中で整理したのが、ERPと生成AIの役割分担だ。
データ確定・内部統制・処理の正確性はERPが得意とする領域であり、操作性・分析洞察・柔軟な対話は生成AIが強みを持つ。両者は競合するのではなく、「記録と統制=ERP」「理解と判断=生成AI」として共存するのが正解だという結論に達した。「生成AIがどれだけ高度化しても、ERPはなかなか不要にはなりません。しかし、使われ方と価値提供の仕方は変わってくると思います」と入交は語る。
生成AIによって、プログラミング不要で業務アプリケーションの自動生成が現実になりつつある一方で、入交は2つの限界を指摘した。1つは、例外処理や暗黙知をすべて仕様書に落とし込むことの困難さだ。もう1つは、保守性・法改正対応・監査耐性・長期継続性の限界だ。
「今までERPはどんな機能があるかが勝負でしたが、これからは提供する業務モデルそのものが競争の差別化のポイントになると思っています」と入交は語り、業務設計・保証・継続性という3要素は生成AIでは代替不可能だと強調した。
こうした認識のもと、mcframeがこれから大事にしていきたいこととして入交が掲げたのは「安心して長くご利用いただける製造業の基幹システム」という従来の軸に加え、「変化するモノづくりを支え続けるビジネス基盤」という新たな方向性だ。B-EN-Gのブランドコンセプトに「未来まで、よりそい抜く」という言葉がある。製造業から創造業へ、その変化を支えるビジネス基盤であることが、これからのmcframeの使命として示された。
ERPを核に、AIエージェントが業務を自動化する
続いてプロダクトマネジメントを統括する中村が登壇し、「AI時代のERP」「製造業のDX促進」「サーキュラーエコノミー」の3テーマに沿って、mcframeが描く具体的な未来像が示された。
AI時代のERPとして中村が最初に打ち出したのが、エージェントによる自動化だ。システムや部門の単位を「ユニット」として定義し、ユニットごとのAIエージェントとマスタAIエージェントが連携して業務を遂行する構想である。
例えば「この設計変更が及ぼす影響範囲は?」と問うと、マスタエージェントがPDMエージェント・SCMエージェント・MESエージェントに問い合わせ、在庫状況・発注残・工程への影響を統合した「影響分析レポート」を自動生成する。中村は「システムを横断してエージェントが人のように動く」と表現し、バーチャルな世界においても実際の組織と同様に業務を遂行できる仕組みを目指すとした。
BOP(Bill of Process:作業工程表)定義の自動化も構想の中核をなす。熟練者が作業している動画と解説音声をAIでテキスト化・ナレッジ化し、過去の実績データと組み合わせてBOPを自動生成する「BOPジェネレータ/オプティマイザ」だ。
技能の伝承と業務標準化を同時に実現するためのアプローチであり、現在すでに社内システムへのエージェント組み込みが進んでいるという。さらに、設計部門が扱うフラットなE-BOM(設計BOM)を製造現場で使える多階層のM-BOM(製造BOM)へ自動変換・検証するBOM変換・検証エージェントの構想も披露された。
一方で、異なるシステムが生み出すデータは粒度がそれぞれ異なり、つなぐには個別開発が必要になるという壁がある。入交は「製造360°ビュー」と題し、エージェントでその分断を解消する構想を補足した。
例えば、IoTデータとSCMデータは同じ製造データでありながらデータのフローがまったく異なる。これをエージェントでつなぎ、ベテランの「予感」をAIの重力探索によって再現する「予防的品質管理」や、顧客利用履歴からロジ・現場・設計まで全方位でつなぐトレーサビリティを実現していく。
計画立案支援の分野でも、製造現場の稼働状況に応じてデイリー計画を自動生成する「自動差立てエージェント」や、事業計画・世界情勢・市場トレンドなど複数シナリオから予算原価を策定する「予算原価シナリオ策定エージェント」の構想が示された。
「このデータ活用プラットフォームは来年度にmcframeブランドの30番目の製品としてリリースしたいと思っています」と中村が予告した「mcframe AI Agent Platform」は、こうしたエージェント群の基盤となるものだ。
企業間データをつなぎ、製品ライフサイクルを循環させる
製造業のDX促進に向け、中村が示したのは3層のプラットフォーム構想だ。中核にこれまで育ててきた「mcframe Business Application Platform(業務アプリケーション)」を置き、上位に「mcframe AI Agent Platform(データ活用基盤)」、下位に「mcframe Business Collaboration Platform(ビジネス連携基盤)」を配置する。社内の業務アプリが蓄積したデータをAIエージェントが活用し、企業間のデータ連携も含めた全体最適を目指す構造だ。
サプライチェーンについては、従来の二者間P2P型インターフェースから次世代のネットワーク型サービスへの移行を掲げた。すでに提供しているサービスである「Business b-ridge」をさらに発展させ、受発注データだけでなく環境データや品質データまで社内外で共有できる仕組みを目指す。
経済性と環境性の両立については、原価企画と環境企画を共通のBOM・共通データで評価する仕組みをAIシミュレーションと組み合わせて実現していく。
製造業が直面するもう1つの大きな課題がサーキュラーエコノミーへの対応だ。環境・資源問題の深刻化、規制・政策の強化、市場・サプライチェーンの要請、そしてビジネス機会の創出という4つの変化圧力を整理した上で、PLM(プロダクトライフサイクルマネジメント)の転換を論じた。従来のPLMは需要追従を主眼とした「設計→調達→製造→販売→廃棄」のリニアな流れだった。これからの「真のPLM」は、利用・修理・回収・再生という8つのフェーズを循環させ、製品の生涯収益を拡大し続けるモデルだと中村は説く。
修理できる設計、回収・再生産を前提とした製品企画、そして経済性と環境性を共通のBOMと実績データで評価する仕組みが、その実現を支える。「延命や再生を含め、まさに企業の存在意義・理念が問われる時代が来ると思っています」と中村は語り、そうした姿勢を持って製品の全ライフサイクルを経営の軸に据えることが、これからの真のPLMだと訴えた。
データ活用だけでなく、それを支えるセキュリティ・ガバナンスも重要となる。基幹システムとしてのmcframeに求められる対応として中村が挙げたのは、ゼロトラストアーキテクチャによる認証・アクセス権限管理、AIプロンプトの管理と妥当性確認・人間によるファイナルチェック、障害時のバックアップと早期復旧、SBOMによるソフトウェア信頼性管理とISO・SOC等の法的認証取得、そしてデータ損失・個人情報流出の防止という5点だ。
中でも入交は「プロンプトインジェクションへの対策を講じなければ、データを抜き放題にされてしまう。このようなリスクに対応できなければ、サービスとして提供することはできません」と語り、AIを活用する基盤としての安全性確保の重要性を強調した。
mcframeの進化の3フェーズと、製造業の未来を変えるMVV
続いてテーマは「製造業を創造業へ」に移り、mcframeの進化の方向性が示された。入交が描いたのは3フェーズの進化だ。これまでのmcframeは「Process ERP:業務プロセス中心」のフェーズ1だった。これからは「Data Platform:データ統合基盤」のフェーズ2へ移行し、その先に「AI Driven Manufacturing:AIによる意思決定」というフェーズ3を見据える。
中村はこの流れに、自らが実現したいmcframeの姿を重ねた。長くご利用いただくための安心感を継続的に提供し続けながら、製造業のライフサイクルの考え方を変えていく。中村は業務モデルとエージェントを組み合わせ、「エージェントを使って業務を自動で実行する」という構想を語り、「mcframeが製造業を操業していく、そのような世界を実現できればと思っています」と期待を示した。人は大事な判断とイレギュラーへの対処、そして新たな価値の創出に集中できる世界だ。
入交はそこに「創造業を支えるビジネスプラットフォーム」という視点を加えた。粒度の異なるデータを関連付けてサプライチェーン全体に流通させ、創造的な発想を促す示唆を提供する。「今までは記録を担うシステムだったものが、価値創造に関わっていくようなシステムにしていきたいと思っています」と語った。
最後に中村が示したMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)が、この構想全体を言語化した。ミッションは「モノづくりの業務とデータをつなぎ、企業の意思決定を進化させる」。ビジョンは「製造業のデータが集まり、価値を生み続けるビジネスプラットフォームになる」。5つのバリューとして「業務の本質を理解する」「データを中心に設計する」「すべてをつなぐ」「変化に適応する」「モノづくりの未来に貢献する」が掲げられた。
セッションの最後に入交は「製造業から創造業へ。これを本当に真剣に考えています。工場を動かすだけの仕組みから製品ライフサイクル全体を回す仕組みへ、製造業の未来を大きく拓いていきたい」と締めくくった。

