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コラム

仮想化技術編

第3回 『LPAR仮想化のメリットって何?』

仮想化技術編

LPAR方式とVM方式

第2回は仮想化の原理とその利用シーンについてご紹介しました。サーバ仮想化とはサーバのアパートのようなもので、1台の物理的なサーバを多数のOSで利用する仕組みであることが分っていただけたと思います。このアパートの仕組み、実は大きく分けて2種類あります。今回は、そこから説明しましょう。

サーバ仮想化の実現方法には、論理分割方式(LPAR方式:Logical Partition)と仮想計算機方式(VM方式:Virtual Machine)があります。前者はハードウェア資源を区切ってOSに使わせることにより仮想的なサーバを実現しようという考え方であり、後者はハードウェア資源を小さなハードウェアの形で標準化・抽象化してOSに使わせようという考え方です。広い建物を作って中を区切って使うアパートの例に例えると、前者はフローリングの床や畳の床など、床の特性を生かした上で隣同士を分ける壁を作りますが、後者は床がどんな材質でできていようと、どの部屋も共通で居心地の良い絨毯をひいてしまおうという考え方なのです。

LPAR方式のアパートだと居住者には建物の特性がそのまま分ってしまいます。畳の香りが好きだとかアレルギー対策のためにフローリングが良いとか、建物の特性をそのまま利用したい場合にはこの方式が向いています。VM方式のアパートでは一般的に居心地が良いとされる絨毯の上で生活できるので、多くの場合には問題ありませんが、せっかくフローリングの建物を使っているのだからフローリングの床で暮らしたいという人がいても、その人のためだけに絨毯を剥がすということができない不便さがあります。

(a)OSは土台(床)の特長をそのまま利用できる

(a)OSは土台(床)の特長をそのまま利用できる

 (b)OSは標準化された絨毯敷きの床を使うので土台に影響されない

(b)OSは標準化された絨毯敷きの床を使うので土台に影響されない
図1 LPAR方式とVM方式の違い

コンピュータの世界の言葉でもう少し正確に説明しましょう。

サーバのアパートを実際のサーバ上で実現するためには、OSに仮想的なハードウェアを見せる仮想化制御ソフトウェア(あるいはファームウェア)が必要になります。このソフトウェアのことをハイパーバイザと呼びます。OSのことをスーパーバイザと呼ぶことがありますが、OSよりもハードよりの制御をするのでスーパーバイザよりもスーパーだ、という意味も込めてハイパーバイザと言われています。

VM方式ではこのハイパーバイザが物理資源を抽象化、標準化することによりサーバハードウェアに依存しない形でOSに仮想的なハードウェアをアクセスさせるように制御します。たとえばディスクインターフェースの場合、OSは標準化された仮想ディスクをアクセスするのですが、実際には物理ディスクではなく仮想ファイルシステム上のイメージファイルにアクセスするようにハイパーバイザが変換してくれているのです(図2(b))。前述の例えでは標準化された絨毯敷きの部屋と説明しましたが、仮想ディスクは絨毯にあたるのです。

LPAR方式では各OSはサーバハードウェアが持っているI/Oカードや物理ディスクをあるがままにアクセスします(図2(a))。例えでは建物の特長がそのまま生かせる作りであると説明しましたが、I/Oカードの機能や物理ディスクの機能がそのまま利用できることがこれにあたります。

いずれの方式を利用しても1台の物理サーバの上で複数のOSを動作させるというポイントは同じです。物理サーバの削減による運用の手間の削減やリソース利用率の向上といった効果は同様に享受することが可能です。
では、このような違いはどういった使い方の違いになって現れるのでしょうか。

図2 物理資源をアクセスする方法の違い

図2 物理資源をアクセスする方法の違い

LPAR方式が有効な利用シーン

LPAR方式とVM方式にはそれぞれ特長があるので適材適所で使い分けると良いでしょう。簡単に言うと以下のような特長を考慮して利用方法を判断すれば良いということです。

  • LPAR方式の特長:LPAR 1台を物理サーバ1台と見なして、従来と同じ考え方でシステムを構成できるので、外部機器(ストレージ装置やLTO装置など)の機能を最大限に利用可能で高性能、高信頼のシステムを組むことができる。また、仮想環境用に作成したシステムディスクを物理環境用に利用することが可能であり、相互に移行することができる。
  • VM方式の特長:物理サーバが変わってもVM上のOSには変わったことが分からないので、物理サーバの入れ替えが比較的容易にできる。また、VM 1台は古い機種のサーバとして標準化されているのでWindows 2000のように、ベンダサポートが終了し物理サーバ上では動作しない古いOSもVMの上で動作させることができる。

日立製作所ではBladeSymphony BS320、BS2000といったサーバに仮想化ファームウェアを搭載しLPAR方式のサーバ仮想化機構「Virtage」を提供しています。LPAR方式の仮想化は単にサーバを集約するときに用いることができるのは当然として、その他、特に以下のような利用シーンで有効に活用することができます(図3)。

 図3 LPAR方式ならではの利用シーン

図3 LPAR方式ならではの利用シーン

(a)OS間の影響を小さくしたい

1台の物理サーバで多数の業務システム(OS)を動作させると、素行の悪いシステムがいくつか居るものです。そんなときVM方式の仮想化では、例えばCPUを過剰に使うシステムの影響を受けて、正しく動いているシステムの性能が悪くなるといった影響を受けてしまいます。LPAR方式の場合、物理CPU割当てに占有方式やCPUグルーピングといった機能があり、システム間の悪影響をほとんど無くすことができます。

異なる会社や部署のシステムを1台の物理サーバ上に統合して動作させるクラウドシステムでは、OS間の影響を小さく抑えることが重要になります。LPAR方式のVirtageを使えば高い独立性を要求されるクラウドの運用も安心になります。

(b) 物理サーバモードと相互に移行したい

業務システムを多くの要員で開発、保守する場合、開発用のサーバを多数用意する必要があります。これらは仮想環境を利用して準備するのが効率的ですが、本番運用では仮想化を利用せず、物理サーバとして動作させるという場合があります。このようなシステムでの開発終盤での確認は本番システムと同じ物理サーバ環境での動作確認が必要になります。LPAR方式のVirtageでは仮想環境で用いるディスクの形式は物理環境の形式と全く同じものを使用しますので、開発環境のシステムをすぐに物理サーバ環境に移行して動作確認をすることができます。

また、仮想環境でソフトウェアの問題が発生した場合に、ソフトウェアベンダによっては物理サーバで同じ問題が起きるなら対応するが、そうでないなら対応しない、というサポート制限を設ける場合があります。このような場合は、仮想環境で構成したシステムを物理サーバ環境に移行して再現実験をする必要がありますが、LPAR方式なら物理サーバモードですぐに再起動ができ再現が容易です。

(c) ホットスタンバイクラスタ構成を組みたい

常時使用される現用サーバ上でハードウェア障害やソフトウェア障害が発生したときに交代サーバに切り換える仕組みに、ホットスタンバイクラスタという制御方式があります。マイクロソフト社のMSCSやWSFC、日立のHAモニタなどです。これらでは現用サーバと交代サーバ間でディスクを共有し、その間の制御を正しくできる必要がありますが、VM方式の仮想化ではディスク接続インタフェースを標準化してしまうことが多いため、制御系のI/Oコマンドを正しく実行できず、制御がうまくいかないことがあります。LPAR方式の場合、ディスク接続が物理サーバの場合と同じなので、ホットスタンバイシステム構成も安心して利用可能です。

(d) バックアップサーバを仮想化したい

データセンタ運用においては多数のサーバのディスクデータを定期的に保存するバックアップ運用が重要な課題です。バックアップ運用は通常、週末の夜間など、業務システム負荷の軽いときにだけ実行されるのが普通です。したがって、バックアップサーバは必要なときだけ起動すれば良いのでこれを仮想化することができればサーバリソースの効率的な利用に寄与します。しかしながら、バックアップサーバにはLTO(テープ)装置が接続されたり、バックアップ対象のディスク装置を共有したりする構成が求められ、VM方式ではI/O制御を標準化してしまって機種固有の動作ができないためサポートされないことがあります。LPAR方式ではI/O制御が物理の場合と同じなのでバックアップ運用も物理サーバの場合と同じ考え方で構成することができるのです。

(e)ハード障害で全LPARダウンは困る

サーバ仮想化を利用する上でよく耳にする心配に、いろいろな業務システムを1台のサーバに同居させると、そのサーバが1台ダウンするだけで同居しているシステムが全部ダウンするので業務への影響が大きいのではないか、というポイントがあります。Virtageでは、サーバハードウェアの障害が発生した場合でも、その障害要因が特定のLPARにしか影響しない種類ならそのLPAR1台(その業務システムひとつ)だけを障害にして、他のLPARは動作し続けるという高可用運用が可能です。

障害要因によってはサーバ1台全体がダウンすることもあるため、システムとしてホットスタンバイやコールドスタンバイのような障害回復構成をとっておくことは必要ですが、ユーザに対するサービス中断の影響をより小さくする機能として有用です。

(f)現行のセンタ運用を変えずに統合したい

LPAR方式のVirtageは(a)~(e)に示したような特長があるのですが、もちろんこういったケースのみではなく、普通に多数のサーバを単純統合する場合にも用いることができます。昨今の省エネニーズの高まりの中、仮想化によるサーバ統合、これによるサーバハードウェアリソースの効率的な活用、結果としての省エネの実現は自社における業務の効率化に資するだけではなく社会貢献のひとつとしてアピールするシステム構成であるといえるでしょう。LPAR方式のVirtageを用いると、従来の物理サーバでの運用の考え方を大きく変更することなく仮想環境の導入が可能なのです。

今回はLPAR方式の概念と利用シーンについて説明しました。次回は仮想環境のシステム構成、運用構成などについて、今回説明した利用シーンにつながるところもありますが、もう少し具体的に説明します。

第4回コラム「サーバ仮想化だと運用が大変では?」に続く

世界で戦う準備はあるか
上野 仁 氏
上野 仁 氏
株式会社日立製作所 エンタープライズサーバ事業部 第二サーバ本部第三部 担当部長 メインフレームOSやファームウェア、システム管理ソフトウェアなどの研究開発の他、データセンタでのSaaS商品開発などを経験。データセンター運用での使い勝手向上を念頭に置いた日立独自の仮想化技術開発を行っている。新しいサーバ活用技術に興味を持ち研究を続けており、余暇ではゴルフを通じて仲間作りを進めている。技術士(情報工学部門)