第2回 『スマートフォン・タブレットだから出来ること』
さて、前回はスマートフォンをメールやスケジュール確認として使うだけではなく、業務アプリを実装することで専用端末として使っていく「入出庫端末」の実例をご紹介しました。皆さんもご存知の通り、スマートフォンの業務利活用を求める声は、日に日に高まっており、さらに昨今はBCP(事業継続計画)の観点からもスマートフォンの業務利活用は企業にとって非常に重要なポイントになっています。
ただ、スマートフォンの業務利活用と一言で言っても、使い方は千差万別です。単なるメール送受信も業務利活用ですし、アプリを使った専用端末化もこれまた業務利活用です。要するにスマートフォンを使って何をしたいのか、さらにはスマートフォンだからこそ出来ることは何かを考えなければ、満足いく導入の成果は得られません。今回のコラムではスマートフォンだから出来ることは何かを考えていきましょう。そのためにまずスマートフォンの活用方法を段階的にご説明させて頂きます。(今回のコラムではタブレットPCも含め「スマートフォン」と称して説明いたします)
スマートフォンの今後の活用方向
最も初歩的な業務利活用は図中のフェイズ1、メール・スケジュール・通話といったスマートフォンの標準機能の利活用となります。これならば、専用アプリの開発も特殊なカスタマイズも必要なく、スマートフォンを導入すればすぐに使うことが可能です。従って現状、最も一般的な利活用方法となっています。仮にスマートフォン導入の目的が外出先からのメールチェックやスケジュール管理であるならば、これで十分に目的を達成することが可能ですが、これならば普通の携帯電話でも十分に出来ることばかりですので、本当にスマートフォンを導入すべきか、事前に熟考することをお勧めします。
次に図のフェイズ2を見ていきましょう。こちらは業務のためにアプリを導入することで専用端末化してしまう利活用方法です。すでに製薬業界で活発に導入されている「MR(医薬情報担当者)が従来持ち歩いていた大量の文書や資料を、すべてスマートフォンにデータ化して格納しておく」利活用方法は、非常に効果が高い方法です。この利活用によって、重い書類から解放されるだけではなく、自社製品のメリットなどを動画でプレゼンできるため、短時間で製品の特長をアピールすることが可能になった、スマートフォンのAV機能を活かした業務改善といえます。
もし、この利活用を携帯電話で行うならば、画面の小ささや操作性がネックになり、訴求したい製品の特長を十分にアピールすることは難しいでしょうし、パソコンで行うならば、持ち歩く重さや起動する手間(顧客である医師に突然面会できた時に、起動していたら間に合わない)がネックになります。スマートフォン導入の目的が「AV機能を活用し、短時間で製品の特長を訴求するツール」であるならば、導入の効果は非常に高いといえるでしょう。
最後に図のフェイズ3を説明します。これは前述フェイズ2の延長線上の考え方です。上でご説明したMRの場合ならば、MRが持っているスマートフォンを基幹システムと連携させ、現場でリアルタイムな在庫照会や場合によっては手配発注をするという方法です。
これはまさしく業務の中核にスマートフォンを据える方法ですので、どの業務に使うのか? どのレベルまでアクセスさせるのか? など、目的を明確にすることが必要です。しかし「スマートフォンの機動力を活かし、基幹システムにアクセスし、操作者にも閲覧者にも分かりやすい画面で、その場で業務を進める。」このようなスマートフォンの機能や価値を最大限に活用する方法こそがスマートフォンを活かした業務改善の本命であり、現時点で最先端のスマートフォン利活用といえます。
実例紹介
では、ここで前回のコラムでご紹介した自動車部品サプライヤーのA社のアプリ改良の実例をご紹介しましょう。iPhone入出庫端末が効果的であると成果が出たA社では、さらに以下の業務改善にもスマートフォンの導入を検討します。
- 外見の似通った製品のピッキングミスの頻発
- ピッキングミス防止の作業手順書の機能不全
A社は自動車金属部品の製造加工を行っていますが、扱っている製品には、外見はほとんど同一でよく見ると穴の数が異なるような製品が多数あります。当然穴の数が異なれば、違う部品なのですが、出荷を行う際にこの細かな違いを見落とし、ピッキングミス(誤配送)してしまい顧客からのクレームとなる事故が頻発していました。
もちろんA社としても、作業手順書や注意事項の冊子を作っていますが、ページ数が数百ページ・1つのカテゴリーでも300品目を超え、実際に現場で都度確認を行うのは非現実的。さらに、過去のミスの事例をこの手順書に反映させると、ますます冊子の厚みが増していくという循環になっており、実際には機能不全に近い状況でした。そこでこの問題解決を目的にアプリの改良に着手します。
実行プランの選定
改良アプリ構成図
【アプリで行う作業】
- 出荷指示書をiPhone入出庫端末でバーコード読取
- 過去ミスが発生した製品の品番の場合、製品画像と確認注意点が表示
- 確認をし、正品である場合は画面のOKを押下。
- 製品の目視・検品を行い、不具合品の場合は不具合品箇所を撮影し、サーバーへ不具合情報をアップ
- 出荷実績の入力、出荷作業の実施
現在は現場導入の事前検証段階のため、実際の効果検証は完了していないものの、今後作業現場に導入しデータが蓄積された段階で、他部門への横展開(製造指図書の画面表示、注意点表示、画像・動画での作業ガイド)を行う予定になっています。このように導入済みの「iPhone入出庫端末アプリ」に段階的に機能追加を行っていくというのは、スマートフォンのアプリらしい業務改善のステップではないでしょうか。アプリの機能追加はゼロからの開発に比べて容易ですし、使う現場としてもすでに導入しているアプリの機能追加ですので、現場の作業者も操作方法にも慣れており、すぐに利活用できるというメリットもあります。
まとめ
スマートフォンを業務改善に利活用する際のポイントを筆者は大きく下記の3つと考えます。
- スマートフォンを使った業務改善の真骨頂は業務アプリにあり
- 業務アプリは、将来の機能追加を可能にするため柔軟性に優れた構成であるべき
- 現場の業務課題を解消するアプリであるべき(現状の業務フローを変えずに、問題点の改善ツールであるべき)
1に関しては、これまでご説明してきましたが、スマートフォンの標準機能の利活用だけでは業務改善効果は限定的です。コミュニケーション改善には効果的ですが、前述のとおりスマートフォンでなければならないかは疑問であるからです。しかし、明確に業務改善の目的を持っているならば話は別で、業務アプリの開発・利活用はとても有効な手段です。スマートフォンを業務改善ツールに変化させる真骨頂は業務アプリにあるといえます。
2に関しては、業務アプリ開発の際の重要なポイントです。スマートフォンの業務アプリを現場に導入すると、A社のように「これが出来るならば、さらにこれ」というように業務改善のアイディアは色々と出てきます。その時にアプリ側にフレキシビリティがなければ、機能追加は容易ではありません。当然業務改善にはゴールはなく、いわばツギハギをしていかなければならない宿命ですので、このフレキシビリティさはとても重要なのです。
3に関しては、現場の本音として「新しい面倒なことはして欲しくない」というのが本音だと思います。ですので、新しい=面倒なことではなく、現場が体感的に感じている問題点(例:本稿のMRの重いカバンや、A社のピッキングミス=クレーム発生)を軽減にする業務改善ツールであるべきです。ぜひ現場のど真ん中に機能する業務改善をスマートフォンで挑戦して頂きたいと思います。
前回・今回のコラムではiPhone入出庫端末アプリの実例をご紹介し、導入効果をご紹介してきました。次回のコラムではスマートフォンやタブレットPCの今後の活用方法、実際に使う上でのポイントなどを紹介していきたいと思います。