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グリップの効いた在外子会社管理の要点

グリップの効いた在外子会社管理の要点 

はじめに

日系企業のグローバル化、海外事業拡大の必要性が高まる中で、在外子会社管理の強化を経営課題として挙げる企業が増えています。例えば、国内偏重であったオペレーション体制が急激に海外へとシフトしたことで、在外子会社の管理体制やガバナンスの強化が必要になるケースや、クロスボーダーでの事業提携やM&Aを契機として、違った企業文化や仕事の進め方を行っている在外子会社の管理体制整備が必要となるケース等があるでしょう。
本コラムでは、そのような課題を抱える企業に対し、グリップの効いた在外子会社管理を行うためのポイント、形骸化したグループガバナンスに魂を吹き込むための方策について概説します。

在外子会社管理が機能しない要因

まず、在外子会社管理を機能させるためには「在外子会社におけるビジネス状況が可視化され、PDCAのサイクルが有機的に回っている」状態を作る必要があります。しかし、業績管理として実施される定期的な財務報告において、子会社からの報告数値の中身が本社で理解できていないケースや、予算との差異が出た理由がわからない、その対処について検討がされていないというケースが見受けられます。

その原因は、実質的にPDCAサイクルを回すための仕組み、海外特性を加味した実効性のある管理ルールやプロセスがないという基礎的な課題による場合が往々にしてあります。その背景には、日系企業がローカライズという名の下に全般的にオペレーションを子会社任せにしてきたことや、日本では当然の事が、物理的な距離や言葉の壁、法制度や商慣習が違う、専任の要員がいないからという諦めによって、そもそもグループとして十分に検討・実践されていないということがあります。

検討ポイント

筆者の考える、在外子会社管理強化において検討するべきポイントは、次の通りです。

    1. 本社・子会社が持つべき機能、責任・権限、および役割分担
      まず、基本的な枠組みとして、会社が持つそれぞれの機能について、どこまで本社が責任・権限を持ち、どこから子会社に委譲するかを明確に定義しておく必要があります。
      この定義が曖昧であると、子会社の位置付けや機能が不明確で、グループ戦略実行の中で自社の果たす役割が明確に理解されないことにもなりかねません。またその結果、グループ全体の視点が欠如し、子会社での部分最適が実行され、本社へ必要な情報が報告されないなどの問題が起きる可能性があります。
    2. 管理対象とマネジメント方針
      次に、グループ経営の観点で、本社として何を管理したいのか、子会社に対し何を求めるのかを明確にする事が必要です。これがないと、子会社は、本社が一体何をしたいのか、自社の意思決定やアクションがいかにグループ価値向上に資するのかが分からず、人員不足を理由に業務遂行の理解が得られなくなったり、報告の精度・頻度が落ちたりします。
      少なくとも、グループ管理の目的・管理する対象・共通的に適用する管理方針・業績評価の基準・レポートラインを定義する必要があります。この段階で、子会社を地域・事業・機能など、どの軸で管理していくべきかの検討も重要です。
    3. 業務・ITのガバナンスの向上
      実際にPDCAサイクルを回していく上では、マネジメント方針といったポリシーレベルから、共通的な運用ルール(レポート期限・内容・サイクル)へ確実に落とし込んでおく必要があります。また、子会社業務全体の品質向上・維持の観点での、グループ標準業務プロセスの検討も重要なポイントとなります。標準業務プロセスは、グローバルで統合・共通化して効率化するものと、ローカル競争力を維持するために個別化していくものを選別して検討する必要があるでしょう。
      また、業務定着化のための現地語による“規定/マニュアル”の整備を行い、本社はテンプレートとなる標準規定と標準マニュアルを準備し、子会社は現地の実態に合わせてカスタマイズするという流れを作り、グループ会社の業務透明性を上げることを通じた、業務面でのグループガバナンスの向上が見込まれます。
      IT面は、グループ展開の方法、現地特性、各国コンプライアンス対応を踏まえた、子会社のシステムの共通化、対象範囲など、IT部門に加え業務側がIT戦略レベルから積極的に関与・協働し、グループ業務の品質向上に資するIT展開を進めていく必要があります。
      業務・ITの視点においては、その在外子会社の規模が小さい場合、特に規定/マニュアル整備については対応が遅れる、または整備していない、というケースが多々見られます。しかし、そのような子会社に限って欠員がでたことで属人化していた業務が滞ってしまうという状態に陥りやすく、逆に積極的に整備していくことが重要であると考えます。
    4. リソースとスキルのギャップ
      やるべきことが明確になったら、実際に誰が行うのか、できるのか、リソースとスキルの補充を検討する必要があります。子会社(特に管理部門)においては、人材の手当てが後回しとなり、慢性的な人材不足のケースが多いため、実際の業務実行に必要な「スキル」と「業務量」を見積もり、補充の具体的な計画の立案が必要となります。業務遂行上必要な「スキル」は、業務の専門性や自社の特殊性を踏まえて整理し、「業務量」は、業務量の変動度合い、即時性および発生頻度を考慮の上、機能ごとに分析することが一般的です。
      海外は人材流動が激しいため、必要なスキルの整理の際は、併せて職務記述書(ジョブディスクリプション)の整備が必須となるでしょう。

よりグリップの効いた在外子会社管理を行うために

前述の通り、仕事を行う上での共通言語のような制度・仕組みを文書化して明確化・合意するということは、マルチカルチャー環境下においては必要不可欠な基礎的要素となります。
将来的に、駐在員コスト負担やローカル市場への適応の観点から、マネジメント業務の現地人化が進む中では、その傾向は顕著に表れます。さらに、合弁など他の資本関係があると、その力関係によりハンドリングが難しくなる可能性が高くなります。このような状況において、本社からの一方的な管理強化の要請では、現地マネジメントの理解はなかなか得られません。このため、本社の期待値としての重要業績評価指標(KPI)を結果にのみフォーカスするのではなく、子会社の成長を管理するという点から、場合によってはプロセス指標も含めて明確に合意し、その成果に正当に報いる仕掛けを付加して、動機付けしていく必要があるでしょう。
また、運用を定着化させていくため、地道な意識付けや、すり合わせが必要となる中で、本社-子会社間のやり取りが月一の定型様式での報告書提出のみというケース、子会社-子会社間に至ってはコミュニケーションがほとんど取られていないというケースもよくあります。これでは、PDCAサイクルにおける課題認識やアクションプランのクオリティーを上げることは難しいでしょう。その場合、本社-子会社グローバルチームのコミュニケーション活性化のための会議体を設定し、欧米グローバル企業で日常的に行われているような、週次などの高頻度のオンライン会議を実際に運用し始めるという事も効果的と考えられます。当面のコミュニケーションの話題としては、財務数値を用いた事業状況報告や各子会社で抱える課題の共有でもよいでしょう。

おわりに

在外子会社管理強化の検討に際しては、責任や権限に関わることから、事業側/管理側の利害関係者を十分に巻き込んで、前述のような必要な論点を地道に洗い出し、議論する必要があります。検討には現地メンバーを含める事が必須となり、推進にはそれなりのパワーを要するでしょう。よって、この活動を、まず重要施策として認識し、検討のための体制、計画を準備し、確実にプロジェクト化して進めることが第一歩となると考えます。

漫画_世界で闘う準備はあるか
柴田 隆治 氏
柴田 隆治 氏
KPMGコンサルティング株式会社
シニアマネージャー
英国系大手事業会社、外資系コンサルティング会社を経て、KPMGコンサルティング(株)に参画。主にグローバル企業における、在外子会社管理体制構築、グローバルオペレーション改革などの海外事業支援に注力している。コンサルティングキャリアにおいては、製造、流通、メディア、エンターテインメントを含む広い業界での戦略策定・業務改革プロジェクトを多く手掛けている。