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コラム

生産海外移管戦略編

第7回 『生産移管戦略の進め方 ~前編~』

生産海外移管戦略編生産移管を進めるときは製品、顧客、拠点の三つの視点で検討することが重要です。
実際に生産移管を考える時は、図1に示すように、基礎情報としての製品の原価データをもとにして、7つのステップですすめていきます。今回のコラムでは、Step1とStep2についてご説明します。

 

図1:生産移管戦略の推進ステップ図1:生産移管戦略の推進ステップ

STEP1 データを準備する:判断データのない会社は間違った判断をする

生産移管プロジェクトを進めるとき、多くの企業から、原価がわからない(または最新の情報がない)とか、現在、当社の原価管理制度自体が問題になっている(それでも、今の原価を使わざるを得ない)という原価問題が最初に出てきます。
原価がわかりませんという会社は論外です。原価がわからないということは、原価低減とか製品戦略の議論をしていないということですから、このような会社は何をしても成功することはありません。また、原価がわからない企業が正しい経営判断をすることは不可能です。
経営管理のための基本となる製品原価データがない、または信用できないと思っている企業はたくさんあります。成長期にはそれでもなんとかやれたかもしれませんが、現在のように国内縮小計画では信頼できる原価データなしでは生産移管に伴うリスクが高すぎます。
「顧客別のデータがありません(または「時間がかかりますが、やってみます」)」とか、「顧客対応に関しては営業部門との関係があり、慎重に推進する必要があります(根回しとか、データを適当に選ぶとか、社内での調整が必要です)」という企業もあります。このようにものづくりの現場と営業がデータで連携できていない会社もたくさんあります。このような会社は移管プロジェクトを通じて、顧客戦略を考える習慣をつける良い機会としなければなりません。顧客別に損益を考えることによる戦略性が高まり、莫大な利益改善分野を発見することができるのです。
多くの企業が、設備別の稼働率がわからない(だから、どれくらいの生産余力があるのかわからない)とか、段取替え時間など生産に影響する指標が設定できていない(またはわからない)など、工場内部の活動の分析情報が整備できていません。生産に関するKPI(Key Performance Indicator:業績評価指標)、すなわちうまく生産できているか否かを判断する指標が管理できていない会社もたくさんあります。問題ではありますが、逆にいえばそれだけ改善の余地があるということです。
重要なことは、これらを整備しつつ移管プロジェクトを推進することによって正しい判断が行われ、移管後の改善も進み、競争力を向上させることができる、という点です。データの整備は移管作業の必要条件です。もちろん十分条件は、それを使って競争力の上がる戦略を立案し、実行し、成果を上げることです。

STEP2 移管ルールに基づいて、いくつかのケースを作る:問題を構造化できないスタッフは、一つの答えしか提示できない

多くの企業が、判断のための複数のケースを設定することができません。そのもっとも大きな理由は、与えられた課題の理解が不十分であることと、課題解決のための問題の構造化ができていないことにあります。
生産移管作業の焦点は、製品別損益の改善、顧客別損益の改善、そして工場別損益の改善です。課題を、「製品Xのコストダウンのために中国の工場に製品を移管すること」と理解したスタッフは、迷わず生産移管によるコストダウン金額の計算をします。この計算は簡単です。しかし、製品Xを移管することから派生する新たな問題には言及できません。問題の構造自体を把握し、検討することができなければ、「いくつかのケースを検討し提示する」ことはできません。検討の最初の段階で課題を明確に文章に表現し、問題構造を可視化することがケース作りのもとになります。問題を構造化できないスタッフは一つの答えしか提示できません。その一つしかない答えは、多くの利益改善の可能性を失い、最悪の場合、派生するもっと悪い結末を導くはめになってしまいます。
そのため、生産移管の検討のためのいくつかのケースを作る前提条件になる移管ルールを明確化する必要があります。たとえば、メッキ工程は環境問題があるので現在の工程を移動しない、溶接工程は現時点の技術レベルから考えて移管しないなど、主に設備と特殊工程の扱いを明確にすることによって、ケースの幅を狭くします。しかし、あまりに多くの制約を入れると生産移管できないということになってしまうので、制約条件は保守的であってはいけません。多品種少量品は面倒なので生産移管しない、などは論外です。大きな利益の機会を失うことになります。
図2:シミュレーションモデルとその有効性

図2:シミュレーションモデルとその有効性

実際に生産拠点戦略の検討を行う際には、いくつかのスキームを想定します。それぞれのスキームごとに定量的側面がどのように変化するか、定性的側面でどのような影響が生じるかを予想し、最終的な経営判断を行うこととなります。その際に有効な手法がWhat-if分析です。What-if分析とは「○○○という条件の場合に、△△△はどうなるか?」というシミュレーションのことです。生産拠点戦略における原価に関するWhat-if分析では、図2に示すように、生産拠点戦略の検討要素や原価と利益の変化に影響する要因ごとに、それぞれが変化した場合にどのような利益・原価になるかをシミュレーションするモデルを整えることです。実際には図2に示すパラーメータの条件を複数組み合わせながらシミュレーションを繰り返すこととなります。
では、次回のコラムでは、残るStep3からStep7についてお話しいたします。

第8回コラム「生産移管戦略の進め方 ~後編~」に続く

漫画_世界で闘う準備はあるか
杉原 健史 氏
杉原 健史 氏
株式会社アットストリーム マネジャー
(株)第一勧業銀行、キーエンス、アーサーアンダーセンビジネスコンサルティング等を経て、現在に至る。KPIマネジメントによる経営改革の推進、各種SCM改革の企画・立案・実行支援などの各種プロジェクトに従事。主な著書に『SCP入門』(共著)工業調査会、『e生産革命』(共著)東洋経済新報社。
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※(株)アットストリームの杉原氏に、直接メールで連絡を取ることができます。
渡邉 亘 氏
渡邉 亘 氏
株式会社アットストリーム マネジャー
TIS株式会社を経て、現在に至る。製造業における業務改革の推進、生産ならびに収益管理システム構築の企画・立案・実行支援、情報システム運営の構造改革立案・実行支援など、各種プロジェクトに従事。
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※(株)アットストリームの渡邉氏に、直接メールで連絡を取ることができます。