Chinese | English

03-3510-1616 受付時間 9:00〜17:00(土日除く)

お問い合わせ 資料請求

 

  • HOME
  • コラム
  • グローバルに通用するCFOが求められている【連載第2回】~アジア通貨危機格闘記~

コラム

グローバル

グローバルに通用するCFOが求められている【連載第2回】~アジア通貨危機格闘記~

グローバルに通用するCFOが求められている【連載第2回】~アジア通貨危機格闘記~ 

本稿の第2回目として、1997年から98年にかけて起こったタイバーツを始めとするアジアの新興国通貨の大暴落の際に、筆者が実際に経験した韓国でのウォンの下落にともなう対応について、ご紹介するとともに、そこでの気づきを共有させていただきます。

韓国通貨危機の概要

図表1

1997年5月14日、15日にヘッジファンドがタイバーツを売り浴びせ、タイバーツは大幅に下落しました。 その後、マレーシアリンギッド、インドネシアルピア、フィリピンペソ、米ドルに対する固定レート(ドルペッグ制)を採用していた香港ドルも影響を受けました。

韓国ウォンは、図表のとおり、800ウォン/米ドルだった為替レートが、一挙に2400ウォン/米ドルまで、急落しました。
当時、筆者はある米国企業の日本法人と韓国法人のCFOを兼務していました。 米国本社から製品を100%輸入して、韓国国内で販売している販社機能しかない韓国法人の今後の業績は、仕入れ単価が3倍に跳ね上がるために、予想もつかないものでした。

また、多くの企業が倒産したり、経営状況が相当厳しくなり、韓国経済は不況のどん底に突き落とされました。
その後、国際通貨基金(IMF)が、経済支援を始めたのですが、ソウル市内の多くの食堂では、「IMF定食」というメニューがかなりはやりました。
その心は、“I’m fired”、「私はクビにされた」という、国際通貨基金と語呂合わせをした、ブラックジョークが、街の定食屋さんのメニューにも、ここかしこに見られたのです。

大手の銀行も経営危機がささやかれる中、日本の銀行と同様に、銀行の支店の窓に、預金等にキャンペーンを案内する表示をしているのですが、このときは、目を疑いました。
通常の店頭での、一年ものの定期預金の利率が、24%でした。そこまでして、資金調達をする必要がある状況だったということですね。

筆者が直面した銀行からの貸しはがし

当時、日本と韓国の現地法人のCFOを兼務しており、毎月第3週をソウルに出張ベースで仕事をしていました。
通貨危機が始まって数か月経ったころ、韓国の経理マネージャーから連絡が入りました。 「融資を受けている米国銀行のソウル支店から、次の期限で更新をしない」と。
私は何かの間違いだろうと、何度も確認をしましたが、そのマネージャーは、間違いはない。そう言ってきたことに間違いはないと、言いきります。

米国本社のトレジャラー(執行役員で、資金管理のトップ)にも、直接電話で質問しました。
その米国銀行とは、どういう取引状況か?
韓国では、融資を更新しないと一方的に言ってきているが、本店は認識しているのか? 仮に事実だとして、交渉の余地はあるのか?
トレジャラーは、寝耳に水の情報だったようで、アメリカではまったく取引に問題はなく、担当のアカウントオフィサーは、積極的に取引拡大をしたいと考えていると、聞いているとのことでした。
案の定、トレジャラーが確認した後の、その米銀本店からの返事も、韓国で起こっていることは、びっくりしているとのことでした。

その連絡を受けたのが、第2週だったので、翌週の韓国での予定は、この融資継続の交渉を優先順位トップにして韓国に赴きました。
米銀のソウル支店に到着して、挨拶をする間もなく、担当者が言います。
「申し訳ないですが、融資を継続することはできません。次の期日で全額返済をお願いします」。
取り付く島もないとは、このことです。

私は、本社のトレジャラー経由、本店の意向も確認してきたこと、韓国ウォン為替の急落で、輸入コストが大幅に跳ね上がり、運転資金ニーズが高まっていること等を伝えましたが、彼らの回答は以下のものでした。
「米国サイドがどう言おうと、アジアの責任者は、アセット(融資残高)を減らせと命令している」と。
確かに、どうなるかわからない経済状況で、融資残高というリスクを削減するのは金融機関としては、当然考えることでしょう。
私は、「わかった、段取りについては、後日連絡する」と、話しても埒が明かないことが分かったために、米銀のソウル支店を後にしました。
そこからが大変です。

付き合いのあった、他の米銀、邦銀等に掛け合いましたが、どこもウォンで融資をしてくれる銀行はありません。金利の高低の交渉ではなく、まず、韓国ウォンで資金を出せないと。
ある邦銀は、相当検討してくれて、私の会社の日本法人に円で融資をすることはできます。日本法人から日本円をウォンに変えて、融資をされては如何でしょうか?と提案をしてくれました。
しかしながら、当時の韓国の外為規制は、韓国外でウォンの調達を禁止していました。 成田空港でも、ウォンの両替はできずに、金浦空港に到着してから両替をしていました。

ということは、この提案は、日本法人が乱高下している韓国ウォンに対しての為替リスクを日本法人が負うということで、社内規定に抵触する取引であり、最後の手段として使っても、そのまま直ぐに、実行出来る方法ではありませんでした。
月曜からの1週間の予定で、火曜日には、万策尽きたかと思われました。

起死回生のアイデア

その夜、フッと、突然ひらめいたアイデアがありました。
米国本社に増資をしてもらうという案です。
アジアの夜は、アメリカは日中ですので、即座に、トレジャラーに直接電話をして、増資の可否について相談しました。
おおよそのバランスシートの状況、当面必要な運転資金、米銀に対する返済資金等、韓国法人にとっては大きな金額も、本社では対応できる金額です。

米ドル建てで、資金ニーズとタイミングを話して、トレジャラーには対応の方向性についての合意を得られました
。 で、私の質問。
「次のOfficers Meetingの議題の締め切りはいつだっけ?」
「先週末に終わった」。
トレジャラーが、たまたまその時点での議題のとりまとめ部署の責任者であったため、答えは早かったのですが、先週末。
そこで、早急に稟議をあげるので、滑り込ませてほしいと頼んだところ、CFOにも口頭で了解をとってもらい、議案に採用され、執行機関であるオフィサーズ ミーティング、承認を得ることができました。

実行上の大きな障害

さて、米ドル換算で、増資の承認は取れたものの、ここからまた、大きな障害に阻まれました。 韓国の登記手続きは、ほぼ、日本の商法(現在の会社法)と非常に似ており、金銭での増資の際には、銀行に振り込んで、銀行から資金の保管証明を取り付けて、登記申請書に添付して提出するという手続です。

韓国での登記は、使用する通貨は韓国ウォンです。
しかしながら、韓国外であるアメリカからは、ウォンでの送金は、外為法の規制でできないことに変わりはありません。
ここでの障害は、米国本社は、何米ドル送金するかでした。
韓国ウォン換算後、1ウォン欠けても、増資できません。

律事務所に増資手続の文書一式を作成してもらい、乱高下している為替を見ながら、スポットでの予約も取れない中、増資金額を韓国ウォンで満たすべく、1日前のアメリカから極東に韓国に送金をしてもらうということで、いくら本社が送金するかが、ギリギリまで調整が必要でした。

読者のみなさんは、少し多めに支払っておいて、後で調整をすればいいではないかとお考えの方もおられるかと思います。
しかし、米国企業の資金管理を行う、金融機関出身者たちは、アイドルキャッシュ(無駄な資金)を発生させることを、極度に嫌がります。

日本から、円建てで利益配当等の支払いをするような場合、彼らがBestだと考えるレートを提示した銀行に、事前に日本円から米ドルに転換する為替予約を数日前から仕込んでおき、そこの銀行支店の外為デスク宛に、為替予約番号###の実行という宛先に外国送金を行います。
そこで、円というそのまま米国では使えない通貨ではなく、納得できるレートで米ドルにしてしまうような準備を仕込んでおき、実際に資金が到着した際には、そのまま機械的に事務が進められて、米ドルが入金されるようにしています。

逆の立場で、いくら為替レートが乱高下しているとはいえ、ギリギリの線を狙ってきてオペレーションを行おうとします。
1週間の日中は、ソウルで法律事務所、会計事務所、銀行等と折衝を行い、夜はアメリカと調整、確認をしていた週だったので、相当疲れていました。
最後の金曜の夜であり、送金実施日の前週でしたが、電話会議があり、送金金額の詰めをした際に、とうとう「少し多めに送金するから、余ったら、おまえ取っとけ!」と冗談ですが、言ってもらい、無事想定増資金額に欠けることなく、無事、増資が完了しました。

この一連の危機対応を通じた学びについて

まず、多くの社内外の関係者の方々に、お世話になりました。
自分ひとりでは、何もできなかったと、今も振り返って、痛切に感じます。 しかし、黙っていては、誰も助けてはくれないので、フェアーに、ファクト(事実)をつかんで、適切にアピール、応援の依頼をすることも重要だったと思います。

また、好奇心旺盛で、なんでも、疑問に感じたことを、質問して教えてもらっていたことで、日本国外での、緊急対応においても、ある程度のベースとなる知識があり、試行錯誤しながらも、複数の枠組みを同時に検討しながら進めることができたかと思います。
最後に、途中でギブアップすることなく、必ず、解決できると信じて、取り組んだことで、大混乱の韓国においても、比較的スムーズにその後の事業展開にもつながる資金手当てができました。

最後に

上記のような通貨危機の前から、韓国法人での採用面接を行っていました。
面接を実施した応募者の約10人に一人が、「なぜ、米国企業の韓国法人の採用面接に、日本人が面接をしているのか?」と、ストレートに質問を受けていました。
英語での面接で、少なくとも、一定レベル以上の優秀な候補者たちでしたが、このような質問を受けました。
事の良し悪し、是非はともかく、事実としてこのような感情をもっていらっしゃる方がおられます。

そんな中、当時の韓国経済は、多くの企業が倒産し、財閥は事業縮小や撤退を余儀なくされたりしていた中で、韓国法人に努める若手社員たちも、「伊藤さんのおかげで、自分たちは仕事が継続でき、給料ももらい続けていられる。感謝しています。」と言ってもらいました。
また、韓国法人の任期が切れ、韓国法人との接点がなくなる際には、若手社員たちからもお金を出し合って、ブランド物のネクタイをプレゼントされました。

日本企業の在外子会社に赴任されている方々が、大変ご苦労されておられるかと思いますが、誰かが作った「教科書的正解」を追い求めるだけではなく、顔の見える、自分にはこれしかできないと、腹をくくって対応してみることで、活路が開けたりするのではないでしょうか?
英語も得意ではなく、帰国子女のみなさんには到底かなわない、レベルの低さではありますが、なんとか、目先の問題を解決しようとして取り組んで、経験させていただいた内容を元に、次号以降も、お伝えできればと思っております。
読者の皆様のご参考に、少しでもなれば、幸いに存じます。

漫画_世界で闘う準備はあるか
伊藤 雅彦 氏
伊藤 雅彦 氏
株式会社デルタウィンCFOパートナーズ
代表取締役社長
複数の米国企業の日本法人、韓国法人のCFOを務めた後、コンサルティング業界に移り、アーンストアンドヤングアドバイザリー株式会社でシニアパートナー、アーンストアンドヤングのアドバイザリー部門で業績改善プラクティスの日本エリアリーダーを務める。2013年より現職。
企業の財務管理機能強化を支援すべく、企業向け研修、CFO人材紹介、財務コンサルティング、個人向けCFO錬成道場等を提供している。 http://www.deltawin.com/