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コラム

安全衛生教育

動画・図書教材とVR教材で安全教育への効果はどう変わるか その2

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さてここで、先に述べた従来の教育手法とVRを使った教育手法(以下、VR教材という)との、それぞれの違いについて触れていきましょう。

テキストなどの図書教材とVR教材との違い

これらの違いは、最もわかりやすいでしょう。テキストなどの図書教材には無くてVRには有る最大の特徴といえば、自在に見渡せる映像と音声があることです。ただ、映像や音声さえあれば良い教育ができるというものではありません。ここで、教材の有るべき姿という視点から、図書教材とVR教材の違いについて見ていきましょう。

前述の教科書やテキストなどの図書教材には写真やイラストを用いたものも存在していましたが、あくまで紙に描かれたり印刷されたりするようなアナログ情報です。※1

これら写真やイラストの本来の目的は読み手が文字だけでは表現しきれない情報を得られることにあります。ただ、写真には事実をそのまま捉えることができるというメリットがある一方で、何の場面かなど解釈を添えないと伝わりにくいこともあります。また、イラストはその絵師の技術や思想等による個人差が現れるため、見聞きしたものとは程遠く表現されることもあり、事実を上手く表現しているものもあれば、わざと歪曲させるようなものもあります。※2

もちろん、理想とする人間を教育によって作り上げるには、是とする正義を刷り込み、非とする悪を拒絶させ、年代や世代をも超えて思想を統一させていくことが最も効果的でしょう。しかし、もし正義を掲げて、事実を曲げてまで情報を与えることがあるならば、その教育は”正しくない教育である”と言えましょう。というのは、そういった教育のもとに育った人間同士によって、特定の国や人種や文化を悪と決めつけて排除しようとする思想に支配された行動の結果、戦争は引き起こされてきた歴史があるからです。悲しいかな、現在においても人間社会の和平に歪みをもたらせてしまうほどの影響力を持つ人間や組織を誕生させてしまっていることは言うまでもありません。

※1:教科書とは、「小学校、中学校、高等学校、中等教育学校及びこれらに準ずる学校において、教科課程の構成に応じて組織排列された教科の主たる教材として、教授の用に供せられる児童又は生徒用図書(教科書の発行に関する臨時措置法第2条)」をいい、ここでは紙面のもののみを指す。

※2:例えば「蒙古襲来絵詞(もうこしゅうらいえことば)」などを指す。”テキスト”という言葉は世間一般にありふれており、広義の”テキスト”とは文字やその文書全体を示します。

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では、学校教育における図書教材はどうでしょうか。近年ではGIGAスクール構想により、従来の書面に加えタブレット端末も活用されるようになってきました。※3

これは、図書教材によって伝達できる情報量には限界があるということを示唆しており、教育内容の拡充にとどまらず、その正確性や効率なども向上できると見込まれているからでもあります。しかし、単に教育内容を拡充するだけでは、学ぶ生徒の習熟量が大きくなるにつれてその習熟度が低くなるなどの影響が予想され、同様に教える教諭等の負担が重くなることが懸念されています。

タブレット端末は、その処理速度だけでなく使用周辺環境の技術進歩もあって、膨大な情報を共有できるようになりました。インプットにしてもアウトプットにしても画像が主流となり、さらには音声さえデジタル化され、視聴覚に飛び込んでくるようになりました。今や、文字のみの図書教材は存在しないといっても過言ではないでしょう。ただ、タブレット端末は、図書教材をデジタルデータに置き換えて表示する電気機器のひとつに過ぎません。つまり、もしデジタル化の対象となる図書教材の内容が前述の”理想とする人間を教育によって作り上げる”ためだけに利用されるのであれば、いくら情報量が多く、誤記がなく、効率が上がるものであろうと、教育の本懐を果たすことは困難です。人に正しいことを教え、育て、正しい行動を取らせるためには、やはり事実や史実を曲げずに伝え、また受講者本人が感じたことを通じて学ぶほかありません。では、VR教材ならどうでしょうか。※4

VR教材は一般的に、原因と結果が結びつくプロセスそのものを題材とし、視覚と聴覚をフル活用して実習します。例えば、作業手順の学習です。作業手順は、安全や品質だけでなく生産効率や顧客満足度などもクリアできるよう、非常に高レベルな学習が必要になります。これをテキストなどの図書教材や写真やイラストだけで伝えきることは困難です。しかしVR教材を用いれば、求める結果に結びつく全ての情報が受講者に届き、みるみるうちに結果を出せる人材を育てることができるでしょう。とくに、実写映像を用いたプロセスそのものを作業手順とすれば、受講者は事実の全てを目の当たりにすることができるため、求める結果が理想や空想に終わることはなくなるでしょう。※5

また、失敗に至るケースを題材にして、その失敗を招く原因を確実に捉えさせることもできるでしょう。例えば、保守点検作業の手順を正確に覚えていたとしても、その異常を検知できるスキルが身についていないと保守点検作業は意味を成しません。これは、”異常状態の上に成り立つ失敗”、さらには”異常状態となる原因”を習得する必要があることを意味します。ただ、事故や災害に繋がってしまう”異常状態”を、現場で再現することは許されません。よって、このような異常を検知できるスキルの向上にも、VR教材は効果的です。

このように、受講者本人にその事実を教え、体感できる機会を与え、総じて正しい学びを得る方法は、VR教材が最適であるといえるのではないでしょうか。

※3:GIGAスクール構想…全ての小中学生に1人1台のパソコンやタブレット端末を配る国の事業。「Global and Innovation Gateway for All」の頭文字で「すべての子どもたちに、グローバルで革新的な入り口を」という意味になる。2019年3月時点の配備状況の全国平均は5・4人に1台だった。国は19年末、23年度末に1人1台を実現する目標に掲げたが、コロナ禍の影響でオンライン学習が必要になったこともあり、20年度内に早めた。(出典:朝日新聞デジタル「端末1人1台、変わる授業・教育現場 見崎浩一 2021年6月27日」)

※4:VRとは、 virtual reality (ヴァーチャルリアリティ)の略称で、現物・実物(オリジナル)ではないが機能としての本質は同じであるような環境を、ユーザーの五感を含む感覚を刺激することにより理工学的に作り出す技術およびその体系をいい、ここでは主に、コンピューターグラフィックや実写の加工などによる視聴覚教材としての映像と音声の複合物を指す。

※5:作業手順は、手順書、マニュアルとも言うことがある。手順書 (てじゅんしょ)は、業務や作業を行う手順を文書化して、どの作業者でも同じ質の作業を実行できるよう、作業手順が明確化されたもの。作業計画書、作業手順書、作業標準書などとも呼ばれる。(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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DVDなどの動画教材とVR教材との違い

動画教材は、予め伝えたいメッセージを込めたシナリオや学習内容を中心とした動画によって、必要な知識に加え当事者の感情の動きや行動を自分に置き換えてシミュレーションすることができるため、図書教材では伝えられない情報を受講者に伝えられます。

しかし、上記のような手法を用いても、教育として実現が困難な安全理論もあります。例えば、「災害は、不安全状態と不安全行動とが重なった時に起きる※6」という理論です。これは、動画教材において、いくら俳優が災害に遭ったように見せかけたとしても、あくまで”演技のワンシーン”であることから、自分の身に起きることとして自覚しにくいというデメリットが働くからです。それに加えて、過去の災害を再現したとしても、その原因が誰でも想像できる場合や、禁止されているルールをわざとらしく破った不安全行動が原因となり災害が引き起こされる場合では、それらの原因が災害の結果に直結するのか疑問が残ることがあります。こうなると、動画教材の内容が”やらせ”のように見えてしまい、印象に残らないことにもなりかねません。かといって、俳優に過去の災害をそのまま再現させるというわけにもいかず、俳優の代わりに人形で同様の災害を再現したとしても人形の視点や痛みまで分かるはずもありません。

そこで、過去の災害をVR教材で再現してみるとどうでしょうか。まず、自分の視点が被災者の主観となり、全方向自在に見渡すことができます。また、ヘッドセット等を通じて聴覚にも刺激を与えることができるため、過去の災害などを再現した音を、主観的に捉えることが可能になります。これら視覚、聴覚への効果により教材に没頭しやすくなり、自分の身に起きることへの自覚と危険に対する恐怖感が強くなります。さらに、VR教材では触覚や嗅覚を刺激するような機材等と連動させて、より一層現実に近い形で再現することも可能です。

このように、VR教材は、DVD等の動画教材では再現しきれない情報まで拡充することができ、必要に応じて連動する機材等も併せて用いることによって、より一層、危険に対する感受性を高めることが期待されているのです。

※6:労働災害は、何らかの安全衛生管理上の欠陥が存在し、それが不安全な行動、不安全な状態を許し、それが接触することにより、発生すると考えられている。(出典:一般社団法人 中小建設業特別教育協会HP

安全道場などの体感教育施設とVR教材との違い

災害の起因物となる実物とそのシチュエーションをリアルに目の当たりにでき、より具体的に危険教育を実施できる設備といえば、安全道場などの体感教育施設でしょう。例えば、ベルトコンベアに腕を巻き込まれて胴から引きちぎられた災害を再現する危険体感施設を設けた場合、受講者に直接自分の手を入れさせるわけにはいかないため、模型や人形などの疑似の手を入れさせて、その腕まで巻き込まれてベルトとローラーの間につぶされながら胴から引きちぎられていく様子を目の当たりにします。このような施設における受講者への危険教育の効果としては、テキスト等の図書教材やDVDなどの動画教材よりもはるかに大きく危険感受性が向上することが期待されるでしょう。

ただ前述の通り、すべてがリアルに体感できるというメリットがある反面、そのような施設を開設する場所とその設備費用の捻出が支障となりやすいです。また、災害リスクが高い状態の設備を受講者に体感させることになるため、必ず設備ごとに、訓練を受けたインストラクターが指導する必要があります。かつ、毎回使い捨てる消耗品や維持管理するための物品が発生することによる費用も考慮しておく必要があります。

また、爆発災害や交通災害などの滅多に遭遇しないシナリオかつそのリスクが及ぶ範囲が非常に広く大きいような災害に対しては、その事象が大事故を招く恐れがあるため、再現することは不可能です。

そこで、VR教材を用いると、安全道場などの体感教育施設のメリットを活かしながら、デメリットをカバーしてくれます。まず、VR教材は一般に1台あれば複数の体感教育が可能となるため、体感教育施設のように設備を設置する場所や費用を確保したり、設備間を移動する必要が無くなります。次に、災害を引き起こす設備は使用せず、疑似的に体感することに置き換えるため、体感教育に伴うリスクは限りなくゼロになります。このため、設備ごとにインストラクターを配置する必要もなくなります。そして、消耗品も維持管理物品も不要となります。強いて言うなら、VR教材を丁寧に扱いバージョンアップを欠かさない程度の保守は必要です。さらに、VR教材なら、爆発や交通災害などの大事故まで再現することも可能です。

このように、災害を自分が目の当たりにする体感教育施設のメリットを活かしつつ、図書教材や動画教材、体感教育施設のデメリットをカバーできて、危険感受性の向上を図れるものは、やはりVR教材しかないと考えます。

次章に続く

野間 義広
野間 義広
労働安全コンサルタント(化−第591号) 製造業や建設業などにおける危険有害作業経験と管理経験を併せ持ち、歯に衣着せぬコンサルティングで多方面から信頼を得ている安全衛生専門家。安全診断業務のほか、安全衛生推進者養成講習や各種特別教育などの安全衛生教育講師、業務支援コンテンツ制作やVR教育の普及に取り組んでいる。日本労働安全衛生コンサルタント会会員。