Chinese | English

03-3510-1616 受付時間 9:00〜17:00(土日除く)

お問い合わせ 資料請求

 

コラム

グローバル・オペレーションの基本編

第6回『不満も歓声も紙一重』

グローバル・オペレーションの基本編

リスクマネージメントは、企業活動のあらゆる場面で発生しうる。グローバルにビジネスを展開してる会社はなお更だ。危険やトラブルを未然に防止し、万一発生してしまった場合でも最小の被害で食い止めることは、いつ何時でも求められる。リスクマネージメントの代表格は、トラブルや不具合時のクレーム対応だ。今回は、筆者が実際に目にしたクレーム対応の明暗から分かった"気づき"について考えてみたい。

交通遅延が多い昨今

日本では公共交通機関の定刻運行が"あたり前"だと思われているが、昨今では、過密運行、小さなリスクでも運行を止める等の方針から、遅延が多くなったように感じる。国内外問わず、交通遅延によって、大事な仕事や旅行の予定が狂わされることにしばしば苛立つた方も多いだろう。最近、航空機の遅延対応における明暗を見た。今回は、特に海外出張が多い方にとって、ひざを打つだろうエピソードを紹介したい。

  • 生真面目な対応をしたA社のパターン
    A社の国際線・国内空港で、使用機材の変更により出発の遅延が発生。出発定刻の数時間前には事態が確定したため、空港各所でのアナウンスや顧客への連絡が行われた。同時に、搭乗手続きのカウンターでは搭乗予定の顧客に対して、待ち時間に使用できる食事券が配られ、状況の説明も丁寧になされた。そして使用機材となる航空機が到着し、搭乗予定時刻に近づいた頃、機長・副操縦士・客室乗務員がやってきて搭乗ゲート前に整列をされた上で、丁寧におわびと遅延の理由説明、そして速やかに搭乗を始める旨の説明があった。ここまでなら、特に問題とならなかったのだが、乗務員達が準備のために機内に乗り込んだ後、「ようやく搭乗開始だ」とほっとした空気が流れた時に、さらに遅延のアナウンスがあり、不満の声で一時待合席は騒然となった。
  • 要領よく対応したB社のパターン
    B社の国際線・海外空港で、使用機材の到着遅れによる、出発の遅延が発生。発端は、搭乗ゲートに顧客が揃ってそろそろ搭乗時間だという頃に、突然、全員に飲み物が配られたことから始まる。全員に飲み物が行き渡り、誰もが飲み始めた頃に、遅延のアナウンスがあったが、飲み物に夢中な顧客から不満の声が上がることはなかった。さらに、1時間半ほどして、顧客同士で「まだかな?」と少しざわつき始めた頃に、今度は全員に弁当が配られた。そして誰もが弁当を食べ始めた頃に、さらなる遅延のアナウンスがあったが、食べかけの弁当をおいてクレームを言う人はいなかった。その1時間ほど後に、もう一度、飲み物が配られ、そのすぐ後で搭乗開始の時間が伝えられると、誰もが安堵し一部からは喜びの歓声や拍手も挙がった。この間、B社からは詳細な遅延の理由説明や、刻々の状況報告などは一切無かった。

なぜA社の顧客は怒り、B社の顧客は喜んだのか?

A社は遅延した時の対応としては、誠実かつ模範的ともいえる取り組みをきちっと行った。にもかかわらず、結果的に顧客の不評を買ってしまった。一方、B社は、遅延問題に対する顧客の不満を他にそらして場当たり的ともいえる対応をしたにもかかわらず、顧客の不満をそれほど増大させずに済んだ。実は、A社もB社も、遅延時間はほぼ同じであった。それにもかかわらず、この差はいったい何故?

A社では、待ちくたびれた顧客が「やっと乗れる」と期待が最高潮に高まったところで、「もうしばらくお待ちを」と落とされてしまったことが大きいのではないだろうか。心理学では、期待が高いほど、それが裏切られたときの失望も大きいと言われている。専門的な解説は他書に譲るが、不満とは、期待する姿と現実の姿とのギャップであり、A社が適切な対応をし続けるが故に、顧客のA社への期待は高まり、さらに機長の丁寧な説明で搭乗時間が近いだろうと思ったところで、悪い情報(=もうしばらくお待ちを)が出てきたために、不満が爆発したと考えられる。

一方、B社は、顧客の不満が高まる寸前で、顧客の気を別に逸らすことで、不満を回避したと考えられる。読者諸氏も経験的に、食欲が満たされると苛立ちが押さえられることを実感されたことがあると思うが、欲求段階説で言う"生理的欲求"が満たされるという行為で、予定通りに問題なく移動したいという"安全の欲求"が一時据え置かれたとも言える。また、不満のすり替えをしながら適切な情報提供も無くただ遅延を繰り返すことで、顧客のB社に対する期待はかなり低くなっており、遅延に対する不満そのものが小さく、逆に搭乗開始が決まったことに対する喜びが大きくなって、遅延しているにもかかわらず拍手が巻き起こったとも考えられる。

ここから得られる教訓

B社のように些かルーズに対応すれば良いかというと、それは間違いで、高いレベルの品質・サービスを顧客に提供しようとする場合に、いくつか教訓とすべきことがある。A社の対応は、最後の一手までは模範的なものだった。状況の変化とともに速やかに提供される情報、丁寧なお詫びと誠実な詳細説明、そして、きめ細かなフォローアップそのものは学ぶべき点が多い。事実、最後の波乱までは、どの顧客も3時間以上待たされているにもかかわらず、ほとんど不満の声は上がっていなかった。しかし、「もうすぐ乗れる」と期待を高めるアナウンスの後で、「しばらくお待ちを」と言う悪い情報の提供することはタイミングが悪かった。期待を高める類の情報提供には、その情報が覆らないようにしっかりと要点を固めておくことが必要である。一方、B社の対応も、不満が高まらないうちに、問題勃発を未然防止する観点で不満解消の手立てを打つことは、リスクマネージメントとしても的を射ていると言える。誠実と心理戦をまじえたリスク対応を賢く行いたいものだ。
(工場管理(日刊工業新聞社)2013.01月号Change is チャンス!『改善改革仕掛け人風雲記』 より)           (工場管理(日刊工業新聞社)2013.01月号Change is チャンス!『改善改革仕掛け人風雲記』 より)

第7回コラム「日本の生産方式を導入して失敗!」に続く

漫画_世界で闘う準備はあるか
古谷 賢一 氏
古谷 賢一 氏
ジェムコ日本経営 本部長コンサルタント 大手メーカーで設計開発から製造までの幅広い経験を持つ。品質保証責任者や海外拠点のマネジメント等の要職を歴任後、ジェムコ日本経営に入社。直近では、製造業の海外拠点の改善改革プロジェクトを多数手がけている。現場に密着したきめ細かい実践指導が身上。
株式会社ジェムコ日本経営