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原価管理編

第3回 『製品価格の設定をどう考えるか?』

原価管理編

皆さん、こんにちは。原価コラムの第3回目です。第2回目のコラムでは原価計算の主な目的として、「財務諸表作成目的」、「原価管理目的」、「製品価格の設定と製品収益性判断目的」の3つが挙げられることをお話しました。

前回お伝えしたとおり、第3回目の今回は「製品価格の設定と製品収益性判断目的」について考えてみたいと思います。このテーマは非常に重いので、今回は"製品価格の設定"に焦点を絞り、次回に"製品収益性判断"について言及したいと思います。

従来、製品の販売価格は製品原価に希望利益を加算して決められてきました。いわば販売価格の決定権は企業側にあったといえます。しかしながら国内はもちろんのこと、国際間の競争が激化する中、海外メーカの安価な類似品と対等に戦うためには市場で売れる価格を設定する必要があります。つまり価格の決定権が市場に移ったことを認識しなければなりません。グローバル経済下でいかにして競争に勝ち抜くかを考えたとき、企業がとるべき戦略の重要なテーマが「価格戦略(プライシング戦略)」なのです。

競争を勝ち抜くための戦略

  それでは最初に、そもそも製品の価格が企業間の競争にどのような影響を与えているのかを考えてみましょう。M・E・ポーターは自身の著書『競争の戦略』の中で、「競争戦略とは、業界内で防衛可能な地位をつくり、5つの競争要因にうまく対処し、企業の投資収益を大きくするための、攻撃的または防衛的アクションである」と述べています。

〔図表3-1〕に明示した5つの競争要因(新規参入の脅威、代替製品の脅威、顧客の交渉力、供給業者の交渉力、競争業者間の敵対関係)の考え方が発表されてから約30年が経とうとしていますが、企業が自社を取り巻く業界構造を分析するための戦略的思考ツールのスタンダードとして現在でもよく利用されています。

原価管理編5つの競争要因について要約すると、業界の競争は、既存の競争業者だけの競争ではなく、顧客、供給業者、代替製品、予想される新規参入業者のすべてが競争相手なのであって、状況によってそれらのどれが真正面に出てくるか分からないという広い意味での敵対関係を表しています。この5つの競争要因に対処し、企業が長期にわたり持続的競争優位を確保するための基本戦略は以下の3つになります。

  1. コスト・リーダーシップ戦略(低価格戦略)
  2. 差別化戦略
  3. 集中戦略(ニッチ戦略)

(1)はコスト面(販売価格)で最優先に立つことでコストのリーダーシップを取り、シェアを拡大する戦略、(2)は自社の製品やサービスを差別化して、業界の中でも特異だと見られる機能価値を創造しようとする戦略、(3)は特定の顧客とか、製品の種類とか、特定の地域市場とかへ、企業の資源を集中する戦略になります。

「コスト・リーダーシップ戦略」と「差別化戦略」は業界全部に渡ってそれぞれの目的を達成するのを狙いにしているのに対し、「集中戦略」はそもそも特定のターゲットだけを扱う目的で策定される戦略となり、ニッチ戦略とも呼ばれます。(1)~(3)の基本戦略の違いをイメージ化したものが、〔図表3-2〕になります。

原価管理編皆さんの会社もきっといずれかの戦略を取られていると思いますし、特に戦略として意識されていない場合でも、いずれかのパターンに当てはまると思います。

基本戦略の変化

今回のコラムのテーマである"価格設定"を考える上で、3つの基本戦略のうち「コスト・リーダーシップ戦略」に焦点を当ててみたいと思います。コスト・リーダーシップ戦略というより低価格戦略と言ったほうが皆さんにはしっくりくるかもしれません。

コスト・リーダーシップ戦略で成功している企業として今話題になっているのは、"ファストファッション"という新ジャンルを確立した「FOREVER 21」や「H&M」、また"990円ジーンズ"の大ヒットにより09年5月期連結決算で大幅な増収増益となった「ユニクロ」、高級イメージの強かったハイブリッド車を低価格化によって大衆車としての地位を確立することに成功した「ホンダ」の"インサイト"、極めつけはモデルチェンジ後に価格が上昇することが当然の慣例であった自動車業界において、あえて旧モデルよりも大幅に価格を抑えてライバルの"インサイト"の中級グレードと同価格で真っ向勝負を仕掛けてきた「トヨタ」の怪物"プリウス"。いずれもコスト・リーダーシップ戦略が成功したときに生じる「規模の経済」のメリットを享受している分かりやすい例です。

ここで上記の成功例を読まれた皆さんは何か腑に落ちないような、違和感を覚えられたかもしれません。確かにコスト・リーダーシップ戦略の成功例であることは理解できる...、ただしそれだけでは説明できないような違和感...。そうです、その違和感が正解なのです。

つまり上記の成功事例は、「コスト・リーダーシップ戦略」だけではなく「差別化戦略」も組み合わされているのです。従来は、競争優位を獲得するために「コスト・リーダーシップ戦略」か「差別化戦略」のいずれかを選ぶべきだとされていました。標準品を低コストで生産・販売することよって得られる競争優位を「コスト優位」、買い手が望む特徴を備えた製品を標準品よりも高い価格で販売することによって得られる優位を「差別化優位」と考えた場合、差別化した製品を低コストで生産・販売できるのが競争上は望ましいですが、その両立は不可能ないし困難、ひいては非効率だと考えられていました。

しかしながら現在の経営環境下においては、「よいものをより安く」提供すること、つまり「差別化戦略」と「コスト・リーダーシップ戦略」を同時に実現することこそが競争優位を得るための必須条件になってきています。 

よいものをより安く作るための戦略的原価ツール

「よいものをより安く」というキーワードは、顧客にとっての商品価値を最大化することを意味します。顧客が商品を購入する際に意識する価値判断基準は、〔図表3-3〕で表されます。
原価管理編顧客側から見たコストは企業側の販売価格になりますので、差別化による機能品質の向上を図りながら(差別化戦略)、販売価格を抑えて(コスト・リーダーシップ戦略)、価値を増大させることが必要です。顧客の購入判断に至るための価格とはすなわち市場価格です。冒頭にも少し触れましたが、従来の価格の決定方法は〔図表3-4〕のように、成り行きで積上げた原価を標準原価として、希望する利益を加算するような価格設定方法でした。
原価管理編
しかしながら「よいものをより安く」という視点から考えると、現在求められている価格決定方法は、市場で売れる価格から目標利益を引いたものを目標原価(または許容原価)として設定する〔図表3-5〕になります。
原価管理編
つまり目標原価どおりにモノが作れるよう原価を企画し、原価をあらかじめ造り込む必要があります。ゆえに戦略的原価管理ツールとして、設計・開発段階において利益計画やマーケティングに基づき、製品の目標価格・目標利益・目標原価を決定し、その達成を図るための活動、「原価企画」が今まで以上に重要になってきているのです。

次回のコラムではこの「原価企画」にスポットを当てながら、冒頭にお伝えしたとおり原価計算目的「製品価格の設定と製品収益性判断目的」のうち、"製品収益性判断"にも言及したいと思います。(前回、第3回目で固定費の続きを扱うことをお伝えしましたが、"製品収益性判断目的"の中で触れますので、すみませんが次回へ持ち越しさせてください。)

それでは次回をお楽しみに。

第4回コラム『製品の収益性を正しく判断するために』に続く

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ビジネスエンジニアリング
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BENGでは財務・管理会計コンサルタントとしてSAP社のERPパッケージ導入に従事し、お客様の業務改革要求を実現しプロジェクトを成功に導く。 自社製品MCFrame部隊に移ってからは、導入企画・導入コンサルタントとして原価管理のみならず、経営管理分野まで踏み込んだ提案活動を心がける一方、 商品企画・開発等の活動にも従事。 モットーは、お客様視点に立って現場で一緒に"汗"をかくこと。 MCFrameでお客様の笑顔を見る事を楽しみに打ち込んでいる。