Chinese | English

03-3510-1616 受付時間 9:00〜17:00(土日除く)

お問い合わせ 資料請求

 

  • HOME
  • コラム
  • 第2回 『需要予測システム導入を成功に導く「需給マネジメントシステム」』

コラム

需要予測編

第2回 『需要予測システム導入を成功に導く「需給マネジメントシステム」』

需要予測編

前回は、需要予測には「なくせる外れ」と「なくせない外れ」があり、「なくせない外れ」に対する認識が重要であることをお話しました。今回は、需要予測システム導入を成功に導くために、具体的にどのような方策をとればよいかについてお話したいと思います。

需給マネジメントシステムとは

生産管理や品質管理業務におけるPDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルの重要性は、もはや製造業の常識です。しかし、需給管理業務においてPDCAサイクルを仕組みとして実践できている企業は少ないように思います。需給管理業務のPDCAは次の3つに分類することができます。

  1. 予測精度改善のPDCA
  2. 緊急対応のPDCA
  3. 予測の外れを前提としたPDCA

需要予測システム導入を成功させるためには、これら3つの視点でPDCAを実践していく仕組み(これを需給マネジメントシステムと呼ぶことにします)作りが必須です。前回紹介したA社の失敗は、システム導入前に需給マネジメントシステムを構築していなかった(特に「予測の外れを前提としたPDCA」の視点が欠けていた)ことに原因があったのではないでしょうか。

以下では3つのPDCAについて具体的に見ていくことにしましょう。

予測精度改善のPDCA

需要予測の精度は需給管理業務において重要なポイントです。予測精度の評価指標や目標値、予測の異常を警告するルール、予測精度改善の手順などを予め決めておき、精度の監視(Check)と改善(Act)が継続的に行われる仕組みを作っておく必要があります。精度改善の主な手段には、次の3つがあります。

  1. 予測モデルやパラメータのチューニング
  2. 異常な実績の補正
  3. 最新情報による予測の修正

予測精度改善というと、すぐに(1)(だけ)を思い浮かべる方が多いのですが、モデルの変更やパラメータのチューニングで予測精度を大幅に改善できるケースは稀です。例えば、次のような場合には(2)の「異常な実績の補正」が有効です。

  • テレビ番組で紹介されたことによって、需要が一時的に増加した
  • 100年に1度の不況で一定期間需要が激減した
  • 出荷実績を元に需要を予測しているが、欠品したため先週の出荷はゼロだった

(3)は最新の情報を活用して予測を見直す方法です。例えば、当月の受注実績の大小によって当月以降の予測を増減させることなどが考えられます。もっと簡単で効果の大きい方法は、営業部門の情報を素早く入手できる仕組み作りです。部品メーカーB社でこんなことがありました。
製品Xは毎月安定して100個ずつ販売されており、その全てがC社からの注文でした。来月の販売量も100個で予測されていました。ところが、競合D社の安売り攻勢によって、今月の注文がD社に流れてしまいました。結果として月末に100個の余分な在庫が積み上がってしまいました。営業担当者がこのことに気づいたのは10日、製品Xを生産したのは15日でした。
「特定顧客の依存度が高い製品の需要変動を察知したときには,必ず工場に連絡する」というルールを設定して、確実に実行していれば、この余分な在庫は発生しませんでした。予定より沢山受注したときに工場に連絡する営業マンはいても、受注が減ったときに工場に連絡する営業マンは(ルールがなければ)まずいないでしょう。

緊急対応のPDCA

いくら高度な予測モデルを使ったとしても予測は外れます。外れた場合にどのようなアクションをとるべきかを予め定義しておくことが大切です。特に実績が予測を大きく上回った場合は,欠品や納期遅れが発生するため、緊急対応が必要となります。緊急対応時のアクションとしては、納期調整、緊急発注、緊急生産依頼,拠点間転送依頼などが考えらます。

「緊急対応のPDCA」を実践していない企業などないと思われるかも知れません。確かに「緊急対応」はどこの企業でもやっています。しかし、マネジメントシステムとして(公式にルール化されて)運用できている企業はほとんどないのではないでしょうか。
例えば予測が大きく外れて欠品が発生した場合に、工場に電話して「何が何でも作ってくれ」と怒鳴りつけている営業マンの横で、顧客に「もう少し待って下さい」と電話口で頭を下げている気の弱い営業マンがいる、というのはよく目にする光景です。現実問題として厳密なルール化は難しいかも知れませんが、基本方針や最低限のルールの設定は必要となるでしょう。

予測の外れを前提としたPDCA

もっとも忘れられがちなのが、この「予測の外れを前提としたPDCA」です。予測が外れても「緊急対応のPDCA」が仕組み化されていれば、スムーズに対応できるかも知れません.しかし、緊急対応はコスト増加、品質低下、顧客満足度の低下を招きます。予測が外れても他の業務に極力影響が出ないように予め準備しておくことも重要なマネジメントのひとつです。

最も一般的な「外れを前提としたPDCA」は、「安全在庫による在庫管理」です。予測がどの程度外れるかを見積もって、許容可能な欠品率(目標とするサービス率)を維持できるだけの余分な在庫を持つ方法です。外れ度合いや、許容可能な欠品率は時間とともに変化しますので、安全在庫のレベルを継続的に見直す仕組み作りが必要です。

需要予測が非常に難しい製品は、欠品を防ぐために大量の安全在庫を抱えなければなりません。このような製品は「見込生産から受注生産に切り替える」といった方策も必要となってきます。さらに、めったに注文がない製品は受注生産すらやめて、「他の製品との統合や生産・販売の廃止」を検討するという手もあります。これらの活動もやはり一度きりのものではなく、市場ニーズや経営状況の変化に応じて適切に見直せるようにしておく必要があります。需要予測システム導入を成功させるためには、「何を予測しないか」を決めることも重要なのです。

今回は「需給マネジメントシステム」についてお話しましたが、いまひとつピンと来ない方もおられるのではないでしょうか?
次回は、皆さんが普段何気なく行っている「需給マネジメント」を例に、より理解を深めていただく予定です。

第3回コラム「お財布マネジメントで学ぶ『需給マネジメント』」に続く

世界で戦う準備はあるか
淺田 克暢 氏
淺田 克暢 氏
キヤノンITソリューションズ株式会社 R&D センター 数理技術部 コンサルティングプロフェッショナル 「需要予測による在庫管理」の普及を目指し、需給計画システム導入のコンサルティング業務に従事。 中小企業診断士、流通科学大学非常勤講師(2003~2006年)。 著書に「在庫管理のための需要予測入門」(共著)東洋経済新報社 「なぜあなたの会社はIT で儲からないのか」(共著)同友館。