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グローバルに通用するCFOが求められている【連載第1回】~企業価値の持続的成長に取り組んでいくために~

グローバルに通用するCFOが求められている【連載第1回】~企業価値の持続的成長に取り組んでいくために~ 

日本企業の競争力強化にはCFO機能の充実が必要

日本企業のものづくり品質、おもてなしといわれるサービスレベルは、世界最高と言っても過言ではないと思います。
しかし、その高品質なものづくり、サービス提供を行う企業経営を支援するべき財務管理は、残念ながら世界最高とはいえないと感じています。

バブル崩壊、リーマンショック等、世界的にも株価が下落するような景気後退局面がありましたが、欧米の株式市場の株価の戻り具合に比べて、日本の株価がなかなか上がってこなかったのはなぜでしょうか?
ここ2年の日経平均の上げ相場は、アベノミクスによる円安等のマクロ政策が寄与したとはいえ、上場企業各社の企業価値の向上、資本コストを上回る収益性の向上の積み重ねがもたらしたとは決していえないでしょう。

この原因となる重要な要因の一つに、日本企業の財務管理、ファイナンシャルマネジメントが脆弱であると言わざるを得ず、また確定決算主義といわれる税務偏重の前時代的手続に安住してきたのではないでしょうか。
結果の集計を「正確」に行うことはできても、経営戦略の遂行を「適切」に支援、ナビゲートできているという状況に至ってはいないことがあると思っています。

本稿では、このような課題認識をもたれ、解決を目指すCFO、CFO候補者、経営者、経営企画担当のみなさんに、その取り組んでいく方向性や参考例をアカデミックな経営学的見地からではなく、多くの社員が勤務し複数の部署やグループ会社が存在する、いかに高い志をもってしても、実際にこの取組を遂行するには複雑で難易度が高い生きた企業実態を前提に、具体的にどのように進めていくかという観点から参考にしていただけるように、筆者の事業会社でのCFO経験を踏まえてご紹介させていただければと考えております。

日本の多くのCFOと欧米亜の優良企業のCFOとの相違点

欧米の優良企業のCFOは言うに及ばず、アジアの新興国のベンチャー企業のCFOも、非常に優秀でアグレッシブな方がたくさんいます。
彼らは、経営戦略策定に深く関与し、月次、四半期の業績評価、分析を適切に行い、いかに精緻に策定された経営戦略、事業計画であっても、仮説であることは否めず、仮説である以上、実績で仮説が正しいか検証するという「仮説検証」を繰り返していくことが重要だと考え、しつこく、時には詳細なレベルに踏み込み、実践しています。

欧米企業では、経理部門と経営企画部門が分離されていることはまずありません。CFOが財務報告(実績の決算手続)も、事業計画や予算編成(未来会計)も、資金管理、税務もスペシャリストを配置しながらも、ファイナンス領域のすべてを担当しています。 具体的にはPLだけではなく、ROE、ROAといったBS項目との割り算で求められる指標やキャッシュフローを含めて、自社の経営状況をKPI(経営指標)に基づき、モニターします。

予算編成においては、財務数値だけではなく、各事業の取組を言葉で表すシナリオを明確にすることを求めます。それが、仮説であり、実績が計上された際に、単に数値の「勝ち負け」ではなく、シナリオのどこが正しく、どこが不適切であったのか?もしくは、正しいが時間が想定上にかかっているのかを分析し、経営レベルで部門横断で、計画遂行の微調整や、新たなターゲットの設定等にリーダーシップを発揮します。

事業部門責任者や営業部門にも指示をして、活動のベクトルを一致させるように促します。 それは、結果として、連結ベースで、収益が資本コストを上回るという企業価値の向上という結果を株主、マーケットから求められていて、CFOの手腕が問われるからです。
他部門への指示、介入(?)は権利でもあり、義務でもあるのです。

もちろん、ステークホルダーは株主だけではないでしょう。 しかし、従業員が大事、顧客やパートナー企業が大事といっても、企業価値を向上させることを否定するものではなく、企業価値向上をするという目的達成のための手段の優先順位の違いであるといえます。 ここで、WhatとHowを混同すると、大きな誤解が生じてしまいます。

欧米の優良企業では、継続的に企業価値の向上を実現できていないと、経営者は交代されても仕方がないと覚悟を持ち、その危機感から、経営陣に近い上級幹部ほど、仕事をするような光景が普通に見られます。

右肩上がりの高度成長期に、在庫変動の景気の波さえクリアすれば、良かった時代は終わりました。 世界的に、選択と集中、多品種少量生産、嗜好が異なる顧客に対する顧客満足度向上等が求められ、企業が提供するサービスをプロダクトアウト的に、一方的に提供することが通用しなくなりました。

そこで問われるのは、単に売上高を前年より伸ばすという量的成長だけではなく、投下資本に対する利益率の向上、企業価値の向上につなげる経営戦略と整合性をもった取組をCFOが主導的に行い、また、その結果をIR(インベスターリレーション、投資家説明)を、株主や潜在的株主である株式マーケットに、納得しファンになってもらえるように、企業の取組を説明することが求められます。

決算発表において、前年比、売上、利益がいくらでしたという外部の評論家的な説明ではなく、実際のプレイヤーとしての経営者がどういう方針に基づいて、どのような経営判断を行った結果、業績がどうなり、今後の予測はこのように想定していると、伝える必要があります。

IR活動を広報部門が担当している日本企業が見受けられますが、プレゼンテーションの巧拙ではなく、CEOやCFOが自ら、ファクト(客観的事実)に基づき、自らが業績と今後の経営方針、業績予測を伝えることに意味があり、説得力がある説明が可能となります。 そのためには、言葉で語れるレベルの事実を把握し、適切な分析を行い、クリアな説明が求められます。

この領域は、日本企業の多くが、欧米の優良企業と比較すると、不慣れというか、覚悟が欠けているように感じます。

CFO機能の高度化に向けた次のステップ

日本の財務経理部門だけでなく、管理部門の社員のみなさんは、出来る社員になるには、より高度な知識をたくさん身につければなれると、思っているように感じます。 知識は、業務を進めるうえでの、道具であって、知識を極大化することは決して目的ではないでしょう。
テレビゲームでいうと、アイテムを集めるのはゲームに勝つために、ここぞというところで、的確に使わないと、ただ単に貯めているだけでは意味がありません。 また、アイテムをうまく使うには、何度も失敗をしながらも、腕を磨くような練習が必要です。

生産現場で働かれる技術者のみなさんは、先輩から教えられ何度も練習をして、熟練といわれるまで成長していきますが、間接部門のホワイトカラーの事務職の方々は、なかなか、失敗が許される練習の機会が少ないのではないでしょうか?
ですので、担当者として仕事をこなすことができても、経営者の参謀役としての分析能力を磨く機会、要は稽古をして腕を磨く、新しい技を習得する機会が少ないと思われます。 かつ、本番さながらの、期限を求められるスピード感を伴っての実践的な稽古が、決定的にかけています。

そうすると、間違うことが怖くなり、委縮してしまい、仕事に対する姿勢が、受け身なものとなってしまう。
テニスの錦織圭選手は、マイケル・チャンコーチに、何度も何度も、基本的な反復練習をさせられて、どんなに疲れても、自信を持ってプレーできるところまで、追い込んだそうです。
その結果が、去年の後半からの皆さんも良くご存知の、世界ランク5位に入るという大活躍です。もともと、天才肌の錦織選手は、反復練習が嫌いで、あまりやってこなかったそうです。それでも、世界10位くらいまで達するのはすごいことですが、その天才肌の錦織選手が、反復練習(稽古)を続けることで、もっている資質を実際の試合で発揮することができるようになったといえます。

知識という道具を、上手く使いこなすためには、その道具に相応する技量(スキル)が求められます。そのためには、実際の試合レベルでの、実践的練習をしておいて、試合が特別の場ではなくしてしまう必要があります。

より具体的な最初のステップ~逆算の効用

スポーツでは、試合という実践の場が、まだ、ビジネスの場よりも具体的にイメージしやすいかもしれません。
では、経理財務部門のCFO候補の方々に、どのような稽古が必要でしょうか?

これを考える際に、筆者は、逆算して考えてみることを推奨しています。
経営陣への業績管理情報と分析結果の報告、会計監査、税務申告、上場企業であれば、IR活動等のゴールから逆算して、ワンステップずつ、検討をした、ゴールに向けた、途中のハードルを明確にして、その各々のハードルをいかに越えていくかを考えた、実践的な練習が必要です。

たとえば、IRと管理会計業務を考える場合には、こんな感じです。 後続の作業を一定の品質で実現する。そのためには、事前に何ができていなければいけないか。という順番で順次逆算していくイメージです。

1.主や証券アナリストに自社の取組を正しく認識してもらい、ファンになってもらえるIR活動をする。
2.その発表内容を経営陣の了解を取り付ける。
3.論理的で納得感のある決算説明資料を作成する。
4.業績の良否にかかわらず、ファクトベースに基づく分析を論理的に行う。
5.必要十分なファクト情報を財務数値に限らず、必要な部門から取得する。
6.決算等の外部開示資料作成の記載内容を検討する。
7.月次、四半期での業績管理を単に財務数値の増減ではなく、経営実態が把握でき、
  必要な打ち手が具体的にとれるような報告を行う。
8.月次、四半期で閾値を超えるような予算や前年数値との乖離項目について、現場と十分に
  コミュニケーションをとり、状況の把握と今後の趨勢について理解を共有しておく。
9.予算編成において、経営戦略を反映し、かつ、各部門が今期何をどう実現すればいいかの活動目標を
  明確化、具体化できるようなシナリオの基づいて、グループ全体が整合性をもって実施される。
10.自社の経営資源を活用して、企業価値を増大するのに、最も適切な経営計画を作成できるような
  予算編成方針を策定する

実際にはこれよりも、もっと詳細であったり、各部署で役割分担が必要だったりするでしょうが、このステップ各々のスキルを向上させるだけでも、十分に準備して、連携して行っていく必要があるでしょう。 一方、誰が、どの程度、スキルを向上させる必要があるかを具体化するのに、わかりやすくなるのではないでしょうか?

今回は初回ですので、概要にとどめさせていただいて、次回以降、徐々に各論に入ってご説明させていただこうと思っております。
今後、変更や増減することがあるかもしれませんが、現時点では、本稿でお伝えするキーワードは、以下のような事項を想定しております。

1.在外子会社における財務管理強化に際して文化、言語障壁の乗り越え方
2.グループ内各社単体と連結ベースのマネジメントの共通点と相違点
3.ROE等の連結ベースのBSにおけるKPIのモニタリングと、KPIの構造化
4.社内外に対する、コミュニケーションの取り方、留意点
5.韓国法人勤務時代のアジア通貨危機の格闘記
6.配当政策にかかる利益計画の難易度の高い着地予想の落着点
7.M&Aにおいての事業統合を進めるにあたっての選択と覚悟
等々

では、どのようにして、欧米や新興国の有力なCFOと伍していけるCFOを育成していくかについて、次回以降、筆者の経験を通じて、お伝えしていければと思っております。
本稿が読者の皆様に、少しでもお役立ていただければ幸いです。

第2回コラム『~アジア通貨危機格闘記~』に続く

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伊藤 雅彦 氏
伊藤 雅彦 氏
株式会社デルタウィンCFOパートナーズ
代表取締役社長
複数の米国企業の日本法人、韓国法人のCFOを務めた後、コンサルティング業界に移り、アーンストアンドヤングアドバイザリー株式会社でシニアパートナー、アーンストアンドヤングのアドバイザリー部門で業績改善プラクティスの日本エリアリーダーを務める。2013年より現職。
企業の財務管理機能強化を支援すべく、企業向け研修、CFO人材紹介、財務コンサルティング、個人向けCFO錬成道場等を提供している。 http://www.deltawin.com/