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日本式IoTのすすめ

第6回 日本式IoTのすすめ ~忘れてはならない「ものづくりの本質」~

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※本記事は「IGPIものづくり戦略レポート」2017年春号からの転載です。

IoTは具体化ステージに

昨今、日本では通信業界や自動車業界を筆頭に、IoT(本稿ではIoTはセンサー、データ、データ解析、人工知能等を広く含める)に対する取り組みが非常に増えてきています。弊社への間い合わせも年々増加し、その内容も事業化に向けどのように他社と協業すべきか、生産性を向上するためにはものづくりをどう変えるべきかなど、以前に比べかなり具体的になってきています。
本稿では、そんな具体化のステージにあるIoTに関して、実際の導入の前に忘れてはならない、自社製品のアーキテクチャーを論理的に理解することの重要性について触れてみたいと思います。

技術進化における大きな変化

これまで日本企業での新技術といえば、自社開発あるいは長く付き合いのある系列企業と共同開発といった形の自前主義や、大企業同士の技術提携といったものが大半でした。それがここ最近、自動車業界のアライアンス傾向からも見て取れるように、大手メーカーとベンチャー企業の技術提携といった内容も珍しくありません。これまでの技術進化との違いは、世界中の新技術を見つけ出し手に入れることが情報ネットワークの発展やオープンイノベーション活動が進展したことで可能になり、変化のスピードがこれまでと違う次元突入していることです。

技術進化に大きな変化をもたらしている要素の一つがコンピュータの処理能力の拡大による情報量の急激な増加と、それらを連携するためのネットワークやインフラ環境の向上等が挙げられます。(図1)例えば、一昔前に活躍していたPHSや携帯電話は姿を消しつつありスマートフォンがこれまでとは異次元の速度で普及しました。その背景には、スマートフォンに必要なデータ処理能力やネットワーク環境が整い、その結果ユーザーベネフィットとなる圧倒的情報量の提供(各種アプリ・ゲームなど)やネットワークの利便性(GPS、SNSなど)により爆発的な普及をもたらしたといえるのではないでしょうか。

                   図1:技術進化における構造変化
図1:技術進化における構造変化

価値向上とは?

膨大なデータやAI等の先端テクノロジーを駆使し、IoTで自社の価値向上を目指す企業も少なくありません。ここで重要なのは自社製品が提供する価値とは何か、そしてIoTによる効果をどこに求めるかを明確にして取り組むことです。

IoTによるコアベネフィット(効果)を分類すると大きく2つに分けることが可能と考えます、1つは内部付加価値の向上(製品開発、生産活動への進化貢献(開発効率化、原価低減等))、2つ目は外部への付加価値(製品を通じての提供価値、サービスの質や範囲の拡大等(売上拡大等))の向上です。

ものづくりの本質に立ち返る

IoT導入といえば、センサーの導入、クラウド化と日本企業はすぐ手法論に走りがちなように思います。しかし、手法論の前にもっと大切なことがあります。それは、ものづくり全体で考えた際に、開発時における、製品設計のアーキテクチャーと生産のアーキテクチャーの関係性の理解です。アーキテクチャーを理解しIoTをどう発展的に活用していくのかを考えず、現場の作業効率化など末端の困りごと事象に対する打ち手としてIoTを導入しては本末転倒です。製品開発・供給のスピード、社内データや市場に出した製品を通しての社外データ蓄積・活用が、自社製品・サービスの価値向上に大きく影響します。そのため、自社の提供価値を明確にして、競争領域と非競争領域の選別が必要です。腰を据えて永続的に取り組んでこそ意味があるものなのです。

日本の多くのものづくり企業は摺合せに強みを持ち、経験や勘、実機検証といったナレッジとリアリテイベースの開発形態が多くを占めます。その背景には組織の巨大化による分業化や、製品の高度化・高機能化による複雑化等があり、その結果、製品全体を見渡せてものづくりのアーキテクチャーを理解している人が少なくなっているのが現状です。そのため、まずは製品のアーキテクチャを棚卸し、見える化することが重要となります。そして複雑化した関係性を最適化、シンプル化しリアーキテクトし、摺合せによるものづくりのアーキテクチャをサイエンスとして紐解くのです。多くの場合、これは今現在、組織内に暗黙知として眠っている性質のものです。

アーキテクチャー全体の把握により、ユニット間・諸元間の関係性が明確化します。例えば、数式やパラメーターで定量化可能な部分、関係性は不明確だが実証から相関が見られる部分といったことが明確になります。更には機能や技術の変化が与える2次的、3次的影響や波紋のように広がる効果の全体像が見えてきます。技術の進化を考えた際に、自社製品の競争優位性とその源泉が明確であれば、稼ぐ力のコアがIoTにより影響を受けるのか否かも見えてくるのです。(図2)

アーキテクチャーを見える化し提供価値を明確にすること。これにより競争領域と非競争領域を設定しIoTでの強化領域も設定可能となります。

             図2:競争力領域を明確化する、アーキテクチャーの把握イメージ
図2:競争力領域を明確化する、アーキテクチャーの把握イメージ

IoTの適合性とありたい姿

アーキテクチャー全体での波及効果や関係性を紐解いたうえで、次はIoTを活用しどこを強化することが効果的なのかを見極めます。IoTの適合性を見極めるポイントは大きく3つあり、何れかに当てはまる要件は効果が得られる可能性が高いといえます。
① データ数:関係性や相関を見る際にデータのN数が多く必要となる要件で、そのデータが取得可能
② 複雑性:変数となる要件がある程度特定でき、その変数が多くネットワークが複雑な関係性が存在(複雑な使用条件下の力学解析等)
③ 明確な目的:予想したいことがあり、変数や関係するパラメーターが明確な要件(○○の最適化や予測精度向上等)

IoTに必要となる変数の設定やネットワークの広げ方は人の知恵の出しどころで、自社の企画・開発能力が試される部分です。ものづくりにおいてIoTによる情報は、現場の技術進化・改善活動を支える道具として提供することが前提となり、自社のものづくりの本質を捉え、現場の確かな判断をIoTが支えるという関係を築くことが重要です。

 

※本記事は「IGPIものづくり戦略レポート」2017年春号からの転載です。
最新の「IGPIものづくり戦略レポート」はこちらのサイトで公開されています。(株式会社経営共創基盤様のサイトへ移動します。)

東洋ビジネスエンジニアリングのものづくりデジタライゼーション
平山 喬之 氏
平山 喬之 氏
株式会社経営共創基盤
マネージングディレクター

前職のSIerにてPDM、CADの導入支援、自動車、建設機械の開発設計支援に従事。IGPI参画後は、大手輸送機械メーカーの原価管理&可視化、大手電機メーカーの連結製品別損益の見える化・ライフサイクルコストマネジメントによる経営管理強化、工作機械メーカーの全社ものづくり改革、産業機器メーカー、電気部品メーカーの標準化・モジュール化、グローバル設計標準整備、設計改革(開発プロセスの再構築、設計品質の向上)等、多岐にわたるものづくり改革に従事。
https://www.igpi.co.jp/