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在庫管理編

第6回 『ヘドロ在庫の解決アプローチ ~その4~』

在庫管理編

ここまで解説してきた新ABC分析や問題構造分析が、現状把握によるヘドロ在庫削減直結の打ち手を考えることを主眼とした「対症療法」だったのに対し、今回のテーマ「KPIによるスコアカード運用」は、永続的にヘドロ在庫を発生させないマネジメントを体系化していく「原因療法」と言えます。まずは以下の図1をご覧下さい。

図1:製品在庫管理に関する全社KPI例図1:製品在庫管理に関する全社KPI例

ヘドロ在庫を発生させず、全体の在庫削減を行う第一歩は、上記図1にあるような在庫削減に関するKPI(Key Performance Indicator:業績評価指標)を設定し、改善/改革を推進することです。

なお、図1は例であり在庫日数を在庫回転率で管理してもまったく問題はありません。但し、できるなら全社員が最も分かりやすい指標を十分検討し実行することが望ましいでしょう。

KPIに対する目標値の設定

KPIが設定されても目標がなければ意味がありません。ここで言う目標は、「経営計画より展開され作成される目標」あるいは「現場改善の積み上げで作成される目標」による2つのアプローチのどちらかで作成できます。
どちらが良いかは会社によって違いますが、一般的には「経営計画より展開」された目標の方が、設定される数字としては良いと言えます。なぜなら、経営計画自体が競合他社に勝つための施策/目標数値を記述しており、本コラムで想定する在庫削減プロジェクトも当然ながらこの経営計画達成に寄与する使命を帯びているからなのです。但し期中に急激な市場変化が発生し、急遽プロジェクトを立ち上げた場合、経営方針(の変更)が明確でない場合もあります。その場合、競合他社動向を必ず調査し検討材料に入れて下さい。いずれにしても「他社に勝つための目標設定」であることを忘れないようにして下さい。

在庫削減と対立するKPIの設定

在庫削減を実施する際に必ず争点となるのは、「在庫削減を進めると納入率が悪化してしまうのではないか」という議論です。
例えば部品/素材系メーカーであれば、完成品メーカーは大概仕入先評価を行っており、納入率という項目は評価配点が高い傾向がある一方、D区分(=ヘドロ在庫)品に関して納入率を上げることは自社さらには顧客の首を絞めることとなります。D区分品の即納とは在庫を抱えているということであり、在庫はヘドロで満杯になっていることが考えられるからです。これでは納入価格を下げることはできないため、(極論ですが)D区分品は他社に転注してもらったほうが良いことだってあり得るのです。
実際、ある部品メーカーでD区分品の販売を中止し顧客は同様の製品を販売していた他社に発注を切り替えたところ、実は転注先もこの製品はD区分ということで困っていたが転注によってC区分に昇格した、という話もありました。
図2をご覧下さい。前出の図1「在庫削減」と並んで「欠品抑制」も睨んで管理し市場動向に追従できるよう、A~D区分で欠品率を設定し目標を置いています。
最終的にはこのような対立2KPI目標を同時に達成した時、必ず他社に打ち勝つ仕組みが自社の中に備わっているはずです。
図2:在庫削減と対立するKPIの設定

図2:在庫削減と対立するKPIの設定

それでは、どのようにしてこのような対立指標を取り扱いながら管理していけば良いのでしょうか。前出の図1にある「D区分在庫削減」と「廃却損削減」の対立を例として考えてみましょう。
D区分在庫を削減するためには、時に在庫処分を行う必要が出てきますが、これは廃却損の増加につながってしまうため、敢えて対立するKPIを設定することも改革には必要です。概ね次のようなステップで対立解消を目指すこととなります。
まずは、今そこにあるD区分を削減しなければなりません。これには本コラム6-4で述べる「先行指標」を設定して指標の改善を愚直に取り組みます。
一方、発生させる廃却損を事前に算定しておき、その算定範囲を「意思決定済みコスト」として会社全体の合意を形成していく必要があります。対立する指標ですから、同時にしかも停滞なく改善を実現する難易度が高いのは当然です。この例では、(廃却損という)痛みを伴う改革も推進していかなければなりません。そういった意思決定上の合意形成でカギを握るのが、本コラム6-5にあるスコアカード中心のPDCAプロセスに則った会議体です。
詳しくは後述しますが、対立するから「改革は無理である/受け入れられない」のではなく、対立をテコに「自社の体質強化、更にはアドバンテージとしていく」ために全社一丸となって情報共有し施策を議論する場が必要となるのです。

KPI(業績評価指標)をモニタリングする先行指標の検討

設定されたKPI目標を達成するためには、KPIと関連する「先行指標」を抽出する必要があります。先行指標とは業績評価指標と因果関係にある指標のことです。図3では、KPIと先行指標の関係を例示しています。

図3:KPIと先行指標例<図3:KPIと先行指標例>

この図を見れば、生産リードタイム短縮を行うためには5つの先行指標を改善する必要があることが理解いただけるでしょう。在庫削減に関するKPIの目標を達成するためには、先行指標を設定し、活動を推進しなくてはいけません。
もう一点簡単な例で説明してみましょう。前出の図1にある11項目KPIの「D区分製品点数」について、この目標達成には図4に記載している2つの先行指標を改善させる必要があります。D区分在庫を減らすには、そもそもD区分自体をなくすことが重要、という考えに基づいた先行指標選定結果です。
図4:D区分在庫削減先行指標例

図4:D区分在庫削減先行指標例

また、ヘドロではありませんがA区分品も少し考えてみます。A区分品のように流動在庫日数削減で効果を出すためには「生産リードタイムの短縮」が必須であり、その実現に向けた「ボトルネック工程の改善」が最重要課題です。そうすると、図5のような先行指標が抽出されます。
図5:ボトルネック工程改善先行指標

図5:ボトルネック工程改善先行指標

尚、この先行指標は第5回コラムで説明した「問題構造分析」をヒントとして抽出される場合が多々あります。先行指標の抽出に困った際には、「問題構造分析」の結果を再度チェックしてみて下さい。

在庫削減スコアカード

KPI設定後、そのスコアカードを作成し進捗管理を行いますが、「最終目標」の他に「(四半期など)途中目標」も設定し管理します。図6は四半期ごとの目標を設定した在庫削減スコアカードの例です。


図6:在庫削減スコアカード例図6:在庫削減スコアカード例

また、このスコアカードの数値を改善するための先行指標に対してもスコアカードを作成し、進捗管理を行っていかなければなりません。この先行指標スコアカードは各工場・組織単位で管理できる場合は「相互比較表」形式にしたいところです。

図7は3工場を並べて比較できるスコアカードの例ですが、やはり単独工場のみを見るよりは、複数の工場を一覧できる形式の方が理想的です。これは工場間で比較することで工場同士の競争意識向上に寄与する上、管理する立場からしても~少々不謹慎な言い方ですが~「楽しい」表になるからです。
図7:先行指標スコアカード

図7:先行指標スコアカード

更にこの実績を月次などの会議体で、進捗確認ならびに進捗が思わしくない指標についてはリカバリー案を議論する所謂PDCA(Plan - Do - Check - Action)サイクルを確立していきます。

会議体では、必ず経営者クラスや在庫削減責任者の参画によって(四半期など)区切り時点の目標達成度合いを見越し、Action主体の議論することに心掛けて下さい。現状の結果反省会ではなく、現状までの経緯を踏まえた先手管理こそが「未達を結果としない」組織風土を育むのですから。以上が在庫削減KPIと関連スコアカードの構築に関する概要です。

さて、長期間滞留する「ヘドロ在庫」について、その概況や改革手法を計6回にわたり解説してまいりました。
本コラムも今回をもって最終回となりました。ここまでお読みいただきありがとうございます。解説した内容のうち、読者各位の会社もある程度できている分析や仕組などもあろうかと存じます。できていない手法だけを集中的に進めることも可能ですので、ぜひ一度自社なりにアレンジしながらお試し下さい。
また、私共アットストリームは、本コラム執筆内容に限らず、生産、SCM、会計、マーケティング、ITなどの各分野にて様々なクライアント様改革事例がございます。各方面の実績や知見に関してご質問やご関心がおありになる場合は、ぜひ弊社ホームページからお問い合わせ下さい。読者各位からのご意見をお待ち申し上げております。
末筆ながら読者各位の改革推進成功を祈念しております。

株式会社アットストリーム

東洋ビジネスエンジニアリングのものづくりデジタライゼーション
中平 将仁 氏
中平 将仁 氏
株式会社アットストリーム ディレクター
(株)大和銀行、ローム(株)、アーサーアンダーセンビジネスコンサルティングを経て、2003年にアットストリームコンサルティング(株)[現(株)アットストリーム]入社。 共同経営者として参画。サプライチェーン改革、CRM構想立案、情報システム化構想立案などの各種プロジェクトに従事。主な著書に「ヘドロ在庫をなくせ~部品・素材メーカーのサプライチェーン改革」。
杉原 健史 氏
杉原 健史 氏
株式会社アットストリーム マネジャー
(株)第一勧業銀行、キーエンス、アーサーアンダーセンビジネスコンサルティング等を経て、現在に至る。KPIマネジメントによる経営改革の推進、各種SCM改革の企画・立案・実行支援などの各種プロジェクトに従事。主な著書に『SCP入門』(共著)工業調査会、『e生産革命』(共著)東洋経済新報社。
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※(株)アットストリームの中平氏、杉原氏に、直接メールで連絡を取ることができます。