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日本式IoTのすすめ

第7回 日本式IoTのすすめ ~オープン化時代に対応する競争力の構築~

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※本記事は「IGPIものづくり戦略レポート」2017年夏号からの転載です。

ビジネスモデルの多様化

「顧客は製品では無く、機能を買っている」当たり前ですが、なかなかこの考え方の徹底には至らないものです。工業用コンプレッサー製造・販売のドイツのケーザーでは、コンプレッサーの販売ではなく、使用した圧縮空気の使用量課金というサービスビジネスモデルを打ち出しています。まさに顧客はコンプレッサーではなく圧縮空気を買っているという、シンプルかつ強力な発想だと思います。同社は2017年4月のハノーバーメッセ(工業製品の見本市)にて出店されており、筆者もブースを尋ね、マネジャーにヒアリングしました。「25%の顧客がコンプレッサーの購入から使用量課金に切り替えている」とのこと。まさにこの新しいサービスビジネスモデルが順調に拡大しているようです。

オープン化

最近では上記のように多くの企業がサービスビジネスモデルを模索している中、他社との協業を推進する、いわゆるオープン化のトレンドが強まっています。背景には、趨勢的に製品ライフサイクルが短くなり、又、モノとITが混在し製品の複雑さが増しました。つまり、事業スピードが求められる中、同時に複雑さに対応し、サービスも含めた多彩なビジネスモデルまで考慮しなくてはならない事業環境という意味です。こうなると自社だけでは対応出来無い、誰かと組むべき・・・そんな世相です。実際、自動車業界とIT関連企業が提携し、商社が製造業をグループ傘下に置き、素材メーカーが素材提供のみならず自ら部品設計するためにオープンイノベーションを推進するなど、業界の垣根を超えた動きが当たり前のように起こっています。

プラットフォーム

もう一つのトレンドとして、ご存じの通りシーメンスやGEは、各機器からのデータ収集・蓄積などの機能を独自ソフトウェアで実現するプラットフォームを構築、販売しており、その利用も広まりつつあります。こういったプラットフォームの利用については、他社製のプラットフォームに依存するリスクなどが議論されておりますが、ここでは他社製を活用することを想定してみます。

例えば、ある機械設備メーカーA社にとって、設計はA社自身、試作はB社、量産は自社に加えてC社、メンテナンスは国内A社、アジアはD社に委託、といった座組みをするとします。各機械からの稼働データ等はプラットフォームに蓄積、解析され、A社の開発にフィードバックされます。スペック情報はB、C、D社にも共有され、この機械設備の製造・販売・メンテビジネスのバリューチェーンそれぞれのプレーヤー間で情報連携が促進されます。外部企業との協業、つまりオープン化においては、プラットフォーム上で機能の棲み分けをするのが効率的でしょう。

今後、このバリューチェーンを横断したオープン化の流れにおいて、このようなプラットフォームの利用を検討することも多くなるでしょう。この場合、自社が有利なポジションを構築・維持するには何が必要でしょうか?

競争力の自己認識

前号でもご紹介した通り、多くの企業で自社の何が"競争力領域"で何が"非競争力領域"かについての自己認識の不足が散見されます。その競争力とは、例えば製品のアーキテクチャの構想・設計力、試作試験のデータ解析力や、あるいは量産立ち上げ時の生産技術力かも知れません。多くの場合は複数の要索が絡み合って構成されているものです。この自社の競争力が外部と比較して強いのか・弱いのかが把握出来ていないことがあります。内外製方針があいまいで、短期的なコスト削減のみの視点で設計・製造などの機能外注をするケースがたまに見受けられます。これも同様に、自社の競争力の自己認識が無い状態だから起こってしまうのです。

オープン・クローズ戦略

オープン化の流れに対応し、プラットフォーム等を活かすにはオープン・クローズ戦略の策定が必要です。それにはまず、自社の強みを外部環境の変化と照らし合わせて今後どのような事業領域で戦っていくのか、の整理が不可欠です。その事業領域において自社で何をやるのか、他社と何を協業するのか、そのために何を内製して、その知見やノウハウは手の内化するのか・・・それら内部の強みは最終的には特許として法的に守るのか、ブラックボックス化して秘匿性を確保するのか、といった知財戦略に反映されます。一方で外部については、前項にあるように企業間提携にて事業スピードを上げる方法やオープンイノベーション等の新しい風を吹き込む戦い方もあります。このような戦い方のストーリーを描きましょう(図1)。

               図1:オープン・クローズ検討例(機器メーカー等)

図1:オープン・クローズ検討例(機器メーカー等)

組織固有能力の構築

この検討は一度やったら終わりではありません。競争力領域では知見蓄積のルーティン化も必要です。自社の競争力と見なしたら、開発や設計、生産技術、製造の分野を問わず、暗黙知を形式知化し、展開、深化、また展開という行為を日常の業務ルーティンの中に組み込みます。これをしないと、何が起こるでしょう?特定のノウハウは特定の個人に内在ことが多く、いわゆる属人化が進展します。

この状況では、その個人の限界がそのノウハウ深化の限界になり、停滞します。また次世代の育成に繋がらず、組織力としての底上げに寄与しません。その個人が退職したりすると競争力が消失します。次世代は育ってないのでゼロからまた検討・・・と競争力の継続性が途切れます。その間、競合もレベルを上げているので、市場で負けます。短期的な目線で投資抑制、五月雨な外注化の推進・・・一旦このような負のスパイラルが始まると止めるのは容易ではありません。そのため競争力維持の要諦は、暗黙知の形式知化を業務ルーティン化することです。このルーティンを廻すことを組織DNAと昇華するまで行うのです(図2)。

                   図2:知見蓄積のルーティン化

図2:知見蓄積のルーティン化

冒頭にご紹介したケーザー。新規ビジネスモデルを開始するため、サービス拠点を拡げ、従業員のトレーニングなども継続して、モニタリング・データ解析の能力までも自前で創り込んだそうです。お話を聞かせてくれたマネジャーが笑いながら言いました。「時間はかかりました。でも、これからですよ」

 

※本記事は「IGPIものづくり戦略レポート」2017年夏号からの転載です。
最新の「IGPIものづくり戦略レポート」はこちらのサイトで公開されています。(株式会社経営共創基盤様のサイトへ移動します。)

東洋ビジネスエンジニアリングのものづくりデジタライゼーション
沼田 俊介 氏
沼田 俊介 氏
株式会社経営共創基盤
パートナー 取締役マネージングディレクター ものづくり戦略カンパニー長

外資系コンサルティングファーム及び国内独立系ファームにて、大手半導体、ガラスメーカー、化学メーカー等グローバル製造業の業務改革構想立案と実行をサポート。事業戦略やIT戦略の立案から業務標準化、プロセス改善等の実行までのハンズオン支援を実施。また多くの製造業にて全社的なERP導入を指揮。IGPI参画後は各種製造業の短期的な収益性改善、ものづくり改革による中長期的な競争力強化、また海外展開における戦略策定とその実行支援を統括。 ケースウェスタンリザーブ大学経営学修士(MBA)
https://www.igpi.co.jp/