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原価管理導入編

第5回『原価管理の導入 その2 労務費・経費』

原価管理導入編

労務費と経費

前回は、原価管理の導入として、材料費を捉えるときのポイントについてお話しました。原価の三要素には、あと労務費と経費が残っています。これらも教科書通りに管理しようとすると、手間ばかりかかってなかなかカイゼンが進まないというジレンマに陥ります。

すでにお話してきたように、原価管理の目的はPDCAのサイクルを回してカイゼンを進めるためにあります。最初は精度を多少犠牲にしてでも、まずやってみるという姿勢が重要だと思います。社内に原価に対する意識が定着すれば、しだいにカイゼンのスピードが上がっていきます。

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原価管理導入編

作業時間の集計で楽をするには

作業時間は、材料の消費量と同じように作った製品ごとに記録します。材料費の時と違うのは、これに掛ける時間単価(賃率といいます)の情報をとるのが難しいことです。労務費には月給・福利厚生費・賞与まで含める必要がありますから、労務費の総額を計算してから、作業時間の比率で按分するのが普通のやり方です。たとえば、ある月の人件費が300万円、のべ作業時間が1000時間だったとします。そのうち製品Aに400時間、製品Bに500時間使っていたとすると、製品Aの労務費を120万円、製品Bの労務費を150万円とする、ということです。のこり30万円は、いったん製造間接費として振り替えます。

ここまで読んでギモンを持たれた方もいると思います。「ウチの会社では、あらかじめ賃率を計算しておいて、作業時間を掛けて製品に振替えているけど...」実はこちらのやり方は、標準原価計算の考え方を取り入れたものなのです。あらかじめ予算労務費から予算賃率を計算しておいて、実際時間との積を製品に按分しているのです。

さて、残業の扱いはどうすべきでしょうか。たとえば、製品Aを日中に、製品Bを残業時間に作ったとしたら、製品Bの賃率を1.25倍すべきなのでしょうか。私は、製品Aも製品Bも同じ賃率を使うべきと考えます。というのは、たまたま製品Aを先に作ったから製品Bが残業時間に食い込んだだけで、製品Bを先に作っても良かったはず。製品Bだけに残業代を負担させるのは酷な話です。なので、残業代も残業時間も労務費の計算には含めてしまいます。ただし、業務改善に活用できるように残業で余計にかかった金額と時間は、きっちり押さえておきます。

ところで、肝心の製品別の作業時間はどうやって集めましょうか。よく話を聞くのが作業日報です。作業者一人ひとりに作業日報を書いてもらって集計する、というものです。このコラムを読んでいる方の会社でも、やっていませんか。誤字脱字があったり読みにくかったり、手書きの作業日報を、1カ月分集計するだけで大変です。ここは思い切ってライン長につけてもらうことにした方が良いでしょう。どの製品の作業に何時間何人入ったかを記録しておけばOKです。

支払った人件費は、労務費と同じではない

労務費の総額を出すうえでは、2つのポイントをお話しておきます。

一つ目は、給与の締めと原価の締めのずれを考えに入れることです。原価の締めはまず間違いなく月末でしょう。しかし給与の締めは20日締め25日払いとかになっていませんか。原価計算でつかう労務費は月初日から月末まで、給与支給額は21日から翌月20日まで、とずれることになります。そのため、21日から月末までの給与支給額を別に計算しておく必要があります。つまり、原価計算に使う労務費は「今月支払った給与-先月21日から末日までに給与+今月21日から末日までの給与」となるのです。繁閑の差がなくて毎月の支払額にほとんど差がないのであれば、締めのずれを考えずに支給額をそのまま労務費にしてしまうこともあります。

二つ目のポイント。賞与のように支払が集中する費用については、引当金勘定を使って毎月均等にならします。たとえば、6月12月に賞与を支払っているとしましょう。12月に賞与を全額計上すると、12月の製造原価が跳ね上がることになります。これを避けるために、7月から11月まで1/6ずつ賞与を「賞与引当金」に計上していきます。原価計算にはこの賞与引当金に繰り入れた金額を労務費とするのです。12月に実際に賞与を支払ったら、賞与引当金を取り崩すので、「実際に支払った賞与-取り崩した賞与引当金」が12月の労務費になります。

余談ですが、会社負担の法定福利費も忘れないでください。

原価管理導入編

経費と配賦

経費については、先にあげた賞与と同じように考えていただければよいでしょう。減価償却費、保険料、リース料など、原価が跳ね上がらないように、毎月均等割りで費用化していきます。

ここで、配賦についても触れておきます。ある製品のためだけに使った費用は、その製品に全額負担させますが、共通で使う費用は何らかの基準で各々の製品に按分して負担させる必要があります。この按分比率(配賦率と言います)は、費用の性格を考えてそれぞれ決める必要があります。たとえば、

  • 地代家賃は、製品を作るラインの面積比で按分する
  • 検査部門の費用は、検査した製品量比で按分する

などです。
この配賦率を決めるためには、数量比で決められるか、合理的かどうか、という観点から考える必要があります。これから原価管理を導入しようという会社にとって、これを管理するのはハードルが高いと思います。経費を全て洗い出して、かつ、すべてに配賦率を割り当てていくわけですから。なので、最初は全部一緒くたにして、完成数量比とか作業時間比で按分してしまっていいと思います。原価管理の目的は、PDCAの改善のサイクルを回すためにあるのですから。今使っている配賦率が合わないと感じたら少しずつ修正していく気持ちで取り組んでください。

さて、前回今回で、材料費、労務費、経費が出揃いました。製品には、各々材料費、労務費、経費が積みあがっているはずです。これをできあがった製品の完成量で割ることによって、それぞれの製品の原価単価が出ます(前回、材料費だけで単価を出しましたが、省略しても構いません)。この製品の原価単価を、売り上げた製品量に掛ければ売上原価が、月末在庫量にかければ月末在庫金額が計算できるというわけです。

原価管理導入編

さて、次回は「原価管理の導入 その3」、仕掛、外注、仕損など積み残した課題についてお話いたします。 

第6回コラム『原価管理の導入 その3 その他のトピック』に続く

原価管理導入編
中畑 慎博 氏
中畑 慎博 氏
原価の道場 代表 1996年 東京工業大学 大学院 中退。中小企業診断士。株式会社マクニカ、加賀ソルネット株式会社、加賀電子株式会社を経て、2015年4月より独立開業。 会社員時代は、グループ会社60社に対する業務改善、情報システムの企画・構築・運用の支援に従事。 独立後は、生産管理・販売管理・原価計算を中心に、業務改善・見える化の支援を行っている。 http://ka-consul.jimdo.com/