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海外拠点へのIT展開の成功要件【連載第1回】企業の海外統治形態とシステム要件の押さえ所

海外拠点へのIT展開の成功要件【連載第1回目】企業の海外統治形態とシステム要件の押さえ所 

昨今のビジネスの海外展開状況

経済のボーダレス化に伴い、日本企業にとって海外進出の必要性がますます高まっています。数年前から海外展開の主流は大手企業のみならず、中堅・中小企業にまで拡大する傾向があり、事業の中心および売上の半分以上を海外が占めるという企業も増加しています。
内閣府の「平成26年度企業行動に関するアンケート調査報告書」によると、海外現地生産を行う製造業の割合は、平成元年度に36.0%だったものが平成25年度には71.6%に達し、平成31年度には73.0%となる見通しが発表されています【図表1】。

図表1
【図表1】海外生産を行う企業の割合(製造業)
出典:「平成26年度企業行動に関するアンケート調査報告書」(内閣府)

このような状況の中、中堅製造業の海外進出の以前の目的は、「大手企業の海外進出の後追い」や「コスト削減」が多かったものの、昨今は「現地市場の開拓・拡大」、「国内市場の成熟・縮小」といった自発的な進出理由が増えつつあるのが実態です【図表2】。但し、大企業のスピード感を重視した一気呵成の海外進出と異なり、中堅企業の場合は、一般的に以下の5段階を経る傾向が多くみられます。

図表2
【図表2】 海外で事業拡大を図る理由
出典:「2012年度日本企業の海外事業展開アンケート調査結果概要」(日本貿易振興機構)


    1. 輸出中心段階:駐在員事務所や支店を設立
    2. 現地化段階:現地法人を設立
    3. 国際化段階:海外子会社に一部の管理機能を設置
    4. 多国籍化段階:海外子会社に一部の本社管理機能を設置
    5. グローバル化段階:全本社管理機能を備えた法人

中堅企業の海外進出におけるIT投資状況

昨今は、ビジネスを進める上で、情報システムのサポートが不可欠となっています。各社のIT投資状況を鑑みると、各段階において概ね以下の対応が必要と推察されます。

①の段階 : 「PC」や「インターネットアクセス回線」
②の段階 : 「会計管理」や「グループウェア/メール」などのアプリケーション
「サーバおよびストレージ」などのハードウェア
③以降の段階 : 製造業の場合、現地生産を開始することで、販売や調達が必要となるため、各業務アプリケーションの構築

しかしながら、多くの中堅企業は今まで海外に大きなIT投資をすることなく、多くは各拠点別の仕組みや異なった簡易パッケージで運用しております。多くの企業の海外拠点とのやり取りは、連結決算処理の段階に限定され、月次や日次で個々の販売状況や生産・在庫の実態まで把握している企業はまだまだ限られています。

その背景の一つは、日本企業のITに対する造詣の浅さがあるように思います。前述のように、海外拠点のITに対する要求が高まっているにも関わらず、日本国内の対応に比べ、海外への対応はまだまだ不十分です。多くの経営層は、海外拠点を含めた「経営戦略」を重視していても、海外拠点の情報投資を含めた「IT戦略」を立案し、中長期的にITを整備する企業は限定的です。

また、段階的に海外事業を拡大する場合、当初は構成員の多くが営業や技術畑で、管理部門である経理や総務は経験がありません。まずは市場を開拓し、徐々に管理部門の体制を整備していくという考えに基づいていると思われます。このような担当者の情報システムに対するスキルを否定するものでは決してありません。ただ、本社から権限を多大に移譲されていることの焦りもあるのか、本社報告用の財務システムを得意なExcelで構築するか、もしくは、日系他社などから情報を得て、各国の商習慣に適した現地の安価なツールで済ませようとする傾向があり、本社や各国の業務フローや現地の今後想定される業務を勘案して、システムを選択することはあまりなされていません。

その結果、情報システムとしての統制が利かず、多くの企業がビジネスの要請に応えきれない状況に至っております。また、現地での「頑張る」運用に支えられた、決して効率的とは言えないシステム構成に至っております。

前述の状況を踏まえると、ビジネスの要請に適切に応えるためには、適切な方針の下、海外拠点のIT整備方針の明確化が必要となります。

グローバル企業の組織形態

グローバル化は時間を要するものであり、状況に応じて異なった課題があり、その課題をクリアすることでしか成功はあり得ません。グローバル企業の組織の分類として、グローバル企業の組織形態は「地域の適合度合」と「中央集権度合」の観点で整理すると、【図表3】の4形態に分類されます。

図表3
【図表3】 海外で事業拡大を図る理由
出典:「地球市場時代の企業戦略」(C.A.バートレット/S.ゴシャール)

これまでの日本企業は、グローバルでの効率化重視から、ローカル適応を取り入れた組織/制度への移行するケースが多いため、「グローバル企業⇒トランスナショナル企業」へ変遷するパターンが多く見られました。ただ、変遷にあたっては、各国の事業環境への適応力のニーズを押えつつ、現地法人への権限移譲を上手く進める必要があり、苦労されている例も散見されます。それは、日本企業の事業マネジメントの能力そのものがボトルネック(業務マネジメントは得意であるものの、計数を基にしたマネジメントや、海外拠点への権限移譲が得意でない)であったり、海外事業マネジメントを担う人材の教育や登用などの人事面といったことが原因と言われています。

昨今では、スピード感をもった事業環境への適応のために現地法人へ大幅に権限を移譲したり、海外市場へ迅速に参入するためのM&Aを通じて、マルチナショナル型の組織形態を採用する例も見受けられます。 対して、欧米企業の場合は、地域(国)別の経営を重視した組織/制度から、グローバル一体経営の取組みを推進するケースが多いため、「マルチナショナル企業⇒トランスナショナル企業」へ変遷するパターンが多いと言われます。

IT展開方針立案の拠り所

企業がどの統治形態を採用するかはターゲットの市場、つまり顧客によって決まると言われており、顧客との関係性によって目指す統治形態も異なってきます。【図表4】に、「各統治形態の押さえ所」と「システム要件として押えるべきポイント」とそれぞれが押えるべき特徴を整理しました。

  企業統治の目指すべき姿 情報システム資源の押さえ所
グローバル型 業務マネジメント ・本社は、全ての情報システム資源を掌握
・システム統合もしくはテンプレート展開
・PSI(調達/販売/在庫状況)や会計に関わる情報の集約化が重要
インターナショナル型 事業マネジメント ・本社は、各拠点に権限を委譲し、地域を軸とした管理を重視
・標準システムをベースとした展開
・各拠点への権限移譲による予算統制が重要
マルチナショナル型 戦略プランニングとモニタリング ・本社は、各拠点に権限を委譲し、事業を軸とした管理を重視
・標準システムをベースとした展開
・各拠点への権限移譲によるモニタリングとリスクマネジメントが重要
トランスナショナル型 会計情報の共有 ・本社は、戦略を示し、全ての投資を管理しないものの、全ての投資額を掌握
・経営情報/会計情報共有
・管理項目の徹底が重要
【図表4】 企業形態毎の情報システム資源の押さえ所

実際のケースでは、展開するシステムの仕様や展開順序、グローバル企業におけるIT統制と各拠点の情報システム部門の調整など対応すべき課題が多く、単純に当てはめることは難しいのですが、まずは大きな方向として自社がどの類型に進んでいこうとしているのかを見極め、IT展開方針を考えていく事が重要です。

次回は、各統治モデルに分類された企業が、システムを選定する際、どのようなポイントを押えるべきか、ご説明したいと考えます。

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池田 幸穂 氏
池田 幸穂 氏
株式会社タッチポイント・コンサルティング 代表取締役 三洋電機株式会社、アーサーアンダーセンビジネスコンサルティング(現プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント株式会社)経て、2007年 タッチポイント・コンサルティングを起業。主な専門領域は、「IT戦略立案」「サプライチェーン領域の業務改革」「全社基幹システムのシステム化構想立案、プロジェクト管理支援」 http://www.touchpointconsulting.co.jp/