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コラム

製造業の設計・開発改革方法論編

第2回『グローバル技術基盤の位置付けはビジネス拡大に対する手段』

製造業の設計・開発改革方法論編前回のコラムで、「なぜ設計開発領域の改革が上手くいかないのか?」というテーマを投げかけました。要約すると、<経営者の興味ある視点>と<設計開発現場の課題認識(視点)>にギャップがあるため、トップダウンが上手くいかないという話をしました。コラムを読んだという方から、自社が陥っている状況と一緒だという話をいくつか頂きました。「自社では開発効率向上、新製品開発工数へのシフトといった目的をもって活動をしているのだが、実際の設計開発業務が忙しすぎてキーとなる技術者の手が借りられない」、「上層部に工数捻出を依頼しても難しくどのように進めたらよいのか?」というものです。問題は共通のようです。

今回はどのようにトップを巻き込んだ活動にしていくのかをテーマに、事例を交えて説明していきたいと思います。

DCM(設計開発領域)改革の目的認識のずれ

DCMに関する経営者の課題認識を前回お話しました。「新製品が予定通りに出てこない」、「顧客ニーズに合った製品が提供できない」、「技術伝承が進んでおらず開発者の高齢化が進んでいる」、「手戻りが多く開発コストが膨れ上がる」といったキーワードが出てきます。こうした認識は設計開発部門のトップも同じであろうと思います。ではそこでどのような改革を進めているでしょうか?
下記は開発プロセス改革の例です。

A社開発プロセス改革プロジェクト概要
目的 技術の可視化・再利用化による開発期間・工数の削減
手段 開発の全体感・影響範囲など技術可視化、活用できる基盤・仕組みの上に、開発スタイルを変える取り組み。技術を再利用する単位を再検討し、コアとノンコア技術を明確化した企画主導型の開発スタイルにより、手戻りをなくし、タイムリーに市場に製品供給できる開発体制をめざす。
効果 開発期間30%削減、開発工数40%削減、既存業務の削減による人員シフトで新製品開発比率60%達成

 

図1:A社における開発プロセス改革概要図1:A社における開発プロセス改革概要

 

この取り組みのキーポイントは「グローバル技術基盤構築」です。単純な技術文書の蓄積やCADのデータ管理、開発プロセスの管理ではなく、自社製品を構成している技術を可視化し、再利用することができるというところにポイントがあります。これにより、開発期間や工数の削減、新製品開発人員の確保、技術伝承による若手技術者の底上げといった効果が想定できます。また可視化された技術を再利用する事で技術の蓄積もできるようになります。開発部門からすれば、経営者のニーズに合った活動だと考えるはずです。この活動現場を見てきましたが、若手が主体となり改革を推進し、ベテランやエース技術者が支える活動の体制として素晴らしいものでした。実際に既存製品のメンテナンス開発(部品改廃、法規制対応、ラインナップ展開等)といった部分でも期間短縮や若手へのシフトが行われており、効果は十分に出ていたと思われます。ただここに経営者と開発部門トップの認識ギャップが存在しているのです。

経営者が目指す姿と開発部門の活動をつなげる

経営者が見ているKPIの中には当然原価削減も入っています。ここには製造原価や開発原価も含まれています。先の開発プロセス改革活動では、製造原価を意識した製品開発の実現や、開発期間や工数の削減による開発原価の削減といった効果につながります。
ところが、今の製造業を取り巻く環境を見ていると自社の製品開発の効率化だけではこれからの市場では生き残れないという不安が常に経営者に圧力をかけているのです。注目しているKPIは受注・売上の拡大(市場におけるシェア拡大)、新市場や新レイヤーに対してのビジネス拡大という部分にあるのです。これらを実現するための手段として設計開発部門の活動を位置づけなくてはなりません。

製造業が置かれている背景と実現するための変革ポイント

図2は共動創発が考えるこれからの製造業の変革モデルです。我々は横河電機グループとして横河電機の改革を推進する役割を担っていますが、改革の背景には、製造業が置かれている状況が大きく変わってきていることがあげられます。産業の多層構造化、ビックデータ、クラウド、IoTやインダストリ4.0といった潮流があり、日本の製造業にもグローバル化とコモディティ化の波は押し寄せています。実際に横河電機も中期経営計画でソリューションサービスビジネスへの転換を掲げていました。こうした背景の中、市場で勝ち抜くために「真のグローバルビジネスモデル」へ変革する必要がありました。

 

図2:共動創発の考える製造業の変革モデル図2:共動創発の考える製造業の変革モデル

 


ここで重要視していたのは、今までのプロダクトアウト型のアプローチから顧客志向型を更に追求したビジネスモデルにしていくことでした。そのために4つの変革ポイントを掲げました。

「フロントエンドイノベーション」
より顧客に近いところで既存技術と新技術を組合せて課題解決提案、価値提供を行うという考え方です。例えば、提案型営業モデルもこれに当てはまります。横河電機の製品には特注製品も多く存在します。これらは一つの付加価値として顧客に認められているものもあれば、標準モデルの機能が不足していることで対応しているものもあります。本来、特注とは今までにない技術や機能を特別対応で提供するものですが、単にラインナップの不備を埋めるための特注も数多く存在します。そうしたものは仕組みで対応し、営業が顧客との商談の中で判断して、その場で提案できることが重要です。
今までの日本の製造業ではそうした領域をわざわざ技術者が時間をかけて対応し、回答し、調整し商談を進めてきましたが、それではグローバルビジネスのスピードには追いつきません。パソコンが分かりやすい例ですが、いまどき機能や仕様を営業担当者と相談しながら購入することはなく、すべてWebで必要な機能や仕様を選択してそのまま購入できるようになっています。B2Bの工業製品であっても同様の取り組みが行われ、より高度で高付加価値を提供できる部分に技術者をシフトすることが重要です。
こうした仕組みを構築する上で重要になるのが、可視化され組み合わせ活用が可能なグローバル技術基盤というわけです。


「フレキシブルオーガナイゼーション」
トップダウンとボトムアップで、流動化するビジネスに柔軟に対応するための組織変革です。
例えば、ある市場が一気に伸びてきている。ある顧客が大きな投資をしていく。そういったところに対して企業も人・モノ・カネを投入していきたいと考えているはずです。ところが既存の組織は縦割りのサイロ型で、人が流動的に動けなくなっているケースがよく見受けられます。また、各組織には売上・利益のKPIが当然のようにあり、新市場や新ビジネスに積極的な投資が難しい状況もあります。ではどうやって市場変化のスピードに追随し新ビジネスを獲得できるのか?そこで縦割りやサイロを取り払った人の流動化が重要になります。
ただし、製造業として製品を開発設計している以上、誰でもできるわけではありません。そこで、自社の技術が蓄積され、活用できるグローバル技術基盤が重要になるのです。これらを活用することで、技術者が流動化して別部門だった技術者同士が新たな開発を短期間で行う事ができるのです。

「ビジネスリーダー育成」
新市場やビジネスを牽引する人財の育成と基盤づくり。今企業が一番求めているのはここかもしれません。
特に技術系の人財は技術レベルが高くてもそれをどのようにビジネスの拡大につなげていくか?という意識が低い人が多く見受けられます。市場を開拓する、拡大するのは常に営業・マーケティング系の役割だと思っているのかもしれません。ただ、今のように市場の変化が速い中では、技術系の人財がよりフロントに赴き、解決手段を検討し、ビジネスにしていかなくてはなりません。
そうした人財を供給するためには、最初から市場をリードする人財を定義し、そこに向かって成長していくような機会や仕組みが必要になってきます。単純にある特定の技術領域だけを行うのではなく、様々な技術領域を経験し、企画や営業といった部門を経験させ、感度の良いセンサーを身に着けた人財を輩出していくことが技術部門にも求められています。それらを実現するためにグローバル技術基盤を活用していく必要があるのです。

「レイヤー戦略/マージナル戦略」
レイヤーとは自社がビジネスをしている領域を広げる、もしくは変えていくことを意味しています。例えば携帯電話ではユーザ、キャリア、携帯電話メーカー、部品メーカーといったレイヤーがあり、日本の携帯電話メーカーはキャリアを見てビジネスをしていました。そこにAppleがiphoneを持ち込んだことでそのレイヤー構造は崩れ、ユーザが直接iphoneを選択するといった形に変わりました。このように自社がどこのレイヤーでビジネスをしているのかを意識しながら、拡大するのか、変更するのか、見極めながらビジネスを企画していかなくてはなりません。
マージナル(周辺)戦略とは、製品の構造として日本市場での製品を海外に展開し、そこに必要な仕様を追加していくのではなく、あくまでグローバル標準モデルに対して、日本の仕様(周辺)に対しても、北米オプション、欧州オプション、東南アジアオプションといったものと同じように一つのオプションとして定義するような構造にしていくことを指しています。

こうした考え方で製品仕様や構造を考えていくためにグローバル技術基盤を活用していくことが、真の「グローバルビジネスモデルへの変革」を実現する手段となります。

ビジネス拡大の手段としてのグローバル技術基盤

図1と図2にはともに「グローバル技術基盤」がありますが、位置付けが大きく異なっています。図1では、あくまで技術部門のためのインフラとしてしか捉えられません。しかし図2では、これからのビジネスを支えるための重要なインフラとして位置づけることができるのです。このように同じグローバル技術基盤と言っても目的や視点を変えることでその位置付けが変わります。経営者の視点と同じ視点に設計開発部門もならなくてはなりません。同じ視点になった時に、経営にインパクトを与える設計開発部門としての改革として理解され、トップダウンとボトムアップで推進できる改革活動が実現するのです。
2月19日の「MCFrameDay2016」ではこのような考え方の中で、どのように改革を実現しているのかを事例とともに解説していきたいと考えています。会場でお会いできることを今から楽しみにしています。

第4次産業革命の本質を踏み外すな、成果を得るにはまず設計と製造の壁を破れ
田中 剛 氏
田中 剛 氏
株式会社ワイ・ディ・シー  共動創発事業本部共動推進部 部長
日本ヒューレット・パッカード株式会社にて大手製造業向けのERP、SCM、PDM、e調達、MESといったシステム導入に従事。その後製造業専門のコンサルティングファームにてアカウントマネジャーとして設計開発やBOMを中心とした業務改革PJTを牽引した後、株式会社ワイ・ディ・シーに参画。
横河電機グループとして新規事業である共動創発事業本部を設立し、横河電機社内に対する業務改革の推進と定着化を推進、それらのノウハウを元に他の製造業も支援を実施中。
http://www.ydc.co.jp/service/kyodo-sohatsu/