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日本式IoTのすすめ

第5回 日本式IoTのすすめ ~IoTによる海外工場運営力強化のための処方箋~

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※本記事は「IGPIものづくり戦略レポート」2017年新春号からの転載です。

IoTによる工場運営力強化 取り組みの現状

本レポートにてIoTに関する連載を始め、ちょうど1年が経過しました。IoTの取り組みについて弊社が受ける相談も増えてきており、この1年で各企業にてIoTに関する取り組みがさらに加速していることを実業務の中で実感しております。

加速している取り組みの1つとして、IoTによる工場運営力強化が挙げられます。ものづくりを高いレベルで見える化し、設備稼働率や生産性を向上する取り組みです。これらの取り組み、成果については各種情報ソースにて、目にしない日はありません。

しかしこれらの取り組みを個別に見ていくと、単一の工場をターゲットとしているケースが多く、さらに対象のエ場は元々強く、強い工場をさらに強くする取り組みが多いと感じております。各工場への本格展開はこれからという段階なのかもしれませんが、グローバル全体で工場運営をいかに強化すべきか?という論点はまだ少ないのが現状であると考えております。

問題児で有り続ける海外工場

お客様と話をしていると、海外工場の運営に関する悩みを多く聞きます。「QCDが想定通りに改善しない」「結局、日本人駐在員頼みで現地人材が育たない」「育たないどころか人材の流動性が高く定着すらしない」

日本の工場の現場力は強いのに、海外工場はいまいち、この構図はIoTが「流行り」となる以前から変わっておりません。強い工場をどれだけIoTで武装し、さらに強化しようとも、このままではグローバル全体でのものづくりカは向上しません。日本企業にとっては、海外工場の運営能力の強化に対してこそIoTを活用すべきだと考えます。

これまでの日本式の工場運営

強い日本の工場と弱い海外工場の構図はどのように生まれたのでしょうか?いくつかの要因が考えられますが、以下の通り、日本と海外での現場管理能力のスキルGapが一つの要因として考えられます。

・限られた現場情報から問題の原因を特定できる、経験豊富な日本の現場管理者
・限られた現場情報では問題の原因を特定できない、海外の現場管理者

日本の工場における現場情報の見える化レベルは高いと言われますが、それでも現場で発生している問題に気付くことができるというレベルです。見える化された情報から、なぜその間題が発生したかの原因を特定するには至りません。しかしながら、特にベテランとされる日本の現場管理者は発生した間題から、豊富な経験と勘を駆使し、筋のよい仮説を立案、検証し、原因を特定できる高度なスキルを有しています。そのため、限られた現場情報でも問題解決ができるのです。

一方、海外の現場管理者は、そのような高度なスキルを身につけておりませんし、これからも身につけることが困難な可能性大です。なぜならば海外の現場管理者は他社からの転職組も多く、人材の流動性も高いため、日本のベテラン現場管理者レベルまで育成することが構造上難しいからです。

このような構造的な要因を理解せず、日本のやり方をそのまま海外工場で踏襲し、海外の現場管理者に日本と同じレベルを期待しても、日本と海外の実力差は永遠に埋まりません。

IoTが工場運営にもたらす変化は?

日本式の工場運営を海外工場に求めることができないとすると、別のやり方を考えるしかありません。海外の現場管理者が、限られた情報では原因特定できないのであれば、特定可能なレベルまで、現場情報収集レベルを引き上げればよいのです。

現場情報の高度な可視化はIoTの十八番です。IoTにより、工場内の様々な生産要素(Man、Machine、Material)の情報を取得することができます。また、日単位の平均値でしか取得できなかった情報が分単位で取れるなど、情報の粒度、頻度を上げることができます。また、これまで人手で取得していた情報も、センサーを介し自動取得することで、精度も格段に向上します。

これだけ情報収集レベルが上がると、これまでは問題の発見、原因特定のための仮説立案のインプットに活用されていた現場情報を、間題(結果)となる情報と原因となる情報の因果関係をダイレクトに繋げることができるようになります。

熟練工が取るアクションと、設備稼働データや品質データなどの製造現場情報との因果関係をIoTにより紐付けしている企業があります。その企業はこれを「熟練エノウハウの数値化」と呼んでおります。ポイントはこの「熟練工ノウハウの数値化」結果をいかにグローバルで活用しうるか、ということです。

             図1:現場情報収集レベルと製造現場管理レベル変化の関係性整理

図1:現場情報収集レベルと製造現場管理レベル変化の関係性整理

IoTにより海外工場運営力をいかに強化すべきか?

ここまでの考察をまとめると図1のように整理をすることができます。それでは、IoTにより現場情報収集レベルを向上させ、日本と海外工場の実力差を埋めるために何をすればよいでしょうか?具体的には、4つの取り組みを実施する必要があると考えております。(図2)

① これまでと同様、日本の工場にて、能力の高い現場管理者を育成する
 IoTを駆使し、高レベルに現場情報を可視化できる仕組みを構築する
③ ①②を用い、現場の問題解決ノウハウを標準化する。すなわち、ある問題に対し、①の人材が問題に対する原因を特定。②により問題の情報と原因の情報を紐付け、因果関係を形式知化することで標準化する
 可視化の仕組み、標準化されたノウハウを海外工場に展開するロードマップを作成する

取り組みのポイントは、①~③のステップは日本の工場のような強い運営力を有する工場をモデル工場としつつも、海外工場への展開を前提として検討を行うことです。海外工場への展開を前提とした取り組みにするためにも、④の展開ロードマップを検討することは重要です。複数の海外工場の実力値を勘案しながら、展開の優先度、タイミングを明確化します。

日本の工場運営力をIoTで標準化し、海外展開するステップこそ、日本製造業がグローバル全体で工場運営力を強化できる有効な手段であると考えております。現在、工場のIoT化を推進されている皆様は是非、海外工場への展開を念頭に置き、検討を進めることを推奨致します。

                   図2:これからの強い製造現場の条件

図2:これからの強い製造現場の条件

 

※本記事は「IGPIものづくり戦略レポート」2017年新春号からの転載です。
最新の「IGPIものづくり戦略レポート」はこちらのサイトで公開されています。(株式会社経営共創基盤様のサイトへ移動します。)

東洋ビジネスエンジニアリングのものづくりデジタライゼーション
古澤 利成 氏
古澤 利成 氏
株式会社経営共創基盤
マネージングディレクター

SIer、大手コンサルティングファームにて、製造業に対するERPグローバル展開構想策定~導入、海外工場立上の構想策定、グローバルサプライチェーン改革などSCMに関連する改革支援に従事。IGPI参画後は、各種製造業に対し事業戦略策定~実行支援、全社組織改革、経営マネジメント改革、技術戦略策定、コスト競争力強化など、製造業の競争力を高める様々な改革を推進。
早稲田大学教育学部卒、東京大学大学院理学系研究科修了
https://www.igpi.co.jp/