第1回『今や経営課題になった「グローバル原価」』【本気で連結業績を向上するための経営管理】
古くて新しい原価問題
製造業の根幹はモノづくりであり、その良否を金額情報として提供する「原価情報」が重要であることは言うまでもありません。また、サービス業や物流業などにおいても、サービスや役務の原価情報は、コスト低減や収益管理などにおいて重要な役割を担っています。
できるだけ「正しい原価」を掴むというのは、いわば永遠の課題とも言えるテーマですが、筆者の経験では特に1990年代から2000年代初頭にかけて重要な取組テーマとなっていたことが多かったと感じています。それは以下にあげるような、バブル崩壊後のモノづくりの変化やITの変化に起因していたと思います。
その後は、やや原価管理に関する取組は落ち着いてきたかと思っていましたが、ここ数年は従来とは異なる背景から再び原価に関する取組が急増してきていると感じています。そのキーワードはことごとく「グローバル原価」であると言っても過言ではありません。
「グローバル原価」課題
日本の製造業の海外生産比率は、常に見通し以上のスピードで増加の一途をたどっています。
このように海外生産が増加すると、国内では見えていたモノづくりの実態が段々と本社に居ては見えづらくなり、各生産拠点で生産されている製品の原価がいくらかということもなかなか分からないばかりか、各生産拠点がどのような原価計算を行っているかも分からないというケースも少なくありません。
一方では、各生産拠点個別での原価改善活動にも「やりつくし感」があり、グローバルでの原価低減活動が必要になってきています。また、連結収益管理を行うためには、各生産拠点の原価情報が土台となりますが、その妥当性が明確でないという問題も出てきます。特に、前工程と後工程が会社や国をまたがっている場合には、本当の製品原価を把握するためには、最終製品を生産している工場の原価だけではなく、「連結原価」を把握しなければならないという問題もあります。最終工程の製品原価では、前工程の固定費や利益がすべて「原材料費」として計上されてしまうからです。
更には、販売拠点と生産拠点とが会社が異なるだけではなく、地理的にも相当離れている(例:中国工場の製品を欧州で販売する)ということも珍しくなくなってきているため、各生産拠点の原価をグローバルで共有しなければ、売価見積・売価決定がタイムリーにできないという問題も生じてきています。欧州のお客様の見積依頼内容を中国工場に理解してもらい、中国工場の原価見積が出てくるのを待ち、その内容を理解してお客様の見積依頼回答に置き換えるということを一から行っていたのでは、商談に間に合わないケースが多発してしまいます。
このように、グローバル原価低減、連結収益管理、グローバル原価企画といった企業活動の根幹部分でグローバルな原価情報の重要性は高まる一方ですが、そのような原価情報がグローバルには共有できていない企業が極めて多く、「グローバル原価」というテーマが非常に注目されているものと思います。
次回からは、このような「グローバル原価」問題に焦点を絞り、グローバル原価低減・原価企画のための情報整備、特に前工程と後工程とが異なる生産拠点で製品が生産されている場合に必要となる「連結原価計算」を中心に検討していきたいと思います。