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コラム

国際物流編

第2回『国際物流管理における主な課題と対応策』

国際物流編

前回は、「日本の各企業において事業のグローバル化が急速に広まっており、今後もその傾向が続くと予測できること」、「事業のグローバル化に伴って物流の観点では国際物流が増加すること」、「国際物流は国内に閉じた物流と比べて特有の課題があること」、そして主要な課題として「複雑な輸出入プロセスに起因するイレギュラー発生のリスク」、「リードタイムの長期化による適正在庫維持に対するリスク」、「物流コストのブラックボックス化リスク」の3つが考えられることをご説明してきました。
今回は、これら3つの課題について、具体的にどのようなリスクが生まれるのか掘り下げると共に、それらのリスクを減らすための対応策について考えていきます。

複雑な輸出入プロセスに起因するイレギュラー発生のリスク

①国際物流に固有の業務とは
国際物流では輸出入を行うため、それに伴う特殊な業務が必要になります。主なものとして、貿易書類作成(輸出出荷計画)、本船船積み、輸出入通関、などが挙げられます。
これらの業務を実行するための時間や工数が必要になるわけですが、それだけではなく、やるべき業務の数が増えるということは、ミスやトラブルが発生するリスクも増えることになります。実際、業務ミスにより輸出入の工程が停滞してしまい、納期が遅れるという事態は珍しいことではありません。
ここでは、国際物流にはどのような特殊業務があるのか、どのような点に留意すればよいかについてご説明していきます。

②貿易書類作成(輸出出荷計画)は業務負荷が大きい

貿易書類の作成は輸出側の役割ですが、件数がまとまってくると、かなりの負荷になる業務です。書類作成といっても、タイピングに入るまでの準備が大変で、通常は、以下のようなプロセスを経て、その結果を所定の書式によって貿易書類としてまとめることになります。

  • 受注(PO)に基づいた製品の生産/調達手配
  • 荷揃い予定、本船スケジュール、コンテナ充填率などを考慮した輸出ロットの決定
  • 輸出ロットに沿ったコンテナ本数の本船予約

したがって、国内物流のような、受注-在庫引当-梱包-納品書/送り状作成-トラック積み-出荷という流れを数時間程度で一気に流してしまうフローにはなりません。
主要な貿易書類には、コマーシャルインボイス、パッキングリスト、船積指図書、原産地証明書などがあります。これらの書類を作成し、輸出入を委託する物流企業に引き渡して通関や船積みの作業を進めてもらいます。貿易書類作成を物流企業などに委託することもありますが、その元情報は輸出入を行う企業から提供する必要があるため、貿易書類作成のために必要な情報は全て管理しておく必要があります。

実際に貿易書類を作成するにあたり、比較的負担が大きくなりやすいのは出荷ロットを決める作業でしょう。
海上輸送で輸出する場合、定期船のスケジュールは週一便から二便くらいのサイクルが多いようです。納品期限に間に合うように、利用する本船を選んでいきます。並行して、受注した製品の生産予定情報や調達品入荷予定情報を正確に把握し、選定した本船に間に合うかどうか確認します。

受注した製品を一括船積みすることが前提となる契約の場合には、貨物の出荷が納期に間に合うよう生産や調達を「追い出し」してくことが重要な要素になりますが、かなり大規模なロットの場合などで、一定期間内に分割船積みする場合には、生産、調達の「追い出し」だけでは済みません。どこまでを今回の船積みに含めるのか、どこかで見切りを付けて今回の船積みロットを決めなければなりません。
荷揃い状況と本船スケジュールを睨みつつ、コンテナ詰め効率を考慮して、コンテナに収まらない半端な貨物がある場合にはLCL(小口貨物)として出荷するか、次回のロットに回すかといったことを判断していきます。

私は、かつて大手メーカーさんの輸出業務を代行する仕事をしていたことがありましたが、このロット決めには神経を使いました。基本的には、荷揃いしたものは輸出完了すれば売上が上がりますから、荷主さんとしてはできるだけたくさん船積みしたいということになります。一方、LCLはコンテナ単位の輸送よりも運賃が割高になりますので、できるだけコンテナにきれいに収めたい。そうはいっても、品目数が多く、梱包サイズがまちまちな貨物が大量にあると、コンテナへのつめ方(バンニングプランといいます)によって積め効率が変わってしまいます。どのようなロットで、どのようにコンテナ詰めすれば効率が最大になるか検討を行うわけですが、貨物の生産が間に合うかどうか際どいことも珍しくない状況で、限られた時間の中でこれらを処理することは、なかなか難しい仕事になります。特に月末では、荷主であるメーカーさんの当月の売上実績に関わるのでロット決めは、より慎重にしなければなりません。

輸出するアイテム数が多くなれば、その数だけ上記のようなコントロールを行うことになります。また、同じ販売先から多数の発注が発行されるようなケースでは、コンバインすべき受注はまとめ、コンバインできない受注はインボイスを分けるなどの整理も行わなければなりません。こういった手順を経て、輸出する貨物のロット、本船、日程などが決まります。この他、販売先、金額、決済条件の情報などを加えて貿易書類を作成していきます。そういう意味では、貿易書類作成業務は、受注(PO)情報、出荷製品の荷揃い情報、本船スケジュールなどの多方面の膨大な情報を整理し、最適な出荷計画を立案、実行する業務、ということもできます。この業務を本船スケジュールに合わせて、ぎりぎりのタイミングで繰り返し実施していくわけですから、件数やアイテム数がまとまってきたときには、相当の負荷になることは間違いありません。したがって、業務のやり方を担当者に任せきりにした場合、書類作成ミスや手配ミスなどが発生するリスクはかなり高まってしまいます。貿易書類には専門用語が多く、業務知識や経験によって担当者の業務品質にレベル差が出やすい傾向がありますが、経験の浅い担当者がケアレスミスを犯してしまった場合、それが原因で輸出が止まるようなトラブルになることもあり得ます。

この貿易書類や一連のプロセスをシステム化している企業は多いと思います。
大規模なシステム例としては、ある大手メーカーで受注から貿易書類作成、船積み完了までを完全にシステム化しているというケースがあります。この企業では、注文を受けた段階で、バンニングプランや積載する本船まで自動的に設定され、作業はシステムが設定したとおりに実行していくというスキームを構築されています。こういうシステムであれば、書類作成や手配の段階でケアレスミスが発生する可能性を相当削減できるでしょう。この例のような大規模なシステム投資を真似できる企業は限られていると思いますが、多かれ少なかれ何らかの対応をされている企業は多いでしょう。どの企業でもリードタイムをできるだけ短くするとともに、リードタイムがブレることを避けたいわけですから、何らかの形で業務手順を確立し、一定の品質とスピードを担保できるよう工夫することが必要になるわけです。しかし、実際には、まだ取り組みに着手されていない企業も少なくありませんし、システム化がうまくいっていないということもよく聞く話です。

書類作成は、作業自体は複雑ではないのですが、関連する情報の収集と分類、整理を短時間の間に、労力をかけず、正確に行うことが重要なポイントです。そして、それらの情報を正確に書類化することです。

PO情報、荷揃い情報(生産予定、調達予定)、本船スケジュール、アイテム情報(単価、重量、容積など)などの情報を関連する部署または外部企業から入手しなければなりません。労力をかけず、正確に情報収集するためには、できるだけシステム的な手法で定期的に情報集約する仕組みが良いでしょう。
これらの情報を整理し、「何日までに荷揃いした貨物が、どの船に積載できるか」、「その容積、重量からコンテナ積載率がどれくらいになるか」といったことがシミュレーションできるようにします。
そして、シミュレーションの結果である船積みロットについて貿易書類を作成することになりますが、ここでマニュアル作業による転記をなくし、PO情報も自動的に展開するようにすれば書類作成ミスを防ぐことができます。


③「本船船積み」というプロセスの特殊性

国際物流では、目的地までの輸送には貨物船や航空機への積み替えが必要になります。港や空港まで貨物を運送した上で、予約した船や航空機に積み込むことになります。
貨物船の運行は船会社(日本郵船など)、航空機の運行は航空会社(JALなど)が行います。港や空港での荷役は、その専門業者が行います。海貨業者などが一連の手配を一括して代行するのが一般的ですが、貨物は複数の企業間を受け渡されて海外に運ばれ、目的地においても同じように複数企業の間を受け渡されて納品先まで運ばれて行きます。

このように、海貨業者、通関業者、運送業者、船会社、航空会社、荷役会社などの複数の関係先が連携して輸出入の作業を進めていきます。貨物、書類や情報などを受け渡しながらプロセスを進めるため、その連携の良し悪しで効率が変わってきます。一般論として、物流動線の連結点はできるだけ減らしたほうが非効率やトラブルのリスクは減ると考えられますが、国際物流では業者間での多くのバトンリレーが不可避です。

留意すべきなのは、こういったプロセスの多くは輸出入企業(荷主企業)が直接的に業務に関わらず、委託を受けた、あるいは運送を請け負った業者間の連携で進んでいくということです。輸出入企業にとっては「業者に委託したのだから、業者がしっかりやればよい」ということで安心したいところですが、輸出入の主体者は荷主企業であることには変わりありませんので、輸送期間中に何らかの課題があれば、その影響を免れることはできません。かといって、自分たちが手を出している業務範囲は限られており、直接、改善を行える範囲は限定されることになります。

ここで重要なのは、船積みが行われている間の情報を管理する、ということだと思います。業者に業務委託したとしても、すべてを任せきりにするのではなく、主体者として情報管理は行うということです。本船積込み、本船出港、本船入港、本船積卸しなどの流れについて、予定と実績を把握とし、遅延などのイレギュラーが発生した場合にはタイムリーに対策を打てるようにすることです。こうすれば、トラブルによりリードタイムが長期化する事態を最小限に抑えることができるでしょう。


④輸出入通関の難しさ

輸出入を行うときには、必ず税関に申告し許可を得なければなりません。申告書を作成するためには通関士の資格が必要であるため、輸出入申告は通関業者に委託するのが一般的ですが、申告者は輸出入企業になりますので、申告に必要な書類や情報は、基本的には輸出入企業が準備しなければなりません。

輸出入通関では、申告する貨物の統計品目番号を決定しますが、統計品目番号は品名や用途、材質など複数の切り口で分類されており、必ずしも品名だけで容易に特定できるとは限りません。
図1は実行関税率表の例ですが、品名、仕様などで統計品目番号を特定していくものもあれば、材質、用途で絞り込んでいくこともあります。場合によっては、どこに分類すべきか判断に迷うようなケースもありますので、初めて輸出入する製品の場合には事前に十分な調査を行っておくべきです。
また、統計品目番号は通関士が審査した申告書を税関が承認することで決まっていきますが、最終的には「人間の判断」を伴いますので、輸出入実績がある製品であっても、統計品目番号を特定するための製品情報は常にわかりやすい形で保持すべきです。特に、輸入通関では、統計品目番号に基づいて関税や内国税の納付額が決まりますので周到な準備が必要です。

このような通関の事情は国によって異なりますが、統計品目番号の決定という作業は共通していますし、通関申告が手間の掛かるやっかいな仕事であることは変わりません。特にアジア地域では、通関の根拠となる法律があいまいな内容であることもあるらしく、現場の担当官の判断で処理される範囲が大きくなりがちです。
したがって、輸出入通関の所用日数がどれくらい掛かるか、ということがサプライチェーンの大きなリスクになってしまうという実態があります。そして、この状況は各国の行政や法律により強い影響を受けますので、企業努力では改善できるところに限りがあります。
いずれにせよ、通関書類は正確に作成し、できるだけ早く準備するということは必要条件になるでしょう。そして、通関書類提出日、申告日、許可日といったプロセスの予定と実績を丁寧に管理し、イレギュラーが発生した場合の打ち手を早くすることがリードタイムの維持にとって重要です。

図1 実行関税率表サンプル図1 実行関税率表サンプル

<図1 実行関税率表サンプル> 

リードタイム長期化による適正在庫維持に対するリスク

①リードタイムが長くなると在庫が増える

リードタイムが長期化すると、出荷から納品までの間に販売計画や生産計画が変動する可能性があり、これが在庫を増やす要因となります。以下、生産に必要な部品の調達における部品在庫を例として話を進めさせていただきたいと思います。生産計画どおりに毎日部品が使われる時、その通りの量を毎日調達するのであれば、余分な在庫を考慮する必要はありません。海外から1ヶ月かけて輸入する部品であっても、毎日、計画通りに生産が行われ、それに合わせた数量の部品がきちんと調達されるのであれば、部品の在庫は常に1日分を持てばよいことになります。

しかし、日々の生産スケジュールは常にダイナミックに見直しされるのが実態です。リードタイム1ヶ月の部品であれば、最短でも1ヵ月後の生産スケジュールに基づいて発注するわけですが、この部品の必要予定数はかなり高い確率で変更されると考えなければなりません。このような場合、通常は部品が欠品してラインが止まることを避けるために、生産予定数が上振れしても対応できるようにしたいと考えることが多いでしょう。ここで、欠品リスクを回避するための在庫が生まれます。

もちろん、生産予定数が頻繁に変更されたとしても、リードタイムが非常に短ければ、在庫は問題にならない程度に減らせます。仮に、明日の生産スケジュールが急に変更になったとしても、それに見合った部品が今日中に納品されるなら、欠品リスク回避のための在庫は必要なくなります。実際、某大手メーカーでは、1日24時間数十回の部品納品を行っており、サプライヤへの納品指示は納入期限の2時間前に発行される、という話を聞いたことがあります。このようなスキームが確立しているのであれば、在庫は極めて小さなものになります。

②リードタイムは短縮できるか

上記のように、リードタイムが短くなれば在庫を減らすことが可能ですが、これは簡単なことではありません。以前、あるメーカーの方から「難しい提案はいらない。リードタイムを短くしてくれれば全て解決する」と言われ、返答に困ったことがありましたが、リードタイムの短縮は古くから、大きな課題として悩みの種となっているものです。

もちろん、様々な工夫がされているのも事実で、例えば、最近、「国際VMI」という言葉を聞くことが増えていますが、この「国際VMI」は、国際物流におけるリードタイム短縮方法として利用されるケースが増加しています。リードタイム問題を全て解決する決定打というのは難しいのですが、有効な手立ての一つということが出来るでしょう。

「国際VMI」は、海外の工場に部品などを供給する場合の納品リードタイムを短縮する方策として活用されるケースが増えています。納品先工場に近い倉庫に未通関の状態(サプライヤの在庫)で部品を保管しておき、納品先工場の生産スケジュールに合わせた細かい単位で、輸入通関から納品までを多頻度で行う方法です。

私が知っているある物流企業では、ベトナムの工業団地内に保税倉庫を持って、工業団地に工場を持つメーカー向けに「国際VMI」のサービスを大規模に提供している例があります。サプライヤが工業団地のメーカー向けに輸出してきた貨物は、この保税倉庫に一旦、保管されます。メーカーからは生産スケジュールに沿って、物流企業あてに納品指示が出され、それに応じて輸入通関と出荷が行われます。輸入通関には1日~2日程度の日数が必要ですが、税関の事務所も保税倉庫も同じ工業団地内にあるためロスが非常に少なく、納品指示から3日程度で納品することが可能とのことです。日本からベトナムへの輸出の場合、貨物船の航海日数だけでも2週間程度必要であり、前後のプロセスを含めれば、通常は1ヶ月程度のリードタイムがかかりますので、かなりのリードタイム短縮になります。

このように「国際VMI」はリードタイム短縮の効果的な施策ではありますが、だれでも簡単に取り組めるとは限りません。そもそも、未通関の貨物を長期間、保税地域に保管するためには、その国の法令でそれを認められている必要があります。また、保税倉庫の有無や立地条件などによって効果は左右されますし、特にアジア地域では保管、通関、納品といった業務を行う業者の品質が日本国内ほど安定していませんので、多頻度納品のような業務を確実に実行できる業者を見つけること自体が難しいこともあるようです。

また、「国際VMI」が有効であるとしても、輸入通関のプロセスがなくなるわけではないため、数日間のリードタイムは発生します。前述のような日本国内並みのJITにはならず、一定の在庫を持つ必要はあるわけです。
つまり、日本国内で実現できているJIT納品と同じことを世界各地で実現するということは、多くの企業にとっては、望んでも手に入らない対策と言えるでしょう。
SCM改善に多額の投資をすることが難しい企業にとっては、リードタイムが長くなることを踏まえて、在庫量を適正に維持するための現実的な管理方法を工夫する必要がある、ということだと思います。


③在庫量を適正に維持する

欠品を避けるための在庫を一般的には「安全在庫」と言います。安全在庫を維持するように発注をかけていくわけですが、この「安全在庫」の設定の仕方には固定的な方式は無く企業によって考え方が異なります。
特に、欠品をどこまで受容するか、という考え方は企業にとって重要な方針の一つです。東日本大震災やタイの洪水といった大きな天災を経験した企業の間では、余裕のある在庫を確保する必要性を感じておられるところも多いでしょう。反面、海外企業との価格競争は激しさを増すばかりで、コスト削減の観点からの在庫削減の優先順位を簡単に下げるわけにもいきません。
このような、組織としての「意志」とそれに基づく「判断」が「安全在庫」の土台になります。その上で、計画変動等を踏まえた予測を行って発注量を決めていきます。

あるメーカーの例では1ヶ月の生産に必要な所要量を「安全在庫」として管理しています。例えば、9月生産に必要な部品数が5万個とすると、8月末時点の在庫が5万個を上回るようにコントロールするということです。9月の生産計画が上振れすると欠品のリスクが発生しますが、1ヶ月分の在庫を持っていますので、すぐにラインが停止するわけではありません。部品在庫量を毎日チェックし、欠品の恐れが出た場合には、緊急の追加オーダーを行うなどの対応策を打つことで管理されています。

古典的な「安全在庫」の計算方法として、「ασ√L」という式があります(σ:1日の出荷量の標準偏差、L:リードタイム、α:安全係数)。

危険率は統計的な係数で、欠品率5%まで受容するならば、安全係数は「1.65」、1%とするときは「2.33」という数値が入ります。したがって、欠品率を低くしようとすると「安全在庫」が大きくなります。この計算式で算出された「安全在庫」数を出荷計画数に加算し、その数量を在庫として維持するようにコントロールするわけです。

上述の通り、「安全在庫」の水準については、いろいろな考え方がありますし、各企業の取引環境や方針などによって実際的な設定がされるべきものですが、共通して留意すべきこととして、「安全在庫」をコントロールする業務が必要である、ということです。
発注量を計算しサプライヤに確定オーダーを発行したら終わりではなく、その結果としての在庫量が予定通り適正に維持されていることをチェックし、万が一、予定外の状態が予見される場合には、是正策を打たなければ、結果として欠品や在庫過剰を減らすことはできません。これが「在庫量を適正に維持するための現実的な管理方法」として重要な観点だと考えています。


④長く変動しやすいリードタイムへの対応策

「安全在庫」を吟味し、計画変動を踏まえた予測を慎重に行った結果として、サプライヤへの発注を行うわけですが、それでも欠品や在庫過剰のリスクは払拭できません。遅延や数量不足などの事故は、サプライヤの事情により発生することもあれば、国際物流の過程で発生することもあります。いずれにせよ、そのような事態をできるだけ早く感知することが必要です。数日後の生産に必要な部品が足りない、というような事態になれば、航空便で運ぶか、担当者が飛行機でハンドキャリーするくらいしか手立てがなくなります。発注した製品の入荷日について、予定変更があればリアルタイムに把握し、生産予定への影響を確認できる業務の構築が必要です。

もちろん、日々の在庫数についても正確に把握できることは前提です。実際の在庫数がわからなければ、足りているのか、足りていないのか判断のしようがありません。また、欠品はラインに影響するため問題が大きくなりますが、在庫過剰は日々の業務には支障を来たさないため見過ごされる危険もあります。適正な在庫量(安全在庫)と実際の在庫量を確認することもきちんと実行したいところです。

以上のような業務、即ち、「在庫モニタリング」をしっかりと行うことが重要だと考えています。実在庫数、入荷予定数、入荷数、出荷予定数、出荷数をアイテムごとに、きめ細かく把握することです。これを整理すれば、将来の在庫数を見える化することができます。ここで、入荷予定の遅延などのイレギュラーをタイムリーに反映させれば、生産予定への影響が把握でき、対応策の立案に役立つでしょう。

また、それに基づいて、発注量を試算して、その結果が将来在庫にどのように影響するかシミュレーションすることができるようになるため、発注量を検討する際の予測精度の向上に役立ちます。

これらの業務は特殊な技能が求められるわけではありませんが、必要な情報を必要なタイミングで収集、整理することが意外と面倒な作業になります。できるだけ手間をかけることなく、効率的かつ正確にモニタリングできるフローを構築し、情報を必要な関係者間で共有できるような仕組みが望ましいでしょう。

物流コストのブラックボックス化リスク

①物流コストの構成

物流コストを大きく分類すると輸送、保管、荷役、管理コストなどの項目に分けることができます。それらのコストが調達、生産、販売の工程において発生してくるわけです。
例えば、部材保管、工場入庫、仕掛品保管、完成品出荷、完成品保管などのプロセスで、輸送、保管、荷役、管理のための費用が細かく発生してきます。それぞれ内部経費、外部支払い経費があり得ますが、それらを製品コードごとに整理すると、製品の原価としての物流コストの構成をある程度イメージすることができます。

物流コストの構成
国際物流では、上記工程のある部分が輸出入を伴うことになります。その結果、前述の通り、国内物流に比べて複雑なプロセスを踏むことになり、発生するコストの項目もシンプルに「輸送費」といったくくりでは納まらなくなるわけです。輸出入を行うときに発生する費用の項目として一般的なものをリストアップしてみました。

費用の項目
これらの費用について、どこで、いくら発生したかを製品のアイテム毎にブレークダウンして管理されている企業は決して多くないのではないでしょうか。必要性は感じていても対応しきれないということも多いと思います。しかし、可能であれば、ある程度まではコストを細分化して分析することが望ましいところです。そうしないと物流コストがブラックボックス化してしまうからです

②国際物流コストのブラックボックス化

物流コスト管理のイメージを簡単な例で考えてみましょう。
例えば、東京港から中国に部品を輸出する場合、FOB条件であれば東京港の本船船積みまでが輸出企業側のコスト負担範囲になります。この間に発生する国際物流に関する物流コスト(外部支払い経費)としては、コンテナ運送料(東京港とバンニングする工場間の往復)、輸出申告料、Shipping chargeなどは必ず発生するでしょう。
そして、この輸出が、同じ納入先に複数の事業部から製品を納めるものであった場合、複数のPOを束ねた複数インボイスの貨物が同じコンテナに積載されることが考えられます。もし、そうであれば、コンテナ運送料、輸出申告料、Shipping chargeといったコストは、少なくともインボイス単位には按分したいところです。もちろん可能であれば、PO単位、さらにはアイテム単位にブレークすべきでしょう。
物流企業からは、コンテナ一本当たりの運賃、インボイス1件当たりの輸出申告料、船積み1件当たりのShipping chargeという請求がきますから、これをブレークダウンしなければなりません。運賃などは貨物の量が影響しますから各アイテムの重量、容積比率で按分、通関料は各アイテムの金額比率で按分するのが適当だと思いますが、これを細かく行う作業には相応の時間と手間が掛かります。

さらに、製品の輸出先が自社の現地法人であった場合、グループ全体で物流コストを管理、分析しようとすると、このようなコストブレークダウンを現地側でも行う必要があります。こうなると、多くの企業で事務作業が追いつかなくなり、物流コストのブレークダウンを断念する、ということも増えてくるでしょう。
また、事務工数の削減を優先する場合、コンテナ運送料や輸出入申告料などを「国際物流費用」のような形で数字をまとめて管理するケースもあるかもしれません。こうした場合には、どういうプロセスで、どのような作業に対するコストがいくら発生したのか、ほとんど見えなくなってしまいます。
物流企業から一定の金額情報を得られたとしても、管理に必要な単位で把握できないために、結果として物流コストが見えない、という状態が生まれることになります。国際物流の場合、業務プロセスやそこに関係する企業、組織の数が多く、国外の企業も関わるため、物流コストを把握し、それを必要な単位にブレークダウンすることは非常に手間の掛かる作業になります。それだけ、コストが見えなくなるリスクが高いわけです。


③国際物流コストブラックボックス化への対策

国際物流コストを管理していくためには、まず、その金額を適切に把握しなければならないのは言うまでもありません。外部支払い経費であれば、正確に金額が捉えられると思いますが、請求項目が「一貫料金」のような形になっていると、作業内訳や個々の費用が見えなくなりますので注意が必要です。

次に、把握した費用項目と金額を按分するところが負荷の掛かる作業ですが、この按分には決まったルールがあるわけではありませんので、各企業において自社の状況に合わせて業務手順を組み立てる必要があります。按分基準を作り、按分対象となる輸出入情報(インボイス、PO、アイテムなど)を集積して計算を実施するわけですが、この作業をできるだけ効率的に正確に行うためには、システム的なルールが必要でしょう。情報量が大きく膨らまなければエクセルなどを活用することで解決できますが、件数が増え、複数部門間での情報集約が頻繁に必要になってくると、一定のレベルの業務システムが不可欠になります。

今回のコラムでは、国際物流特有の課題とその対応策について、主要なポイントをピックアップしてご説明してきました。これらの対応策を実行するためには現在の業務内容を見直して組み立て直す業務改善に取り組まなければなりませんが、それだけではなく、情報システムがツールとして、どうしても必要になってきます。

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植松 謙治 氏
植松 謙治 氏
鈴与システムテクノロジー株式会社
常務取締役 企画開発部長
鈴与の物流企画室長、情報システム室長などを経て現職。入社以来30年、物流情報システムを利用者、作り手両方の立場から見てきました。現在は、物流などの業務ノウハウを生かした新しいパッケージシステムの開発と事業化に日々奮闘しています。 http://www.sst-web.com/