第2回 日本的loTの実現に向けて ~日本製造業の強みを活かすloTとは~(前編)
※本記事は「IGPIものづくり戦略レポート」2016年春号からの転載です。
プラットフォーム(IoT OS)戦略について
今年の2月11日の日刊工業新聞にて、「経済産業省は製造現場でIoTを実現するための基本ソフト(OS)の育成に乗り出す」という記事がありました。あらゆるソフトウエアの基盤となるIoT OS=プラットフォームは製造業の国際競争に大きな影響を与える可能性もあることから、日本の強みに沿ったプラットフォームを国主導で普及させるのが狙いです。実際に実現するとなると全ての業種で使用するための汎用性をどう確保するのか等、多くのハードルがあります。
海外のIoT関連企業・ベンダーは既にプラットフォームの分野を握ろうとする激しい動きが見えます。例えば設備メーカーが、プラットフォーム分野に進出したり、プラットフォーム関連企業に対して大規模M&Aを実施しております。その意味で冒頭の記事は、ようやく日本政府も重い腰を上げたと言えます。
日本の製造業のプラットフォームに対する意識
一方で当事者である日本の製造業は、基幹技術となるプラットフォームについてどう考えているのでしょうか?IoTが実現するスマート工場のような青図はよく目にし、話も聞きますが、それをどう実現するかまで突っ込んだ絵にはなかなか出会いません。IoTは、グローバルで産業構造を抜本的に変革する可能性がありますが、その基幹技術の分野について、残念ながら日本の製造業の意識は依然低いと言わざるをえません。このままだと日本は、欧米のプラットフォームを「借り物」している光景が目に浮かびます。
欧米的IoTでは何故いけないのか
欧米のプラットフォームでは何故いけないのか?日本製造業の競争力的観点から二つの懸念があります。
一つは、日本が強みとする工作機械やロボット等の工場設備メーカーにとって、その設備を導入した工場で採用するプラットフォームに大きく影響を受ける可能性があります。これは、パソコンやパソコンのアプリケーションが、採用するOSに機能が左右されるのと同じです。つまり欧米のプラットフォームに接続するがために日本の設備の機能が制約を受ける可能性があります(図1)。もし、日本の設備メーカーが競合する欧米設備メーカーのプラットフォームと接続するのを容認しない場合は、自社設備向けのプラットフォームを準備する必要があります。その意味で日本の設備メーカーは、プラットフォームについて自社で準備するか、他社のプラットフォームに接続するのを是とするかという戦略的な意思決定が求められます。
二つ目は、欧米的IT技術が業務やデータの「標準化」と大規模データベースを前提としている点です。ERP等の導入時にBPR(Business Process Reengineering)を経験したことがある方なら、業務やデータの標準化は必ずと言ってよいほど経験されたと思います。そして擦り合わせ的な日本の製造業の場合、多くの企業が標準化について苦労したと聞きます。loTの膨大なデータを標準化し、プラットフォームに格納するのが大変なことは想像に難しくありません。また、たとえ標準化しても、日本の製造業の強みは「カイゼン」であり、もし、苦労した標準化のために日本のモノづくりの強みである「カイゼン」=現場の変化を行いづらくなれば、本末転倒です。
※本記事は「IGPIものづくり戦略レポート」2016春号からの転載です。
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