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コラム

グローバル・オペレーションの基本編

第2回『「没問題! No Problem!」大丈夫!?』

グローバル・オペレーションの基本編

「問題ない」と言う言葉に含まれる責任

江戸時代、近松門左衛門が活躍していた時代から、日本人は、一度口に出した義務感を義理として尊んできた。同時に人間的な思いを「人情」として尊んできた。それが信用というものであった。(残念ながら最近はその傾向は薄れてきた)「問題ありません」「大丈夫です」と一度言ったからには、道義的な責任を強く感じるものである。一度「問題ない」と口にしたら、たとえ不測の事態で問題が発生してもそれを全力で解決しようとする。また、約束を守ることができなかった場合は、たとえ自分の過失によるものではなくても恥じ入るばかりに謝り、約束が守れなかったことに対する代替案をなんとか出そうと必死に努力する。このような姿勢が、「信用」をもたらし、その後の円滑なビジネスにつながるという社会的な側面が日本にはある。そして、筆者自身それを気に入っている。
一方、契約社会の欧米はどうだろうか。やはり一度「No Problem!」と口に出すことは「責任」を負うことを意味していて軽はずみには言うことはない。どんなことでも言うことを聞かなければならないことになる"白紙委任契約"は、欧米ではまず有り得ない。当然、「かくかくしかじかの条件下では問題ない」と、明確に制約条件をつけてくる。日本人のように、あいまいに、包括的な思いで「問題ない」と言うのとは、全く意味合いが異なる。

「問題ない」は世界共通でない

海外の取引先と仕事をしていても、「問題ない」「大丈夫」という言葉を頻繁に聞く。しかし困るのは、コミットメントとは違う"前向きな姿勢"を意味する「問題ない」「大丈夫」の言葉である。「○月○日までに出来るか?」「大丈夫。問題ない」という会話を交わしたものの、それが反故にされることがある。
しかし、彼らは出来ないと分かっていることを出来るとは言わない。"出来ると思う"、"頑張れば出来るだろう"、"なんとかやってみたい"と、なにかしらの思いを持った上で「出来る」と言うのが普通である。しかし、実際にやってみて出来なかった場合や何か問題が発生した場合は、"最大限努力した"、"最初は出来ると思っていた"、"こういう理由で出来ない状況になった"、"自分は悪くない"などと理由を言うものの、最初に「出来る」と言ったことに対して悪びれることはあまりない。こういうやりとりに業を煮やした諸兄も多いと思う。
このような経験をして、「誰それは信用できない」「あの国は信用できない」と言うのは簡単であるが、もう少し冷静にとらえてみては如何だろうか。

国が変われば文化も変わる

当たり前の話だが、国が変われば文化も、考え方も変わる。相手の人間的な誠実さと、仕事の上での態度表明を混同してはいけない。応じる我々が、その国なりの「問題ない」の意図を汲んで行動する必要がある。そもそも、彼・彼女らは、どういう時、「問題ない」と言うのだろうか。大丈夫な根拠があって問題ないと言っている場合もある。結果に不安があっても"自分は出来ません"と言うことへの恥をベースとした面子のために問題ないと言っている場合もある。あるいは、何も深く考えずに軽く安請け合いして問題ないといっている場合もある。どの程度の実現度や思いで「問題ない」と言っているのか、問いかける側が判断する必要がある。
相手が自社社員であったり、自社の在外法人社員や関連会社の社員である場合は、我々日本人とのコミュニケーション精度の向上を目指した教育も必要だ。しかし、取引先という関係であれば結局のところ、どのような論理で相手が問題ないと結論付けたのか"根拠付ける確証"を問いかける側が確認するより他ない。無論、実務の世界では不確定要素が多分にあるが(それは日本社会でも同様)、問題ないと判断するに至る裏づけが妥当なのか否かを、問いかける側が判断することが最大のリスク回避策となる。
やっかいなのは面子を保つために「問題ない」といっている場合だ。「問題ない」の裏づけを厳格に追求すると相手の弱い点を暴露して追い込むことになりかねない。場合によっては、議論が感情的にこじれてしまう危険性がある。相手の思いを尊重しながらも、何が不安要素なのかを見極めることが肝要だ。

「問題ない」と上手につきあうには


「問題ない」と言う相手の言葉に翻弄されて不満や文句を言うというのは、相手の論理力ではなく、問いかける側の論理力・質問力に問題があったのではと内省すべきではないか。
立ち返って考えると、我々日本人同士でも全く同じことが言えるように思う。「問題ない」と言う言葉を信用して、いざ問題が発生したときに、相手を責めるのは、大和魂を持つビジネスマンの姿勢としては如何なものだろうか。それよりも、相手の「問題ない」の言葉の妥当性を常に意識して問いかけるという習慣をつけるほうが大事だと思う。そうすることで、「問題ない」の確度を高めリスク低減につながり、結果としてよりよいコミュニケーションが出来るのではなかろうか。
工場管理(日刊工業新聞社)2012.9月号Change is チャンス!『改善改革仕掛け人風雲記』 より
        (工場管理(日刊工業新聞社)2012.9月号Change is チャンス!『改善改革仕掛け人風雲記』 より)

第3回コラム「情けは人のためならず?」に続く

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古谷 賢一 氏
古谷 賢一 氏
ジェムコ日本経営 本部長コンサルタント 大手メーカーで設計開発から製造までの幅広い経験を持つ。品質保証責任者や海外拠点のマネジメント等の要職を歴任後、ジェムコ日本経営に入社。直近では、製造業の海外拠点の改善改革プロジェクトを多数手がけている。現場に密着したきめ細かい実践指導が身上。
株式会社ジェムコ日本経営