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海外拠点管理のあるべき姿とは【連載第4回】海外拠点情報システム導入RFP(提案依頼書)

海外拠点管理のあるべき姿とは【連載第4回】海外拠点情報システム導入RFP(提案依頼書) 

前回のコラムでは「スムーズな要件定義方法」と題して、「要件定義前の準備」「要件定義の進め方」「要件確定条件」の順に要件を固めていく手順をご紹介しました。
「要件定義前の準備」としては、スムーズなヒアリングをするために「誰に」「何を聞くのか」を分類化し、参加者のグルーピングや役割、また要件定義を実施する際に準備しておくと参考となる資料などを説明しました。
「要件定義の進め方」では、プロジェクトメンバーへのヒアリング方法、現状の業務フロー図の作成方法、課題や要件を整理して新業務フロー図(あるべき姿)をどのように作成するか。そして最後にそれらをRFP(提案依頼書)としてまとめる流れをお話しました。 「要件確定終了条件」では、要件を確定する際に立ちふさがる4つの壁(組織の壁・経験の壁・予算の壁・決断の壁)を「利害関係者」と「経営者」が協力して乗り越えていくことが重要であるという説明をしました。
一連の流れを通じて、スムーズに要件を確認し、まとめる方法を理解していただけたと思います。
今回は、海外拠点の情報システムに関わる要件を満たすために作成するRFP(提案依頼書)の作成ポイントを説明します。

日本本社と海外拠点の要件ギャップ

まず、新しく海外拠点に情報システムを導入する場合に、日本本社と海外拠点の双方からヒアリング時によく聞かれる内容を確認します。

(1) 日本本社(経営者)の要件
 ・海外拠点業務の属人化によるブラックボックス状況の解決
 ・海外拠点の事業急拡大に伴う業務プロセスの改善
 ・海外拠点への日本の内部統制規定を適用
 ・現地管理者が適切にデータ参照・承認できる仕組みを構築
 ・連結決算処理おける海外拠点の決算早期化
 ・日本本社から海外拠点情報への直接アクセス
 ・海外と日本の会計制度の違いを決算情報に反映
 ・受注・売上・在庫・粗利・債権回収状況などをリアルタイムに把握
 ・日本本社主導によるシステム運用フロー標準化
 ・品目コードや取引先コードのグローバル統一管理
 ・統一ベンダーによる海外拠点と日本本社両方のサポート
のように、どちらかというと「やるべきこと」があげられます。

これらの要件から、日本本社から海外拠点(現地)の情報や業務の詳細がわからない(見えない)ため、それを把握でき、また日本からコントロールできる仕組みが必要と言えます。

(2) 海外拠点(現地)の要件
 ・データの重複・多重入力の回避 ・事務作業の効率化
 ・集計作業の効率化
 ・日本本社へレポート提出するための作成時間の短縮
 ・日本本社から現地へリクエストされる事柄理由の明確化
 ・日本本社で取り組んでいる改善活動や品質対策の情報共有
 ・現地語(英語)でのコミュニケーション
 ・日本本社側から現地へリクエストされる事柄の集約化
 ・現地での決裁権限、予算の拡大
 ・現地スタッフの教育
のように「やりたいこと(やってもらいたいこと)」があげられます。

現地が期待する要件とは、システム導入による事務作業の効率化のほか、日本から要求されているレポートなどを手作業から自動化し、より効率的にしたいということがあげられます。しかし本来、日本から要求されているレポートなどが何の為に必要で、何に使われているのかを知らないため、現地スタッフ自身が率先して効率化を実現しようとする意欲を削いでしまっているのです。そこで「教育」や「コミュニケーション」といった要件も多くなっています。
また、現地では決裁権限や予算枠を多く持っているわけでないので、その都度、本社にお伺いを立てたり、要望を出したりということが必然的に多くなりますが、双方で理解できないと、お互いに「こちらのいうことは聞かずに要望ばかり・・・」といったマイナスイメージを無意識に植え付けてしまい、更にギャップが広がっていきます。

更に、現地スタッフにとっては、赴任してくる日本人は数年で日本に帰ってしまうケースが多いため、緊急の問題に対しては、解決する努力をしたとしても、長期的な問題は後回しになっているように見え、赴任してきた日本人と現地スタッフの間にもギャップが生まれてしまいます。
このように双方の要件が、「やるべきこと」「やりたいこと(やってもらいたいこと)」になっているのは、お互いのことをきちんと理解しようとしないために生まれた食い違いと言えるでしょう。

(3) 具体的な解決方法
  ① 日本本社の想い(要件)を現地に正確に伝える
  ② 現地は日本本社の想い(要件)をしっかり理解し、現地に則した形で実践する
  ③ 想い(要件)を双方が継続的に共有し改善していく
双方の要件を理解し、実施計画を双方で練り込んだ上で情報システムに落とし込んで共有し改善していきます。

ここではあえて時間軸を設けていませんが、現地赴任担当者の多忙や言語や文化の違いのため、日本に導入するプロジェクトよりも時間や工数がかかります。 よりスムーズにプロジェクトを進行させるために、外部の専門家やコンサルティング会社に協力依頼することも効果的な方法の一つになります。

海外拠点情報システム導入RFP(提案依頼書)サンプル

次に、先のような要件を実現するための設計書としてRFPを作成します。今回は海外拠点に情報システムを導入するRFPサンプルを用意しました。まとめ方や作成手順に関しては第二回RFP(提案依頼書)作成の勘所、第三回スムーズな要件定義方法を参考にしてください。

■ はじめに
弊社は、防火器具の製造及び販売をする専門メーカーです。最近では日本国内のみならず、海外からの需要も多くなり、アジアを中心に海外進出をしております。本年度の中期経営計画の策定に伴い、主要国の一つ、タイ法人に新情報システムを導入する予定です。
本RFPは貴社を含む複数のソリューションプロバイダーにソリューション提案をいただき、新情報システムの機能面の検討を行うことに加え、全体予算、スケジュール、体制の概要を把握することを目的としています。

■ 会社・組織概要
(1) 発注者企業名:×××××
(2) 発注者代表者名:×××××
(3) 売上高:(本社)××× (タイ法人)×××
(4) 住所:(本社)××××× (タイ法人)××××××
(5) 組織構造(タイ法人)

図表1

 ・代表者:日本人  ・管理部門経理部長:日本人  ・営業部長:タイ人(日常会話日本語可)  ・エンジニア担当リーダー:タイ人(日常会話日本語不可)

1. システム概要
    1.1 システム化の背景
     一昨年1月より本格稼働し始めたタイ法人は取引件数、売上高が急激に上昇しており、それに伴い、
     商品管理や価格管理などを人的ソースで処理するには限界が来ている。今年の計画でも、タイ法人は
     全社売上比率の30%と予測しているため早急な対策が望まれる。

    1.2 システム化の目的・方針
    (1)システム化の目的
      ・現行業務プロセスのシステム化による運用効率と事務ミスの削減
      ・取引毎の営業利益の把握
      ・内部統制(日本本社からのコントロール強化)
      ・将来的にIFRS(国際会計基準)への対応
    (2)システム化の方針
      ・パッケージソフト導入による費用・導入期間の圧縮
      ・なるべくカスタマイズしない
      ・将来的には海外他拠点も含めたグローバル管理を行いたい

    1.3 解決したい課題
    (1)営業
      ・見積データを元に受注データを作成
      ・受注残の把握
      ・荷姿数量対応
    (2)仕入
      ・受注データを元に発注データを作成(受発注管理)
      ・発注残の把握
      ・在庫品の定量自動発注
    (3)物流
      ・リードタイムも含めた納期管理
      ・引当を加味した在庫数の確認
      ・客先直送対応
    (4)会計
      ・取引単位毎の損益把握
      ・製品グループ別売上推移の把握
      ・各種レポート類のExcelへのエクスポート
    (5)本社
      ・毎月の受注予定金額の確認
      ・毎月の受注残金額の確認
      ・毎月の在庫状況の確認
      ・毎月の商品別粗利金額の確認
      ・IFRS用データの取得
    (6)共通業務
      ・各種伝票発行前の承認
      ・複数言語(タイ語・英語・日本語)対応
      ・複数通貨(タイバーツ・USドル・円)対応

    1.4 現行システムとの関連
    (1)現行システムの全体図

図表2
    (2)現行の運用の流れ
      ・営業部門
       ①見積書をWordで作成し、得意先にメールで送る。
       ②契約書をWordで作成し、印刷したものに押印しファイリングする。
       ③発注書をWordで作成し、仕入先にオーダーをする。
       ④商品が入荷されたら在庫管理表シート(Excel)を更新する。
       ⑤商品を出荷したら在庫管理表シート(Excel)を更新する。
       ⑥商品出荷時にWordで作成した請求書を商品とともに送る。
       ⑦受注・発注状況及び在庫状況はExcelで管理している。
      ・管理部門
       ⑧請求書を元に現地で調達した会計システムに仕訳入力をしている
       ⑨債権・入金、債務・支払はExcelで管理している。

 

    1.5 新システムの利用者
    (1)タイ
       管理部門経理部:3名 / 営業部門:12名
    (2)本社
       経営企画部門:1名 / システム部門:1名

2. 提案依頼事項
今回ご提案をお願いする範囲は以下の通りです。提案にあたっての前提条件及び弊社要件を満たさない内容がある場合はその旨を明記してください。
必要とする詳細機能は「別紙1 要件機能一覧」を参照してください。

    2ー1 提案の範囲
    (1)全体概要
       基幹業務システム(販売・購買・在庫)および会計システム
    (2)システム範囲(スコープ)提案の範囲

図表3

    2-2 調達内容・業務の詳細
    (1)要件機能一覧
      「別紙1 要件機能一覧」をご覧ください。
    (2)現行ファイルボリューム
      「別紙2 現行ファイルボリューム」をご覧ください。

    2-3 運用条件
    以下の項目に関する運用条件を明記してください。
    (1)可用性
       ①システム稼働時間
        ・夜間のバッチ処理及びバックアップ処理時以外は、オンライン稼働を可能とする。
        ・オンライン稼働時間は8:00~24:00とする。
       ②耐久性
        ・障害(OS、H/Wのみ)発生時は、2時間以内に代替機に切り替わることを目安とする。
       ③ハードウェアの拡張性
        ・ハードウェア、スケールアウトが可能なシステム構成とする。
    (2)性能
       ①バックアップ及びバッチ処理時間
        ・2:00~6:00
       ②データ保管期間
        ・少なくとも当年度+過去5会計年度

    2-4 納期およびスケジュール
    ××年××月稼働開始とし、稼働開始までの適切な概要スケジュールの提示をお願いします。

>

    2-5 体制
    (1)弊社の体制
       ①プロジェクトリーダー:日本本社経営企画担当1名
       ②プロジェクトメンバー:タイ法人営業担当、タイ法人管理担当、
        日本本社経理担当、日本本社システム担当それぞれ1名を選出
    (2)導入に必要な貴社体制図の提示をお願いします。英語、タイ語の語学レベルも追記願います。

    2-6 期間
     1.2(2)システム化の方針の中で、パッケージソフトを使い、なるべくカスタマイズしない方針ですが、
     開発が必要な場合は必要な期間をご提示ください。

    2-7 作業場所
    アプリケーション開発場所の提供は行いませんが、打ち合わせやレビューの場所、テストおよび
    進捗会議の場所は弊社東京事務所の会議室を用意します。(現地タイとはオンライン会議の予定)
    現地タイ担当者向けのオペレーション説明会はタイ事務所の会議室を用意します。

    2-8 移行方法
    以下の要件を満たす移行方法についてご提案ください。
    ・過去5年分の会計データを移行すること
    ・債権、債務データなど、継続データに関しての移行方法について提案のこと

    2-9 費用見積
    概算費用について、以下の項目内容別に回答願います。

図表4

    2-10 貴社情報
    (1)貴社名
    (2)代表者名
    (3)所在地
    (4)組織
    (5)貴社提案責任者氏名および略歴
    (6)貴社担当者氏名
    (7)貴社の導入実績
    (8)過去3年分の決算書添付
    (9)会社案内資料の添付

3. 提案手続きについて

    3-1 提案手続き・スケジュール
    (1)提案手続き
     本RFPに「別紙1 要件機能一覧」の回答欄に回答をご記入いただき、
     ××年××月××日××時までに弊社提出先へ、メール添付にてご送付ください(提出先については後述)。

   ご提出いただく資料
   ・要件機能一覧(貴社回答欄記入済みのもの)
   ・ご提案資料
   ・御社説明資料

    (2)スケジュール

図表5

 

    3-2 提案依頼書(RFP)に対する対応窓口
    (1)窓口
     本社経営企画部××宛て
     E-Mail:××@××.co.jp
    (2)ご質問方法
     本RFPに関しては質問が発生する場合は、添付の「質問事項フォーム」に内容を記載いただき、
     弊社窓口へメール添付にてお問い合わせください。また、他社に対しても有益と考えた問い合わせ内容は、
     回答とともに他社に対しても開示する場合があります。

    3-3 選定方法について
     3-1(2)のスケジュール通り、2段階の選考を行います。
     第1段階で書類選考を行い、第2段階に進む会社様を決定します。
     第2段階でプレゼンテーションの中から最終的な1社を選定させて頂く予定です。

4. 使用機器に関する条件

    4-1 テスト及びカスタマイズ用機器 使用の負担
     テスト及びカスタマイズ等に必要な機材等の費用は貴社負担とします。
     弊社で準備する会議室、通信費、ユーザーテスト機器等は弊社負担とします。
添付資料
別紙1 要件機能一覧(抜粋)

図表6
別紙2 現行ファイルボリューム
図表7

 

最後に、
今回は、海外拠点に関わる要件を満たすためのRFP(提案依頼書)の作成ポイントを説明しました。RFPというのは情報システム導入を検討する会社の数、存在します。また、海外拠点の要件を含めると、担当される方は日本国内だけのプロジェクトとは比べ物にならないほどのコミュニケーション能力と実行力が必要になります。要件に潜む「やるべきこと」と「やりたいこと(やってもらいたいこと)」の食い違いは簡単に埋められるものではありません。しかし、単に「出来ない」とか「やれ」というだけでなく、理由と分析と議論を重ね、すべてが日本と同様にはいかないことも双方で認識したうえで、会社の想いをRFPに記載することが重要です。

次回は受け取ったRFP(提案依頼書)の評価方法を説明します。

第5回コラム『RFP(提案依頼書)を見て1次評価する』に続く

漫画_世界で闘う準備はあるか
今井 武 氏
今井 武 氏
太陽グラントソントン・アドバイザーズ株式会社
マネジャー
上場一部SIベンダーを経て、現在に至る。
海外進出企業、外資系企業を中心に業務システム導入の企画・立案・実行支援を行う。 https://www.grantthornton.jp/