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コラム

安全教育における効果測定の方法

【第1回】いったいどれだけの企業が安全教育で効果測定を実施しているのか

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※参考:【ebook版ダウンロード】安全教育における効果測定の方法

労働安全衛生法には「労働者の安全と健康の確保」が定められていて、多くの企業が「安全教育」を実施していますが、その「安全教育」がどの程度身についているのかについての「効果測定」を行っている企業はどれだけあるでしょう?また、安全教育が重要だと分かっていても、具体的にどうやってその効果を測定し、それを見える化するのかに頭を悩ませている安全教育の担当者も多いのではないでしょうか?そこで、このデジタルブックでは、研修効果の分析で有名な「カークパトリックの4レベル」を中心に紹介しながら、なぜ効果測定が必要なのか?効果測定しないとどうなるのか?レベル別の効果測定法などについてお話しします。

私は長年の現場経験を経て、今は労働安全コンサルタントや各種インストラクターとして活動していますが、今も昔も、労働者に安全教育を行っていてもその効果を測定せずに教育を行いっ放しの企業がとても多いと実感しています。安全教育の担当者にとって、教育効果の向上は重要な課題であり、ここをおろそかにしては安全教育が持つ意味が“なかったこと”になってしまうと言っても過言ではありません。

私の実感では、安全教育の効果測定ができている、という企業は全体の3割くらいではないでしょうか。反対に、やっていない、やっていてもあまり意味がない、という企業は5割近くあると思います。

”効果測定をやっていない、やっても意味がない”という企業の多くは、例えば座学での集団講習だけで済ませて現場教育ができていないために、最初からあまり効果が見込めないことをわかっていながら、とりあえず法令で実施義務のあるカリキュラムだけ最低限済ませておけばよいと勘違いしています。これらが半数近くに上ると私は見ています。

残りは大体、担当者任せで“ある程度やっている”という企業でしょう。なかには、一度監督署の指導を受けると、“指導されたことはやりましょう”とその時点は是正してもその後は続かない、というケースもあります。さらにひどくなると、法律に基づいてやっているわけではなく慣習でやっているとか、就業規則のなかにある抽象的な項目を適当にやってのけている、というパターンです。このような企業に所属する新任の安全担当者からは、”外部講習に参加して初めて「特別教育」という安全教育の存在を知った”、という声をよく聞きます。

できない・やらない理由は
「きっかけがないから」「コストや人的リソースを出したくないから」

そもそも企業の経営層には安全衛生管理についてある程度知っていても自己流であったり、ちゃんとした教育を受けられる環境ではなかった方が多く、安全教育を実施しているという企業の母数自体が少ない。効果を測定している企業となればなおさら少数になる。かといって経営層が問題を把握できていないわけではない。それはなぜか?

一つは「実施する理由が見当たらない」「きっかけがないから」というものです。これはケガをしなければいいでしょ?病気しなければ今のままでいいでしょ?という考え方と同じです。また、法律でやらなくてはならないのはわかっているという経営者でも、そこまでやりたくない、という本音を聞くこともあります。つまり実施には余計なお金がかかるし、人も余分に必要になると思い込んでいるからです。

例えば安全教育に予算を計上して、1年後を想定して一千万円のお金を掛けたとします。そして、その1年間社員の皆が無事に過ごしたらその一千万円はそのまま損失となって消えていきます。その反対に、お金も人もかけずに無事1年間過ごしたとしましょう。そうしたら一千万円がまるまる利益となって浮きます。まさに今、「それなら浮く方を選びます」という経営者が少なからずいるということです。おせっかいな話ですが、私はそちらに流れる現状を変えたいと考えています。それには、行政によって法律で縛れるところはきっちりと縛って頂いて、あとは民間で安全教育と効果測定をセットで行うだけという流れを作ることです。その裏で、我々のようなコンサルタントが、安全教育を行わないことから生じるリスクを見えるように支援することが必要だと思っています。

そのリスクとは、最近ではコンプライアンスの問題が一番大きいのではないでしょうか。世間的に見られたときに「あの企業は安全教育をしっかり行っていないのでコンプライアンスが全然なされていないのではないか」「危ない企業だ、その危ない企業には入社したくない、働きたくない」と見なされるリスクがあるということに経営者はまず、目を向ける必要があると思います。

これを2つの視点に分けると、ひとつは一般の方やステークホルダーの目から問題視され、ブランドイメージや株価などを毀損する。もう一つの視点としては人材の確保に支障が出るため労働力確保や事業承継面でリスクが大きくなる、ということです。

※参考:【ebook版ダウンロード】安全教育における効果測定の方法

効果測定ができていないと安全教育が身につかない

先ほど、1年後を想定して一千万円の予算を安全教育に掛けても、労働災害が発生しなければその一千万円はそのまま消えていきます、というお話をしましたが、経営者や安全担当者に安全教育と効果測定の大切さをわかってもらうために、ここではその逆の労働災害が発生したパターンについてお話をします。

実例ですが、社員が社屋の2階へ向かって外階段を上がっていたら、2階の外扉が急に手前に開いたため、驚いて後ろ向きに階段を転落してしまい、脊髄を骨折した。意識が戻らず寝たきりで職場復帰もかなわずそのまま1年後に亡くなったというケースです。簡単な対策としては、扉に「扉の向こうに人がいる!」「扉は静かに開けましょう」などの安全表示を掲示したり、危険箇所について安全教育を実施しておくことでしょう。

しかし、そもそも扉を開いた者は「扉はゆっくり開くこと」、被災者は「急に扉が開いても慌てないこと」などの危険感受性を備えていれば防げた事故でもあります。しかし、なんの対策も講じず、当事者の危険感受性を向上させてこなかった企業で、事故は起きてしまった。さて、この場合に会社が被る被害がどれくらいかわかりますか? と経営者に問いたいのです。1年間の入院費や治療費はもちろん、その方の仕事が生み出していた売上などの被害額を合わせたら膨大なものになります。背負いきれますか?また、背負うのは金額だけではありません。何の安全対策もしていなかった、もちろん教育もしていなかった、リスクがあったのに見逃していた、という風評で人も入ってこなくなります。

それまでどんなにいい会社だったとしても、いい経営者だったとしたてもこれは叩かれます。このリスクの大きさに気づいてほしいですね。

【第2回】効果測定の具体的方法カークパトリックの4レベル に続く

野間 義広
野間 義広
CSP労働安全コンサルタント(化−第591号) 製造業や建設業における危険有害作業経験と安全衛生管理経験を併せ持ち、リアルな歯に衣着せぬコンサルティングで国内外の多方面から信頼を得ている安全衛生専門家。ファインケミカル、バイオテック、救急救命を得意とし、安全診断、安全衛生教育講師、化学物質管理支援、労働安全衛生マネジメントシステム構築、VR教育など多岐にわたり活動中。 登録:作業環境管理専門家。産業保健法務主任者。ISO45001審査員補。第一種衛生管理者。